二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて   作:サイリウム

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15:暗躍

 

 

 

「支部長、こちら軍から上がって来た情報になります。ですが……、少々信憑性に欠けるものかと。確定情報ではないことにご留意頂ければ。」

 

「貰おう。……むぅ。」

 

 

場所は代わり、サンドライン商会の支部長。その執務室へ。

 

彼は部下である秘書から一つの紙束。軍に寄付金を投げつけることで調査させた報告書を受け取り、眺め始める。手渡される前に伝えられた事から怪訝そうな顔で読み始めていたが、その視線が下へと下がる程にどんどん表情が悪くなっていく。

 

 

「……原住生物の襲撃を受け壊滅、なぁ?」

 

 

その言葉自体は、彼にとって一番都合の良いものだった。

 

何せ危険視する企業『イプシロン』が武力介入を行ったわけでもなく、厄介な市民団体である『ベアフット』が要らぬちょっかいを掛けに来たわけではないのだから。何の背後関係も気にする必要はなく、単なる事故として処理すればいいだけ。

 

もしこれが事実であれば、優秀な砂賊団を壊滅可能な原住生物が出て来たと“単なる災害”に頭を悩ませるだけで良かった。しかし軍がこの結論に至ったとされる理由が、非常にお粗末。納得できるわけが無かった。

 

 

「真面な痕跡が無いから原住生物の仕業など。軍はここまで落ちていたのか。」

 

「ここの駐屯地に限れば我々の活動のせい、と言えるでしょうが……。想定以上の腐敗が進んでいたようです。」

 

「……肝心な時に役に立たなければ意味がない。ことが収まれば軍への介入も考えるべき、か。しかし“痕跡がない”とは、どうしたものか。」

 

 

椅子から崩れ落ちたことなど幻であったかのように、腕を組みながら思考を纏め始める支部長。

 

砂賊たち。『バースト団』が壊滅したという事実を考えると、痕跡が消滅したというのは色々と考えにくい。本当に原住生物によって撃破されたのならば、何かしら痕跡が残るはずである。ミミズなどの原住生物は確かに強大だが、人のように考える頭を持たない。ドレッドや戦車、車両の全てを綺麗飲み込むとは考えにくいのだ。

 

更に砂賊という存在は、町よりもその外。砂漠で活動するする者たちだ。原住生物を相手に生き残る術は幾つも持っているだろう、生き残りがいないとは考えにくい。

 

つまり、原住生物に撃破されたのであれば、何かしらの痕跡が残るはず。

 

 

「バースト団とトップ。奴はドレッドの腕はあったが、そこまで頭が回るやつではなかった。発信機の存在に気が付き取り外して違う地域へと逃走した、という可能性はない。」

 

「えぇ、それにあの発信機は取り外されると此方に情報が飛ぶようになっていました。それを突破できるとは思えません。」

 

「となるとやはり、誰かと戦って敗北し撃破された。痕跡が消されたと考えると、残る可能性は『イプシロン』か『ベアフット』だが……。」

 

 

その片方である市民団体『ベアフット』は、その名にあるように市民がメインの団体となっている。

 

つまりドレッドの戦闘に長けた者や、その後始末などに頭が回る様な存在ではない。勿論団体のトップやその側近と呼べるような存在であればその辺りの処理もしっかりとやってくるだろうが……。この惑星ザイオラにおける町の中でもあまり価値のない地域であるここを、そんなトップ層が攻略しようというのは考えにくい。

 

 

「まぁあいつらが何を考えているのかは正直解らんが……。となると、残りは『イプシロン』か。」

 

「はい、自身もそう考えて事件発生地域の周辺を調べてみたのですが……。13年ほど前に、血油の販売所として申請された店舗があることが判明いたしました。現在も『給油所』という名称で経営中とのことです。」

 

「む。前回の報告ではなかったようだが。」

 

「も、申し訳ありません。役場の方に提出を求めたのですが、20年前のものしか出てこず……。こちらが最新のものになります。」

 

「や、役場もか……。」

 

 

軍や行政の腐敗や怠惰に頭を悩ましながらも、提示された地図データを覗き込む支部長。

 

確かにバースト団の反応が消失した地点から近い場所に店舗が存在しており、ミミズから採取できる血油などを販売する場所として登録されていることが解る。この惑星、そして時代を考えると馬鹿正直なほどに“必要な申請”が全て整っている。

 

更に秘書が追加で調べたのだろう所有者である『セファ』の情報や、そこに運ばれた過去の運送データなどがも提出される。

 

 

「役場を叩いて吐き出させましたが、全て正当な手段を以て手続きが済まされています。記録が政府のデータベースも確認しましたが、どうやら改竄されたモノではないようです。」

 

「……13年前、だったか?」

 

「はい、『イプシロン』がこの惑星に進出し始めた時期よりも早いかと。」

 

 

秘書の彼が言うように、星間企業である『イプシロン=ゼクス』がこの惑星ザイオラに進出し始めたのは、約10年ほど前になる。

 

それより以前に彼ら企業が橋頭保を築いていた可能性が無いわけではないが……。もしそれが事実であればこの13年間何の動きも無かったのはおかしいだろう。つまり実際にこの『セファ』という人物がいて、『給油所』が存在するのも事実。

 

 

「企業によるペーパーカンパニー、ではないという事か。」

 

「はい、ですが“現在イプシロンの保護下にある”可能性は十分に考えられます。運送業者の方に問い合わせてみましたが、以前から何度か取引があるとのこと。どうやら我ら商会を良く思っていないらしく、正確なデータを抜けたわけではないのですが……。」

 

「武器弾薬があるな。」

 

「はい、数は少ないですが『一般的な血油採取業者』にしてはまだ納得できる量です。それに、記録は残っていませんでしたが“裏マーケット”にて『給油所』が何かしらの取引を行っていたことが解っています。」

 

 

秘書から手渡された新しい資料を覗き込む支部長。

 

そこには確かに、ミミズなどを狩猟し血油を入手する業者としておかしくないだけのやり取りが刻まれていた。しかしながら“商会に非協力的”であることから、カモフラージュされている可能性が大いにある。

 

それに、闇マーケット。商会だけでなく企業、その他多くの存在入り乱れている場所。支部長も幾つか商品を卸しているがゆえに、“ドレッド”の取り扱いがあることも理解している。このマーケットを使用し、企業からドレッドを始めとした装備人員を輸送しており、その痕跡を綺麗に消去した。

 

 

(……十二分にあり得るな。)

 

 

まぁ単にセファの利用している運送業者が、我が物顔で居座る『サンドライン商会』を嫌っているだけであり。闇マーケットの方はセファが何でもない悪徳業者に騙されそうになり、アカウント含めて消し飛ばしただけなのだが……。

 

支部長からすれば、そこに『イプシロン』という敵対企業の影が見えた。

 

 

「複数のドレッド部隊が居てもおかしくない、な。」

 

 

彼の脳内で組み上がる、一つの推論。

 

この『セファ』と登録されている存在はイプシロンの協力者。一般の血油採取業者が酷く不安定で稼げない仕事であることを考えると、星間企業であるイプシロンに保護を求めるのはそうおかしな話ではない。何せミミズなどの原住生物は非常に危険なのだ。何かのミス1つで財産全てを失うのはそう珍しい話ではない。

 

 

(そしてイプシロンが受け取った対価が……。前哨基地としての使用。)

 

 

書類上、この『給油所』は血油などの原住生物を討伐し財貨を得る場所となっている。

 

故に武器弾薬を求めてもおかしくない、という立場を利用し……。イプシロンの基地となっていてもおかしくはない。彼がいるこの支部のような辺境、奪い取ったとしても何の利益もない土地を何故狙っているのかは解らないが、相手は星間企業である。

 

その経済力を生かして町を丸ごと改造。商会内部でも価値の低い場所を奪うことで発覚を遅らせ、気が付けばこの惑星における完全な支配地域を確立する。

 

そう考えれば、おかしな話ではない。

 

 

「……そう考えると、この軍が派遣したという奴らは買収されたのか。」

 

「もしくは相手の圧倒的な兵力差に口を閉じる以外の選択肢が無かった、でしょうか。最悪こちらが“この給油所”を探っているのも露見したかもしれません。」

 

「むぅ。」

 

 

軍に金を流しその手駒とした支部長だったが、そもそも人間は金より命の方が大事だ。

 

より多額の金を握られもみ消された可能性もあるが、強力な砂賊団を“ほぼ同時刻に殲滅”できるだけの兵力差があれば、武力によって抑えることも可能。どちらにせよ圧倒的な“力”によって派遣された軍人が抑え込まれたのは確かだと、彼は考える。

 

 

(……おそらく相手の“規模”を確認しようにも『軍』はもう使えんな。)

 

 

相手の戦力が解らない以上、こちらの戦力を無暗に使うのは愚策。

 

故に索敵に軍を使ったのだが……、一度失敗した以上。同じやり方は通用しないだろう。人員を替えるように軍に命令したとしても、おそらく帰って来る報告書は同じになるだろう。それに最悪、『イプシロン』も軍に介入し敵に回る可能性すらあった。

 

何せこちらが金で買収できるのなら、あちらがしてこないとは限らないのだから。

 

 

(軍相手でも、勝つことは出来るだろう。確かに数は多いが、此方の手の者が入り込んでいる。イプシロンの介入があっても、負けることはない。だがその後にこの『給油所』に潜むイプシロン相手に勝てるかと言われると……。)

 

 

未知数。そうとしか言いようがない。

 

なんとかして情報を集めたいところだが、相手側に『こちらが軍を使って情報を得ようとした』ことは露見している可能性が高いのだ。これ以上悠長に時間を使い情報収集をするのは難しいかもしれない。

 

となると、取れる手段は限られてくる。

 

いつ裏切るか解らない軍を利用するのではなく、裏切る前に事を済ませる。

 

相手の戦力が解らない以上、手元にある全てを以て、速攻を掛ける。

 

流石の“企業”であろうとも、こちらが即座に全力攻勢に出てくるとは予想していないはず。

 

 

「事を起こされる前に叩き潰す、か。……おい!」

 

「はッ! 支援している砂賊、また関係のある傭兵全てに声をかけます。おおよそにはなりますが、車両は200弱。ドレッドは12機ほどになるでしょう。……支部長も出られるので?」

 

「無論だ。整備を進めさせておけ。」

 

「畏まりました、すぐに。」

 

 

支部長がそういうと、すぐに走り去っていく秘書。

 

まぁ彼の考えは全て外れており、『給油所』にはイプシロンの陰など一切存在しない。

 

危険なミミズ討伐も『アタシ』の“この時代でも異様”な程の技術力によって安定して熟せるようになっているし、『私』の方が過去に走り回ったおかげで僻地ながら営業には何の問題もない。企業の手助けなど借りずに自立できるだけの力を、彼女たちは持っていた。

 

つまり。

 

単なる一個人が異様なほどの武力を持っているだけ、という“ある意味最悪”な事実しかそこにはないのだが……。

 

どちらにしろ、全面戦争。その足音がゆっくりと近づいていた。

 

 

 






〇惑星ザイオラの三大勢力

現在ザイオラには三つの勢力が鎬を削っており、軍や政府はそれを傍観する形になっている。セファは特にどこにも関わっていない独自勢力だが……。色々と勘違いされているようだ。

・商会『サンドライン商会』
ザイオラ土着の商会、この惑星内でトップのシェア率を誇る商会。この惑星に人類が入植したころから活動を始めており、当初は現住生物から守る代わりに対価を払わせたり、シャバ代などを求める極道稼業のようなことをしていたが、途中から商会として形態を変更。『今日のパンから戦車まで』というフレーズを掲げながら、生産者と顧客を繋いでいる。値段は法外。

・企業『イプシロン=ゼクス』
ザイオラとはまた別の星系を起点に活動し、数多くの惑星で交易を行う星間企業。自社内でのドレッド開発なども行っており、宙間戦闘に特化したドレッドが得意分野になっている。広大な砂漠を持ち多種多様な現住生物が残るザイオラに価値を認め、サンドライン商会の独占を食い破り支配下に置こうと企んでいる様子。実際一部地域では商会との武力衝突が勃発している。

・団体『市民団体ベアフット』
ザイオラ土着の非営利団体。元は軍や政府の腐敗是正や、それによる商会の影響力の拡大に危機感を覚えそれを阻止するために結成された団体だったが、一時期から宗教的な側面が見え始め、構成員が核を抱えながら忍び込み自爆特攻するような事件が頻発している。依然として市民の最大幸福と搾取する商会・企業の排除を訴えており市民からの支持はある方だが、商会・企業からともに嫌悪されている。



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