ゆっくりがいる世界   作:盆助

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ゆっくりのいる生活

「ゆっくりしていってね!!」

 

 …あぁ、最悪だ。公園で一服しようとしたら饅頭に声をかけられた。

 数年前に突如として現れたナマモノ。それは人間の頭部に似た一頭身の生命体のようなものだ。なんとそれはあの食べ物の饅頭と同じ成分で出来ている。肌は小麦で目は白玉。内臓に至っては餡子やカスタード、変わり種で行けば中華まんなどもある。そして体の中心には中枢餡というほかの生物でいう脳みそと心臓を兼ね備えた餡子があるらしい。知能は低いながらも存在していて一応は人語を解する。人間のような顔をしてはいるが下膨れしていてゆるキャラのような雰囲気をしている。大きさとしてはバスケットボールほどでそれが跳ねて動いていく様は初めのころは面白かったものだ。

 ならなぜ最悪だと思ったのか。それは一重にこのナマモノの生態が人語を泣き喚くだけの不快害虫に近いからだ。どこで理解したのか知らんが家のガラスを石で割り家屋に浸入。おうち宣言なるもので不法侵入及び不法入居を正当化。もちろん人間にそんなものは通じないので蹴り飛ばされるなりひき潰されるなり一時の暴力に合うが相手はナマモノ。もちろん修理代の請求などもできないし最悪なことにこいつらに品性はない。草花は餌だし小動物も口に入るならばもちろん食べる。無駄な好奇心を働かせて物は壊すし用を足したくなればすぐにそこら中にまき散らす。

 結果としてある日突然家の中は餡子まみれの惨状と化して我々は加工所に連絡を入れる。加工所とはこのナマモノの駆除業者で我々市民にとって一縷の希望だ。犬猫であればまだ可愛さが上回るがこのナマモノは違う。世の中にはこれをわざわざブリードしてまで販売する事業があるらしいが全くもって理解ができない。

 加工所の業務としてはこうして公園や町中に生きているナマモノ――ゆっくりを駆除することだと先ほど言ったがそれだけにはとどまらない。加工の名の通りゆっくりの生態を生かし饅頭を製造、販売することもある。どうやらゆっくりには苦痛を受けるほど甘みが強くなる特性があるらしく企業秘密の技術を駆使して甘みとコクを引き出し老舗の銘菓に劣らないブランドを築き上げたのだ。未だ法整備が整っていない内から被害に目を付け商売としたのは上手いと思わざるを得ない。

 

「ちょっと!きいてるの!?まりさおこるよ!!ぷくー!!するのぜ!!」

 

 さて。この目の前にいるゆっくりはまりさ。金色の髪に黒い三角帽子を被っていることが特徴か。どうやら私が何も返事をしなかったことに生意気にも腹を立てているらしい。ぷくーとは頬を膨らませ体積を増やし威嚇をする動作のことなのだが同族には効果があるかもしれないが人間に効果があるわけがない。そして私はゆっくりが嫌いだ。

 

「ほんとうにぷくーするのぜ!こうかいするならいまのうちなのぜ!」

 

 耳に突く腹の立つ声だ。顔を真っ赤にしてさも血が通っている動物のように振る舞うのも腹が立つ。そもそもなぜカビが生えない。どうやって動いている。その声はどこから出している。断面を見てもただの饅頭と同じなのだ。そしてここまで騒いでいるのも腹が立つ。お前のことはどうでもいいが周りに迷惑だろう。一刻も早く黙らせなければならない。ただ私はゆっくりを虐めて喜ぶ趣味はない。こいつらの悲鳴は耳に刺さって仕方がないからだ。反省も何もないくせに泣き喚き許しを請うように聞こえる鳴き声は心の底から嫌悪する。

 

「もーおこったのぜ!!おまえはこうかいすることもできずにまりさのぷくーでしぬのぜ!!ざまぁないの「うるせぇよ」ぜ・・・?」

 

 しまった。思わず踏みつけてしまった。靴の裏から感じる暖かさとぐにゅぐにゅとした感触が本当に気持ち悪い。どうしたってこんなものを生命として認めるのは頭がおかしいと思ってしまう。いや、認められてはいないのだったか。

 

「そのくさいあんよをはなすのぜぇぇえ!!まりささまにこんなことしていいわけないでしょー!!?ばかなの!?しぬの?!」

 

 いい加減にしろ

 

「ぎょぺぇ!?」

 

 …やってしまった。思い切り蹴り飛ばしてしまった。飴細工で出来た歯が吹き飛び白目をむいて倒れこんでいるナマモノ。少し餡子がこぼれている。瞬時に靴とズボンを確認したが汚れはない。…セーフ。大丈夫だ。汚れは何もない。さっさとここを離れよう。せっかくの休日だったのに台無しだ。

 

 

 

 

 家に着いた。あの後は特段変わったこともなくそのままわが家へ帰ることができた。が、家の前に何かが置いてある。特に宅配をした覚えはないのだが…。段ボールの上に手紙が置いてある。この字は実家の母だろう。

 

『うちで飼っていたゆっくりが増えちゃったから送ります。どうしてもいいわよ。』

 

 …母よ。何をしているのだ。ゆっくりはすぐに増えるから気を付けるように父と言っておいたではないか。しかし困った。あの母のことだ。家に送り返しても数を増やして送りなおしてくるだろうことは容易に想像がつく。…そうしたら近隣の方にも迷惑だろう。幸いにしてうちはゆっくり可の物件だ。安さの代償と考えていたがそれを幸いと思う日が来るとは思わなかった。

 実家で飼っていたゆっくり。私は実物は見ていないのだ。母が一目ぼれをして迎え入れたと父から聞いたがそれがどの種類なのかは教えられていない。よく見かけるのは五種類。れいむ、まりさ、ようむ、ぱちゅりー、ちぇんだ。赤いリボンが目立つ黒い髪のれいむ。先ほどの魔理沙。白い髪に黒いリボンが特徴のようむ。紫色の髪に三日月のついた帽子を被っているぱちゅりー。猫又のような尻尾を持つちぇん。これらは通常種と言われていて町中のどこにでもいる。おそらくこの五種のどれかだろう。先ほどのことを思い出し少し憂鬱だがまぁ、監禁でもしておけばいいだろう。

 さて。ご近所さんに見つかる前にさっさと入ってしまおう。皆いい人なのだがゆっくりのことを好きオーラが出ていてかなりきついのだ。

 

「わふっ」

 

 …なんだ。これは。段ボールを開けてみれば毛布の中に入った白い饅頭がいた。一瞬ようむかと思ったが犬のような耳があるし天狗がつけているような帽子もある。さらに犬のような尻尾までだ。これはもしや希少種と言われる類ではあるまいか。母よ…ゆっくりにいくら金を溶かしたのだ。先の五種以外のゆっくりなど桁が一つは最低でも増えるとご近所さんが言っていたぞ。それにこのゆっくりは話さないのか?段ボールを開けた私をぽやぽやと見つめわふわふ鳴くだけだ。

 

「わーふー!」

 

 ごはんの催促か。はたまた水か。寝床か。それかおうち宣言か。意思疎通が図れないからには何とも言い難いがこちらをじっと見てくる様子からして、挨拶か?

 

「初めまして…?」

 

「わふ!」

 

 どうやら合っていたらしい。ぺこりとお辞儀を返してくる。…驚いたな。ここまで知能が高いとは。これは私の中のゆっくりへの偏見を改めなければならないかもしれない。とりあえずこのゆっくりがなんていう名前なのかを調べてみよう。

 

 

 

 

 

 

 どうやらこの子はゆっくりもみじというらしい。通常種と比べれば情報は少ないが基本的な行動は変わらないらしい。が、犬のような面もあり自分の巣を守るためには牙をむく性質があるとのこと。飼い主を長として敬う性質もあるのでゆっくりが嫌いな人間でもおすすめできるということらしい。…だとしても何の相談もなく送ってくるのはどうかと思うぞ母よ。いや、そういえば少し前にゆっくりは飼育できる物件か聞いてきたことがあったか。あれをそうとれというのは無理だろう…

 

「わーふー?」

 

「いや、なんでもない。さてお待たせしてしまった。君はもみじでいいんだろうか?」

 

「わふ!!」

 

「そうか。ではもみじ。歓迎するよ。君は今日から家の子だ」

 

「わーふー!!」

 

「おなかがすいているだろう?母が君が家で食べていたご飯も一緒に送ってくれた。それを食べなさい」

 

 一通り最低限の物は一緒に入れて送ってきた辺り本当に私に世話を任せるのだろう。ならそれでいい。ゆっくりは嫌いだがもみじ個人はまだわからない。これから過ごしていけば合うかどうかわかるだろう。そう和みながらもみじを撫でようとしたときにガラスが割れる音が響いた。何事かと音のした部屋を開けるとそこにはゆっくりまりさがいた。

 

 

「やっとおいついたのぜくそにんげんん!!このまりささまをけっていいわけがないでしょー!?いますぐどげざしてしんでね!」

 

 やはりゆっくりは嫌いだ。身の程を弁えずにこちらへ害をなす。もみじの教育に悪いな。早く始末してしまおう。割れたガラスも危険だしもみじが来る前に片づけなければ。

 

「ガルル…!!!」

 

 獣の唸るような音がした。発生源は何かと音の方を見れば毛を逆立てて鋭い眼光でまりさ(侵入者)を睨みつけるもみじがいた。そういえば先ほど調べたときに自分の巣を守るためには牙をむく性質があると書かれていたか。そんなことを考えている間にもみじはシャッと跳ねてまりさに嚙みついた。聞くに堪えない音を上げてまりさは解体されていく。その早業を見ていて気付いたのだがなるべく汚れないように解体をしてくれているらしい。もちろん多少は漏れてるもののカーペットではなくフローリングの部分だしガラスを器用に避けている。素晴らしい。

 物の数分でまりさは皮とあんこの塊となり物言わぬ汚れた甘味へジョブチェンジを果たした。返り餡で体を汚すもみじをみて私はいい貰い物だとそう思った。

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