伊落マリー VS『恋する学園・プリンス×パニック』前編
トリニティ総合学園の空気は、今日も神聖な静寂に包まれていた。石畳の道を歩く伊落マリーの耳に、遠くから礼拝の鐘の音が優しく響く。
彼女が歩くたびに、シスターの衣装が微かに揺れ、その清廉な姿は行き交う生徒たちの目を惹きつけて止まない。
「あ、マリー様。おはようございます。今日も素敵な笑顔ですね」
向こうから歩いてきたシスターが、足を止めて深々と一礼した。マリーは足を止め、慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべて応える。
「おはようございます。主の導きが、今日もあなたと共にありますように。とても良いお天気ですね」
「はい、マリー様にお会いできて、さらに心が晴れやかになりました。それでは、失礼いたします」
シスターが去っていくのを見送り、マリーは再び静かに歩き出す。彼女の背中が見えなくなると、先ほどのシスターたちは顔を見合わせ、感嘆の吐息を漏らした。
「本当に……マリー様はシスターフッドの鑑ね」
「ええ。あの方のお淑やかさ、そしてあの清らかな心。私たちも見習わなくては」
そんな絶賛の声が背後で上がっているとは露知らず、マリーは努めて冷静に、一歩一歩を丁寧に踏みしめていた。
だが、その胸の内は、決して聖歌のような静謐さに満たされているわけではなかった。
「(ああ……早くお部屋に戻りたいです。昨日の小説の続きが気になって、昨夜はお祈りの最中も集中力が途切れそうになってしまいました……)」
伊落マリーには、誰にも言えない秘密がある。彼女は、甘酸っぱい恋愛小説や、胸が締め付けられるような恋愛漫画をこよなく愛していた。
シスターという立場上、俗世の情愛に溺れるような趣味を表立って公言するわけにはいかない。しかし、彼女の想像力は常に羽ばたいていた。
「(もしも、私が物語の主人公だったら……。そう、例えば、運命的な出会いをして、不器用な男の子に翻弄されたり……なんて。いけません、マリー! そんな破廉恥な妄想を膨らませるなんて!)」
自戒の言葉を心の中で唱えつつも、彼女の足取りは寮の自室へと向かうにつれ、心なしか速くなっていく。
部屋に入り、鍵をかけた瞬間に、彼女の「シスターとしての仮面」はふわりと解かれる。
マリーは手慣れた動作でタブレット端末を取り出し、お気に入りの通販サイトを開いた。
新作のチェックは、彼女にとって一日の終わりの密かな儀式である。
「何か……何か新しい『心の栄養』はないでしょうか……」
画面をスクロールしていくと、ふと一つのタイトルが目に飛び込んできた。
それは、今まで見たこともない、しかし妙に惹かれるパッケージのゲームだった。
「『恋する学園・プリンス×パニック』……? 新作でしょうか。イラストがとても綺麗です。それに、この紹介文……」
■ゲーム紹介:『恋する学園・プリンス×パニック』
【概要】
全寮制の超名門「聖(セント)アルカディア学園」。そこは、各界のセレブな令息たちが集まる、男子のみの花園だった……。
そんな場所に、親の仕事の都合で「特例」として転校することになったあなた。
待っているのは、個性豊かな5人のイケメンたちとの、甘く切ない、そして刺激的なスクールライフ!
「女だってことがバレたら、どうなっちゃうの……!?」
正体を隠したハラハラドキドキの潜入生活が今、幕を開ける!
【システム】
• 運命の選択肢:あなたの言葉ひとつで、彼との距離が劇的に変化。ベストエンドを目指しましょう。
• リアルタイム・メールシステム:ゲーム内のスマホに、攻略キャラから甘いメッセージが届きます。
• 豪華スチル演出:物語の節目には、吐息まで聞こえてきそうな美麗な1枚絵を多数収録。
【攻略キャラ紹介】
・一条 蓮(いちじょう れん):学園の生徒会長。文武両道で冷徹だが、時折見せる弱さに母性本能がくすぐられる。
・霧島 零(きりしま れい):孤高の一匹狼。バイクを乗り回し、大人びた雰囲気を持つが、実は甘いものが大好き。
・羽柴 翼(はしば つばさ):天真爛漫なバスケ部エース。弟系キャラで、あなたを「お姉さん」と慕ってくる。
・西園寺 景(さいおんじ けい):茶道家元の跡取り。雅で物腰柔らかだが、独占欲が強く、時折見せる独占欲が……。
・謎の転校生・セフィ:ミステリアスな銀髪の少年。どこかこの世の者ではないような雰囲気を纏っている。
「(……素敵。なんて魅力的な設定なのでしょう。男装して男子校に潜入……。王道ですが、だからこそ胸が高鳴ります!)」
マリーは画面を食い入るように見つめた。パッケージのイラストには、中央で困り顔をしながらも可愛らしい制服を着た少女と、それを囲むように配置された5人の美形男子たちが描かれている。
「レビューはどうでしょうか……。あ、星5つが並んでいます!『人生最高の神ゲー』『涙が止まりません』『イケメンたちの囁きで耳が溶ける』……。これほどまでの高評価、間違いありません」
いくつかの恋愛ゲームを嗜んできたマリーの経験からしても、このパッケージの完成度と評価の高さは、信頼に値するものだった。
「開発会社の名前は……『ミラクル・ハッピー・ワークス』? 聞いたことがない会社ですが、きっと新進気鋭の素晴らしいメーカーさんに違いありません」
マリーは迷うことなく、注文確定ボタンをタップした。
「(楽しみです。一条様、霧島様……。あ、でも翼さんの弟系というのも捨てがたいですね。ふふふ、どのような物語が私を待っているのでしょうか……)」
それから数日間、マリーは浮足立っていた。シスターとしての仕事中も、ふとした瞬間にゲームのことを考えてしまう。
そしてついに、待ちに待った小包が届いた。
「ついに……ついに届きました!」
自室の机の上、丁寧に開封されたパッケージが輝いて見える。マリーはそのパッケージを両手で持ち、うっとりと頬を寄せた。
「ああ、実物はさらにイラストが鮮明です。一条さんのこの鋭い眼光、見つめられているだけで魂が吸い込まれそうです。このゲームをプレイすれば、私もこの薔薇色の学園生活の一部になれるのですね」
彼女は既に、自分が聖アルカディア学園の廊下を、心拍数を上げながら歩く姿を妄想していた。
5人の王子様たちに囲まれ、翻弄され、愛を囁かれる日々。それは現実のシスターとしての静かな生活とは正反対の、煌びやかな世界。
「主よ、どうかお許しください。今夜だけは、私はシスターではなく、1人の恋に恋する少女に戻ります……」
そう呟きながら、マリーは机の下から大事に保管していたゲーム機を取り出した。充電は満タン。準備は万端。
震える手で、小さなソフトのチップを本体にセットする。カチリ、という小さな音が、運命の歯車が回り始めた合図のように聞こえた。
「(さあ、行きますよ……。私の、理想の恋の世界へ!)」
マリーは意を決して、ゲーム機の電源ボタンを押し込んだ。
液晶画面が明るく発光し、暗い部屋の中に青白い光が広がる。
メーカーのロゴがいくつか表示され、期待に胸を膨らませるマリー。しかし、彼女はまだ知らなかった。
そのロゴの裏に隠された、あまりにも無残で、あまりにも冒涜的な「現実」を。
高評価レビューの正体も、美麗なイラストがただの「釣り」であることも、そしてこれから彼女の清らかな心が、ドブ川に叩きつけられるような絶望と怒りに染め上げられることも。
トリニティの聖域に、静かに…しかし確実に、暗黒の蹂躙劇が幕を開けようとしていた。
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