お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
それから放課後、私たちは近くのショッピングモールに来ていた。
私とゆりちゃんは前を歩く香織たちの後ろを並んで歩いていた。
ちらっとゆりちゃんを見ると、ゆりちゃんは少し緊張している面持ちをしていた。
私はゆりちゃんの肩をツンツンと軽く突く。
すると、ゆりちゃんがびくんっと大きく反応してから、パッと私を見た。
……なんか、いつもよりも反応が大きい気がする。
「ゆりちゃん、急な誘いになっちゃってけど大丈夫?」
私が前の二人に聞こえないように声を潜めて言うと、ゆりちゃんは力強く頷いた。
「う、うん。大丈夫。あおいちゃんも色々教えてくれたし」
「色々?」
私はゆりちゃんの言葉を聞いて、何のことかと考えてみる。
……私が教えたことって、女子特有のコミュニケーションのこと?
私はそこまで考えて、ハッとしてゆりちゃんの肩をガシッと掴む。
ゆりちゃんはまた体をビクンッとさせてから、私の方に振り向いた。
「い、いきなりスキンシップは危険かもよ! 嫌な人もいるから気をつけて!」
「そ、そうなんだ。うん、気をつけるね。ありがとう」
ゆりちゃんは目をぱちくりとさせてから、そっと私の手を肩から下ろさせた。
そのとき、一瞬悲しげな笑みを見せた気がした。
気のせいだろうか? 私はそのことについて深く聞けずにいた。
そして、それと同じくに私には気になることがあった。
……今、私はゆりちゃんのことを思ってアドバイスしたのかな?
咄嗟にスキンシップをやめるように言ったのは、私としたことを他の人にして欲しくないからなんじゃないか。
そんなことを考えてしまい、私は一人で耳を熱くさせていた。
こ、これって、独占欲ってやつなのでは?
私がそんなことを考えていると、突然前を歩く香織たちが足を止めた。
顔を上げると、そこはショッピングモール内にある有名な本屋があった。
「なんだ。何かと思ったら、買いたいものって漫画だったの」
「なんだとは失礼だな。なんだとは」
美香がため息を吐くと、香織がむくれながら本屋の中に進んでいった。
私たちも香織に続くように本屋に入っていく。
そして、香織は他の売り場を見ることなく、少年漫画の売り場に一直線に向かって行った。
私はその近くで百合漫画がないか見渡して見るが、それらしい売り場をすぐに見つけることはできなかった。
やっぱり、百合棚はどこにでもあるというわけではないらしい。
「か、香織ちゃん、漫画好きなんだ」
私が辺りを見渡していると、ゆりちゃんが控えめにそんなことを口にした。
香織は新刊コーナーにあった漫画を一冊手に取って、ゆりちゃんの方に振り向く。
「まぁね、兄ちゃんの影響でね。あんまり女の子で少年漫画読んでる人いないから、語れる人がいないのが悩みでもあるんだけど」
「あっ、それ発売日今日だったんだ」
ゆりちゃんは香織の持っている漫画を見ると、香織が手にしたのと同じ漫画を手に取った。
香織はそんなゆりちゃんを見て、目をぱちぱちとさせる。
「あれ? 百合ちゃんこの漫画集めてるの?」
「う、うん。単行本は全部集めてる。アニメ化するみたいだから、声優さんが誰になるのかも楽しみ」
ゆりちゃんがそう言って小さく笑うと、香織が両手を広げてふらふらっとゆりちゃんに近づいていった。
「お、おお」
ゆりちゃんは変な声を漏らしながら近づいてくる香織を前に、眉を下げて首を傾げてることしかできずにいた。
すると、香織が数歩近づいてから、いきなりゆりちゃんを強く抱きしめた。
「オタク友達、ゲットぉぉ!!」
「ちょっ、香織!」
私は突然抱きついた香織を引きはがそうとするが、美香に腕を掴まれて制されてしまった。
私はキッと強く美香を睨む。
「み、美香離して!」
「まぁまぁ、少しだけいいじゃない。香織、ずっと漫画の話できる子探してたんだし、感情が爆発しちゃったんだって」
美香は仕方なしといった感じで笑みを浮かべていた。
私は悠長過ぎる美香の手を振り解いて、ぴしっとゆりちゃんを指さす。
「でも、ゆりちゃん困ってるよ!」
私が勢いよく言うと、美香は私に気圧されながら頬を掻いた。
「そうかな? 百合ちゃん驚いてはいるけど、そこまで嫌がってはいなそうだよ。というか、ただのハグだしそんなに怒ってあげなくてもいいのでは?」
私は美香の言葉を聞いて冷静さを欠いていたことに気づいて、指をさしていた腕を下ろす。
「べ、別に怒ってはないけど」
それから、私は香織に抱きつかれているゆりちゃんをちらっと見る。
確かに、あれはただの女子同士のスキンシップにしか見えない。
多分、香織には他意がないただのハグなのだろう。
それでも、微かに恥ずかしそうにしているゆりちゃんの顔を見ると、胸の奥の方がチクリとするのだ。
すると、香織がわざとらしく涙ぐんで言葉を続ける。
「ずっと漫画のこと話せる友達が欲しかったのに、私が話しかけると急にみんな黙り込んじゃうんだよぉ!」
「そ、そうなの? ま、まぁ、香織ちゃんが陽キャだから、急に話しかけられると少し怖がられちゃうのかも」
ゆりちゃんはそう言うと、控えめに香織の頭を撫でていた。
私がちらちらと美香を見て不満げな顔をすると、美香が私の視線に耐えかねたようにパンパンっと小さく手を叩く。
「じゃあ、お二人ともそこまでということで。買う物が決まってるのなら、会計を済ませて他のお店を回ろうよ。せっかく、ショッピングモールに来たんだしさ」
そんな美香の言葉があって、渋々香織はゆりちゃんから離れた。そして、二人は漫画の話をしながらお会計のためにレジに向かった。
……私だって、まだゆりちゃんと百合漫画の話をちゃんとできていないのに。
私はそんなことを考えながら、美香と一緒にお店の外で会計を待っていた。
すると、美香が私の顔をちらっと見て、肘で私の脇腹を小突いてきた。
「葵。葵って、結構嫉妬深い?」
「し、嫉妬なんかしてないけどぉ⁉」
私が声を裏返しながらそう言うと、美香はにやっといじわるな笑みを浮かべた。
私は美香の言葉と表情から。自分がどう見られていたのかを知り、恥ずかしさで体を熱くさせてしまった。
いや、多分言われたことが図星だったから、恥ずかしくなったのだろう。
私はそれ以上何も言い返すことができず、ただ会計が終わる二人を悶々と待つのだった。