あの禪院直哉が、こんなにデレるはずがない。 作:masuda028
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
なんやあれ! なんであないなことに──。
胸の鼓動が五月蝿い。顔から火が出とるようや。
俺は挨拶も早々に教室を出た。天元の眼ぇいう天内理子が禪院にとってどんなメリットをもたらすか、見極めるっちゅー名目で、俺はしばらくの間呪術高専に在籍することになった。生徒ゆーても特別枠。物見遊山のつもりやったのに、いきなりあんな再会あるかいな……。
あの女、せいら? せいら言うとったな……てんのやつ。せいらって名前やったんか──えぇ名前や。何年ぶりやろ。小さい頃に何日か会うたけど……まさか、ここで、あないに無防備に抱きついてくるとは──それに俺のこと、忘れてへんかった。俺のことを『なおちゃん』って……。
せいらの胸が触れた感触……まだ消えへん。
せやけど、それ以上にやっかいなのは──五条悟の視線や。あいつ、笑いこらえてたな。
クソッ、あいつらの前で、俺があないに取り乱すとか──最悪や。
背後に気配を感じて振り返る。
「にゃん?」
小さく首を傾げたせいらがおった。
……なんや、天使でもおるんか思ったわ。
──何思うとんねん俺!!!!
「なおちゃん、高専よく知らないでしょ? あんないしてきてって先生に言われたんだ」
にこにこと微笑みながらそんなことを言うてくる。あかん……。
「行くよ〜」
ごく自然にせいらは俺の手をとる。手ぇ繋いで歩くなんて何年ぶりや? せいらの手ぇは小さいな、柔らかであったかい……あの頃となんも変わらんのか──。
俺は禪院直哉、禪院家の跡取りとなるべく生まれた男や。跡取りになるために必要なもんは、どんなもんでも惜しげもなく与えられた。俺が欲しいと思ったもんは、望めば何でも手に入る。
──それが普通で、当たり前やった。
御三家の集会ってもんが、よくある年っていうのがあったりする。俺が幼い頃に、厄介な呪霊が大量発生して対応に追われるような年とか。大慌てするんわ大人の役割で、物心ついて間もないような子供はただ親の付属品のように集会の場に連れて来られるわけや。
「──なにしとん?」
ふわふわの金髪の見慣れないガキンチョが庭にいた。木に登って何かしようとしとる。
着とるもんは上質な着物みたいやが、木に登るようなことをしているからか汚れすぎや、後でぎょーさん怒られそうやなと思った。
「ん? 猫ちゃんが降りられなくなってるから……たすけてあげようと思って──」
見ると木の枝の先の方に子猫がおった。ひどく怯えているようで身動きがとれんらしい。
「お前、アホちゃうか? そんなもん使用人にやらしときゃええねん」
「でも猫ちゃんこわがってるし、早くたすけてあげないと。ほら、こわくないよー」
ガキンチョが手を伸ばす。なんとか子猫を抱きしめるが、今度はガキンチョが身動きとれんようになった。
「ほら言わんこっちゃない」
しゃーない。使用人の一人や二人連れて来てやるかと向かおうとしたところ──。
「にゃっ!?」
強い風が吹いてガキンチョが枝から落ちた。
咄嗟に地面に落ちる前に間に入るが、俺は尻餅をついてもうた。
「だーから言わんこっちゃないやろが」
「ありがとー!!!」
は? 子猫は落ちると同時に逃げ出し、ガキンチョは俺に抱きついてお礼を言ってくる。
「おい! おいおいおい! 何しとんねん! いきなり抱きついてくんなや、ええ加減にせぇ!」
「ほえ?」
ガキンチョは首を傾げながら離れたが、まだ俺の上には乗っとる。……なんやねんこのガキ。ふわふわの金髪で青い目ぇなんて、舶来品のお人形さんみたいやないか。
「いつまで俺の上に座っとんねん、さっさと退け」
「あ、ごめんね!!」
何度も謝りながら俺から降りた。ガキンチョが手を差し出すので、手を借りて立ち上がる。
「俺は禪院直哉や」
「わたしは──」
「いらんいらん。お前の名前なんぞ、聞かんでもええ。この俺があだ名をつけたるわ。お前はてん……」
自分が天使と言いかけてることに気付いて慌てて片手で口を塞ぐ。
「てん?」
小さく首を傾げて上目遣いで俺の次の言葉を待っとる。なんやこいつ!? 可愛いの暴力やないかい。
「そうや、てん! お前のことはてんって呼んだるわ」
使用人たちにしているように、名前を聞かずにあだ名で呼ぶ。その癖がその時もつい出てしもうた。名前を知ったらそいつを認めたことになる。そしていつかそれが呪いに転じると教わっていたから。
「ほれ、行くぞてん。お前は着崩れすぎじゃ」
先に立って歩き出そうとすると、てんは俺と手を繋いできた。
「なっ……! 何勝手に手ぇ繋いどるねん!」
咄嗟に振り払おうとしたが、てんは当たり前のように指を絡めてくる。
「え? 何が?」
俺ばかりが意識して空回ってる気がして、手を離せとは言えんようになった。
それからてんの着崩れた着物を直し、一緒に遊ぼうとてんがしつこく言うので付き合うたった。
てんはよく笑って、俺が何か話したり、してやったりする度に「すごいね!」「えらいね!」と大袈裟に褒めて頭を撫でてくる。
「ったく、やめろや! 子ども扱いするんやない!」
「いいこいいこー」
てんを相手にしていると、どうもいつもの調子にならん。そしてそのいつもの調子にならないことが──不思議とそこまで嫌ではない理由を理解できんかった。
散々遊んで沢山笑って、てんとは数日共に過ごした。
集会が終わった帰りの車で、もうしばらくは集会がないと聞かされた時、俺はぼんやりとてんの名前を聞いておけば良かったと思っていたような気がする。
──
【禪院直哉のセルフコメンタリー】
「おい、誰や。今の俺を見て『初恋拗らせおじさん』とか言うた奴は。
俺はな、幼少期からの『縁』を大事にしとるだけや。あんな危なっかしいガキ、放っておけるか?
大体、あいつが俺を『なおちゃん』なんて呼ぶから、俺の中の『禪院直哉様』がちょっと休暇取ってしもうただけやねん。
……え? 昔から世話焼きやった? 節穴か自分。あれはな、あいつがあまりに不器用すぎて、見てられへんかっただけや!
……それと、てんが『天使』の略やって気付いた奴、今すぐ忘却しろ。……消すぞ、ホンマに」