二重人格パイロット、銀河辺境砂漠型惑星にて   作:サイリウム

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3:泥棒

 

 

「精錬、いやそもそも何かと混ぜるのか? アタシたちの奴を調べようにも、多分引き抜いた瞬間に即死するし。いや今から大型の常温核融合炉でも買って、コアに繋いで代わりになる機構を。いやでも金の問題が……。」

 

(内側でやってくれません?)

 

 

考えを纏めるためなのか、思考をそのまま口に出す彼女。

 

いつもならば私達の体の中。精神の内側で喋っているのですが、今日は集中しすぎたのか口の主導権を奪ってしまっている。私達の身体ですし、本人は認めてくれませんが、主人格は彼女。故に口を使うのは何も問題ないのですが……。

 

今は仕事中というか、もう少しでお客さんが来るのです。今は周囲にドロイドしかいないので問題はありませんが、ほら車と砂煙が見えるでしょう? 明らかにこっち来てますし、『私』がそのままだと色々問題に成りそうです。

 

だから内側でやってもらえます?

 

 

(んぁ? ……あぁ、口使ってたか。すまねぇ。言う通り奥で考えてくるわ。接客よろしくなー。)

 

「えぇ、お任せを。」

 

 

視界の端に映る幾つかの車両、唯一の町へと続く道路の上を走りこちらに寄って来る存在を眺めながら、『私』にそう答えます。

 

おそらく私達でしか理解しにくい感覚だと思うのですが、精神というものには奥行きが存在します。意識がそのまま肉体に反映される表層と、互いの思考が曝け出されている中層、そして個々人のプライバシーが保護されている深層。

 

基本的にどちらかが表層で体を動かし、もう片方が中層でサポートを行ったりいつでも交代できるように待機したりするのですが……。今のように何かに集中し始めると自分がどこにいるかが解らなくなってしまう時がある、というわけです。

 

 

「それで今は“彼女”が奥に籠った、というわけですね。」

 

 

私達の間に、体の操作権に関しての優劣は存在しません。

 

故、強い意思を持って動けばどちらかが表に出ていたとしても急に成り代わったり、塞ぎ込み引きこもった方を引きずり出すことも出来るのですが……。彼女の言葉を借りるのであれば、『同じ体で生きる姉妹』のようなもの。その辺りは互いに寄り添って決めている感じです。

 

それに、生れ落ちてからもう15年。やろうと思えば左側が私、右側が『私』という変則的な動作でも問題なく出来るのです。流石に人前でそれをすると少々気味の悪いことになるのでしませんが……。ま、上手くやっている、というわけです。

 

 

「っと、お客様ですね。あの車は……、確か西区の。いらっしゃいませー。」

 

『『『イラッシャイマセー!!』』』

 

 

前世の名残りでそう声を出し、ドロイドたちが続きます。

 

給油口まで誘導するように彼らに指示を出しながら、誘導されていく車を確認。まぁ車と言っても、血油を輸送するためのタンクローリーのようなもの。さらに装甲まで張られた頑丈仕様です。なにせこの星では現代日本の乗用車など使い物になりませんからね、積載量が少ない上に脆くてすぐに廃車になってしまうでしょう。最低でも軍の装甲車が欲しいところ。

 

そんなことを考えながら、ゆっくりと停車していく車に接近。ドロイドにちょっとした台を設置してもらい、運転席と目線を合わせてのコミュニケーションに移行します。

 

 

「おう嬢ちゃん! 今日も満タンで!」

 

「えぇ、おはようございます。すぐにご用意致しますね。今日はお一人ですか?」

 

 

人好きするような笑みを意識しながら、そう返します。

 

今日やって来たのは、町の西区にお住まいの男性。

 

私達の『給油所』はその立地から、常にミミズのような現住生物の危険が伴います。防壁のある町とは違い、ここにやって来るだけでも命の危険があるわけです。更にバックに何もない零細店舗ですから多角的な展開は不可能。少々難しい“お商売”になるわけです。

 

 

(だからこそ、顧客を逃さないようにしなければ。)

 

 

ここに来てくれるお客様はとても貴重。少しでもリピートして頂けるよう笑顔は欠かせませんし、継続のご利用への感謝の気持ちは必須。全力で媚びますし、サービスも満点で送り返さなければなりません。

 

ですがまぁ、人付き合いの苦手な『私』にとっては耐えられるものではないようで……。基本的に私が担当です。といっても、私もそこまで得意な訳ではありません。試行錯誤で何とかやっている感じですね。

 

この仕事は自分で血油を取って自分で売る、利益を総取りできるのが良い所ですが……。そうすべてが上手く行くわけではないのがもどかしいところ。

 

 

「あぁ一人だ。やっぱな? 護衛を雇うにはちょっと懐がな? それに雇ったって死ぬときは死ぬんだ。裏切られることを考えたら一人で来た方が得だろ? それに、嬢ちゃんに会えるしな!」

 

「ふふ、お上手ですね。ではお手数ですが支払いをお願いできますか?」

 

 

そう問いかけてみれば、すぐに幾つかの棒状の金属と、私手製のポイントカードを渡してくれる彼。

 

本音を言えばリスクを軽視する人間に魅力など感じず、むさくるしい男性に笑いかける趣味など無いのですが……。あたかも『流石ですね!』という顔を作り応対していく。こんな相手でも大事な顧客なのだ、使える者は使った方がお得でしょう?

 

 

(っと、両替両替。)

 

 

西暦4000年代になっても未だ貨幣は消えないようで、この星にも独自の経済が構築されています。

 

前世の時代では存在しなかった特異な金属を纏め、棒状の硬貨としたもの。その形状だけ見ればいつの時代だと突っ込みたいところではありますが、慣れれば問題はありません。嵩張るので紙幣が恋しいのは確かですけどね?

 

そんなことを考えながら懐に収めてあった他の棒を取り出し、ポイントカードに判を押した後、彼に返します。

 

 

「5万ザラお預かりしましたので、3000ザラのお返しです。キリが悪かったのでおまけさせて頂きましたよ? それとポイント溜まりましたので、次回は割引です。必ずポイントカードを忘れずにお持ちくださいねー。」

 

「やっとか! ひゃー、これがちょっとずつ増えてくのが楽しみだったんだよ。ありがとうな!」

 

「いえいえ。……あぁそうだ。必要でしたら途中までドレッドでお送りいたしますが、いかがいたしましょう。その分お代を頂くことにはなりますが……。」

 

「うっ。いやいや、それには及ばねぇぜ! あ、あと肉はあるかい? あったらそのお釣りで買えるだけ欲しいんだが。」

 

 

勿論です、と返しながらドロイドに指示し、ミミズ肉を運ばせます。

 

まぁ何度も繰り返していれば理解できますが、彼がここまで油を買いに来るのは私に会うため、正確に言うなればこの顔を見に来るため、という奴でしょう。これでも見てくれはかなり良い形に調整されていますからね。母のおかげです。

 

この方の様に一定数『私目当て』なお客様がいるので、その需要に合致した対応をしていく。無論その他のお客様もいますが、刺さっている方には面白いほどに“ウケている”のが見て取れます。

 

まぁ毛むくじゃらの男性が頬を赤らめているのを見ても面白くないのですが。

 

 

(そんなに珍しいもんか? アタシらの顔。)

 

 

珍しいというか、見れる顔の持ち主が笑いかけて話してくれるのがここぐらいなんでしょうね。

 

遺伝子操作によって人類は大きな力を手に入れましたが、同時に美しさの平均も跳ね上がりました。産まれた後に顔に刃を入れて整えるよりも、生まれる前から整えた方が良いのは自明の話。けれど力と美を両立させるには少々金がかかるらしく、この辺境の惑星ではあまり顔にまで投資できている人間は多くありません。

 

なにせミミズなどの現住生物がたくさんいて危険ですし、放射線塗れです。

 

現代ではあまり考えられない話ですが、こういった“人体へのオプション”は増やせば増やすほどにお金がかかるもの。生存に合わせた機能に投資すれば、美醜に掛けるお金が無くなってしまう。そうなると完全なランダムになってしまうので……。

 

 

(私達の母が遺伝子への造詣が深かったことに感謝すべきですね。)

 

(まぁ内臓ないけどな!)

 

(い、言わないであげてください。かなり気にしてたみたいですし……。というか戻って来たんですね。)

 

 

もう一人の『私』に言ったように、母はかなり細かい所まで調整してくれたようで、この体はかなりの性能を誇っています。

 

成長速度も早いですし、老化も遅い。出力は高く、見た目もかなり整っている。事故のせいで心臓その他色々抜け落ちたのが問題ではありますが……。今もなお生き長らえているのはやはり母のおかげ。『私』もこう言っていますが、互いに感謝の気持ちは忘れていません。

 

……っとと、接客中でしたね。

 

 

「はい、こちらになります。今日狩猟したばかりの新鮮なものです。おすそ分けの意味も込めて、多めにしておきましたので……。次回はぜひ、護衛として同行させてくださいね?」

 

「か、考えておくよ。じゃあ!」

 

「えぇ。ありがとうございましたー。」

 

『『『アリガトウゴザイマシター!』』』

 

 

私に続きドロイドたちが声を上げると、半ば逃げるように車を発進させる彼。

 

視界の端に見えた黒い影、タンクローリーの荷台から飛び出した“何か”をあえて見逃しながら、ドロイドたちと一緒にお客様を見送ります。……どう思います、『私』。次回は護衛として雇ってくれるでしょうか? そうなれば容赦なく搾り取ってやるのですが。

 

 

(相変わらずよくやるよなぁ、『アタシ』。あと多分無理なんじゃね? 護衛って言ったとき青い顔してたし。そんな余裕ないと思うぞ。)

 

「でしょうねぇ……。あと接客ですが、慣れれば楽なものですよ。こんな風に。」

 

 

そう言いながら即座に懐に隠してあった拳銃を取り出し、その引き金を引きます。

 

すると即座に響くのが、ふぎゃッ! という悲鳴に近い声。

 

声のする方に目を向けてみれば、案の定というべきか知り合いの姿が。

 

まぁ知り合いというよりもただの盗人なのですが……。

 

 

「接客も射撃も繰り返せば何とかなるものです。まぁ明らかに無理なものもあるので無理強いはしませんが。」

 

 

視界の端で眼を回している彼女を見ながら、ゆっくりと愛銃を懐に納めます。

 

ちなみに殺していないどころか、真面なダメージにすらなっていません。

 

実弾の9㎜。昔なら着弾部位次第で人を殺すことも出来た凶弾ですが、今ではちょっと威力の高いおもちゃ。前世で言う所のゴム弾レベルでしかありません。しっかり脳天を打ち抜いたとしても、外傷はなし。軽い脳震盪のみで、数分休めばすぐに回復する程度のモノです。

 

 

(感覚狂いますよねぇ。)

 

(そうか? 普通だろ。むしろソレだけで済ませて大丈夫か?)

 

 

私もこの星で15年、常識が最適化されてしまったので何も言い返すことが出来ませんし、むしろ何も考えずに引き金を引けるようになってしまいました。

 

ただやはり前世の地球、現代日本で生きた人間肩すれば、人に向かって引き金を引いても何も思わなくなってしまったのは手遅れ感が凄いです。彼女の言う通り、この星の治安を考えれば正しいどころか優し過ぎるレベルなんですけどね……。

 

 

「にしても、また貴女ですか。」

 

『ドロボウ発見!』

『フン縛レ!』

『たいほー!』

 

 

銃声に反応し、すぐに集まり始めるドロイドたち。

 

即座に盗人の彼女を確保し合金を編み込んだ縄で縛り上げ、顔を隠していた布を取り上げます。すると出てくるのが、慣れ親しんだ猫の耳。……遺伝子が操作できるようになれば人の手でこういうのが生まれるのは理解していましたが、いつ見ても撫でまわしたい毛並みですね。

 

 

「久しぶりですね、ドロ猫。元気でしたか?」

 

「ぅぅん~、にゃッ! ここどこ!? 捕まってる!? というかにゃんでバレたにゃ!?」

 

「そりゃ真っ黒くろ助じゃバレるでしょう。真昼間ですし。」

 

(んー? あぁこりゃアレだな。ドロイドとかから視認できなくなる奴だ。)

 

 

ドロイドから手渡された布。ソレを受け取りながら視線を向けると、内側から『私』が解説を入れてくれます。

 

どうやらドロイドを始めとした機械類から発見されなくなる特徴が、この黒い布にはあるそうです。このドロ猫はどこかからその布を調達し、それで服を作成。あの車に忍び込んでここまでやって来たというわけですね。

 

布についての詳しい説明を聞いても全く理解できませんでしたが……、ともかく光学センサー系を無効化できるとのこと。

 

確かにウチは私たちしか人がおらず、監視カメラやドロイドがメイン警備です。故に一定の有効性はあるのでしょうが……。普通に熱源や動作に対応するセンサーも彼らには付けています。普通に見つかるでしょうし、そも私がいる時に出てきたら意味がないでしょう。

 

 

「貴女いつも金欠でしょう? どこから持ってきたので?」

 

「軍のおっちゃんにお酒飲まして抱き着いたら、なんか教えてくれたにゃ! そっからもらってきたにゃよ?」

 

「軍のおじさん……。」

 

 

誰かは知りませんが、もうちょっとしっかりしてくださいよ……。

 

確かにドロ猫は顔が良い方ですし、胸もあって猫耳&猫尻尾。夢の獣人ちゃんです。色々と治安が悪いこの星ではかなりの需要があるでしょうけど、軍の物資をこんなコソ泥に持ってかれたらダメでしょう。

 

 

「にゃーッ! というか! 放すにゃ! にゃーはまだ悪いことしてないにゃ!」

 

「まだ?」

 

「……あッ!」

 

 

はいはい、毎度毎度ご苦労なことですねぇ。

 

先程も言ったように、彼女はドロ猫。

 

本名は知りませんがよくウチに盗みに来る泥棒です。

 

ただおつむがよろしくないのか、いつも何も盗めず帰って行く子になります。親にそうされたのか、それとも後から付けたのか解りませんが、毛並みの良い猫の耳と尻尾が特徴的な子ですね。分類上人類ですが、まるで異世界の獣人の様。……まぁこの子耳4つありますけど。

 

 

「それで、今日は何を盗もうとしたんですか?」

 

「“ドレッド”にゃ! にゃーもそろそろおっきい事に挑戦したくなったにゃ! だから貰いに来たにゃよ! それに、にゃーが乗ってミミズ倒せば大金持ちになれるにゃ!」

 

「なるほど。では試乗してみますか? 私以外が乗れば心臓を貫かれて爆散するように設定してますが。……あぁ乗りたい! 乗りたいんですね! それは良い考えかと! ではドロイドたち、運んであげてください!」

 

「ば、爆散っ!? し、死んじゃうッ! 死んじゃうにゃぁぁぁ!!!」

 

 

そう叫び、運ばれていく彼女。そんな滑稽な様子につい頬を緩めてしまいます。

 

確かに彼女は盗人ですが、毎回方法がお粗末で即座に発覚します。そもそもこれまでの被害額は0。近くにいるだけで周囲をコメディな雰囲気にしてくれますので、ストレス解消に繋がる彼女のことは気に入っています。あと猫耳しゅき。

 

ま、ドロイドたちにもコックピットではなく、普段通り紐で吊るして半日ほど放置するように指示してますし、反省したら餌付けでもしましょうか。

 

 

(……『アタシ』、アイツのこと好きなのか? その、LOVEな意味で。)

 

「いーえ? 良くてペットでしょう。愛玩動物としての“好き”だったら、その通りではありますが。」

 

 

ちなみにドロ猫に使った脅し文句ですが、実際に私以外が乗り込めば心臓を貫かれて死にます。

 

これは何かの防衛機構とかそう言うものでなく、あのドレッド自体が私達の『グリオナイト・コア』のエネルギーで動くよう改造されているからです。簡単に言えば胸にコンセントを突き刺して動かすロボってわけですね。なので私たち以外が乗ろうとしたら死にます。

 

普通のドレッドは機体の動力炉からエネルギーを得るので、敵が奪って安心して乗り込んだ所を不意打ちでぐさーっと出来るわけです。奪還後の掃除が大変なことを除けば、完璧な防犯構造ですね。

 

 

「さて……、『私』。書類仕事は先ほど粗方片づけたので“空き”ますが、どうします?」

 

(あー、じゃあ『鐵山』の整備させてくれ。確か右足がアレだったろ? 準備させてたし、見ておきたい。)

 

「了解しました。一旦奥で休憩してきますので、来客等あればお呼びくださいね。」

 

 




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