クソーアーカイゲー・青春ドブ捨て録   作:ていん?が〜

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早瀬ユウカ VS『江戸算術伝 〜算盤を以て徳川の世を正す〜』中編

「……ふん、他愛ないわね。結局はただの四則演算じゃない」

 

 セミナーの部室に、ユウカの鼻を鳴らす音が響いた。

 

 画面の中では、主人公である浪人・算哲が、悪徳商人の繰り出す「米俵の利息計算」という名の数字の弾幕を、算盤一つで弾き飛ばしている。

 ユウカの指先は、コンソールのコントローラーを淀みなく操り、画面上の仮想算盤の珠を完璧な速度で弾き続けていた。

 

 最初は慎重だったユウカだが、開始から15分も経てば、その表情には余裕を通り越した退屈さが浮かんでいた。

 

 「江戸時代の算術なんて、現代の数学に比べれば基礎中の基礎よ。それをゲームにしたところで、私に追いつけるわけがないわ」

 

 パシッ、と小気味よい音がして、画面上の敵が「ぐわああああああ!!! 正確すぎるうううう!!」という、フォントの潰れた情けない断末魔と共に消滅した。

 

 しかし、その余裕は長くは続かなかった。

 

 ステージが『第三章:地獄の奉行所』に差し掛かった辺りで、画面の挙動に明らかな異変が生じ始めた。

 

 「……え? ちょっと、何今の?」

 

 ユウカの眉が不快げに跳ね上がる。

 

 画面上の算盤インターフェース。本来なら、五珠(ごだま)を1つ下げれば『5』、一珠(いちだま)を1つ上げれば『1』と認識されるはずだ。しかし、ユウカが確実に『1』を足したはずの瞬間、数値は勝手に『4.72』という中途半端な小数点を叩き出した。

 

 「なによこれ、入力判定が狂ってる……? デジタルで算盤を再現しておきながら、浮動小数点の計算ミスでもしてるっていうの?」

 

 気を取り直して、次の問題。

 

 

 【問:幕府に納める年貢、米三万石を三等分せよ】

 

 

 「簡単すぎるわ、一万石に決まってるじゃない」

 

 ユウカが素早く『10000』と入力する。だが、画面には大きく赤文字で『×』が表示された。

 

 

 『正解:一万石と、奉行への袖の下 三両二分』

 

 

 「……はぁ!? ちょっと待ちなさいよっ!! 袖の下なんて問題文のどこにも書いてなかったじゃない!! これ、算術ゲームじゃなくてただの理不尽な初見殺しゲーじゃないの!!」

 

 ユウカの右足が、イライラと貧乏ゆすりを刻み始める。

 

 

 だが、これはまだ序の口に過ぎなかった。

 

 

 続いて始まった『第四章:絶望の利根川工事』。

 

 ここでは、押し寄せる濁流(という名の数字の羅列)を止めるために、瞬時に堤防の体積を計算しなければならないのだが、操作性がここに来て致命的な崩壊を見せた。

 

 算盤の珠を動かそうとボタンを押しても、反応するまでに3秒の遅延が発生する。

 そのくせ、1度反応すると、珠が慣性を無視して画面外まで飛んでいくという謎の挙動を見せ始めたのだ。

 

 「ちょ、動かない! 動けって言ってるでしょこのポンコツ!! ああもう、行き過ぎ!! 戻れぇ!! 戻りなさいよぉ!!」

 

 画面内の算哲は、ユウカの焦りをあざ笑うかのように、珠がバラバラに散らばった算盤を抱えて「拙者、算術の限界を感じた……」と言い残し、切腹のモーションに入った。

 

 画面が真っ赤に染まり、『切腹完了(GAME OVER)』の文字が浮かび上がる。

 

 「…………ふ、ふふ。ふふふふふ……」

 

 ユウカの口から、乾いた笑いが漏れた。

 彼女の脳内で、何かが音を立てて千切れた。

 

 「……いいわ。いいわよ、デスペラード・デジタル・ワークス。そして開発責任者の阿修羅・轟……。貴方たちの言いたいことは分かったわ。これは『算術』への挑戦じゃなくて、プレイヤーの精神をどこまで破壊できるかっていう、悪意の掃き溜めなのね……」

 

 次の瞬間。

 

 

 「ふざけんなあああああああああ!!!」

 

 

 ドゴォォォォォン!!!!

 

 

 ユウカの拳が、セミナーの頑強なデスクを激しく叩いた。上に置かれた書類やペン立てが派手に飛び跳ねる。

 

 「何よこのバグまみれのゴミカスソフト!! 判定がガバガバとかいうレベルじゃないわよ!! 浮動小数点の計算もできないプログラマーなんて、今すぐミレニアムの初等教育からやり直してきなさいよ!! 袖の下? 時代背景を反映したとか思ってるの!? ただの不正解の言い訳でしょ、この無能共がっ!!」

 

 ユウカの綺麗な菫色の瞳が、怒りで真っ赤に充血していた。ツーサイドアップの髪も逆立ち、普段の冷静沈着な会計の面影はどこにもない。

 

 「おい阿修羅ぁ!! お前これ、自分でテストプレイしたのか!? あぁ!? 算盤の珠が画面外に突き抜けるのが『命の鼓動』だと? 笑わせんじゃないわよ!!お前の脳みその方がよっぽどバラバラに散らばってんじゃねえか!?」

 

 彼女はコントローラーを握りしめ、画面に向かって呪詛を吐き続ける。

 

 「(何なのこれ、何なのこれ何なのこれ!? 私が今まで積み上げてきた数学的論理が、こんな掃き溜めみたいなコードの塊に否定されてる!? 許せない……計算が…計算が通用しない世界なんて、存在しちゃいけないのよ!!)」

 

 心の中の声すらも、もはや叫びに近かった。

 

 だが、ゲームは止まらない。

 

 コンティニューを選択すると、今度は『第五章:徳川の計算ミス』というステージが始まった。

 

 画面には、左右に激しく振動しながら、もはや数字ですらない「古代文字」のようなフォントが高速で流れ始める。

 

 

 『問:この世の全ての塵の数を、江戸の通貨単位で答えよ。制限時間:0.1秒』

 

 

 「……は? 塵の数…? 0.1秒?」

 

 ユウカの顔から、一瞬だけ表情が消えた。

 

 そして。

 

 「ああああああああああああああああ!!! 死ねっ!! 死に晒せ阿修羅ぁ!!! お前の家系図を円周率の桁数分だけ呪ってやるぅぅ!!!! この開発会社ごと、ミレニアムの予算で買収して、物理的に更地にしてから駐車場にしてやろうか!?」

 

 

 ガッシャーン!!!

 

 

 ついにユウカは、隣にあった予備のモニターを蹴り飛ばした。

 

 「計算通り!? ああ、そうね!! このゲームが私の手によって、跡形もなく粉砕されることだけは計算通りよ!! 見てなさい、このクソみたいなコードの一行一行に、私が直接デバッグ(物理)を叩き込んでやるんだから!!」

 

 部室のドアの外。

 

 たまたま通りかかったノアが、中から聞こえてくる「死ね」「無能」「更地」といった、およそユウカとは思えない罵詈雑言と破壊音を耳にして、静かに…そして優雅にその場を立ち去った。

 

 「……ユウカちゃん、お疲れのようですね。明日、少し強めのハーブティーを用意しておきましょう」

 

 その頃、部室内では。

 

 「阿修羅ァァァ!! 出てこぉい!! お前の存在自体が計算ミスなんだよぉぉ!!!」

 

 ユウカの絶叫は、ミレニアムの夜に虚しく響き渡る。

 

 物語は、ついに最悪の結末へと加速していく。

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