同居人+1   作:CBR

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=ボッチオ


2話 ボッチ+ドッピオ

「ねぇネモ、ジェラート屋が隣町にできたんだって! 今度食べに行こうよ!」

 

 すくすく育っている彼は、学校で子どもたちが話していたジェラート屋に興味を示したらしい。

 彼は早速休日に行くことにした。私はお義父さんに彼のお守りを任されている。

 

 

 

 サルディニアは本島から離れた地中海に浮かんでおり、陸路が不便である。住んでいる場所が小さな村ということもありバスで移動するにも時間がかかる。

 彼は暇つぶし用の本をバッグに入れていたが、今は唇を尖らせて車窓を眺めている。

 

「なんだよ、ネモが僕のお守りって…」

 

 どうやらお義父さんに言われた内容が気に食わなかったらしい。こうして見ると反抗期真っ盛りのようで喜ばしく感じる。私の情操教育は上手く機能しているようだ。

 このまま成長してくれたらいいのだが、時折悪魔(ディアボロ)の片鱗がチラッと見えるんだよな…。

 

『お前がうっかり車に轢かれそうになるからじゃないか? それも頻繁に』

 

「ネモまで僕が『()()()()』だっていうの!?」

 

『事実だからなあ』

 

「……もういいよ! 僕一人でアイス食べるから」

 

『頭キーンとしちゃうぞ?』

 

 ドンクサ。子どもとは時代や国が変わってもニックネームを付ける。私が行動を起こしてから直接的な嫌がらせはなくなった。というか余計に周囲の人間が遠ざかったが、彼は元から『()()()オ』なので問題ない(「ボッチ」と「ドッピオ」をかけている)。

 

 ボッチオは人と群れるのが苦手だ。同様のシチュエーションで日本人が抱きがちな迎合しないと、という精神的不安もない。

 しかし、孤独でも孤独ではないのだ。何せ私という同居人がいる。

 

 だからこそ不安定だ。

 

 彼の世界は彼と私とお義父さんで構成されており、そのほかは他人である。

 もっと友だちを作らないと健やかな精神が育まれないぞ、ボッチオ。君がボッチを貫くというなら、私もボッチオ呼びを定着させてしまうぞ。

 

 まあ、周囲がより遠ざかる原因を作った私の非もあるが、ああでもしないと彼へのいじめはさらにエスカレートしていただろう。必要経費だ。

 

『なあ……』

 

「あー何も聞こえない」

 

『私はチョコミントが食べたい』

 

 

 

 

 

 

 

 ──へへっ、耳元どころか脳内で囁き続けたらチョコミントを買ってもらえたぜ。

 

 ただし現状はチョコレートとミントが別々の球体のため、コーンの上にバランスよく乗った二つを交互に口の中に入れ融合させる。もう片方の手には彼が頼んだいちごとバニラもある。

 

『僕ミントって苦手だなあ。歯磨き粉みたいな味がするから』

 

(ミント愛好者を敵に回す発言をするな)

 

『君ってそもそもミント好きだったっけ?』

 

(いや、あんまり)

 

 何だろうな。例えば家の冷蔵庫に家族が買ったであろうカップアイスが並んでいたとする。

 目の前には自分の好きな味があり食っちまおうと手を伸ばしたその下に、チョコミントのアイスがあった。ボッチオ君ならどうする?

 

『そりゃあ自分の好きなものを食べるよ』

 

(違うんだなコレが。冒険したくなるのだよ)

 

 結果として私は「歯磨き粉みたいな味だ…」とボッチオと同じ発言をするだろう。

 

『僕には理解しがたいや。…何でだろうね? 僕たち同じ肉体にいるのに』

 

「全員同じだったら、生きるのがつまらないだろ?」

 

 彼の目が私をとらえる。まあるい目だ。この一瞬の間に目が変わるなんてアハ体験が起こるんじゃないかって、彼の目を見ているとたまに思う。

 

『……うん。生きるんだったら、楽しい方がいいね!』

 

 普通の子どものように笑った彼。

 溶け始めた白とピンクのアイスが私の手にボタボタと垂れた。

 

 

『僕の頼んだアイス溶けてるじゃん!!』

 

 

 

 

 

 ◯

 

 

 日本の国民的なスポーツが野球なら、イタリアの国民的なスポーツはサッカーである。

 放課後の少年たちが遊ぶのはとにかくサッカーで、身の回りの子どもも例外ではない。ボッチオはボッチなのでこの輪に加わることなく直帰する。虚しい人生だと思わないか? ボッチオ。

 

 ただしサッカーには興味があるようで、教会の壁に向かってサッカーボールを蹴っていたところ、お義父さんに見つかりこってり叱られた。

 彼は仕方なく家の近くの高架下で練習をするようになった。ここなら雨でも遊ぶことができ、時折住人のカエルがやってくる。

 

 ザァァという音が耳に心地いい。今日は壁の裏にカタツムリが張り付いていた。はじめ料理で口にした時に吐きそうになったこいつは、サザエ風味で意外と美味い。

 

「ネモが僕の体から分裂したらいいのに…」

 

『そんなプラナリアみたいな芸当ができたら怖くないか?』

 

 壁にボールのぶつかる音が高架下で反響する。

 側で練習姿を見守る私はふと原作のことを考えた。

 

 ジョジョは1〜9部までが存在し、私はこの中の5部しか最後までしっかりと見たことがない。

 部によって主人公や敵が違うことや、6部で一旦1部から続いたジョースターとディオの因縁が終結することくらいは知っている。逆に言うと、それくらいしか他の部については知らない。

 

(…………あれ、待てよ? 7部からは確か世界線が変わるんだよな?)

 

 6部で敵の神父が世界を加速させて(世界を加速させるって何だ?)、特異点だか何だかになり世界が一巡する。

 一巡するってことはつまりこの世界が終わるということで、私も彼も死ぬことになる。死ぬ……。

 

 

『ふざけんじゃあないぞ!! あの剃り込み()かれ坊主ッッ!!!』

 

「わっ! 急にどうしたの?」

 

『何でもない!!』

 

 

 彼は心配そうな表情を浮かべたが、考える人のポーズで思考を深めた私に肩をすくめてサッカーを再開した。

 

 というか、ジョースターとの因縁でありジョルノ・ジョバァーナの父親であるDIOもまだ海の底で生きてるじゃないか! こいつが原因で将来この私までレクイエムに巻き込まれるかもしれないんだぞ!!

 

 3部の舞台は確か1980年代後半で、その前にジョルノは生まれているか母親の胎にいる。

 DIOがスタンドに目覚めるきっかけがそもそもディアボロが『矢』を発掘したせいだ。ならば『矢』さえなければ──いや、DIOはスタンドに目覚めなくとも吸血鬼だから、承太郎がスタンドに目覚めないと普通にこの世が終わるのでは? 私も殺される…?

 

 

 ドッピオ()の精神を育てることばかりに夢中になっていたツケである。

 

 私が仮にスタンドに目覚めたとして、DIOに勝てるとは思えない。相手がスタンドに目覚めていなくともだ。一般人が吸血鬼に勝てるわけないだろッ!

 

 だったら『矢』を発見し、それを婆さんに渡す必要がある。それでブチャラティも口にしていた『運命の流れ』が本当にあるのなら、DIOは空条承太郎に倒されるだろう。

 これで5部のジョルノ・ジョバァーナも生まれるとして、4部は………4部は広瀬康一が出るんだよな? あと空条承太郎も……。まあDIOを倒した空条承太郎と、4部の主人公であるサザエさんみたいな頭をした少年もいるから大丈夫か。

 

 問題は剃り込み神父がラスボスの6部だが、私にいい考えがある。

 ラスボスにはラスボスをぶつける理論でぶつけてしまえばいい。

 

 

 そう、ジョルノ・ジョバァーナ(覚醒済み)を────!!

 

 

 6部で味方がほぼ全滅したのなら、最強のスタンド使い空条承太郎も剃り込み神父に敗北したのだろう。ならばいったい誰が神父に勝てるのか?

 そう、ジョルノ・ジョバァーナ(覚醒済み)である。剃り込み神父はDIOと友人であったはずで、DIOの息子がアメリカにいると知れば接触してくる可能性が高い。盲信だけで世界を滅ぼせる男なら確実に一眼見ただけで彼がDIOの息子だと分かるだろう。分かってしまうだろう。だからこそジョルノが適材なのだ。

 

(スタンドを進化させる矢ともう一本は自分の懐に入れてしまおう。それくらいなら原作に大きな誤差は生まれないはずだ。だがジョルノをわざわざアメリカに向かわせるなら……)

 

 ジョルノは『運命の流れ』に沿ってギャングスターを目指すだろう。なら誰がジョルノをアメリカに配置する? それができるのは彼のボスである。

 

 つまりだ。私は彼の上司のポジションに収まる必要がある。ギャングになれってことだ、将来。

 

 

「ざけんじゃあねぇぞ!! 何でオレがッ!!!」

 

『うわっ!!』

 

 

 ブチ切れた衝撃で今度は彼の肉体を奪ってしまった。しかし腹の中に湧き起こる怒りが制御できず、激しく壁を蹴る。フーッと獣のごとき鼻息が出た。

 

『君、大丈夫? 何か悩んでるなら僕が話を聞くよ?』

 

「……いや、大丈夫だ。『坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた』の早口言葉で、何で坊さんが坊主の絵を描くのか意味が分からなくてムカついてただけだ」

 

『わあ! それ僕も言ってみよ! ────びょっ…』

 

 即噛みした彼は拗ねたのか大人しくなってしまった。

 ボールを蹴る音も止み、雨音だけが残される。随分と静かだった。

 

 私が生き残るには彼の悪魔(ディアボロ)を目覚めさせない他に、3〜6部を乗り越える必要がある。3と4は主人公たちに任せてしまうとして、6部の一巡を防ぐにはやはり覚醒したジョルノを置くのが最善手だろう。

 

(私たちがギャングになるのも『運命の流れ』だっていうのなら…)

 

 私があがいたところで彼の内側に潜む悪魔が目覚めることを止められないのだろうか?

 そうしてドッピオ()は孤独に死に、私は悪魔の巻き添いになってしまうのか。

 

 

「………乗り越えてやるさ」

 

 

 私は死にたくない。レクイエムなんぞごめんだ。

 

 だから抗おう。

 それでもダメだったなら、それが私の『運命』だったってことだ。

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