二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて   作:サイリウム

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16:買い出し

 

「にゃー! 風気持ちいにゃー!」

 

「ですねぇ。」

 

(反動の受け流しもそうだが、最大火力を得るためには腕4本全部で打ち込めるように……。うし、ドロイドの射撃補正はこんなもんか。次は……。ビームって言っても分類できるのは色々あって、威力と実用化までの時間を考えればレーザーじゃなく荷電粒子砲なんだが、そもそもどっちも地上での使用を想定されてない。曲がるし威力下がるし、旨味が無くなる。あと砲身が焼き切れねぇようにするにはどうしたらいい? いや失伝したらしいアレを何とか出来れば行けるのか? 結局あの固定化実験を成功させるしか……。)

 

 

何年か前に買ったサングラスをかけながら、開けた窓から流れ込む風を楽しむ。

 

大型のトレーラーでの移動ですが、やはりドライブとはいいもので……、彼女のつぶやきをラジオ替わりに、日差しの強い砂漠を走り抜けます。ちなみに今日は左腕と左目の操作権が奪われてまして、片手片目の運転になっております。

 

今回私達の目的は、町に向かい物資購入と情報収集、そしてドロ猫の家から荷物を持って帰るというものです。

 

軍が私達の拠点に来てしまったことから『戦闘になる可能性が高い』と判断し、その対策に必要なものを集めに行く。そのついでとして早朝からこのトレーラーにレーダーやセンサーを乗せて店舗の周りをぐるっと覆うように巡り、投下しながら警戒網を拡大。そして空っぽになった車両と共に町へって感じですね。

 

 

「ドロ猫、すみませんがそこの水を飲ませてくれませんか? ストロータイプになっているので口元まで運んで頂ければ。」

 

「うにゃ? 自分で飲めないにゃ?」

 

「両手とも塞がってますからねぇ。ほんとは片手での運転もすべきではないのでしょうが。」

 

 

もう一人の私、彼女の方に少し声をかけてみても、ずっと何かをぶつぶつ言い始めたままで何の反応も返してくれません。

 

まぁ昨日からずっとこんな感じですし、集中している時はよくある事なので困りはしないのですが……、ほんと良くやりますよねぇ。ドロイドたちが十全に武器が扱えるよう追加パッチの作成と、現状できるビーム兵器の理論部分を詰めているようですが、内容はまるで解りません。

 

ま、私はそのサポートをするだけです。私の体に埋まっているコアやその周辺機器の力を使えば水分補給せずとも何とかなるらしいですが、喉が渇いたというノイズを『私』に感じさせるわけにはいきませんから。というわけで飲ませてくださーい。

 

 

「はいにゃ!」

 

「んー、ありがとうございます。……色々混ぜてますけど、ミミズの血がここまで飲めるのは不思議ですよねぇ。昔の私が見れば発狂しそうです。」

 

「にゃ? おいしいにゃよ?」

 

 

でしょうねぇ。

 

ミミズの血、『血油』と呼ばれるソレは燃料としての使用が一般的ですが、同時に手軽に手に入る飲料水でもあります。そのまま飲んでも美味しいですが、ちょっと加工すれば柑橘系のフルーツジュース風味に。本当に不思議な液体ですよねぇ。……まぁ放射能が凄いので遺伝子操作前の人間が飲めば即死でしょうが。

 

とまぁそんな何でもない会話を続けながら、車を運転。ようやく町の姿が見えてきました。

 

地方都市『バスク』。大きめの町ではありますが、辺境と呼ぶに相応しい場所。ちょっと大きくて常に開いている市場がある以外は何処にでもある様な普通の町。かなり老朽化していますが、ちゃんとした鋼鉄製の防壁に守られています。軍の駐屯地もありますし、原住生物が未だ蔓延るこの星における人類の安地、というところでしょうか。

 

そんなことを考えながら、車の速度を落とし守衛さんたちの横へ。

 

窓を開けながらいつもの物を用意します。

 

 

「カードを。」

 

「いつもお疲れ様です。今日も暑いですねぇ。」

 

 

手渡すのは、自身の身分を表すカードと、この車の運転免許に類するもの。

 

後は今日の晩酌時にかなり奮発できるだけの現金を一つかみ。まぁ賄賂ですね、はい。

 

一応身分を証明するだけで入れはするんですが、変な嫌がらせを受けたり、難癖付けて入れてもらえなかったりと色々あるのです。あとドロ猫が普通に市民カードを持っていなかったのでそれを見逃してもらうためのプレゼントにもなっています。……最悪彼女が戸籍に登録されてない可能性もあるので、後で役場に行って『再登録』する必要があるかもですね。腐ってますが行政サービスが崩壊しきってるわけではありませんから。

 

 

「……いけ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとにゃー!」

 

 

二人でお礼を言いながら、車を回し市場の方へ。……未だ左手が『私』に占拠されてますし、先に私個人で済ませられる仕事から始めていきましょうか。

 

さ、ドロ猫。一旦降りますよ?

 

 

「にゃ? にゃ!」

 

 

道方にトレーラーを止めながら、一時下車。反対側に回ってドロ猫を引っ張り出した後は、その後ろに回り荷台のドアを開けます。すると中にずらっと並ぶのが、私たちの元で働いてくれているドロイドたち。

 

どうやら何か会話していたようで。開けた瞬間、楽しそうな声が聞こえてきました。

 

 

『……ではここでSANチェックの処理をしていきます。邪神YOUとの遭遇なので1d20/1d100ですね。』

『直送ッ!?』

『クソシナリオメ!』

 

「TRPGでもしていたので? すみませんが仕事の時間ですので切り上げてくださいね。」

 

『『『らじゃらじゃ』』』

 

 

ドレッドで使用する弾薬と、ドロイドに装備させる新規武装。そしてドロ猫がこちらに滞在することで新しく必要になるだろう生活物資の補給を彼らに頼み、ついでに車の運転も任せます。

 

人ではない機械と言うことで嘗められたり襲われる可能性もあるでしょうが、今日連れて来たのは全員が武装した戦闘用のドロイドです。武器は常に体内に格納させているので見た目はただの機械ですが……、必要となれば外敵を確実に排除してくれるでしょう。

 

あ、ついでに周囲の会話を記録するよう指示もしているので、諜報員としての活躍も期待してますね。

 

 

『イッテキマス』

『値切るぞ値切るぞ』

『あ、SANチェック失敗した。ダイスは……73!? ちんだ!』

『遊ぶなボケ』

 

「お願いしますね~。さ、ドロ猫。貴女のお家に行きましょうか。……と言っても覚えてないのですね。」

 

「にゃ?」

 

「と、とりあえず適当に歩いて探してみましょうか。何か思い出すかもですし、なんとなく予想は付きます。」

 

 

そう言いながら左手で彼女の手をとり、一緒に町を歩きます。

 

おそらくですが、ドロ猫の居住地があるのは町北西部のスラム街あたりになるでしょう。治安があまりよろしくないため、格安で部屋を借りられたはずです。まぁ大部分が部屋など借りずに、不法占拠しているそうですが……。忘れっぽく契約など一人では結べないであろう彼女が唯一確保できそうな場所が“ソコ”です。

 

普段は理由がなければ近づかない危険地帯なのですが……、今日は仕方ないでしょう。ま、ごろつき程度なら素手でも制圧できますからね。9㎜よりもっと強力な、この時代の人間にも効く特別な銃も持ち込んでますし、いざというときは消し飛ばしてしまいましょう。

 

 

(……あの~、それで。『私』?)

 

(あ~、これ理論段階でおかしくなってんのか? それとも素材を間違えてんのか。どう試算してもエネルギー込めた段階で砲身が溶けるじゃねぇか。……クソがッ! 1からやり直しだッ!)

 

(おーい、聞こえてますー? ……ませんね、はい。)

 

 

そろそろいったん中断してくれないかと声をかけますが、自分の世界に入り込んじゃっている様で、全く反応が返って来ていません。なのに未だ私の左腕と左目の操作権は彼女のまま。

 

このままでは左側と右側の動きがちぐはぐなバケモノみたいになってしまいます。家では別にいいのですが、ここ町ですよ? 人目のない所でやってください、マジで。デバイスは流石に持っていけませんが、考えを纏めるくらいなら奥に籠ってでも出来るでしょう?

 

 

(いや、そもそも既存のデータが間違ってる可能性があんのか? ……いやそもそも地上での運用を考えてねぇのか。大気に触れれば分散する。ガキでも知ってる自然の摂理だ。だがもっとこう、単に投射するだけじゃなくて“切り裂く”ような……)

 

「あ、ダメですねコレ。申し訳ありませんが……、しッ!!!」

 

 

思考がどんどん巡り始めたのでしょう。腕と目どころか、全身の操作権を奪い始めようとする彼女。別に私達の仲なのでそれは問題ありませんし、自由にしてもらってもいいのですが……。今は困ります。

 

少々気合を入れ、体の操作権を奪取。

 

そしてそのまま『私』の精神を奥深くへと押し込みます。

 

ちょっと悪い気もしますが……。押し込まれたというのに、すぐに出てくる気配はなし。何故か聞こえないはずの独り言がまだ流れているような気もしますし……。奥底でまだ色々と考えを巡らせているのでしょう。相当集中しているみたいですね。

 

私達の為にその頭脳を回してくれているわけですから、感謝しかないんですけど……。

 

 

「街中で銃を抜く可能性もありますからね。全身が使えないと少々不味いのです。勘弁してもらうことにいたしましょう。」

 

「……にゃ?」

 

「っと、すいませんねドロ猫。さ、お家を探しに行きましょうか。」

 

「にゃ!」

 

 

 




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