嫌な予感がして先を急ごうとするクロードだったが、必死に追いかけてくるノエルを見てため息を吐くと軽い忠告を兼ねて提案する。
「ノエル、無理するな。ただでさえお前らは魔力を普段持ちすぎている。意図的で急激な魔力喪失はきついだろ。もう道は大体わかったし、無理してついてこなくてもいいんだぞ」
「いえ! まだ行けます」
しかしそんな事を知ってか知らずかノエルは愚直に首を横に振るのだった。
「どうなっても知らねぇからな」そう呟いて改めて先を急ぐ。
すると二人の道の先に複数人の冒険者がいた。恰好からしてアカデミーの魔術師もいるが、前衛職の人達も複数人居て”明らかに今の状況にそぐわない違和感”があった。しかし、ノエルは気付かず喜びの声を上げる。
「あ、見てください師匠! まだ元気な人たちがいますよ!向かう先も同じようですし共闘してもらいましょうよ!」
ノエルはのどかに冒険者らしい背格好の彼らに声をかける。だが、彼らは魔力を吸われてないことから明らかにこの元凶と共犯なのは明らかだった。
声を聴いて冒険者たちは首だけを180度回転させる。目は濁り、虚ろを見て無理な姿勢を取ったからか片方の肩が競りあがる。よたよたと前足をこちらに向けると、彼らはいきなりこちらに襲い掛かってきた。
「チッ!」
当たってほしくなかった現象に顔をしかめつつノエルを脇に蹴り飛ばすと、クロードはコンバットナイフを抜き取り、もう片方の手で黒塗りの鉄の串を牽制として投げ飛ばす。
だが、彼らは冒険者としての知識を保有した状態で傀儡となっているためこれを防ぐと勢いそのまま切り結んでくる。
仕組みは傀儡人形兵器と大体同じだ。どこかに魔術文字を刻み冒険者としての記憶をそのままに死体のまま操られる傀儡兵器。それが彼らだった。
元々彼らは善良な冒険者としてこの街で親しまれてただけにやりにくさを感じるクロード。再起不能なまでの徹底的な壊し方はもちろん知っている。だがそれは彼らの善良への冒涜のような気がして引けてしまうのだ。
だが、この戦場には似つかない引きつった怯え声を聞いてすぐさま割り切ることにした。
ノエルへ向かっている剣士だった傀儡兵器に向かい駆け出すべく、目の前の前衛が大剣を振りかぶるその脇に鉄底のブーツでハイキックを入れそのまま腐肉を抉り切り取りその勢いのまま顔面を歪ませる。そしてその足を重心にもう片方の足を翻し頭頂部にかかとおとしを与えると自重で落ちる上半身の片手に握るコンバットナイフで股関節の筋を切り落とし、片手で着地し曲芸のようにバク転でその兵器から離れる。
生肉を使った傀儡兵器の弱点は、基本機能を生前の経験を生かすために肉体の機能をそのまま流用しているところだ。つまり筋繊維と顔面の五感を鈍らせれば、人間と同じようにある程度スタンする。立ち上がったクロードはそのまま鉄串をノエルに向かう敵に投げつける。音で気づいた傀儡兵器はこちらへ振り向き立ち止まって刃で弾く。その時間がありがたかった。剣士の懐に入り込むと柄を膝打ちし揺らし肘で側面を叩きさらに揺らす。現状既に動く死体のようなものだから握力も乏しい。基本傀儡人形兵器と違い知識はあるものの筋肉がうまく作用しない”主に精神面に訴えかける”兵器だとは習っていた。
そしてそれが通じないとみるや味方すら巻き込むのだと。
後方で控えていた魔術師たちは呪文を放つ。同時にクロードを狙っていた前衛の兵器と剣士の兵器がクロードを抑え込もうとする。そう、操られている前衛二人を平気で巻き添えにする。そういった行動もとることが出来るのだ。
ノエルは尻もちを付いていて動けない。だとしたら取るべき行動は魔法しかなかった。魔法は複雑な術式で通常魔術師には視認できない。だから硬直したクロードへ向かい魔術は自然と投げつけられる。冒険者がよく好む火の魔法、その導火線のように地を這う様から一部では火走りと呼ばれる速度に長けた魔術がこちらへ向く。好都合だった。アレなら対角線にいるノエルを守れる。
だが、先にも言ったが魔法式は魔術師には見えない。そしてクロードの魔法は一見発動してるか分からない。序に言えばノエルは恐慌状態に陥っていた。故に、ノエルはクロードを救おうと反射的に魔術式を編む。以前見せた爆砕魔術の魔術式を。人を殺めるという事を知らぬ学生が衝動的にソレを起こしてしまった。
途端に光る爆音飛び散る歪んだ金属と、ひしゃげた防具と、焦げた血肉。それらを返り血のように浴びたノエルは。
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魔術は憧れだった。初めて魔術式を勉強し魔力を注ぎ魔術が発動したとき、感動した。
無から火や水や雷が生まれ、癒したりもできる万能な力。 心のどこかでは分かっていた、これは殺傷能力を有することくらい。だが、これは。
「ア、ア、」
魔術は憧れだった。だが、今見せられている光景は。とても綺麗なものでも、輝かしいものでもなく。魔術は暴力だった。
違う、自分はこんなモノのために弟子入りしたいんじゃない。
違う、自分はこんなモノのために勉学に励んだわけじゃない。
違う、自分はこんなモノのために努力してきたわけではない。
こんな、こんな。殺戮のために魔術師を目指したわけではない!
焼け焦げた匂いがする。鉄臭い匂いがする。酸の匂いがする。
……酸?
「オエッ」
いつの間にかこみ上げてきていたものを吐き出す。脳が酸素を求める。ここは半ば火事のようになっている。
「ここを、離れなくちゃ」
そうとにかく離れるのだ。現実から。
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クロードがそれを”見ないふり”する。
仕方のない事だ。特に街暮らしなら無縁だろう。魔術とは殺しの道具、それは魔術学院に行けばまず教わることだ。戦争だって自然回復する燃料で発射される高威力の自然現象の放射があれば誰だって使いたがる。
「まぁ最近は比較的平和だしなぁ」
今は裏稼業で使われることの方が多いしな……。
「とりあえずさっきのアイツの魔力で、やるか」
あのふらつきようじゃ戦場から出られまい。禁術ではあるが精神鎮静魔術程度ならそんなに魔力もいらないだろ。考えを固めると、残り部隊を壊滅し終えたクロードは精神を安定させてやるためにノエルの元へ駆け寄り魔術で優しく眠らせてやるのだった。