お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
「それで、相談ってなにかな?」
ある日の放課後、私はあおいちゃんに時間をもらってカフェでお茶に誘った。
私の机にはアイスレモンティーとアップルパイが、あおいちゃんの机にはアイスミルクティーとチョコレートケーキが置かれている。
一口二口ケーキを食べて少し会話をしてから、あおいちゃんは思い出したようにそう口にした。
放課後に友達とお茶をするなんてイベント、ずっと憧れだった。
でも、今日は単純にお茶を楽しむためにあおいちゃんを誘った訳ではなかった。
「香織ちゃんと、美香ちゃんとも仲良くしたいんだけど、どうすれば仲良くできるかな?」
「二人と仲良く?」
「う、うん。調べてみたりしたんだけど、本とか読んでみたんだけどよく分からなくて」
それから、私はここ最近の私が本を読んでコミュニケーションを学ぼうとしていることと、実践をした時に手ごたえがいまいちなことなどをあおいちゃんに告げた。
「あおいちゃんの友達だし、仲良くしたいんだけど、まだ少し距離があるような気がしてて」
「なるほどね。確かに、本を読むだけじゃ分からないことって結構あるからね」
あおいちゃんは頷いてから、一口チョコレートケーキを食べて小さく唸って考えていた。
私はあおいちゃんの親友になりたい。そのためには、あおいちゃんだけだなくて、他の子たちともコミュニケーションを取れるようにならなければならない。
そんな不純な動機から香織ちゃんと美香ちゃんとも話そうと考えるようになったのだが、実際に話してみると二人とも良い子で、もっと二人とも仲良くなりたいと思うようになった。
あおいちゃんなら、二人と仲がいいから何かヒントを貰えるんじゃないかと思って、今日はあおいちゃんをお茶に誘ったのだ。
「あっ……これは、『作戦その二』の続きができるのでは?」
「あおいちゃん?」
すると、あおいちゃんが何かに気づいたような声を漏らして、真剣な顔で何かを考えていた。
さっきの言葉は聞こえなかったけど、多分私の悩みに真剣に考えてくれているのだろう。
あおいちゃんはしばらく唸ってから、意を決したように顔を上げた。
耳の先が赤い気がしたのは、気のせいなのだろうか?
「じょ、女子の場合は女子特有のコミュニケーションの取り方があるんだよ!」
「特有のコミュニケーション?」
私が首を傾げると、あおいちゃんは斜め上の方を見ながらつらつらと話しだした。
「そう! ちょっとしたスキンシップね! それに慣れていかないと、スキンシップをされたときに驚いちゃうでしょ? 驚かれた相手はスキンシップ嫌なのかなーって思って、少し距離ができたりしちゃうの!」
「れ、練習が必要なの?」
「う、うん。人によっては必要だったりするかも」
私は言いにくそうなあおいちゃんの表情から、私にはその必要があるのだということを察した。
まさか、本に書かれていたことを実践するだけでは、コミュニケーション能力を身に着けることができないとは。あまりにもタイトル詐欺過ぎる。
それにしても、さすがあおいちゃんだ。香織ちゃんとか美香ちゃんと距離が埋まらない理由を一瞬で見抜くなんて。
確かに、これまで友達があおいちゃんしかいなかった私にとって、スキンシップを通じてのコミュニケーションを取ったことがない。
もしかしたら、普通の女の子がやっているような、スキンシップのやり方を知れれば、あおいちゃんとももっと仲良くなれるかもしれない。
私はそう考えて、顔を上げてあおいちゃんをまっすぐ見る。
「あおいちゃん。私に女子特有のコミュニケーションを教えてくれないかな?」
「も、もちろん! えっと、それじゃあ、」
あおいちゃんは私に笑みを浮かべてから、手櫛で髪を整えて姿勢を正した。
それから、ちらっとチョコレートケーキに視線を落としてから、フォークで小さく切り分けて私にそれを差し出してきた。
「っ!!」
私は差し出されたチョコレートケーキの下にあったフォークを見て、目を見開く。
これって、あおいちゃんがさっきまで使っていたフォーク……これって、普通に間接キスじゃん!
す、スキンシップってそいう感じの奴なの⁉
私はあわあわとしてから、ハッとクラスで同じようなことをしている女子たちがいたことを思い出した。
これって、私が変に意識してしまっているだけで、女子同士では普通のことなのでは?
でも、いくら普通のことといっても、失恋した相手にしてもらうことじゃなくない?
私はそう考えながらも、教えて欲しいと言った手前断ることができず、目を閉じてから口を小さく開けた。
目を閉じてしまったのは、なんとなく恥ずかしかったからだと思う。
「っっ!」
すると、あおいちゃんが声にならない声を漏らした気がした。
私が口を開けたまま待っていると、フォークの冷たい温度が舌先に触れた。私は一瞬ぴくんとなってから、そっと口を閉じる。
すると、柔らかいチョコレートケーキのクリームが上あごに当たってから、チョコレートのビターな甘さが口に広がった。
あおいちゃんが私の口からフォークを引き抜こうとしたので、私は唇を少し強めに閉じて、フォークについているチョコレートケーキを可能な限り回収しておいた。
さすがに、フォークの上に私の食べた残りが乗っていることは避けたいと思った。
意識しなければ普通のことだ。意識しなければ、意識してしければ。
しかし、そんな私の考えに反して、胸の音がいつもよりもうるさくなっているのを感じた。
「ほわあぁぁ」
そして、どこかからそんな変な声が聞こえてきた。
今の声、何?
私がぱちりと片目を開けてみたが、目の前には耳の先を赤くしながらフォークを見つめているあおいちゃんしかいなかった。
「えっと、あおいちゃん?」
あおいちゃんの様子がいつもと違っていたので声を掛けると、あおいちゃんはパッと私を見てからすぐに視線を逸らした。
あれ? さっき、私の目じゃなくて他の所を見ていたような……
私はそんなことを考えながら、そっと唇についているチョコレートのクリームを指で拭った。
すると、あおいちゃんは少し視線を泳がせてから、チョコレートケーキを小さく切って口に運んだ。私がさっき使ったフォークでだ。
私は何かいけないものを見てしまった気がして、少し俯いてあおいちゃんから視線を外す。
あおいちゃんが私が使っていたフォークを使っている所を見てしまった。
さっきまでは目を閉じていた。だから、意識していてもある程度に抑えられていた。
しかし、それを目の前で見てしまったせいで、さっきまで抑えていた体の熱が暴走し始めたのを感じた。
どうしよう、多分顔が真っ赤になっている。
私がしばらく黙っていると、あおいちゃんが少し声を裏返して続ける。
「ゆりちゃん。な、慣れるまでは他の人とは練習しない方がいいかもしれないね」
「う、うん。気を付ける」
ああっ、女同士なのに意識し過ぎたことがバレてしまったみたいだ!
私はあおいちゃんの言葉からそんなことを察して、また顔を熱くさせてしまった。
なんでなんだろう。
失恋してからの方が、彼女との距離が近くなった気がする。
私はそんなことを考えながら、体を冷やすためにアイスレモンティーを一気に飲み干したのだった。