春日ツバキwith修行部 VS『玻璃の森』前編
百鬼夜行連合学院の一角、静かな空気が流れる修行部の部室。
その穏やかな空間に、似つかわしくない不穏な響きが投げかけられた。
「……クソゲー、ですか?」
ミモリが、小首をかしげて聞き返した。
その隣では、カエデが不思議そうに目を丸くしている。
「クソゲーって、なあに? 新しいお菓子の名前かなにか?」
部室の主である部長、ツバキは、いつものように眠たげな目を半分閉じ、ポワポワとした……しかしどこか決意に満ちたオーラを纏いながら頷いた。
「そうだよ、カエデちゃん。今度の修行には、この『クソゲー』を取り入れようと思うんだ。きっと、精神を鍛えるのに大きな効果が期待できると思うよぉ……」
「修行にゲーム……? なんだか楽しそうだけど、クソゲーっていうのがよくわからないよー!」
カエデが元気よく手を挙げると、ツバキはゆっくりと言葉を紡いだ。
「クソゲーっていうのはね、内容がひどすぎたり、操作性が最悪だったり、理不尽な難易度だったり……とにかく、遊んでいる人を不快にさせたり絶望させたりする、呪われたゲームのことだよぉ……」
「そんなものを……わざわざ修行に?」
ミモリは困惑したように苦笑いを浮かべた。
「確かに、理不尽に耐えるというのは精神修行としては理に適っているかもしれませんが……いったい、どんなゲームをしますの?」
待ってました、と言わんばかりにツバキが鞄からタブレットを取り出した。
「これを見て……」
画面に映し出されたのは、禍々しくも権威のありそうな金色のフォントで書かれたタイトルだった。
『キヴォトス・クソゲーアワード2025』
「これはね、1年に1度、キヴォトス全域で発売もしくは流通したゲームの中から、最も『クソ』だった作品に贈られる不名誉な賞なんだよぉ……。有志による厳正な選考、そして圧倒的な被害報告によって選ばれる、まさに地獄の祭典……」
「クソゲーアワード……。そんな恐ろしいものがあるのですね」
ミモリが引き気味に呟くと、ツバキは画面をスワイプした。
「今回私たちが挑戦するのは……この2025年度、数多のライバルをなぎ倒して『大賞』に輝いた、伝説の1本だよぉ……」
そこに表示されたのは、息を呑むほどに美しいパッケージイラストだった。
それは、玻璃(ガラス)のように透き通った木々が冷たく輝く青い森を背景に、透明感のある白髪の美青年・シオンと、彼の手を優しく包み込む盲目の少女・アイリスを描いた幻想的な1枚絵だった。
光に溶けそうな儚い筆致は、見る者を一瞬で引き込む神聖な美しさに満ちていた。
■ゲーム紹介:『玻璃の森(はりのもり)』
【あらすじ】
静寂が支配する、玻璃のように透き通った森。そこには、触れるものすべてを宝石に変えてしまう呪いを背負った「孤独の番人」が、独り静かに時を刻んでいた。
ある時、森に迷い込んだ盲目の少女は、その呪いを知らぬまま番人の冷たい手に触れ、生まれて初めての「温もり」を感じる。
声なき心と、見えぬ瞳。
2人の魂が重なり合うとき、森の奥底に眠る残酷な真実が、美しくも悲しい調べと共に目覚め始める……。
【システム】
• 官能的なまでの全編フルボイス:吐息の一つまで余すことなく収録した、極上の音響体験。
• 「魂の秤(ソウル・スケール)」システム:プレイヤーの些細な決断が、二人の運命を天国と地獄へ分かつ。
• 圧倒的ビジュアル・ディテール:1枚の絵画のごときグラフィックが、あなたの精神を異世界へと誘う。
【登場人物紹介】
・シオン:玻璃の森に住まう、透明な髪を持つ美青年。番人である彼は自らの呪いを厭い、孤独を愛している。
・アイリス:光を失った瞳を持つ少女。番人の正体を知らず、その「声」を聴こうとする。
・語り部:森の真実を知る、顔のない傍観者。プレイヤーに問いかけ、倫理を揺さぶる。
・森のささやき:不可視の住人たち。彼らの言葉を信じるか否かは、あなた次第。
【開発者より一言(代表:赤松秀二郎)】
「永遠」を形にしたい。その一心で、この作品を紡ぎました。
プレイし終えた皆様の心に、いつまでも色褪せない『最高の思い出』が残ることを、切に願っております。
「わあぁ……! すっごく綺麗な絵だー! この男の人、キラキラしてるよー!」
カエデがタブレットを覗き込み、目を輝かせた。
ミモリも、その幻想的なタッチのイラストに、思わず頬を赤らめる。
「まあ……。儚げで、とても素敵な雰囲気ですわね。ノベルゲーム……少女漫画のような情緒を感じます。ツバキちゃん、こんなに綺麗な絵なのに、なぜこれがクソ……お排泄ゲームに選ばれてしまったのですか?」
ミモリの問いに、ツバキは静かに首を振った。
「それがね、わからないんだよぉ……」
「わからない?」
「ネットにある感想を調べても、ゲームの内容について具体的に書いている人が1人もいないんだよぉ……。みんな、あまりの衝撃に言葉を失っているのか、あるいは……」
ツバキはタブレットの別のページを開いた。そこには、プレイしたユーザーたちの「声」が並んでいた。
『殺す』
『死ね』
『社長の赤松を一生涯かけて呪う』
『金返せとかそういうレベルじゃない、存在が罪』
『これを作った奴は人間じゃない』
「…………………」
部室の温度が数度下がったような沈黙が流れた。
「……あの、ツバキちゃん? 皆さん、かなり……感情的になっておられるようですが」
ミモリの声が少し震えている。
「うん……。でも、クソゲーアワードの選考理由は非公開なんだよぉ……。何がそんなに酷いのか、どうしてここまで憎まれているのか……。でもね、前情報を知らない方が、修行としての純度が高まると思うんだぁ……」
「ええー! でもこんなに怒ってる人がいるの、ちょっと怖いよー!」
不安がるカエデをよそに、ツバキは鞄から一本のソフトを取り出した。
「この『玻璃の森』……。開発会社の名前は『すいれん工房』。調べてみたけど、このゲーム以外に実績もなければ、ホームページすら存在しない、謎に包まれた会社なんだよぉ……」
「すいれん工房……聞いたことがありませんわね」
「販売個数も極端に少なくてね。通販やオークションサイトでも全滅。私がようやく見つけた時には……プレミア価格で50000クレジットもしたんだよぉ……」
「ご、ごま……!? 50000クレジットですの!?」
ミモリが叫んだ。修行部の部費を考えても、それはあまりにも無謀な金額だ。
「ひゃあぁ!! 50000クレジット!? それだけあれば、ムシクイーンのパックが何百パック買えるかなぁ……。ツバキ先輩、お金大丈夫だったの?」
カエデが指を折りながら計算しようとするが、途中で混乱して頭を抱えている。
「……貯めていたお年玉、全部使っちゃった。でも、修行のためだもん。後悔はしていないよぉ……」
ツバキの目は座っていた。普段の「眠り姫」の穏やかさの奥に、求道者としての狂気が垣間見える。
「さあ……始めよう。この『玻璃の森』の奥底に、何が眠っているのか。私たちの精神がどこまで耐えられるのか……」
ツバキは震える手で(それが武者震いなのか、50000クレジットを失った恐怖なのかは不明だが)、持参した家庭用ゲーム機にソフトを挿入した。
カチッ、という小さな音が、部室に不吉に響く。
モニターには、美しく、どこか物悲しいピアノの旋律と共に、幻想的なタイトル画面が映し出された。
「(……大丈夫。これだけ綺麗な絵で、これだけ素敵な音楽なんですもの。きっと、ネットの人たちは少し大げさなだけですわ)」
ミモリは自分に言い聞かせるように、胸の前で手を組んだ。
しかし、彼女たちはまだ知らなかった。
これが、修行部始まって以来の、最大にして最悪の「試練」の始まりであることを。
窓の外では、百鬼夜行の夜が深く、静かに更けていく。
修行部最大の試練の夜が、今…幕を開ける。
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