Isolated Days―搾取された先にある誠の生き方―   作:完結の陽炎

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第6話:共鳴する亡命

放課後の景色に、誠の影はない。

学校という枠組みを超えた場所。

自分を見つめ直して、再定義するため。

そんな孤独で静かな戦いに身を投じている。

 

一方の清浦刹那。

パリへ行ってしまった世界という『主星』を失った。

さらに誠という『衛星』からの接続も断たれた。

彼女にとって、今の日常は、色彩を欠いた砂嵐のような空虚である。

 

(私は、何をすべきなの?)

 

彼女は誠の背中を追った。

もっと切実で、もっと根源的な、生きるヒントへの渇望。

そこで彼女は見たのだ。

誠が公共図書館の扉を押し開ける姿を。

 

(……伊藤はあそこで、何かを学んでいる)

 

学園の図書室を選ばなかった。

その時点で、答えはおのずと提示されている。

彼は生徒としての伊藤誠を脱ぎ捨てた。

誰の手も届かない場所で、自分を支えるための土台を探す。

それを邪魔するほど、刹那は無作法ではない。

彼の孤独を侵すことは、自らの誇りが許さなかった。

 

(……だったら。私にも、できることがあるはず)

 

誠を見送って、静かに踵を返す。

彼と同じ場所には行かない。

刹那は自宅から数駅離れた、別の公共図書館を目指す。

そこでなら、自分もまた肩書きから抜け出せる。

委員長からも、世界の親友という役割からも、一時的に亡命できる。

 

――誠を模倣することで、誠から離れる。

 

そんな奇妙な共鳴。

孤独な二人の間で、

目に見えない糸を張り巡らせていく。

 

「……」

 

刹那が手に取ったのは、依存と解放にまつわる心理の記述だった。

ページを滑らかにめくっていく。

自分と世界の歩んできた足跡。

それが、冷徹な言語によって客観視される。

 

生まれたときから一緒だった。

世界の世話を焼き、我儘を聞き入れ、望みを叶える。

自分の使命だと、信じて疑わなかった。

その過剰な献身が、結果として世界の身勝手さを増長させ、彼女を歪めていく毒になる。

心のどこかで気づいていた。

それでも、他のやりようを知らなかった。

 

だが、世界はもう既にいない。

絶対的だったはずの重力。

それ消失した空間で、刹那は初めて、自分を縛り付けていた糸の重みを感じた。

 

(もう……いいのかな)

 

ふいに漏れた思考の独白。

静かな書庫の空気に溶けて消える。

どこかで、ずっと疲れていた。

過酷な役割を完璧に演じ続けることに。

 

世界がいなくなったショック。

それは、今も胸の奥で燻っている。

けれど、その喪失感と同時に忍び寄ってきたのは、皮肉にも安堵という解放感だった。

 

(疲れた……のかな)

 

問いかける相手は、鏡の中の自分ですらない。

そこにいたのは、長年のかくれんぼを終え、ようやく顔を出す『本当の刹那』。

ただ、誰かのために自分を削る。

そのことに疲れ果てた、空っぽの少女。

彼女の魂も限界まで薄く、鰹節のように削り取られていた。

 

 

後日、榊野学園の屋上。

その重い扉に、真新しい錠前が下ろされている。

そこは本来、立ち入り禁止の領域。

西園寺世界が天文部を立ち上げ、隠れ蓑として使っていた。

だが、その魔法を維持していた存在はもういない。

 

主導者を欠いた部は、もはや名ばかりの抜け殻。

活動の実態がない以上、学園の管理システムは廃部という審判を下す。

それに伴い、屋上の鍵を預かる特権も、当然のように剥奪された。

 

(もう……ここには何もない)

 

屋上の閉じられたドアを見つめた。

この閉鎖は一つの句読点となった。

世界が残した数少ない足跡。

管理という名の上書きによって消された。

かつての刹那なら、委員の権限を駆使して、存続を画策したかもしれない。

しかし、今は違う。

閉じられた扉を前にしても、

どこかで静かな納得を感じ、その場を静かに去った。

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