二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて 作:サイリウム
(※少尉視点)
「……アレが支部長さん、ねぇ? ん~、こんな場所で会いたくは無かったなぁ。」
もう少しで射程圏内という所で、つい言葉を零してしまう。
これから戦う相手は格上、それも“手も足も出ない”ような相手だ。それに食らいつくならこんな軽口などひっこめて、戦闘に集中すべきなのだろうが……。どうしても漏れ出てしまう。これでも軍ではある程度出来る方ではあるし、『少尉』の階級を拝命する程度には知識もある。
だがそれが、たった一人で“元エース”を相手取る理由には成らなかった。
(現役からは引退してるらしいけど……。“武力”だけでその地位を勝ち取った人間。弱いわけないよね。)
あの町。『バスク』に住む者なら誰もが知っているあの支部長の顔。
確か名前は、『アンドロフ』だったろうか。普通に生きていれば『商会』の支部長なんだな、という位の情報しか知らずに一生を終えるだろうが……。自身のような軍属。それも“本部所属”となって来ると、嫌でもそれ以外の情報を叩き込む必要が出てくる。
ぱっと思い出すだけでも、結構濃い人生。確かこの惑星とは違う星の生まれで、傭兵あがり。仕事でこの星にやってきた際、当時の『商会』のトップに気に入られ、彼らの私兵集団の一員へ。そこから淡々と成果を積み上げ、当時から起きていた『企業』相手の小競り合いや、『団体』が引き起こすテロの対処。後は今は亡き土着の集団との戦闘を熟していく。
ま、当時の『商会』エースとして君臨したってわけだ。
(んで年を理由に引退して、今は辺境の支部長に就任。向上心はあるみたいで、まだまだ成り上がるつもりらしいけど……。ま。悠々自適の引退生活を送れる程度には、成果上げてたんだよね。)
あんまり“経営者”としての才能はないみたいで、代替わりした新しい『商会』のトップには少々煙たがられるらしいが……。それでも未だ支部長として君臨し続けているだけの功績がある。辺境のあまり大きくない都市ではあるが、町一つを好き勝手に弄れる権力者。
それが彼。『商会』支部長のアンドロフという人間だ。
んで、ここで問題なのが1つ。
“元エース”という評判を持っていた人間が、“引退できる年まで生き残ってる”ってことは、何を意味するか。
滅多にお目にかからない“第十五世代”という最新鋭機をひっさけでこっちに向かってきているというのは、何を意味するのか。
うんそうだね、能力と経験を併せ持つバケモノが金棒300本ぐらい担いでやって来た感じだね。うん。
「い、生き残れるかなぁ、コレ。」
そんなことを考えながら、コックピットの画面が映し出す射程圏内の単語を“あえて”無視する。
攻撃できることを示すアラームが鳴り響き、そこから数秒後に“ロックオンされた”ことを示す警告音が鳴るが……、ソレも無視する。無論“回避機動”なんて取らずに、ただまっすぐの前進。敵である支部長が操る黒いドレッドに向かって一直線だ。
(……撃ってこない、ね。ッし! 第一段階はOK!)
無論、これが単なる賊討伐であれば即座に引き金を引いている所だ。
こちらの射程圏内に入っているのに攻撃しない、敵の射程に入って回避しないなど、自殺行為に他ならない。もし後ろに軍曹ちゃんが付いて来ていれば、悲鳴を上げながらこちらに通信を送ってきたことだろう。見敵必殺が基本なこの星では明らかな異常行動だ。
けれど今回の目的は、『敵の撃滅』という不可能なモノではなく、彼女が来るまでの『時間稼ぎ』。
(支部長から見れば、僕たち“軍”の存在は投資先であり、“身内”判定になる。)
それが、あちらにロックオンされようにも撃たれていない理由だ。
……まぁロックオンされている時点でかなり怪しまれているし、回避機動を取っていれば確実に撃たれている。そんな状況なので正直何処まで上手く行くのか欠片も解らないが、目的である『時間稼ぎ』を考えれば、コレが最適な筈。
なにせ相手が滅茶苦茶強力なのだ。
もし戦闘になれば限界まで足掻くつもりだが、何秒持つか解らないレベルの強敵。ならば瞬殺されるよりも、一旦会話を挟んだ方が時間を稼げる。無いとは思うが、もしかすると信用されて懐に入り込めるって可能性まであるのだ。
(ま、いくら“経営者”として才がないって話でも、ここでコッチを信用するとは思わないけどね? いい感じですり寄って、拒絶されるまで……。30秒稼げれば御の字かな?)
ただこのすり寄り、会話の瞬間をあの店長。セファを名乗る彼女に見られた場合、直前まで怪しまれていることを考えると、即座に敵として排除されてしまう可能性がある。
支部長側に寝返ったとしても、どっちみち駐屯地に帰れば『支部長の機嫌を伺う基地司令部』の奴らに消される可能性が大なのだ。それを考えると、唯一支部長に勝ち筋があるセファ、彼女に敵を倒してもらいたいところなのだけれど……。怪しまれているせいで纏めてやられてしまうかもしれない。
完全な綱渡り戦法なので、正直選びたくないのだが……。
(生存率を考えれば、これしかないよねぇ。)
頭の中でそう呟き、大きく息を吐き出す。
そして“あらかじめ定めてあった”アラームが鳴り響いた瞬間、開くのは広域回線。
ドレッド同士の通話可能距離に入った直後の、通信だ。
「おぉ! これはこれは支部長どの! こんなところで奇遇ですなぁ! あぁ失礼、私あちらの駐屯地で少尉を拝命しております、コラットと申します! いやはや、かの『砂狼強襲隊』のエース殿にお会いできるとは!」
『……知らん名だな。』
帰って来た言葉は、何かしらの含みがあるもの。
それもそのはずだ、なにせこの名を“知らない”ことはありえないのだから。
先程名乗った名前は、本名。確かに一瞬偽名を使うことを考えたが、自分と少尉は軍属。ドレッドの持ち出しに関しては記録が残ってしまっている。つまり相手が“事前に軍の動きを確認していた場合”、偽名を名乗れば厄介なことになる。
『なぜここにいないはずの人間がいるのだ?』って話になるわけ。
んで何故彼がこっちの名前を知っているかと言うと……。駐屯地の上にあげた『セファの調査資料』の作成者として、この名前を記入しているからだ。
(色々と適当なあの基地の上層部はスルーしただろうけど……。それを横流しされた彼、支部長は絶対に『なんだこの適当で杜撰な報告書は!?』と思ったはず。色々隠蔽するために馬鹿の振りしてただけなんだけど……。良い具合に転がるかもねぇ?)
そんなことを考えながら、全力で口を回していく。
意識するのは、普段の喋り方とは違うモノ。軍属らしさを出しながらも、媚び諂いの意識を全面に出すもの。駐屯地の上層部と同じ、幾らでも替えが効き使い潰せるがゆえに、『今は使ってやるか』と思えるような小物のイメージ。
通信を介しての会話。両者ともに距離を詰めながらのやり取りだったが……。
『それで、少尉如きが何の用だ? 見ての通りこちらは作戦行動中だ。『軍』が善良な市民の経済活動を邪魔するのか?』
「いえいえ! そんなつもりは全く! むしろお手伝いさせて頂きたいぐらいで……! ほら、このままだと少々“不幸な行き違い”がありそうなものでしょう? 小官としても、市民の皆様に寄り添うのが軍務ですから!」
『成程、な。ならば……。』
互いのドレッドが十分に視認できる距離。
四本の腕を持つ、黒鬼を思わせる機体。
そんな相手の全貌が露わになった瞬間、感じる強い悪寒。
(ッ!!!)
即座に操縦桿を振り抜き、緊急回避。
機体の装甲を這うように、実弾が通り抜けていく。
敵の、砲撃だ。
『……どうやら勘は優れているようだな。少尉。』
「へ、へへ。な、何かお気に触る様なこと、しましたかねぇ……?」
『あぁ、存在が気に喰わん。』
半ば反射で基盤を操作し、外すのは機体のリミッター。
相手の信用を得るために近寄る以外の選択肢が無かったのは確かだが、あまりにも近寄り過ぎた。さっきは何とか回避することが出来たが、次も同じことが出来るとは思わない。ならば全速力で回避機動、ソレも“相手の攻撃を予測”して行わなければならない。
教法通りに動けば真っ先に死ぬ。降りかかる砲撃を逆算して、生き残る道を算出。
(ほんとッ! こういうのは柄じゃないんだけどねッ!!!)
『今のを避けれる人間が、あの駐屯地にいるとは思えん。ならば軍本部、中央からの監査官あたりか。戦わず頭を垂れ媚び諂う愚物は反吐が出るが、それを真似て腹で企んでる者はもっと好かん。……準備運動がてら、遊んでやろう。』
「マジでご勘弁ッ!!!」
敵ドレッドの姿形は、明らかに近接型だ。腕が4本あり、その背に腕の分だけ大剣を抱えていることからも間違いない。
けれど今はそんな大剣の代わりに、多種多様な銃器が握られている。そのすべてが統一されていれば回避に余裕が出来るのだが、よくある長銃にバズーカ。ショットガンにレールガン。ありがたいことに全て“弾速”が違う武器だ。
軍本部が今調達を進めているらしい最新鋭機。第十五世代機で格段にいいコンピューターが乗っている機体か、もしくは味方に演算特化型の支援ドレッドがいればまだ何とかなったのだろうが……。
今の機体は第十四世代の『アヴァランス』。悪い機体ではないが、相手との差が大きすぎる。
(え、これ相手に人力で何とかしろって? 無理……、ッ!!!)
全身を握りつぶされるような衝撃。
飛びそうになる意識を何とか気合で止めながら、画面を覗けば左腕の損傷。こちらの回避が甘く、敵バズーカの直撃を受けてしまったようだ。幸い、足回りや動力炉へのダメージは最小限で収まったが……。
(回避ッ!!!)
止まりかけた足を何とか動かし、機体を飛ばす。
そして直後に降りかかる、弾丸の雨。先程まで機体があった場所に降りかかるソレが、爆炎となって背を推し込んでくる。
ほんのコンマ数秒でも遅れていれば、完全にスクラップだったろう。
「あぁもうッ! 格上の相手はこれだからッ!!!」
『射撃は得意ではないのだが、な。まぁいい。癖は見えた。すぐに楽にしてやろ……』
彼がそう紡ぎ始めた瞬間、鳴り響く警戒音。
相手が持つすべての銃器にロックオンされたことを示す画面。
確実に、次は無い。
少しでも足掻くため、操縦桿を押し込もうとするが……。
『ッ!』
本来聞こえるはずのない、金属音。
その発生源は、敵ドレッドの“銃器”から。
そして響き渡る、広域通信。
「別に、助ける義理はありませんが……。今なら『救援』、お安くしておきますよ?」