あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。 作:masuda028
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
「にゃ? うにゃ!? うにゃにゃ!?」
広告の前で猫を頭にのせたせいらが激しくサイドステップを始めた。
「いきなり何しとんねん! お前が異変か!? バターにでもなりたいんかいな!!」
ガシリと肩を掴む。
「だってさー。広告の中の人がわたしたちを見てるんだよー?」
「見てるやとぉ?」
広告の中にいる女と視線が合う。せいらの肩を掴んだまま右に左に──。
「見とるなぁ……」
きっしょ!!
「これは異変確定やろ。戻るぞ」
「はーい。でもさー。誰にとっての異変が異変なんだろうね〜」
当たり前のようにせいらが手を繋いでくる。
「はぁ? なんやそれ。異変は異変やろ。誰とか関係あるかい」
「大事なことだと思うよー」
せいらは妙なところで鋭く、物事の本質を突く。
あの看板を見つけて、今来た道を戻っていったところでさっきの看板と同じものが通路の先に現れた。
「閉じ込められたか……」
「えー? どういうことー?」
「前に進んでも、後ろに進んでも同じ道しかあらへんよってこっちゃ。俺たちは壁に穴でも開けん限り、異変があるかもしれん通路に向かわにゃならんわけやな」
「なるほどねー」
「怖いか?」
「えー? なんだかわくわくするー」
「んなぁーーーぅぅぅ」
異変があるかもしれない通路に向かう。
真新しい地下通路、左の壁に広告がいくつか。上に8番出口がこの先にあるという看板となぜか電気の通った蛍光灯。右の壁に3つのドアと消火栓。通路の奥の曲がり角からサラリーマン風のおっさんが歩いてきた。
「おい、お──」
話しかけようとしたところでせいらに腕を引かれる。
「なんや?」
「あのおじさん、わたしたちを認識できてないみたい。目が悪くたって、気配があれば注意を向けるでしょ? それがなかったから」
「…………」
おっさんは俺たちに注意を向けることも何を言うこともなく、俺たちが歩いてきた方にカツカツと規則正しい足音を立てて歩いていった。
「異変? 何が異変? いまのおじさんが異変?」
猫を頭の上にのせたまま、きょろきょろするせいら。
「電気も通ってない地下で、蛍光灯がついとるんも異変ちゃうんかい」
「えー? じゃあ異変があったら戻るんだっけ?」
「せやなぁ、異変があったら戻るんだったか……」
「「…………」」
顔を見合わせる。
「じゃあ、とりあえずさー。今すぐ危険そうな感じはしないから色々見て先に進んでみようよー」
「なんでや?」
「異変がなかったら先に進むじゃない? その先に何か変化があったら異変がなかった。その先も変化がなかったら異変があったってことかなーって」
「ほぉん? せいらのくせによう考えとるやないか」
「せいらのくせにってなによー」
ぽかぽかとぐーで叩かれる。
「全然効いてへんでー」
「むー」
せいらはぷいとそっぽ向いた。
「お前の言う通りにしたるから機嫌直せや」
ここが呪霊の腹の中だということを忘れてしまいそうになる。これが異変やったら大変やなと思った。
──
【禪院直哉のセルフコメンタリー】
「おい。頭にバターでもつまっとるんかと思ったわ。
せいらが広告の前で必死にステップ踏んどるのを見て、一瞬、ホンマに呪いでおかしくなったんかと思ってな。……まぁ、広告の女がこっちを追ってくるんは、確かにきっしょかったけどな。
……それと、『異変とは何か』なんて、せいらはたまに恐ろしいこと言いよる。
呪霊の術式か、それともこの場所そのものが歪んどるんか……。
俺が『怖くないんか?』って聞いた時、あいつ『わくわくする』とかぬかしおった。
普通の女やったら腰抜かして俺に泣きつく場面やろ?
……せやけど、そんな肝の据わったところも、まぁ、嫌いではない。
あのサラリーマンの雑種が通り過ぎた時、せいらが俺の腕を引いて止めたやろ。
あいつ、ただのアホやなくて、ちゃんと相手の『気配』を読んで行動しとる。
俺が異変に気づくより先に動くなんて、生意気や。……でも、そのおかげで余計な手出しをせずに済んだんは、認めてやらんでもない。
『せいらのくせに』って言うて叩かれた時?
……あれ、全然痛くないねん。
あんな柔らかい拳でポカポカされて、怒る気になれる男がおるか? おらんやろ。
あいつがぷいってそっぽ向いた顔も、まぁ、見てられんことはなかったから、しゃあなしに言う通りにしてやったんや。
……最後に、俺が『これが異変やったら大変やな』って思ったんはな。
地下のジメジメした空気のせいで、俺の冷静な判断力が少し鈍っとっただけや。
せいらと二人で歩くのが、まるでデートみたいやなんて……一瞬でも思った俺を殴り倒したいわ。
ええか、これは任務や! デートやない! ……せいら、そっち行ったらあかん言うとるやろ、俺の三歩後ろを──いや、俺から離れんな!」