二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて 作:サイリウム
「これでェ! ラストぉぉぉ!!!」
ホバーを全力でぶん回し、大きく跳躍。
更にそこから空中で姿勢制御を行い、足裏に備え付けたホバー機構を、ブースターとして使用。
飛び上がってからの自由落下ではなく、急速落下。胸に納まるコアからエネルギーをくみ取り、手に持った武器の先端へと流し込むことで赤熱化させながら、相手のコックピット目掛けて飛び込んでいく。
後は動力炉を避けながら綺麗にくりぬき、一閃。
着地と同時に機体を回転させながらその威力を弱め、砂だらけの大地へ。バシッと決めポーズを決めれば、背後で爆炎と共に倒れ伏す敵ドレッド。う~ん! いい感じに出来たんじゃねぇの! どうだ『アタシ』! “映える”出来だったんじゃね!?
(いやまぁ映えはしますけど、戦場で何やってんですか貴女。)
「くゥゥゥ!!! 良いじゃねぇか! どうせこの辺りの敵は全滅させたわけだし! あぁもう最ッ高! 何も気にせず吹き飛ばせるサンドバック程、いいもんはねぇよなぁッ!!!!!」
(ハイになってません?)
「なってるッ!!! ……あ、そろそろ変わるぞ? バトンターッチ!」
(いや急。)
ハイテンションなまま精神の中間、互いの情報を即座にやり取りできる区画に下がって来る『私』。
私達の共通認識として、彼女は気分が乗っている時ほど強いというのは周知の事実なのですが……。ここまで連戦続きだったのも確かです。乗り過ぎると細かなミスが増えること、そこに疲労が追加されれば無視できないミスが起こるかもしれない。そう考えての“交替”だというのは理解できますが、ちょっと急すぎません? まぁいいですけど。
そんなことを考えながら、表層へ。
肉体の操作に移っていきます。
交代して即座に行うのは、武器の投棄と弾薬の補充。ま、機体チェックの言う奴ですね。先程の攻撃に使った長い棒、 『甘樫』は敵のコックピットを貫くために赤熱化させたため、使用限界に。銃に込めていた弾丸も尽きてしまったので、補給が必要な訳です。
「『甘樫』のスペアは残り一本。弾薬はこれがラスト。……ま、これだけやって損耗がこの程度なら。十分お釣りが来るのではないですか? 敵ドレッドも残り1ですし。」
(へへ! だろう!?)
そう言いながら私達が視線を向けるのは、スクラップの山と化した周囲。
砂しかないこの大地が鉄と油の破片によって綺麗に彩られた光景です。
まぁ私達、彼女メインで作り上げた光景。人からすれば砂漠に出来たゴミの山にしか見えないでしょうが……。追加で撃破した100近い車両と戦車の残骸と、12のドレッドの骸。再利用できないほどに破壊されたモノも多くありますが、そんなスクラップでも使い道が五万とあります。そろばんを弾きたくなるのも仕方ないというモノでしょう。
「ま、そんな悠長なことしている暇は無いんですけどね?」
なにせ、攻め込まれているのですから。
現在私たちは、おそらく『商会』によって攻撃を受けています。
事の発端は、おそらくこの星を牛耳る三大勢力。その一つである『商会』が支援していたであろう賊を討伐してしまったことから。こちらとしては降りかかる火の粉を払っただけですが……、規模が規模。個人の巨大ロボ、ドレッド持ちでは対処できない戦力を、独力で撃破してしまいました。
被害はほぼありませんでしたし、賊が持っていた車両や、ドレッドの残骸を入手することが出来た。こちらとしてはプラス寄りの出来事だったのですが……、こと『商会』。今回の敵軍勢を率いているであろう、『近くの町を牛耳る商会の支部長』からすれば、無視できない被害だったのでしょう。
(……ん? 結局『商会の支部長』が相手ってことでいいのか?)
「えぇ、詳しくは知りませんが、“少尉”が言うには彼のドレッドが来ているみたいですからね? それに、確かに大層な数。ドレッド13に車両300越えという数をお持ちになっていますが……、『商会』が本気で此方を潰す気なら、もっと面倒なのが出て来たことでしょう。」
相手は惑星単位で争いを続ける巨大勢力です。本腰を入れていればもっと多くの数、もしくは意味不明な巨大兵器などを持って来ていた可能性があります。空から全てを消し飛ばす大量の爆撃機、とかね? しかしそれが無いということは、『現場レベルでの判断』ということが伺えるわけです。
さらに私達があの砂賊を倒してから今回の襲撃まで、ほとんど時間が経っていません。巨大な組織であるほど、その“決済”まで時間がかかるというモノ。敵戦力、そしてその動きの速さから、支部長が独断で動いていると考えて間違いないでしょう。
「あの砂賊が支部長にとって重要な駒だったのか、もしくはあの数を倒せるがゆえに、他三大勢力。『企業』や『団体』の息がかかった存在がいると勘違いしたか。そのどちらかは解りませんが……。」
(ま! 喧嘩売られたのなら殴り返してやらねぇとな!)
「えぇその通り。」
地面に放り投げ、砂の大地をガラス化させていく『甘樫』を眺めながら、銃弾の補給を完了。コックピットの画面を操作し、機体の状況をチェックしていきます。
先程の『アタシ』の攻撃によって、周囲にいたドレッドの大半。そしてそれに随伴していた車両の殆どを撃破することが出来ました。まだ雑魚、車両は多く残っているのでしょうが……。一番危険な敵ドレッド、その数を残り1まで削ることが出来ました。敵の増援が無ければの話ですが、既に戦況は此方に傾いていると言っていいでしょう。
「すいません『私』。確認良いですか?」
(おう! ……ん~、あっち。軍の二人も生きてるっぽいな。近くにあったカメラは壊れてるみてぇだが、ドレッドの振動を2つ分センサーが拾ってる。軍の対車両用回避機動だったか? それなぞる様に動いてる奴が弾ばら撒いてるし、問題ないっぽいぞ。)
機体チェック、特に先ほどまで酷使し続けたホバー機構の確認を行いながら、『私』にお味方の確認をお願いします。
まだ完全に味方とは言い切れませんが、私達の財産である拠点。『給油所』を守るために参戦してくれたお二人です。勝手に死なれるのは寝覚めが悪いですし、味方であれば助けるのが人として正しい行いでしょう。何かしら裏がありそうな少尉はあまり信用できませんが、軍曹である彼女はこの時代ではかなり珍しい真面な人格の持ち主。失うのには惜しい、という奴です。
「残る1機。武装の多さから敵の親玉ドレッドが見当たりませんので、そちらに行ったのかと思っていましたが……。」
先程『私』が言った、教法をなぞる様な動きをするドレッド。確実に軍曹さんのモノでしょう。
軍規に厳しくマニュアル通りに生きてそうな彼女の事です。その動き通り、車両の相手をしているのが簡単に推測できます。直前に共有した作戦から、私たちがドレッドの対処。彼女達が車両の対処を行う予定でした。
残る1体が見当たらないので、もしかすると彼方に逃がしてしまったのかと少々危惧していたのですが……。どうやら問題ないようで何よりです。となると総大将である黒いドレッド。“支部長”が乗っているらしいドレッドが何処にいるか、という話になって来るのですが……。
(……あ~。『アタシ』、“コトダマ”ってやつみたいだぞ?)
「え?」
(教本通りじゃねぇ方。少尉が乗ってるドレッドが別行動し始めた。んで向かう先にドレッドらしい砂煙が1つ。……これセンサー避けて通ってんのか? 定点カメラにしか映ってねぇなコレ。)
「こ、こっちじゃなくて。あっちに行っちゃってた、ってこと?」
(おう。)
……にしても、良く“言霊”なんて言葉知ってますね、『私』。もうこの時代では死語どころか失われて久しい言葉ですよ?
え、私が偶に言ってたから覚えた? あと現実逃避するな?
……で、ですね。はい。
さ、先ほどまでの私達ですが。私達の拠点である『給油所』を中心に張り巡らせた警戒網を持って、敵の殲滅に動いていました。お相手もバカではありませんので、一塊になって攻め込んでくるということはありません。幾つかの集団に分かれて、多方面から攻め込むという形を取っていたわけです。
こちらはそれを振動を感知するセンサーや、監視カメラを持って索敵。私達のドレッドの目玉ともいえるホバー移動をもって高速で移動し、適宜撃滅という形で対処していたわけです。
そのおかげで敵ドレッドを良い感じに追い詰めることができ、残り1の段階まで追い詰めることは出来たのですが……。
(なにかしらのジャミングを掛けてるか、振動を極端にまで抑えてるか。もしくは上手く“避けてる”かは解んねぇが……。機体からして厄介だろうなって思ってたけど、パイロットもマジならガチでやんねぇと厳しいぞ。)
「そうなのですか?」
(あぁ。監視カメラの映像だけだから、はっきり見たわけじゃねぇが……。最新鋭機。十五世代のドレッドだ。わざわざ前線に出てるってことは、『単なる能無し』か『かなりの腕利き』のどっちかだろうよ。)
そう言いながら、彼女が精神の中で投げ渡してくる情報に目を通します。
相手の細かなスペック、改装などまでは解らないようですが……。
その外形から一番近しいのが、第十五世代機。砂上近接戦闘機『ハーザウェル』。
私達が扱うドレッド『鐵山』が第十三世代であり、軍のお二人が乗る『アヴァランス』が第十四世代。“世代が変わるごとに格が違う”という言葉が存在するのが、ドレッド。これを考えると、かなり面倒な相手と言えるでしょう。何せ2世代も違いがあるのですから。
『私』によって魔改造されているため、あまり基準には成りませんが……。私たち現代人の感覚に合わせれば、第十三世代である『鐵山』がプロペラで飛ぶ戦闘機で、第十五世代である『ハ―ザウェル』がジェットエンジンの戦闘機。
まだその詳細は解りませんが、“近接戦闘機”は乗り手の腕の良さが色濃く出ます。いくら機体が良くても中身が悪ければ雑魚ですが、腕利きとなるとその脅威度は跳ね上がるわけです。
何事も最悪を想定し対処をするべき。
彼女の言う通り、警戒に値するお相手のようですね。
(まぁ厄介な相手なのは確かだが、こっちには“秘密兵器”がある。そもそも『アタシたち』に限って乗り手の性能で負けるってのはねぇだろ。最新鋭機だろうが何だろうが、スクラップにしてやるってもんよ!!!)
「えぇ、その通りかと。」
(だが……、軍の奴らのドレッド。改装はしてあったが、常識的な範囲。“格が違う”相手をどうこう出来るレベルじゃねぇ。接敵すりゃ即座に鉄屑だろうな。)
「……なるほど。」
でしたら、やることは1つだけ。
操縦桿を強く握り、落していたホバーのエンジンを上げていきます。
(はッ! 甘ちゃんだよなぁ、『アタシ』! 軍曹はともかく、あの少尉。場合によってはアタシたちの事殺そうとしてたんだぜ? “害虫対処”の名目で対ドレッドの武装持って来てる時点で明らかだろうが!)
「ふふ。では何故『私』も乗り気なので?」
(……あはーッ! 違いねぇ!!!)
何か違えば、敵対してしていたかもしれません。
しかしながら今は味方。
ならば助けるのが、『人』というモノでしょう。
確かに、この時代の一般的な価値観からすれば、例え味方であろうが“身内”ではないあの軍属の二人を助ける意味は欠片もありません。せいぜい二人とも敵にぶつかり、少しでも損耗を強いてくれれば万々歳。そんな風に考えるのが普通です。
けれどまぁ私達は。
“普通”、ではないようで。
(敵現在地測定! 接敵まで約2分! それまで砲撃で削って、後は接近戦で潰す! 外すなよ『アタシ』ッ!)
「誰に言っているので? ……では『鐵山』。再度、参りましょうか。」