仲間を曇らせたいので強敵から庇って片腕失くしてみた 作:義山硝子
おーーい
誰もいないのかぁ
それにしてもデカい家だな
本当にここに住んでんのかね
おお、びっくりした
いやいや俺は怪しいモンじゃないよ
ようやく扉が開いたと思ったら
きれいなねーちゃんが三人も出てきたから驚いたんだよ
いや別に変な意味じゃねえって
他の女に色目なんか使うもんかよ
女房に引っ叩かれちまう
用件はなんだ、って
何をそんなに殺気立ってんだよ
あれか
もしかして俺が知らないだけで
このあたりじゃ客が来たときはこれが普通の応対なのか
あぁ用件だったな
俺はアイツに会いに来たんだよ
そうそう、黒髪で黒目の
今は冒険者やってるんだってな
ここに住んでんだろ
今いるのか?
いるのか
そりゃよかった
じゃあさっそく通してくれないか
なんでだよ
会ってどうするつもりだ、って
だからそう凄むなよ
なんなんだよさっきから
なぁ、おい
俺は特段あんたらに無礼なことはしてないし言ってもないだろう
いやまぁ、なかなか出てこないから外で大声で出したりはしたけどさぁ
それにしたって、初対面の人間にそんな態度を取られる覚えはないんだがな
普通に考えて相手に失礼だとか思わないもんなのか
はぁ
他人にどう思われようがもうどうでもいい、とか言われてもさ
それは別に他人に失礼な態度を取ってもいいって理由にはならねえからな
無学な鍛冶屋の俺にだってわかるぞ それくらいのことは
ん?そうだよ 俺は鍛冶屋だよ
あぁそうそう、アイツの生まれた村の
歳は俺が四つ上だが、まあいわゆる幼馴染ってやつか
ガキの頃はよく一緒に遊んだモンだ
先月アイツが右腕を肩からばっさり失くしたって便りが届いた時は驚いたよ
だから戦える義手を俺に造って欲しいってな
ただの義手ならこっちの鍛冶屋でもいいんだろうが
戦える代物ともなりゃ俺が造るのが一番だ
鍛冶屋の息子だからってなもんで
昔からアイツにヘンなもんばっか造らされてよ
おかげでこういう作業が誰より得意になっちまった
まあともかく
ようやく形になったからこうして届けに来たって訳よ
自分で言うのもなんだが、なかなかの出来だぜ
軽くて丈夫で錆びにくい
見てくれよほら、ちゃんと剣だって握れる
多少扱いに慣れる必要はあるけどな
なんだ聞いてないのか
聞いてないけど知ってはいる?
知ってたのかよ
まあいいや
どうあれ事情は分かっただろ、通してくれよ
なんでだよ
あのさぁ、剣士のねーちゃん
私たちが代わりに渡しておくって言われてもさァ
あんたらと俺はさっき初めて会ったばかりだろ
そんな実質他人に、大事な荷物預けて帰るわけにはいかんだろ
アイツに代金だって貰わにゃならんし
あぁ友達だからだいぶ金額は抑えてるよ、ほぼ材料費みたいなモンだ
それでも払うもんは払って貰わないとな
俺はともかく、女房と子供を飢えさせる訳にはいかねぇんだよ
あのさぁ、じゃあ代わりに払えばいいんでしょって
そういう問題じゃねぇんだよ魔法使いっぽいねーちゃん
やつに実際に着けて貰ったうえで、細かい調整をしなきゃならん
造って届けて金だけ貰ってハイお終い
そんないい加減な仕事をする気はないんだよ俺は
友達の大事な腕なら尚更だ
あのさぁ、もうお引き取りくださいじゃねぇんですよ聖女様
聖女様だよな、あんた
いや、のっけからその…あまりにもあんまりだったから別人かと思ってたわ
あんた今までの俺の話聞いてましたかね
うん、だからお引き取りくださいだけ繰り返し言われてもさ
…おい大丈夫かこの聖女
一日中晩飯の時間を聞いてくる、向かいの家の呆けた婆さんみたいになってるぞ
まあ、ともかくだ
こっちはちゃんとアイツに会わなきゃならん理由を説明したぞ
そろそろ通してくれよ
なんでだよ
なんだってそんなにもアイツに会わせるのを嫌がるんだよ
義手を手に入れたら彼がまた戦いに出てしまうって
いや、当たり前だろ
その為にわざわざ俺に造らせたんだからよ
彼をこれ以上戦わせない?
わたしたちにはその義務がある?
うん、さっぱり話が見えてこねえ
本人が戦う気満々なのに
なんであんたらが挙って止めに入るんだ
はあ、ちゃんと理由があると
なんだ、いきなりすごい顔してどうした
あんたらの罪?
別に言いたいんなら聞いてやるが
まずはその死刑待ちみたいな顔をなんとかしてくれよ
浮気がばれて細君に詫び入れる直前の
父方の叔父を思い出すんだ
ああ、悪かった悪かった武器やら杖やらを降ろしてくれ
よし、聞こうじゃないか
あーなになに?
なんだ、アイツが右腕を失くしたのはあんたらを庇ったせいなのか
うん、まあそういうこともあるだろうよ冒険者やってんだから
なんで今度は怒ってんだよ怖ぇよ
えぇー…
もっと派手に衝撃を受けるべき場面だったのか今のは
いや、そんなこと言われてもなァ
そもそも右腕失くしたのはもう知ってたわけだし
それ以上にショックを受けるような話かって言われると…なあ
命を拾っただけでも幸運じゃないか
俺の村にもたまに冒険者が寄るけどよ
片腕や片目のやつはまあまあいるぜ
もちろん仲間を庇って負傷したやつだって当然いるさ
え、そんなやつらと私たちを一緒にするなって?
悪い、違いがわからん
誰だって自分の周りに訪れる不幸が世界中で一番重いって思ってんだよ
弁えてるから口に出さないだけなんだよ
わざわざこれ見よがしに喧伝するのは
弁えてない馬鹿か自己陶酔が極まった馬鹿のどちらかだけだろ
おい、落ち着けよ
別にまだあんたらの事とは言ってねえぞ
それよか本格的に意味がわからんので聞きたいんだがな
なんで助けられた側が助けた方の自由を縛ってるんだ?
いや、逆ならまだわからんでもないよ
命を助けたんだからお前の生き方はこっちが決める、みたいな
まあ、それにしたって限度はあるとは思うけどさ
あんたら助けられた側だろ
なんでアイツの行動を無断で…無断だよな、今まで聞いた感じ
無断で決めようとしてるんだよ
うん、命を救われたくだりはさっき聞いた
もうこれ以上誰かのために彼が傷つくのが耐えられないと
だから一生を掛けて護り貫くと
なぜなら私たちは彼を愛しているから、と
そうか すごいな
何言ってんだこいつら
うお、危なっ
怖ぇなぁ 避けなきゃ当たってたぞ今の
まあ聞けよ
あんたらの主張してる愛っていうのはつまりアレだろ
献身ってやつだろ
意味を知らんみたいだから教えてやるけど
これはどうやら自らを犠牲にしてでも他人の為に尽くすってことらしいぞ
俺は日曜日に村の教会の説教でそう聴いたよ
馬鹿にするな 意味くらい知っている、だって?
じゃあ教えてくれよ
あんたらの行いのどこら辺に自己犠牲があるんだよ
だから三人同時に捲し立てるなよ聞き取れねぇよ
あーなんだって
このデカい家はあんたら三人が金を出して買った?
あらゆる時間を削って彼から目を離さないようにしてる?
これ以上彼を戦わせない為に自分たちのなにもかもを捧げるって?
笑わせんなよ
金を払って
時間を使って
心を尽くして
結果、
そこの聖女って教会の中でも相当偉い方だって聞いてるけどさ
うちの村の老神父様よりも立派だとは全然思えねえな
神父様が言ってたよ
愛とは、腹を空かせた他人のために自らのパンを割く事だって
翻ってあんたらがやってるのは詰まるところあれだろ
自分の腹を満たすために自分で金を払ってパンを買ってるようなもんだろ
そんなモンのどこに他者への献身とやらがあんだよ
他人を手段にしてるだけの、単なる自己愛じゃないか
いいや、違わないね
俺の友達の決めた生き方を無視した挙句、愛だの償いだの悦にいってんじゃねえよ
だからいちいち揃って喚くなようるせぇな
ああそうだよ 腹を立ててるよ
ちっとも通してくれないどころか、身勝手な言い分を延々聞かされるこっちの身にもなってみろ
腹のひとつも立てるだろうがよ
なんか勘違いしてるみたいだから言っておくけどな
別に戦って欲しくないって願いを馬鹿にしてんじゃない
自分を犠牲にして欲しくないって想いを虚仮にしてるわけでもないんだ
アイツの為とか抜かしながらその実
最初から最後まで自分たちの事しか考えてないその性根と言い草が
ただただ心底気持ち悪いって言ってんだよ
おい、だから危ねえって 剣を振り回すなよ
なんだよ、他人にどう思われようがどうでもいいんじゃなかったのか
じゃああんたらに聞くがな
片腕を失ってもそれでも
なお戦いたいってアイツの願いを無意味にするのか
他人の為に自分を犠牲にする事だってアイツの選んだ生き方だ
その想いは、選択は、尊重する価値もないのか
それらはあんたらが手前勝手に切り捨てていいようなもんなのか
答えろよ
命を救われたって事実だけを楯に取って
自分たちの後ろめたさを手頃に晴らそうとするなよ
ああもうはっきり言ってやろうか
今のあんたらこそが自分たちの幸せの為にアイツを犠牲にしてるんだよ
違うってんなら説明してみせろよ
黙ってくれる分にはいいんだが
無言で睨んでくるなよおっかねぇな
いや、別に気分は良くねえよ
あんたらを言い負かす為にわざわざ田舎から出て来た訳じゃないよ
どれだけ俺は暇人なんだよ
忘れてるかもしれないが、俺はあんたらがいつまで経っても中に入れてくれないもんだから
その理由を聞いただけだからな
納得できる理由があるならともかく、間違ってると思えば間違ってると言いもする
生活が掛かってんだよこっちはよ
ほら、通してくれよ
なんだよまだなんかあんのかよ
じゃあどうしたらいいのって
知らねえよ自分たちで決めろよ
いや、三人で散々話したってさぁ
最初からそこを間違えてんだよあんたらは
なんでアイツを交えてしっかり話し合わねえんだよ
あぁ?そんなもんわかるに決まってるだろ
じゃなきゃそもそもアイツが依頼してあんたらが止めるなんて
今の間抜けな絵面は存在してないだろうが
片方は右に行きたい、片方は左に行きたい
お互いが別れ道でさよならするしかない状況でも、それでも一緒にいたいのなら
話しあってなんとか折り合いをつけていくのが真っ当な人間関係ってモンじゃねえか
どう着地するかなんて知らんよ
それこそアイツとあんたら次第だろ
なあ、いい加減通るぞ
もう構わんよな
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よぉ、久しぶり
なんだ 全部聞こえてたのか
ああそうだな まるきり余計な事を言った
あいつらの抱えてる歪みは、本来お前自身が正すべきだった
すまなかった 詫びるよ
え、違うそうじゃない?
曇らせ?クソデカ感情?
…うん、その言葉の意味はよくわからんが
要するにだ
お前はあいつらの向けてくる執着を楽しんでたのか
はは、そうかそうか
そいつは余計な真似をして悪かったな
俺、お前の友達辞めるわ
タイトルに偽りはありません
嘘つき呼ばわりはやめて頂きたい
(置き弁明)