あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。 作:masuda028
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
「異変〜。異変〜。異変はどこかな? どこですかー?」
猫を頭に乗せたまませいらがきょろきょろと周囲を見回す。異変を見つけたら引き返す、異変がなかったら先に進むで正解なら行った先の◯番出口の番号がひとつずつ増えていくことがわかった。
「でもさー。8番出口まで行ったら出られるって書いてあったけど、外に出られるだけなら意味ないよね?」
またせいらが変に感のいいことを口にする。
「せやなぁ、俺たちがやらなあかんことはここにいる呪霊を祓うことやからな──」
進む先に気配を感じてせいらの前に腕を出す。せいらも気付いたようや。
「誰かいるね。異変かな?」
小声でせいらが言う。かもしれへんが。
「わからんな」
警戒しながら進むと呪術師が二人倒れとった。
「あー!」
せいらが心配そうに近寄っていく。
「おいおい、そんな不用意に近付いて大丈夫か?」
「あぁ、せいらさん……来てくれたんですね」
「何があったの?」
「ずっとここから抜け出せなくて、彷徨い歩いてました」
安心したのかガクリと気を失う。
「どないする? このふたり。ここに置いていくか?」
「助けに来たのになんで置いてくの!」
ぷーと頬を膨らませるせいら。
「こんな時のためのまーくんだもーん。お願いしまーす」
「んなーーーうぅぅぅ」
まーくんと呼ばれている猫が下に降り立つと、倒れている二人にテシテシと蹴りを入れる。すると二人の身体はみるみる縮んでいき、最終的ににはその猫があぐあぐと食べてもうた。
「おいおい、なにしとんねんこいつ!!」
「何してるって、人命救助?」
「喰ってもうたぞ!?」
「大丈夫! 大丈夫! ちゃんとした訓練を受けてます! 外に出たらぺっ出来るんだもんね」
猫は誇らしげにふんぞりかえっとる。いやむしろホンマわかっとんのんか? この畜生めが。
「ちゃんとした訓練だぁ? まさか俺も行動不能になったら同じようにするつもりやったらドン引きやで!?」
「えー? だめぇ?」
「駄目に決まっとるやろがい!!!」
──
「異変〜。異変〜」
そして再び異変を探す。
「さっきの異変はわかりやすかったな。通路にふたり立っとるっちゅー」
「そうだね。歩いてくるおじさん以外にも人が出てくる異変あるんだーって感じ。でもさ、私わかったよ!」
えっへんと胸を張るせいら。
「さっき救命対象がいたところでは、異変なしで進んだら数が増えたじゃない? つまりー。異変はこの呪霊が用意したものが異変ってことなんだよ!!」
「そーやろなー」
「反応薄っ!!! わたし悲しい!!!」
猫を頭の上に乗せたまま地団駄を踏む。
なんかつまらんなー。せや、せいらのことからかったろ。
「こういうループ系の領域に囚われとると……あれやのぉ、外に出たら浦島太郎状態になっとったらどないする?」
「ほぇ? ──それはそうなった時に考えればいいんじゃない?」
意外とまともなこと言うやないか。
「お前の好きな夏油も死んどるかもしれんし、もしかしたら他の奴と結婚してたりもするかもしれんぞ?」
「うーん。流石にそこまで私が取り残されるなら、お師匠も助けてくれるんじゃないかなぁ」
腕を組んで、うむむと考え込んでる。
「師匠? 五条家にはそんな呪術師がおるんかいな」
「あー。まぁわたしのお師匠はお師匠なので、なおちゃんは知らないと思う」
「なんやそれ」
「すぐるが他の誰かと幸せになるのは、それはそれでいいかなー」
ぼんやりと遠い目をして言った。それは俺の知ってるせいらとしては意外な言葉やった。
「へぇ、意外やな」
「わたしより選んだその人と幸せになれるってすぐるが判断したんだったら、応援してあげたいし幸せになってほしいなーって思うよ」
力無く笑うせいら。
「なんで──なんでそう思うん? 嫌なら嫌って言えばえぇやないか。自分を優先する以外に大事なもんなんてあらへんやろ」
「……なおちゃんはそうなんだね。それもひとつの考え方だよ。きっと一番大事にしていることが違うから、判断や答えが違うんだと思う」
「…………」
「わたしの一番はすぐるだからさ、すぐるの幸せがわたしの幸せ。それでいいんだ!」
「不器用なやっちゃな」
せいらの身体を抱きしめる。
「泣きながら言う奴あるか──この阿呆」
──
【禪院直哉のセルフコメンタリー】
「おい、ちょっと待て。あの猫(まーくん)、やっぱりただの畜生やないやろ!
人をあぐあぐ食うて『人命救助』やなんて、どこの呪霊の理論やねん。俺があの後、絶対に粗相せんように釘刺しといたんは正当防衛やからな。もし俺が食われそうになったら、内側から投射呪法でズタズタにしたるわ。
……それはええとして。
せいらのアホに、ちょっと意地悪言うてやったんや。
『浦島太郎状態になっとるかも』ってな。あいつが泣きべそかいて俺に縋り付いてくるのを期待しとったんに、返ってきた答えが『すぐるの幸せを応援したい』やと?
……はぁ? 何を綺麗事抜かしとんねん。
自分より他人を優先して、それで自分がボロボロになって……そんなん、見てられへんやろ。
あいつが力なく笑うた瞬間、心臓の奥がチリチリしよった。禪院家の女どもが見せとった『諦めの目』とは違う、もっと純粋で、もっと残酷な『愛』の形を見せられた気がしてな。
『不器用なやっちゃな』
そう言うた時の俺の声、自分でも驚くほど優しかったかもしれん。
泣きそうになっとるせいらを抱きしめたんは、あれや、地下の湿気で身体が冷えたらあかんと思ったからや! 暖を取らせてやっただけや!
……せやけど、抱きしめた時のせいらが、あんまりにも小さくて、頼りなくて。
夏油なんかに任せとるから、こんな顔せなあかんようになるんや。
『すぐるの幸せが幸せ』やなんて、そんな悲しいこと二度と言わせへん。
俺が、俺だけが、せいらを一番幸せにしたる……。
そう決めた瞬間やった。まぁ、本人には絶対言わんけどな!」