お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
私はあおいちゃんがいなくなった部屋で、胸を押さえながらベッドに腰かける。
左手の小指には、さっきまで触れていたあおいちゃんの右手の小指の感触が残っていた。
そして、未だに心臓はうるさいくらいに鼓動していた。
ただ手が触れていただけでこんなになるなんて、おかしい。
「……これじゃあ、全然失恋できてないじゃん」
私はそんな言葉を呟いて、大きなため息を漏らす。
急にあおいちゃんが遊びに来ることになったので、私はすっかり前の続きをするんだろうなと思った。
私の恋心が百合アニメを観たせいなのか、どうなのか。
あおいちゃんはそれを一緒に考えようと言ってくれた。だから、今日も一緒に百合アニメを観るんだろうなと思っていた。
私の中ではすでに結論は出ていて、その結果失恋をしたのだけど、そのことをまだあおいちゃんに言えていなかった。
あおいちゃんに髪をなでてもらって恋に気づいて、あおいちゃんを抱きしめたときに失恋した。
こんなことを本人に言えるわけがない。
「ていうか、最近のあおいちゃんおかしくない?」
私はそのままベッドに横に倒れるようにして、そんな独り言を漏らした。
最近、あおいちゃんはぼぅっと私のことを見ていることがある。見られているなーっと思って視線を向けると、なぜかそっぽを向かれてしまう。
いや、あおいちゃんが私を見る理由なんてあるわけがない。
そうなってくると、私がまだ失恋を引きずっていることになる。
あおいちゃんに見られていたいなと考えているから、そんなふうに勘違いをしてしまうのだろう。
でも、全部が全部勘違いなのだろうか?
「今日は明らかに様子がおかしかったような気がする……」
それから、私は今日のあおいちゃんの行動を思い出す。
あおいちゃんは私の部屋に入るなり、真剣な表情で百合漫画の入っている本棚を見つめていた。
以前の続きをするのだと思っていた私は、あおいちゃんの行動鬼実が分からなかった。
百合アニメじゃなくて、百合漫画から影響を受けていると思ったのかな?
そう考えてしばらく待っていると、あおいちゃんは『あっ』とか『へー』とか言って何度か頷いたり、真剣に考え事をし始めた。
え、百合漫画を見てその反応って、もしかしてこっち側の人間?
陽キャのあおいちゃんが百合好きなんてことないと思いながら聞いてみたのだが、案の定違っていたようだった。
必死に否定していたし、そう言うふうに間違われたくないのだろう。
どうやら、少し失礼なことをを聞いてしまったみたいだ。今後はこの手の話は控えた方がいいかもしれない。
それから、私は無難な百合ものをあおいちゃんに勧めて、一緒にアニメを観ることになった。
そして、そこで問題が起きた。
『さっきからあおいちゃんがこっちを見ている、気がする!』
私はあおいちゃんから勘違いとは思えないほど、熱い視線を向けられていた気がした。
少しだけ確認してみようかとか、そんなことあるはずがないとか頭の中でぐるぐると考えた私は、とりあえず体勢を変えて落ち着くことにした。
冷静を装って、パソコンの画面から目を離さないで呼吸を整えようとしたとき、ちょんっとあおいちゃんの右手の小指が私の左手の小指に触れてきた。
『え、え⁉』
私は予想もしなかった展開に、胸をドキドキとさせてしまった。
しかし、ただ心臓の音を大きくさせることしかできず、私はそのドキドキがあおいちゃんにバレてしまわないように、ただじっとパソコンに映るアニメを観ていた。
内容なんかまったく入ってこず、あおいちゃんの小指の熱と私の小指の熱が混じり合っていくのを静かに待つことしかできずにいた。
「わざと……なわけないよね。はぁ、どれだけ百合漫画脳になってんの、私」
私はじっと左手の小指を見つめてから、大きなため息を吐く。
そうだ、いくらドキドキしようがこの恋が成就することはない。
そして何より、私は今失恋中なのだ。
「諦めないと。例え、百合漫画みたいなことをされても、現実にその先のことなんかないんだから。勘違いしない、勘違いしない」
私は何度も自分に言い聞かせるように呟く。それから、それでも未だに主張の激しい胸を押さえて、そっと目をつむる。
「そうしないと、親友の道も断つことになっちゃうから」
最後にそう言い聞かせると、胸が少し痛くなってから、心臓の音が落ち着きを取り戻していくのを感じた。
……うん、いい感じだ。
それから、私はベッドに寝そべったまま、鞄の中から最近読んでる本を取り出す。
『読むだけで上がる、コミュニケーション能力!』と書かれたそれを取り出して、私はベッドの上でパラパラとそれをめくる。
「香織ちゃんと美香ちゃんとも仲良くならないと」
最近、少しずつ二人とも会話をすることができてきた。
これも失恋を機に買った、この本のおかげだろう。
「いつか、四人でどこかに出かけられたら」
私はあおいちゃんの親友になるためにと考え、漫画を読むよりも随分と遅いペースでページをめくった。
いつになれば全部読み終わるのか。まるで想像がつかなかった。