お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
最近、あおいちゃんとの距離が近くなった。
私とスキンシップを取っているときのあおいちゃんは、顔を赤くしていることもあって、私のことを意識してくれているのかなと少し思ってしまうことが増えてきた。
失恋しているはずなのに、徐々に近づいていく距離にドキドキしてしまう日々を送っていた。
そんなある日の放課後。あおいちゃんが私の部屋に遊びに来た。
「ゆりちゃん。今日は観たいアニメがあるんだけど、いいかな?」
「う、うん。珍しいね、あおいちゃんがそんなこと言うなんて」
あれ? 今日は女子特有のコミュニケーションを教えてくれるはずじゃないんだ。
私はそう考えながらも、あおいちゃんの言葉に頷く。
どうしてもスキンシップの話題を出すと、以前一緒にショッピングモールに行った時のことを思い出してしまう。
……あのときは、あまりにも恥ずかしい所を見せてしまった。
あの日、以降女子特有のコミュニケーションのことをあおいちゃんに聞けずにいた。
どうしても、聞こうとするとショッピングモールの一件を思い出してしまうから、聞くことができなかったのだ。
それでも、ここに来る道中で香織ちゃんと美香ちゃんともっと話をしてみたいと相談をしていたので、以前のように女子特有のコミュニケーションについて教えてくれるのかと思っていた。
私はそんなことを思い出してから、いつもの位置にパソコンを設置する。
すると、あおいちゃんがパソコンの画面を除きながら続ける。
「いつも選んでもらうのも悪いし、人気なタイトルを調べてみたの。多分、ゆりちゃんが登録している配信サイトにもあると思うんだけどーー」
あおいちゃんはそこまで言ってから、作品名を口にした。
「え? そ、それを観るの?」
あおいちゃんが口にしたタイトルを聞いて、私は思わず聞き直してしまった。
それはあまりにも有名な恋愛要素の多めの百合作品だった。
何度も観ているお気に入りの作品でもある。
私が固まってしまうと、あおいちゃんは首を傾げる。
「もしかして、ゆりちゃんはこのアニメ知ってたりする?」
「し、知らない」
私は慌てて手を横に振って、知らないふりをした。
あくまで、あおいちゃんの前では日常系の百合しか観ていないことになっているので、その設定は守らなければならない。
以前は恋愛要素多めの百合漫画を読んでいたことがバレてしまったが、あのときはあおいちゃんは寝ていたしノーカンなはずだ。
私がそう言うと、あおいちゃんは屈託のない笑みを浮かべた。
「そうなの? それなら、一緒に観れるね!」
「そ、そうだね」
私はこれ以上渋るのも怪しまれると思って、配信サイトであおいちゃんから聞いたタイトルを打ち込む。
すると、当然配信サイトの画面にあおいちゃんが言ったタイトルのアニメが表示された。
表示された画面には、アニメの紹介文と共にそのアニメのイラストが描かれていた。
二人の女の子が同じ方向を向いて座ったいて、片方にバックハグをされているというイラスト。
まさか、画面を出した瞬間に百合百合しているとは、やはり神作品なだけある。
私がそんなことを考えていると、あおいちゃんが思いついたように『あっ』と声を漏らした。
「せ、せっかくならこの体勢で観てみる?」
「え、こ、この体勢で?」
「ほら、教室とかで座ってる子の上に乗ってる子たまにいるでしょ? あれに似た感じだし、いいんじゃない?」
あおいちゃんはそう言うと、私に許可を取ってから私ベッドに腰かけた。
そして壁を背にするようにしてから、両腕を広げて私がその間に収まるのを待っていた。
さ、さすがにそれとこれは違い過ぎるのでは?
私がなかなか頷けずにいると、あおいちゃんは耳を赤くして続ける。
「ここなら誰にも見られないし、練習になるでしょ?」
私はそんなあおいちゃんを見て、胸の奥の方をきゅうとさせる。
……もしかして、あおいちゃん初めからこのつもりだったのかな?
私は一瞬そんなことを考えてから、アニメの再生ボタンを押してベッドに座る。
それから、あおいちゃんの脚と脚の間にちょこんと控えめに座った。
これからすることを考えて、あまり拒否するのも失礼な気がしたのと、拒否したいと思えなかった自分がいた。
私が心臓の音をうるさくさせたままでいると、もぞっとあおいちゃんが動いた衣擦れの音が聞こえてきた。
そして、あおいちゃんは私の体に腕を回して、私の背中にぴたりと体をくっ付けてきた。
「あ、あああ、あおいちゃん⁉」
私が動揺して声を裏返してしまう。
もっと軽い感じの奴かと思っていただけに、私は動揺を隠せずにいた。
これって、本気のバッグハグなんじゃないの⁉
しかし、あおいちゃんは取り乱している私をそのままに、無言のまま腕に力を入れて私を軽く引き寄せる。
そのとき、言葉では言い表せない熱い何かを背中越しに感じた。
そして、その熱と行動が少し前に私が失恋をした時のものと重なった。
え、もしかして、あおいちゃん私のことを……。
私はありえないことだと思いながら、ここ最近願っていた微かな希望が一瞬見えて、あおいちゃんの腕にそっと手を置いた。
「あ、あおいちゃん。もしかして、あおいちゃんってーー」
私のこと好きだったりする?
そんな言葉を続けようとした瞬間、胸の奥の方を何かにぎゅっと握られたような嫌な感じがした。
私は言いかけていた言葉を呑み込んで、冷や汗を垂らす。
もしも、これも全部女子同士なら普通にするスキンシップで、私が勘違いをしていただけだったら?
ここ最近、あおいちゃんの顔が赤くなっていたのも、耳が赤くなっていたのも全部偶然だったら?
そもそも、それも全部私の妄想だったら?
一瞬よぎったその考えが、微かに見えていた希望の光を遮った。
人に恋愛感情を向けられたことのない私にとって、今のあおいちゃんの言動が恋愛感情によるものなのか分からない。
もしも、全部が私の勘違いだったら、この先の私の言葉次第で、私はあおいちゃんの隣にいられなくなる。
スキンシップを少ししただけで勘違いするような女の子と一緒にいたいとは思わないはずだ。
せっかく仲良くなれてきたのに、あおいちゃんと一緒にいることができなくなる。
失恋を決意して、諦めることで手に入れようとしていた立ち位置を、自ら潰そうとしている。
……怖い。
気がつくと、私はあおいちゃんの腕に置いた手に力を入れて、あおいちゃんの腕を解いていた。
「ゆりちゃん?」
「あ、あおいちゃん、友達同士でここまでのことはしないんじゃ、ないかな?」
「……え?」
あおいちゃんの悲しそうな声が耳のすぐ近くで聞こえた、気がした。
私はそんな都合よく聞こえた声を無視して、ベッドの縁に座り直す。
「あっ、そうだよね。うん、確かにそうかも! 少しやり過ぎた、みたい」
あおいちゃんは無理に明るくしたような声でそう言うと、笑いながら私の隣に座り直した。
拳二個分、肩を寄り添わせていた距離と近づいていた私たちの距離は、人がもう一人座れそうな距離まで離れてしまった。
あおいちゃんの笑い声が悲しそうに聞こえたのも、全部私の妄想なのだろうか?
それすらも今の私には分からなくなっていた。
その後、私たちは特に話すことなく画面に映る百合アニメを観ていた。
何度も観て萌えていたはずの百合アニメを観ても、今の私の心はときめかなかった。
……あまりにも現実と違い過ぎる。
そんな冷めた目で、アニメを観てしまっていたからだと思う。
私は、どうしようもない臆病者だ。