あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。 作:masuda028
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
お気に入り20記念です。ありがとうございます……
→キャッティーランドおかわり
【シーン1:猫の亡霊ライド(前世の記憶)】
「……ったく、暗いだけで何も見えへんやないか。こんなんのどこが楽しいんや」
ガコン、と重々しい音を立ててライドが館の深淵へと滑り込む。
直哉は隣で期待に目を輝かせているせいらを一瞥し、鼻で笑った。禪院家の当主たる者、作り物の亡霊ごときに揺らぐはずがない。ましてや、それが「猫」の形をしているなど、滑稽ですらある。
そう、思っていたはずだった。
──その瞬間。
闇の奥で、かすかな光がほどけるように揺れた。
次の瞬間、クリーム色の子猫の亡霊が、まるで風に押し出されるみたいにふわりとコースを横切った。
「っ……!?」
直哉の心臓が、一瞬だけ映写機のリールを外したみたいに跳ねた。
鼓動のリズムが乱れ、胸の奥で不穏な熱がじわりと広がる。
脳裏に閃光のように走ったのは、幼少期、冷え切った屋敷の片隅で出会った、あの弱々しくも気高い子猫の姿。
(……あかん。あの色、あの細さ……俺が守らな、一瞬で消えてまいそうやった、あの時の──)
その記憶が、目の前のせいらの存在と重なり、混濁する。
恐怖とは違う。胸の奥で、言葉にならない感情がゆっくりと形を取り始める。
それは黒い泥のように重く、触れたら最後、抜け出せなくなる類のもの──「執着」だった。
「……せいら」
掠れた声と共に、直哉の手が伸びる。
せいらが驚く間も与えず、その細い肩をぐっと引き寄せ、逃がさないと言わんばかりの力で胸元へ抱き込んだ。
せいらの体温が直哉の腕に触れた瞬間、胸の奥で何かが軋むように鳴った。
「なおちゃん……? どうしたの?」
「……黙っとれ。離れんな言うたやろ」
腕の中の温もりを確認するように、さらに力を込める。
その瞳は、もはやアトラクションを楽しむ者のそれではない。暗闇に潜む亡霊たちを睨み返すような、冷たさと焦燥が入り混じった視線だった。
守るためなら何でもする──そんな危うい決意が、静かに燃えていた。
「……せいら。亡霊やろうがなんやろうが、お前を連れていこうとする奴は──俺が24分割して地獄の底に叩き落としたる。一欠片も残さへんからな」
本気の、殺気すら混じった愛の告白(本人は警護のつもり)。
せいらの天然な可愛さに当てられ、直哉の理性は「子猫の幻影」と共に、深い闇の底へと沈んでいった。
【シーン2:限定キャッティー・ペースト(交換こ事件)】
「……はぁ? お互いに食べさせ合う? 自分、正気か?」
直哉は眉間を押さえ、聞き慣れない文化に頭痛すら覚えた。
ライドを降り、ようやく呼吸を整えた直哉を待ち受けていたのは、猫の好物を模したピンク色のスティック──通称『人間用ペースト』だった。
「だって、あれが今の流行りなんだよぉ! それに、とーっても美味しいんだって!! なおちゃん、まずは買ってこよう!!」
「流行りや知るか! 誰がそんな、猫の餌みたいな真似……」
拒絶の言葉を並べ立てる直哉だったが、せいらの「お願い」ビームには1/24秒も抗えない。結局、周囲のカップルたちがキャッキャと戯れる中、売店の前で世界の終わりみたいな顔をしながら、二つのペーストをしぶしぶ掴み取る羽目になった。
「……一回きりやぞ。二度目は絶対せぇへんからな」
顔を耳まで真っ赤に染め、まるで敵地に潜入する忍のように周囲を警戒しながら、直哉は震える手でスティックの先をせいらの口元へ運ぶ。
「……ほら。文句言わんと食え。……あーん」
声はぶっきらぼうだが、手元は妙に慎重だった。
せいらが素直に口を開ける。
──はずだった。
「はむっ!!」
「……っ!?!?!?」
勢い余ったせいらの唇が、スティックごと、それを支えていた直哉の人差し指まで包み込んだ。
「……っ!! お、おま……っ! ゆ、指、指食うなアホ!!」
弾かれたように叫び、指を引き抜く。
しかし、指先に残ったのは、イチゴ味のペーストよりも甘く、ぬるりとした、心臓に悪いほど柔らかな感触。
「えへへ、なおちゃんの味がした〜」
「……っ、〜〜〜〜っ!!」
直哉の脳内で、投射呪法が警告音を鳴らすように暴走した。
処理しきれない感情が一気に押し寄せ、思考の回路が一瞬だけ真っ黒に沈む。
指先から全身に駆け巡る熱。
次の瞬間、視界の端で光が弾け、当主としての矜持も、性格の悪さも、全てが「せいらの口内」というブラックホールに飲み込まれ、蒸発した。
【シーン3:現地で完食オチ】
「……っ、あかん。これはもう、あかんやつや……」
直哉は顔を背け、熱を持った指先を震わせながら、せいらの手からスティック状のペーストをひったくるように奪い取った。
「没収や! こんなん、公共の場で堂々と食うもんちゃうわ! 持ち帰って食え!」
「えーっ! なんでぇ!?」
不満げに頬を膨らませるせいらだったが、次の瞬間、その瞳に「限定品」への純粋な食欲が宿る。
「こういうのは、現地で食べないとダメなんだよぉ! 鮮度が落ちちゃうもん!」
「鮮度もクソもあるかい! これただのペーストやぞ!」
直哉が必死に理性を繋ぎ止め、暴走を止めようと手を伸ばした、その時だった。
「ふにゃっ!!」
「っ、な……!?」
勢い余って封を切ったせいらの手元から、鮮やかなイチゴ色のペーストが飛び出し、直哉の手にべったりとスプラッシュした。
せいらは「あちゃー」という顔をしながらも、手の中のスティックを惜しむように、猫のような速さで残さず吸い付く。
「んむ……おいしぃ〜!! はい、ごちそうさまでしたぁ!」
空になったパッケージを誇らしげに掲げるせいら。そこには、直哉が密かに期待していた「帰宅後の甘い時間」の欠片も残っていなかった。
「…………おい。俺の分……一口どころか、影も形も残ってへんやないか……」
空の袋を見つめ、魂が抜けたように肩を落とす直哉。自分が食べさせたかったという独占欲も、あわよくば……という淡い期待も、全てはせいらの胃袋と、自分の汚れた指先に消えた。
「ごめんね、なおちゃん! 全部食べちゃった……それに指、汚れちゃったね……」
せいらは申し訳なそうに眉を下げると、直哉の指に付いたペーストをじっと見つめ、名案と言わんばかりにその手を両手で包み込んだ。
「じゃあお詫びに……なおちゃんの指、舐めてきれいにしよっか! 勿体ないもん!」
「やめろ言うとるやろ!! 自分のそれは『お詫び』やなくて『追い打ち』やろがい!!」
血相を変えて飛び退く直哉。
「だって、ハンカチ出すより早いよ?」と不思議そうに首を傾げるせいらを置いて、直哉は逃げるようにその場を後にする。
周囲の客が「あら、仲がいいわね」と微笑む中、直哉の耳はキャッティーランドのどのネオンよりも真っ赤に燃え上がり、その鼓動は24フレームどころか、今にも緊急停止しそうなほどの爆音を刻んでいた。
──
【禪院直哉のセルフコメンタリー】
「…………。
(机に突っ伏して、耳まで真っ赤なまま動かない)
……おい。自分、ホンマに性格悪いな。
シーン1で、俺の幼少期のトラウマ……やなくて、あの心温まる記憶(子猫)を引っ張り出してきて、俺に『二度と離さへん』なんてクソ重い決意させた直後に、これか。
(ガバッと顔を上げて、震える指先を凝視しながら)
『はむっ!!』やて!?
あの瞬間、俺の脳内メーカー、全部『せいら』と『ぬるっとした感触』で埋め尽くされて、投射呪法どころか呼吸の仕方まで忘れたわ!!
『なおちゃんの味がした』?
自分、その言葉がどれだけ俺の心臓を物理的に削ったか分かっとんのか!!
(さらに声を荒らげて)
極め付けは、あの『お掃除(舐めてきれいにしよっか)』提案や!!
せいらにとっては、こぼれたジュースを拭くのと同レベルの『善意』なんやろ!?
それが……それが一番、俺のプライドをドブに捨てて踏みつけるっちゅーねん!!
『ハンカチ出すより早い』? 合理的すぎて、俺の葛藤がただのアホみたいやないか!!
(ガックリと肩を落として)
……あー。もうええ。
結局、俺の分は一口も無し。
せいらは腹いっぱい、俺は指汚されて公開処刑。
これのどこが『キリ番特典』やねん。俺への『公開処刑』やろがい!!
……。
……。
(スマホの画面を見て、さらに顔を赤くし)
誰や、この『指舐めきれいにする?』を活字で読みたがっとる悪趣味な奴は!!
俺はもう、キャッティーランドのネオンとして一生点滅しとくわ!!
おい……自分。
最高に『えぇ更地』やなって思ってにやけとるんやろ。
……おーきにな(ヤケクソの感謝)」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本エピソードは初出の書き下ろし※です。
書き下ろしは毎日更新以外のタイミングで投下するので、タイトルに★つけときます。
※お気に入り20人記念
旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅
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