それでも僕は魔法の後継者だと言い張る   作:唯野葦也

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第3話:天に伏す

 ノエルがクロードの部屋を訪れてから一週間経つ。

 

 

 

 クロードはアレから生ゴミに集る蠅のように付き纏うノエルを邪険にしながら都合よく利用していた。

 

 

 

 最初は拒絶していたのだが、ノエルはなんと飯を提供してくれたのだ! 正確にはその代金だが。

 

「ご教授していただく以上、師を飢えさせる訳にはいきません」

 

 と師でも何でもないクロードに飯代を日に1000ゼニー渡してくる。1000ゼニーあればステーキ定食くらい頼める金額。それを毎日である。富豪の家系なのだろうか?

 

 もちろんクロードは恥知らずではないため初日から断るそぶりもせず即座に受け取り胃袋の中に収めた。

 

 

 

 しかし、断じて師にはなってない。

 

 

 

 それから毎日顔を出しては、クロードに飯代を提供するノエル。それを見た宿泊者は新しいネタが出来たと喜び、宿主はノエルを正しき道へ戻そうと指導するも一向に辞める素振りがない。それどころか、自身の事が分からないのは不公平だと身の上話までし始める。

 

 流石にそれはうっとおしいとクロードも感じてはいたが。

 

 

 

 

「働かずに得た金で食う飯が美味すぎるッ……!!」

 

 

 

 

 最悪聴覚はシャットダウンさえすれば最高の環境なのでは? と日替わり定食に付いてくるお代わり自由のコーヒーを本日何杯目か飲みながら優雅で自堕落で廃退的日常を送っていた。

 

 

 

 そんなウジに漂う羽虫の如くの綺麗な純粋な目をしたノエルは今日も学校の事を語っているようだ。

 

 

 

 

「それで今日休んでる下級生の宿題をこれから届けに行くんですよね」

 

「それ普通同級生の仕事じゃねぇか?」

 

 

 

「いや、頼まれたものは断れないと言いますか……」

 

 

 

 

 ノエルに対してだいぶ砕けた態度をとるようになったクロードは適当に話に付き合いつつ、ノエルの哀れな属性に同情する。

 

 

 

 

「でも美少女だって聞いてるんでちょっと会うの楽しみなんですよね。綺麗な濡鴉色の髪で夜のような神秘的な漆黒の眼は見つめているだけで吸い込まれるようだとか」

 

 

 

 

 まぁ、どうせ会えるのは使用人でしょうけどね。かつての貴族の家系らしいですし。

 

 そんな乾いた笑いを漏らしながら、少しでも不憫体質を前向きに捉えようとする姿勢には見る人が見れば涙がにじむだろう。クロードはその話を聞きながらあくびで涙が出たが。

 

 

 

(しかし黒髪黒目……ね)

 

 

 

「でも変な噂もあるんですよね。その子今よりさらに幼いころは髪と目が違う色をしてたそうなんですよ。でも今はそういう髪色とかになってるとか。染色でもしてるのかな」

 

 

 

 写真ありますけど見ます? と写真を見せつけられると、確かに先ほどまでの説明とは違いそこには”銀髪で赤眼”の幼女が映っていた。

 

 

 

「お前中等部に通ってる年だよな? ちょっとロリコンとは関係持ちたくないんだが……」

 

「ち、違いますよー! どんな人か分からないから写真とかあります? って聞いたら渡されただけですって!」

 

「その後その写真を学校内で見せながら住所聞いて回ったのか……? 教師も教師だが、お前もう学内でロリコン疑惑出てるんじゃねぇか?」

 

 

 

 その言葉で絶望に顔を染めているノエルを傍目に見ながら、クロードは物思いに耽る。

 

 

 

 (銀髪に赤眼が、黒髪黒目に。ねぇ)

 

 

 

 まぁ関係ない話だと割り切り、そろそろノエルにはその子に提出しに行けと厄介払いしようと思案してる時。

 

 

 

 

 突然、その店にいる人々がそれぞれ体の一部分を抑えつけるように呻きながら倒れだしたのだった。

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 とりあえずクロードは厨房で火を使っていた人の許へ駆け寄り火から離し安否と症状を冷静に眼で視た。

 

 

 

(なんだ? 魔力がすごい勢いであふれ出てる?)

 

 

 

 そっと横に寝かせ他の店内の人々も診たが、どいつもこいつも動物として生まれたからには量の多寡はあれど大抵は魔力を持つ。それは日常で活動するうえで魔道具などでの消費以外にも自然と漏れ出るのは一般人として当たり前なのだが。

 

 

 

(おかしい流出量が日常のそれじゃない)

 

 

 

 彼らの症状は魔力欠乏症と言われるものに近かった。魔術を使う魔術師ならば恐れるべき教訓として学ばされる魔術行使の際のデメリット。だが、消費魔力量を抑え作られた魔道具くらいにしか魔力を用いない一般人がこの症状になるのは極めて稀だ。

 

 これは魔術師にも同様の作用が現れてるのかとノエルを見ると、彼もまた少し頭痛がするかのようにこめかみを揉んでいた。元々魔力量ではクロードが見た中でもトップクラスに入りそうなノエルですら違和感を覚えていることに恐怖する。

 

 元々魔力を持たぬ故無事なクロードはようやく事態の深刻さを認識した。

 

 

 

「ノエル、お前は大丈夫か?」

 

「……はい、クロードさん。ただなんか魔力が空に引っ張られてる感じがして……」

 

「空?」

 

 

 

 眼を凝らしてあたりを見渡すと他の魔力欠乏症に罹ってる人の残魔力も悉く空へと放出されているのが認識できた。

 

 まさかという恐れと、しかしという現実への拒絶が頭の中をかき乱す中、とにかく店外へと出て魔力の流れを辿る。

 

 すると上空には通常の魔術を構築する平面の魔術式ではない、立体的で流動的に変化させながら発動させる魔術式、魔法の術式”魔法式”が発動していると検知できたのであった。

 

 魔法式、それは扱う難易度もさることながら魔法そのものの発動に特殊な魔力、純魔力を必要とするため使い手は”魔王”と呼ばれる。それらは銀髪赤眼の容貌を成し、魔力に愛され、それ故に世界からはみ出し者とされ性格破綻者も多い。そんな逸脱者が扱える奇跡の技。魔法は魔王一人一人が生涯をかけ2つを磨き上げる事が一般的とされ、その術式は複雑になり他者に決して真似できない精密な処理が成される。

 

 それが魔法式。なのでクロードは真っ先に近隣に住む3人の犯人候補から二人を除外すると、ノエルに詰め寄り言葉を吐かせるのだった。

 

 

 

「おい、俺を今すぐさっき言ってた少女の家へ案内しろ」

 

 

 

 残り一人の容疑者に目を付けて。

 

 

 

 

 嫌な予感がした。

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 道を軽く聞けば、元は貴族だった家系らしいとは聞いていたが、どうやら館もここアモーラに住んでれば誰でも見覚えがある赤レンガ造りの有名な館であった。クロードは急ぎ自室へ向かうと暗器の積んだベストを羽織る。擦れてる普段使いの革靴を鉄板で足指と足底を覆うように仕込んだブーツに履き替え、最後にコンバットナイフのポーチを腰に下げると顔を叩いて自室を出て駆け出す。

 

 ノエルもおぼつかない足で追いかけてきているが、この事件を対処できるのが現状自身しかいない恐れを考慮すると一刻の余地もないのだ。

 

 

 

 そして館へと近づくにつれおかしなものが道を塞いでるのに気づく。

 

 傀儡人形兵器、太古の遺産。かつてある魔王が世界に絶望したときに生み出した人工物。

 

 

 

(とにかく丈夫でインプットされた魔術の行使も可能なんだっけか)

 

 

 

 師匠に教わった通りならば球体関節部位が脆く頭の碑文を削れば無力化できたはず。クロードは過去の勉学を思い起こしながらコンバットナイフを抜き取り気配を薄める。しかし傀儡人形兵器はピット器官でも内蔵してるのか、間合いを詰める前に首だけを180度回転させこちらを視認すると、人間の挙動ではない人形らしい不気味な挙動で押し寄せてくる。クロードは内心で悪態をつくが戦闘に馴染んでいる体は勝手に対処に動く。

 

 

 

(接近帯刀タイプ1体、接近格闘タイプ1体、後衛魔術師タイプ2体)

 

 

 

 クロードは秘策を構えつつ躍り出る。腰を低くし背を丸め地を這うように駆ける。すると決まったシステムに則るように接敵した帯刀タイプは地を薙ぐ。となれば頭部がそれなりに低い位置になる。クロードは軽く跳躍し剣の薙ぎを避けつつ敵頭部を掴み、裏首筋の魔術文字にコンバットナイフで傷をつけ無力化させる。

 

 

 

(まず一体)

 

 

 

 すると後衛魔術師タイプ二体が偏差で火炎魔術を行使する。だが、クロードは秘策があるためそのまま魔術の波に突っ込む。そして平気な顔で通り過ぎると、感温出来なくて見失ったのか挙動が怪しくなった格闘タイプも無力化。そして魔術師でもないクロードは精密な魔術式を瞬時に編む。

 

 それはいつしかノエルが見せた爆砕魔術を小規模に、しかし位置指定をし発生させる高位魔術。

 

 

 

(魔術文字で素体は硬いと言っても魔術文字を刻む部位は削る以上それなりの脆さがある。だっけか)

 

 

 

 10秒にも満たず4体の傀儡人形兵器を無力化させるとクロードは先に進むのだった。

 

 

 

(すごい……これがクロードさんの本気……)

 

 

 

 その一部始終を追いかけて呼吸を整えてる間に観たノエルにとって、この際、さっきの敵は何だったのか、魔術が何故使えるのか。そういう些細なことはどうでもよく、ただひたすら憧れを募らせるのだった。

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