あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。 作:masuda028
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
──呪術高専。
およそ俺のような選ばれた人間が足を踏み入れるには、あまりに地味で薄汚れた場所や。
「ふん、これが高専か。カビ臭いにも程があるわ」
廊下を歩きながら、仕立てのいい制服の袖を払う。
禪院家の次期当主たるこの俺が、何が悲しくてこんな『学校ごっこ』の仲間に加わらなあかんねん。
教室の扉の前に立つ。中からは、いかにも育ちの悪そうなガキどもの気配がしとる。
(……まぁええ。ここにおる『現代最強』やなんや言われとる五条悟。それに夏油傑。アイツらに俺との格の違いを叩き込んでやるんは、悪い気分やないわ。俺の美しさと才能に、精々ひれ伏させてやるからな)
夜蛾とかいう厳つい面した教師が「入れ」と促す。
俺は最高のタイミングで扉を開け、優雅に、かつ圧倒的な威圧感を纏って教室へ踏み出した。
「へぇ、ここが呪術高専。思ったより地味やな。あんたらが俺の同級生? ふうん、雑魚ばっかやん……ま、ええわ。禪院家の直哉様が、わざわざこんなとこ来てやったんやから、感謝しいや」
教室内の空気が凍りつくのが分かる。
そうや、その顔や。凡夫が天才を仰ぎ見る時の、その間抜けな面が見たかったんや。
俺は教室内を見渡し、標的に言葉を叩きつける。
「特にそこの白髪頭。あんたが五条悟やろ? 噂通りの生意気そうな顔しとるわ。でも、まぁ、所詮は俺の足元にも及ばへんな。夏油傑とかいう奴も──大したことはなさそうや」
視界の端に女どもの姿が入る。
どうせ俺の完璧な容姿に魂でも抜かれとるんやろ。
「それと女ども、俺の顔に見惚れるのは分かるけど、あんまりジロジロ見んといてくれる? 俺の美しさに耐え──」
俺が最高の決め台詞を口にしようとした、その時やった。
「あー!!!」
鼓膜が震えるような大声が、俺の言葉を無慈避に遮った。なんや、どこの無作法な雑種が──そう思った瞬間。
視界に飛び込んできたのは、見覚えのある、そして俺の人生で最も計算を狂わせる「嵐」のような笑顔やった。
「もしかして、なおちゃん? なおちゃんだー! 久しぶり〜っ!!」
は? な、なおちゃん?
俺が反応する間もあらへんかった。
風のような勢いで突っ込んできた金色のその塊が、俺の身体に迷いなく、全力でぎゅーっと抱きついてきよったんや。
「なおちゃん! 大きくなったねぇ!!」
鼻をくすぐる、懐かしい、けれど記憶よりずっと女らしくなった花の匂い。
心臓が、自分でも引くぐらいドクンと跳ねよった。
「……は、ぁ……? お、お前……っ、な、なんでここに……っ!」
あかん。言葉が、出ぇへん。
さっきまでの完璧な「禪院直哉様」の仮面が、このガキ一人のせいで粉々に砕け散っていくのが分かる。
抱きつかれた場所から全身が熱くなって、顔が燃えるように熱い。
五条悟がニヤニヤしながら肩を震わせとるのも、夏油傑が般若みたいな恐い顔で俺を睨んどるのも分かっとる。
せやけど、今はそんなんどうでもええ。
(……なんで、なんでこいつがここにおんねん! しかも、なんやその嬉しそうな顔は! 卑怯やろ、そんなん……っ!)
俺の『高専デビュー』は、一瞬にしてこの女との再会に塗り替えられてもうたんや。
──
【禪院直哉のセルフコメンタリー】
「おい、誰や。この時の俺が『茹でダコ』やったとか書いたカスは。出てこいや。
これはな、急激な気温の変化による生理現象や。あんな勢いで特級並みの質量がぶつかってきたら、誰だって血圧上がるわ。
……大体、せいらがアホみたいに無防備なんが悪いんやろ? 久しぶりに会った男に、あんな公衆の面前で抱きつくとか、どないな教育受けとんねん。俺がこれから徹底的に『淑女の嗜み』とやらを叩き込んでやらなあかんくなっただけや。
……え? 抱きしめ返そうとしとった? 節穴か自分。あれは引き剥がそうとしとった手の残像や。……文句あるか?」