クソーアーカイゲー・青春ドブ捨て録   作:ていん?が〜

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銀鏡イオリ VS『エターナル・レジェンド・オブ・ザ・ガーディアンズ 〜光と闇の聖域〜』中編

 画面が暗転し、期待に胸を膨らませたイオリの前に、ついに「冒険の幕」が開いた。

 

 

 しかし、スピーカーから流れてきたのは、壮大なオーケストラでも、心躍るファンファーレでもなかった。

 

 

 ……プ、プー……プピーッ……

 

 

 まるで壊れた電子レンジが断末魔を上げているような、不快極まりない電子音の濁流。イオリは思わず耳を塞ぎ、眉をひそめた。

 

 「な、なによこれ。音響バグ?……いえ、これがBGM……なわけないわよね?」

 

 不安が脳裏をよぎるが、彼女は首を振ってそれを打ち消す。名作には、時として前衛的な演出が伴うものだ。そう自分に言い聞かせ、画面を凝視した。

 

 

 「(……えっ?)」

 

 

 表示されたタイトル画面を見て、イオリは硬直した。

 

 

 パッケージに描かれていた、あの神々しいまでに美しい銀髪の騎士はどこにもいなかった。

 代わりに画面の真ん中に突っ立っていたのは、角ばった、という表現すら生ぬるい「直方体の塊」だった。

 

 

 ジャガイモのような茶色い肌に、左右の目の位置が数センチズレた、悪意すら感じる福笑いのような顔。

 

 手足は細長い棒のようで、関節という概念が存在しない。

 

 それが、呼吸を表現しているつもりなのか、上下にガクガクと小刻みに震えている。

 

 

 「……は? 誰、これ…。パッケージのあの人は?……っていうか、これ、人間なの? ポリゴンが剥き出しっていうレベルじゃないわよ。これじゃただの積み木じゃない!」

 

 

 「(落ち着け。落ち着け、銀鏡イオリ。これはあれだ、きっと『最初はみすぼらしい姿から始まって、成長するごとにグラフィックが進化する』っていう、とんでもなく凝った演出に違いないわ。そうよ、そうに決まってる!)」

 

 

 必死の思いで自分を納得させ、彼女は「最初から」を選択した。

 物語は、王城の謁見の間らしき場所から始まった。

 

 

 「王城……のはずよね、これ」

 

 

 画面に映し出されたのは、一面が真っ黄色に塗られた立方体の空間だった。テクスチャという概念をゴミ箱に捨てたかのような、目に刺さる原色。

 

 その中央に、王冠を模したと思わしき「黄色いバケツ」を被った、一際大きな積み木の塊が鎮座している。

 

 

 すると、画面の下にテキストボックスが表示され、待望のフルボイスが流れた。

 

 『ああ、ゆうしゃよ。よくぞまいった。せかいをすくってくれ。たのむ。』

 

 「…………は?」

 

 イオリの口から、乾いた声が漏れた。

 

 聞こえてきたのは、声優の演技などでは断じてなかった。それは、休日に無理やり叩き起こされた挙句、借金の督促状を読み上げさせられている中年男性のような、絶望的にやる気のない「棒読み」だった。

 

 感情の起伏がゼロ。イントネーションは皆無。何より、マイクの性能が悪いのか、常に「ザザッ……ボフッ……」というノイズが混じり、時折遠くで誰かが咳き込む音まで入っている。

 

 「……嘘でしょ。これ、開発スタッフがその辺で寝てたおっさん捕まえて適当に録音したんじゃないの!? プロを使いなさいよ、プロを!!」

 

 怒鳴り声を上げるイオリだったが、悲劇はさらに続く。次に現れたのは、パッケージ裏で「可憐なヒロイン」として紹介されていた聖女のキャラクターだった。

 

 『あなたをまっていました。さあ、いきましょう。……えーと、つぎのセリフなんだっけ。ああ、これか。いきましょう。』

 

 「台本を確認するな!! 録り直せよ! 今すぐ録り直せ!!」

 

 驚くべきことに、女性キャラも、モンスターも、すべてのボイスが同じ「疲れたおっさん」の使い回しだった。

 

 裏声ですらない。地声で無理やり可憐な乙女を演じようとした結果、不気味な低音のつぶやきがスピーカーから漏れ出している。

 

 

 「(……50クレジット。そうか、50クレジットっていうのは、こういうことだったのね……)」

 

 イオリの手が、みしりとコントローラーを軋ませた。

 

 

 だが、真の絶望は、フィールドに出て戦闘を開始した時に訪れた。

 

 

 「……いいわ。声とグラフィックは、百歩譲って我慢する。RPGの本質は戦闘よ。戦略性と爽快感があれば、私はまだこのゲームを愛せる……!」

 

 自分に言い聞かせ、カクカクとした動きでフィールドを歩く「積み木勇者」を操作する。すると、画面が激しくフラッシュし、戦闘シーンに突入した。

 

 目の前に現れたのは、パッケージでは「恐るべき火竜」とされていたボス……のはずの、赤い三角形の集まりだった。

 

 『グオー。われはこうみえてドラゴンだ。ころすぞー。』

 

 「『こうみえて』って言うな! 形状に自信がないなら出すな!!」

 

 イオリはブチギレながらも、コマンドから「たたかう」を選択した。パッケージでは「迫りくる魔物をなぎ倒す爽快アクション」と謳われていた。

 

 彼女は、せめて剣を振る派手なエフェクトや、魔法が炸裂する光の演出を期待した。

 

 

 ポチッ。

 

 決定ボタンを押した、その瞬間。

 

 

 画面には、剣を振るモーションはおろか、キャラクターが動く気配すら一切なかった。

 

 ただ。

 

 真っ暗な画面の中央に、白抜き文字のフォント(MSゴシック)で、

 

 

 【 12 】

 

 という数字が、ポツンと表示された。

 

 

 …………。

 

 「………………は?」

 

 

 効果音すら鳴らない。閃光も走らない。ただ、算数のドリルでも見せられているかのように、無機質な数字が画面に浮かび、そして消えた。

 

 続いてドラゴンの攻撃。

 

 【 5 】

 

 今度は、画面の端っこに小さな数字が出た。それだけだ。

 

 「ふ、ふざけてる……。ふざけてるわよね、これ? 何が『リアルな戦闘』よ! 何が『直感的な操作』なのよ!! 数字が出てるだけじゃない! これのどこがアクションなのよ!!」

 

 イオリは立ち上がり、テレビ画面を指差して叫んだ。

 

 「エフェクトを入れろ!! せめて『斬った音』くらいさせなさいよ!! 開発会社! SDI!! スカイ・ディベロップ・インターナショナル!!! あんたたち、本当に人間なの!? サボるにも程があるでしょ!!」

 

 

 「(落ち着け……。まだよ、まだ『魔法』がある。ファンタジーといえば魔法でしょ。派手な炎や雷が画面を埋め尽くせば、この虚無感も少しは……)」

 

 

 彼女は藁にもすがる思いで、「まほう:ファイア」を選択した。消費MPは10。序盤にしては高コストだ。きっと、目も眩むような大魔法に違いない。

 

 「……お願い、まともな演出を……!」

 

 

 ポチッ。

 

 【 30 】

 

 画面が「一瞬だけ」真っ赤になった。

 

 

 それだけだった。

 

 1秒にも満たない、単色での画面塗りつぶし。そして、やはり無機質に浮かび上がる「30」という数字。

 

 『うわー。もえたぞー。あついなー。』

 

 例のおっさんの、死んだ魚のような声が追撃をかける。

 

 

 「あああああああああああああああああ!!! もう無理! 限界!! なにこれ!! なんなのよこれぇぇ!!!」

 

 

 ドゴォォォン!!!

 

 

 イオリの拳が、ついにデスクに叩きつけられた。風紀委員としての冷静さは完全に霧散し、彼女の瞳には怒りの業火が宿っている。

 

 「50クレジットだって高いわよ! むしろこれ、プレイした苦痛の対価として、私がお金を貰うべきでしょ!! SDIの社長をここに連れてきなさい! 今すぐクラックショットでケツを撃ち抜いて、文字通り『スカイ』に昇天させてやるから!!」

 

 しかし、怒り狂うイオリを嘲笑うかのように、ゲームはさらなる「クソ」を彼女に突きつける。

 

 戦闘に勝利した瞬間、ファンファーレの代わりに流れたのは、おっさんの鼻歌だった。

 

 『ふんふんふーん。レベルがー、あがったぞー。おめでとうー。』

 

 「おめでとうじゃないわよ!! 呪ってやる…! このゲームに関わったすべての人間をゲヘナの地下牢にぶち込んで、毎日ミント抜きの歯磨き粉を食べさせてやるんだから!!」

 

 イオリの怒声が、夜の寮内に響き渡る。

 

 だが、これはまだ序口に過ぎなかった。

 

 「……いいわ、こうなったら意地よ。最後まで見てやるわ。この『ゴミ』がどこまで私の神経を逆撫でするのか、徹底的に見届けてやるんだから!!」

 

 

 「(待ってなさいよ……このクソゲー……!!)」

 

 

 イオリは、怒りでガタガタと震える手でコントローラーを握り直し、再び「積み木」の操作を開始した。

 

 その顔は、もはや正義の風紀委員ではなく、復讐に燃える狂戦士のそれであった。




明日の18時05分にイオリ編の完結と、別作品のアル様の27話を同時投稿しますので見ていただけると嬉しいです!

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