二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて   作:サイリウム

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19:襲来

 

 

 

(んでさ。話変わるけど、昨日ドロ猫の家に荷物とか取りに行ったんだろ? どんなのだったんだ?)

 

「あぁ……。」

 

 

あれは家と言って良いのか……。いや荷物の回収は出来たんですけどね?

 

昨日の目的の一つとして、ドロ猫の引っ越しがありました。

 

本人がどう考えているのかは解りませんが、話しを聞く感じ彼女の中ではこの『給油所』が家扱いになっていたようで。拒むのも可哀想ですので、住み込みのアルバイト扱いとして雇う感じになったのです。そのため、物資を買いこむついでにドロ猫の私物を町から持って帰る必要があった、というわけですね。

 

直前まで本人が家の場所を忘れるという致命的な問題があったのですが……、何とか思い出させて到着。そこで私達が待っていたのは……、屋根裏でした。

 

 

(屋根裏?)

 

「不法占拠ですね、はい。」

 

 

早い話。他の人の家の屋根裏勝手に使ってたんですよね、ウチのドロ猫。

 

いやマジで焦りました。運が良かったのか、本来の家主がいない時に私物の輸送を済ませることが出来たのですが……。なんであの子、勝手に人の家に住んでたんでしょうね? いやまぁ野宿するよりは各段に良いでしょうが、バレたらどうするつもりだったんでしょう……。

 

 

「単なる物置として使ってたようですし、金子を置いてきましたから一定の義理は果たせたと思うのですが……。」

 

(そういうとこしっかりしてるよな、『アタシ』)

 

 

まぁそんなわけで家主が帰ってこないことを祈りながら2人で私物の搬送を行ったのですが……。

 

ドロ猫の荷物が必要最低限より少なかったので、秒で終わりました。それはまぁ良かったのですが、マジで野生の猫レベルのモノしかなくてまたびっくりさせられましたよね、はい。本当に彼女が色々と心配になることばかりでした。案の定というべきか、市民カードも持っていませんでしたし……。

 

 

「紛失したという体で再発行できたからいいものの、無茶苦茶賄賂請求されて要らぬ出費が……ッ!」

 

(そ、そうなのか。んで? ドロ猫の本名って何だったんだ?)

 

「本人の言う通り『ニャ』でしたよ。ずっと一人称だと思ってましたけど。……ほんとこの時代の人間の倫理ってどうなってるんです? 人の名前に動物の鳴き声を使うとか頭どうなってるんです? 私も“適応”しちゃってますけど、色々とライン超えすぎでしょうが。」

 

(ま、まぁまぁ。アタシらが知らねぇ他の言語かもしれねぇし……。)

 

 

ほんとにもう色々権利がポイポイされてて腹が立ちます。

 

しかもどれだけ法をひっくり返しても『昔あった人権とか倫理とか面倒なんで廃止しました!』なんてことは一切書かれてないのです。むしろ私が生きていた時代よりよほど高尚な法が書かれています。めっちゃ整ってるんです福祉とか。でも一切機能してないんです。……法とは???

 

まぁこの2000年の間に何度か人類滅びかけたりしてるみたいですし、そもそもの“統一政府”である地球からかなりの距離があります。同じ国家ではあるのでしょうが、実質的な独立国。独自の法や価値観で動いていても仕方のない、というモノなのでしょう。色々と情報を集める限り、この銀河にはそういった“地方国家”が乱立しているようで……

 

ほーんと、儘なりませんね。

 

 

「そういうのも含めて色々整っているだろう地球に帰りたいというのも……、っと警報。これは……、あぁあのお二人ですね。」

 

(もう来たのか?)

 

「えぇそのようで。っと、一応お客様みたいなものですし、ドロ猫も起こしておきましょうか。ドロ猫ー! 朝ですよー! おきなさーい!」

 

「……ゃぁ、まだねむぃぃ。」

 

 

はいはい、ニャちゃん。早く起きましょうねぇ。朝ご飯野菜練り込んだ甘いパンケーキにしてあげますからね。早くお顔洗って来なさい。

 

え、お肉? 昨日沢山食べたから少なくとも朝はヘルシーにします。我慢!

 

 

(……昔からそうだったけど、たまに“母ちゃん”みたいになるよな、『アタシ』って。色々とちぐはぐだし、前世マジで何してたんだ?)

 

「ん? 何か言いました『私』。」

 

(いーや、なんも!)

 

 

 

とまぁそんな会話を熟しながら十数分。

 

信号弾と共にやって来る、軍のドレッドたちを受け入れます。

 

 

 

「あ、おはようございますー。」

 

「おはようございますセファ殿! 本日はご迷惑をおかけします!」

 

「迷惑だなんて……、助けて頂く身なのですからお気になさらず。大したもてなしは出来ませんが、少し休んでいってくださいな。ほら、そちらの方も。」

 

 

此方にやって来た軍曹さんことレオネッタさんにそう言いながら、もう片方のドレッドに向かってそう問いかけます。

 

にしても、始めて会ったときに比べると大分柔らかくなってますね、レオネッタさん。最初はまるで鉄面皮かと思うほど表情が変わっていませんでしたが、今は少し素のようなものが出ています。まだ3回目ですが、昨日の食事会が良かったのでしょうか? さすがにそこまで崩れてはいませんが、初対面の鉄面皮に若干柔らかさが出ています。お仕事中はすっごく気合入れてるって感じの人なのでしょう。

 

そんなことを考えながら、軍のドレッド。『アヴァランス』を見上げます。

 

 

(さて、出てきますかね?)

 

(さすがに出てくるだろ。こっちはわざわざ水用意してんだぞ?)

 

 

彼女の言う通り、こちらは歓待の印としてわざわざ“水”を用意しています。

 

警報が鳴りあちらの接近に気が付いたときには、ドロイドに運ばせていたモノ。大き目の透明な水差しにコップが三つ。この星における最大限の歓待の意を示す方法です。

 

2000年代、しかも水資源の豊富な日本で過ごした自身にはあまり馴染みのない文化ですが……。この砂漠の惑星に於いて、純粋な水は命よりも貴重とされる資源です。

 

確かに星間商路が入植初期よりも発展したおかげか、多少手に入りやすくなっているそうですが、それでもこの星で“水”を確保するのはかなり難しいとされています。飲料水などはミミズの血油で代用できますが、機械の整備などで必須とされる何の混ぜ物のない透き通った水は本当に貴重なのです。

 

それをわざわざ“飲料水”として用意する。

 

 

(これ以上ない、という奴です。)

 

 

心より歓迎する証として、水を送るというのは入植初期から残る風習とのこと。

 

そしてこれを受け取り口にしないのは、万死に値するほど失礼とされるそうです。

 

『私の水が飲めないって言うのか!』って語彙もこの星独自の慣用句として残っているくらいですからね。綺麗な水で風呂に浸かれた日本人からすればちょっとよく解りませんが、この砂漠の惑星では重要な文化なのでしょう。

 

まぁ軽くデータを遡ると一時期これを悪用した毒殺が流行ったらしいですが……。今は下火です。私が飲んで見せる用のコップも持って来ていますし、『この場で敵対する気が無い』のであれば、降りて水を飲みに来ないのは下策も下策。

 

此方がそれだけ示していますし、言い方は悪いですが軍曹さんは既に“堕ちて”います。顔を見せなければどうなるか、あちらも解っていることでしょう。

 

 

「ほら、少尉殿!」

 

 

一瞬ドレッドから微妙な空気と言いますか、何か逡巡するような気配を感じましたが……。

 

軍曹さんが声をかけることで、ようやく少尉と呼ばれる彼が出てきます。

 

この星における中肉中背、何処にでもいそうな顔ながら、異様な遺伝子組み換えの痕跡は外見からは判別できない人間。一瞬だけ“研がれたナイフ”のイメージを抱きますが……。伸び放題な無精髭と、整えていない髪。軍服の襟もしなびており、かなり適当。全部しっかりしている軍曹さんとはえらい違いですね。

 

……『今は錆びついている』ように見せている、ってところでしょうね。

 

そんなことを考えていると、頭の後ろに片手を回しながら、へらへらとした口調で話しかけてくる彼。

 

 

「あー、すいません。あんま日差しが得意じゃないもんで……。今回パトロールさせて頂く、少尉の“コラート”っていうもんです。」

 

「よろしくお願いいたしますコラートさん。セファと申します。ささ、お二人ともどうぞ。」

 

 

飄々とした口調でそう言う少尉に言葉を返しながら、二人に水を勧めます。

 

軍曹さんの方はあまり気にしていないようでしたが、明らかに少尉さんは警戒継続中。飲むように見せかけて唇に付けるだけ。即座に違和感ないよう拭っているあたり、色々手慣れていることが見て取れます。

 

……砂賊がこの辺りで消えたことから、私が討伐したと疑っているのでしょうが、それにしては警戒の度合いが異様に高いですね。

 

 

(軍曹さんが知らない、少尉だけが知っている情報があるのでしょうね。)

 

(……気絶させて頭開いてみるか? どうせ口は割らねぇだろうし。こうメスでスゥッと。)

 

(どうやって情報引き出すんですソレ?)

 

 

彼が持っている情報として考えられそうなのが、“奪取したドレッドの真なる持ち主”。

 

つまり今回の敵です。

 

『軍』が砂賊と取引し装備を横流していたのであれば、彼の上司からの指令が。『商会』が砂賊と取引していたのであれば、彼個人への献金があったことでしょう。

 

軍曹さんはそういった軍規に反することは出来ないでしょうが、この少尉であれば可能でしょう。彼が軍人として掲げる信念が何かは解りませんが、一切油断できない相手なのは確かです。ほんの少しの失言が命取りになる様な相手。……あまりドレッドのある倉庫には近づけてはいけない相手ですね。こちらの手を読まれると不味い。

 

このような場合、此方の情報を一切渡さず、相手の情報だけを抜き取るのが最適。つまり完全に殻に入り込み、一切情報を見せないことが重要なのでしょうが……。

 

 

(『軍』か『商会』か、もしくは両方か。敵の全容が解らなくては打てる手もありません。……動きますよ『私』。行動前にイメージを共有しますので、何かあったらそちらから止めてください。)

 

(あいよ。)

 

 

身を切る覚悟も、必要でしょう。敵が解ればこちらら殴り込みに行くことも、敵の敵対者を煽ってこちらに戦力を避けなくすることも出来るのです。とにかく、情報が欲しい。

 

これから行う事象を先に精神の中で『私』と共有し、適宜修正しながら言葉として紡いでいきます。

 

ちょっとだけ、芝居を打たせて頂きますね?

 

 

「あ、そうそう! 実は最近ありがたいことに“新しいお客様”が増えたんですよ。折角の祝い事ですから、お世話になる方にもおすそ分けをしないと、と思いまして。」

 

「へぇ……」

 

「あ。あの鉄板焼きのお店ですか?」

 

 

えぇ、そうそう。あの名前が物騒なお店です。

 

……まぁ私しか気が付いてないみたいですが。

 

そんな何でもない雑談。少尉さんは邪推をしてくださると思いますが、何も嘘は言っていません。実際顧客が増えたのは事実ですし、めでたいことなのでお裾分けしたい気持ちになっているのも事実。ただ私から明確に『そのお客様が誰なのか』を口にしないだけです。

 

それっぽいことを違和感なくポイポイ放り込んでいきますので、存分に勘違いしてくださいな。

 

あ、ちなみに致命的なミスが起きないよう『この星の三大勢力』全てに当てはまる事象を入れ、私の“新しいお客様”が何なのか決めきれないようにしておきます。

 

早い話、ウチに新しいバック付いたけどお前らどう動くの? って嘘ついてるわけです。『軍』が相手ならこの瞬間に怯むでしょうし、『商会』が相手の場合は強い警戒と更に情報を引き抜こうと動いてくるでしょう。まぁ相手はかなりのやり手のようなので、そう簡単に教えてくれないでしょうが……。

 

少しはその“振る舞い”に変化があるはず。

 

 

(……なんか動揺してなくね? 変わってねぇぞ? ミスった?)

 

(いいえ? “変化しない”のが変化なのです。常人であれば、話題の一つ一つに少しずつ振る舞いが変化するものでしょう? それが起きていないということは、“隠している”ということ。)

 

 

彼もプロなのでしょう。無論多少の変化、話題に合わせた動きを変えているようですが……。少々パターン化され過ぎている。あらかじめ定めた動きを再生しているような“ほんの少しの違和感”が存在しているのです。

 

これすなわち、私が吐いた言葉は彼にとっての“前提条件”だったことを示しています。

 

つまり私のバックにこの星の三大勢力、そのどれかが付いていると推定してここにやって来た感じです。そして彼の後ろが『軍』の場合、自分たちへの大事なお財布であるこの三つと事を起こすのは避けるはず。それをしていないということは……。

 

 

 

(砂賊にドレッド流してたのは『商会』か。)

 

 

 

えぇその通り。やっと絞り込めましたね。

 

 

(これでかなりやり易くなる。)

 

(だな……。あ、なんか話題変わってるぞ『私』。)

 

 

彼女と情報の共有を行っていると、いつの間にか世間話も終わり、お仕事の話へ。

 

適当に相槌を打っていたのですが、今後行われるパトロールの説明にまで入っていたようで、軍曹さんが『この形で実施させて貰っても大丈夫ですか?』と聞いて来てくれています。

 

えぇえぇ勿論。是非お願いします。というか軍の権力的に説明せずとも勝手に実施して大丈夫なのでしょう? そこをわざわざやって頂けるのは大変ありがたいことで。やはり軍曹さんは凄い真面目さんですね。一市民としてはありがたい限りです。

 

 

「あ、オーナーさんもそう思う? いや僕も困っててねぇ、ぜーんぜんサボれないの。この前も怒られちゃったし。」

 

「軍務中にサボる方が悪いと、小官は思うのですが。」

 

「市民としましても真面目な方のほうが嬉しいですね。本当に。」

 

「……あれ、僕の味方いない感じ?」

 

 

そんな何でもないことを会話していた瞬間。

 

 

響き渡る、警報。

 

 

以前砂賊が来た時よりも大きな音。

 

これはつまり、あの時よりも規模は上。

 

爆音に驚き思わず飛び出して来たドロ猫に、こちらに視線を送って来る軍のお二人。

 

軍曹さんはともかく、少尉さんの顔色からしてそちらが“嵌めて来た”ことでないのは安心できるのですが……。

 

 

「にゃぁぁぁぁ!!! うるさいにゃぁ!!!!」

 

「……セファ殿、これは!?」

 

「どうやら厄介なお客様が来たようで。襲撃かもしれません。」

 

 

急いで対応の準備を始めるドロイドたちの中から一体が飛び出てき、こちらへ。

 

その子からタブレットを受け取り、確認を始めます。少し操作し覗き込んでみれば、映し出される砂上監視カメラの映像と、各種センサーによって算出された敵の陣容。

 

 

「車両300以上に、ドレッド13機……。」

 

「な、何ですかこの量!?」

 

 

何か考え込むように口にする少尉さんと、鉄面皮を崩しながら驚きの声をあげる軍曹さん。

 

まぁ確かに数は多いですが……。まだギリギリ個人で対応できる数ではあります。ですが規模的に、以前倒した砂賊の親玉。つまり『商会』が本腰を入れて攻めて来たのでしょう。これを経済力に換算すればかなりのもの、本気の大攻勢ってやつです。

 

普段の私達であれば、リスクを嫌い戦わないことを選んだのでしょうが……。

 

背後には守るべき家があり、この手には対抗するだけの力がある。そして何より、目の前に2人も使えそうな人間がいるのです。どうやら“そちら”としても想定外だったようですし……、利用しても、構いませんよね?

 

 

「う~ん、どうやら厄介な砂賊に狙われてしまったようで。仕方ありません、お帰り頂く……。あぁそうだ。お二人とも。一市民からの要請なのですが……。」

 

 

勿論、助けてくれますよね?

 

 






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