砂狼シロコ VS『怪盗エトワールと華麗なる夜会』前編
砂塵が舞うアビドスの街並みは、今日も今日とて静まり返っている。
かつての繁栄を物語る巨大な建造物は砂に埋もれ、往来を歩く生徒の姿もまばらだ。
吹き抜ける乾いた風が、放置された看板をカラカラと乾いた音を立てて揺らしている。
そんな中、対策委員会の活動を終えた砂狼シロコは、愛車のロードバイクを転がしながら、ふと足を止めた。
「ん……。あそこのワゴン、何かある」
彼女の視線の先にあるのは、シャッターの半分が錆びついた、古びたリサイクルショップだ。
店先には、日焼けして色が抜けたワゴンが置かれ、そこには「投げ売り・全品処分」という力ない手書きのPOPが添えられている。
シロコは自転車を壁に立てかけ、ワゴンの中を覗き込んだ。
「(ガラクタばかり……。ん? これは……)」
彼女は山積みのジャンク品の中から、一際異彩を放つパッケージを掘り出した。
パッケージには、満月を背景にして、真紅のバラを一輪手にしたキザな二枚目の怪盗が描かれている。
タイトルのロゴは、これでもかと言わんばかりに金文字で豪華に装飾されていた。
『怪盗エトワールと華麗なる夜会』
シロコは無表情のまま、パッケージの裏面に目を落とした。
「……ん。怪盗エトワール。伝説の怪盗になって、博物館や……銀行、秘密の地下金庫に潜入する。最新のAI警備ロボットや、四方に張り巡らされた複雑なレーザーセンサーを突破し、狙った獲物は逃さない、か」
彼女の瞳が、わずかに揺れた。
「(銀行、難攻不落の金庫、最新のセキュリティ……。ん、これはいい資料になるかもしれない)」
シロコはさらに詳しく紹介文を読み進める。
■ゲーム紹介:『怪盗エトワールと華麗なる夜会 』
【概要】
時は現代。闇に紛れ、悪の資産を華麗に盗み出す正義の怪盗エトワール。
プレイヤーはエトワールとなり、世界中の厳重な警備を誇る施設へ潜入する。
狙うのは金銭ではない、ターゲットに隠された「真実」だ!
【システム】
・リアルタイム・ステルス・アクション: 敵の視界、音、熱感知センサーを掻い潜れ。見つかれば即逮捕(ゲームオーバー)!
・ガジェット作成モード: 盗み出した資金で、最新のピッキングツールや煙幕、ハッキングデバイスを開発せよ。
・怪盗の美学: 現場に予告状を。警備の難易度が上がる代わりに、クリア時の報酬が跳ね上がる!
「……ん、見つかれば即逮捕。シビアでいい。ガジェットの作成も、実地で使えそうなアイディアがあるかもしれない」
シロコはパッケージの隅に書かれた開発会社のロゴに目を向けた。
「『株式会社ドリーム・クリエイト・ソフト』……ん、知らない名前。でも、この内容で100クレジットなら……」
値札には、マジックで乱暴に「100クレジット」と書かれている。ジュース一本分にも満たない。
「……これ、ください」
シロコはゲームを手に、薄暗い店内へと足を踏み入れた。カウンターの奥では、店主の老人が新聞を読みながら欠伸をしていた。
「……おや、お嬢ちゃん。それを選ぶのかい?」
「ん…100クレジット。安い」
老人は眼鏡をずらし、シロコの顔をじっと見た。
「……それは、ワゴンの中でも1番長く居座ってる。いわゆる主ってやつだ。誰にも見向きもされなかったんだがね」
「ん、私には必要なもの。潜入の勉強になるから。最新のセキュリティ突破方法を、これで学ぶ」
「勉強、ねぇ……。まあ、100クレジットだ。返品は一切受け付けんぞ。後悔したって、わしゃ知らんからな」
「後悔はしない。戦術の幅を広げるための、必要な投資。ん、100クレジット、ここに置くね」
シロコはポケットから硬貨を取り出し、カウンターに置いた。老人は重いため息をつきながら、埃を被ったパッケージをビニール袋に入れた。
「毎度あり。……まあ、精々楽しんでくれ」
「ん、ありがとう。大事にする」
シロコは短く答え、店を後にした。足取りは、いつものジョギングの時よりも心なしか軽い。
アビドスの静かな自室に戻ると、シロコはすぐにバッグからゲームを取り出した。
窓の外は夕闇が迫り、まさに「怪盗の夜会」に相応しいシチュエーションだ。
シロコはベッドの上に座り込み、パッケージの表紙を改めてじっと見つめた。三角形の耳が、期待感からかぴくぴくと動く。
「(怪盗エトワール……。ん、悪くない名前。でも、私ならもっと効率的に、もっと確実に獲物を仕留められる)」
彼女の妄想は、テレビをつける前から急速に加速していった。
「(まずは、重力センサーを無効化するために、天井の通気口からワイヤーで吊り下がって……)」
妄想の中のシロコは、いつもの制服ではなく、シルクハットを被り、優雅な漆黒のタキシードスーツに身を包んでいた。
怪盗シロコ。
その眼につけたモノクルが怪しく月光を反射する。そして彼女は闇夜に紛れ、マントをたなびかせながら超高層ビルの壁面を吸盤のように駆け上がっていく。
「ターゲット確認。アビドス中央銀行、地下大金庫……。これより、エントリーを開始する」
脳内の怪盗シロコが、喉に取り付けた小型マイクに静かに囁く。
「レーザーサイト、視認。……配置は格子状。死角は右斜め上、30度の位置。……問題ない。私の関節可動域なら、この隙間を潜り抜けるのは容易いこと」
妄想の中の彼女は、音もなく通気口から降り立ち、床に足を触れさせることなく空中で静止する。
そして、複雑に交差する赤い光の網を、軟体動物のようなしなやかさで潜り抜けていく。
「シュタッ、と。……ん、着地成功」
警備ロボットが巡回に来る数秒の空白時間を突き、彼女は目にも止まらぬ速さで、特製のピッキングツールを金庫の鍵穴に差し込む。
「カチッ、カチッ……。ん、この手応え……」
心地よい金属の感触。
「開いた。ん、計画通り。お宝……もとい、学校の運営資金、全額回収する」
巨大な扉が開き、その向こう側にある山積みになった金塊や、整然と並ぶ札束が、モノクル越しに彼女の瞳に反射する。
不敵な笑みを浮かべる自分。そして、追っ手のヘリコプターのライトを背に受けながら、愛車のロードバイクで裏路地を爆走し、夜の地平線へと消えていく……。
「……ふふ。ん、楽しみ」
シロコの口元が、わずかに緩んだ。感情の起伏が少ない彼女にしては珍しく、頬が少しだけ高揚で赤らんでいる。
「(これで新しい強盗の……じゃなくて、対策委員会の活動のヒントが得られる。ドリーム・クリエイト・ソフト、感謝する。この恩は、ゲームをコンプリートすることで返す)」
彼女は期待に胸を膨らませ、後輩の黒見セリカから借りたゲーム機の電源を入れた。
「ピッ」という電子的な起動音と共に、テレビ画面が明るくなる。
「……よし。準備完了」
期待感は最高潮。まだ見ぬ「神ゲー」への扉を叩くように、シロコはコントローラーを両手でしっかりと握りしめた。
「ん、スタートボタン……押すね」
これから始まるであろう、華麗でスリリングな怪盗ライフ。彼女の指が、迷いなくボタンへと伸びた。
しかし、彼女はまだ、想像だにしていなかった。
この100クレジットという安すぎる価格の裏に、どれほど凄惨な、そして理不尽なまでの「地獄」が隠されているのかを。
暗い部屋に浮かび上がる画面の光は、彼女の未来を祝う灯火ではない。
それは静かに、しかし確実に彼女の心を壊していく、惨劇の夜の始まりを告げる光であった。
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