お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
それから、私はゆりちゃんの部屋で雨宿りをさせてもらうことにした。
ゆりちゃんから受け取ったタオルで軽く髪を拭いてから部屋に上がると、そこにはさっきまで香織がいた跡が残っていた。
ローテーブルに置かれている二つのグラスに、ノートパソコン。
そんな状況から、ゆりちゃんと香織がどんなことをしていたのか大体想像がついた。
私たちがいつもしていることを上書きされたような気持ちがになって、胸の奥の方が一段とモヤッとした。
「あ、新しい飲み物持ってくるね」
「ううん、大丈夫……大丈夫だからさ」
私は自分を落ち着かせるようにそう言って、嫌な気持ちを落ち着かせる。
別に、私とゆりちゃんは恋人関係でも何でもないのだから、嫌な気持ちになる方がおかしい。
そんなことは分かっているはずなのに、なんとなく二人だけの空間がそうじゃなくなったような気がしてしまった。
いやいや、元々二人だけの空間なんかじゃないから。ここはゆりちゃんの部屋だから。
私は自分に言い聞かせるようにそう考えてから、ちらっとパソコンに目を落す。
それから、私は極力平常心を保とうとして、気にしてない素振りで笑みを浮かべる。
「せっかくなら、雨が止むまでまた百合アニメでも観たいかなーって」
「わ、分かった。ちょっと待ってて」
ゆりちゃんはそう言うと、クッションに座ってスリープモードのパソコンを立ち上げた。
見慣れた光景に安心するとともに、画面に映っている私の知らない少年漫画のアニメの画面を見て、またぞわっとした嫌なものが押し寄せてきた。
いやいや、おかしいから。別に、私以外の友達を家に上げるなんて普通のことでしょ。
私は胸の中で自分にそう言い聞かせながら、ゆりちゃんの隣にあるクッションに座ろうとした。
座ろうとしたクッションに入っていた皺を見て、さっきまで私じゃない子がここに座っていたんだと思ってしまい、嫌な感情がまた沸々と湧き出てくる。
だめだ。ダメだと思っているのに、嫌な感情が押し寄せてくる。
私は目を閉じてクッションのしわを伸ばしてから、クッションの位置をゆりちゃんのすぐ近くに持っていって、勢いに任せるように座った。
肩と肩がぶつかり合うくらい、というか、ゆりちゃんの肩にもたれかかるようにして座った。
「あ、あおいちゃん?」
「……」
ゆりちゃんは私がもたれかかると、びくんっと体を跳ねさせた。
またこの反応だ。
最近、ゆりちゃんはちょっとしたことで以上に驚く。それから、何かを諦めたような目をして私から視線を逸らすのだ。
私はゆりちゃんの言葉に何も返さず、再生されたアニメを見つめていた。
それからしばらくして、私はむくれながら口を開く。
「ねぇ、香織ともこのくらいの距離でアニメ観てたの?」
「え? う、ううん。もっと遠かったけど」
私はゆりちゃんの言葉を聞いて、少しだけ勝ち誇ったように鼻息を漏らす。
それから、また思い出したようにむくれた言葉を続ける。
「最近、ゆりちゃんと香織と仲いいよね」
「うん。香織ちゃん、初めは近づきづらかったけど、話してみると話しやすいね。香織ちゃん、また今度家に遊びに来てくれるって言ってた」
「そ、そうなんだ」
私は嬉しそうなゆりちゃんの声を聞いて、分かりやすく取り乱してしまう。
どうやら、私の知らない所で二人の距離が近づいているみたいだ。
……私も次いつ遊ぶかなんて約束していないのに、香織とはいつの間にかそんな仲になっているみたい。
私は面白くなくなって、ふざけ気味にゆりちゃんにぐいっと体重をかけた。
「ちょっ、わっ」
すると、体重をかけすぎたせいか、ゆりちゃんがよろめきながら、体を捻って両手を斜め後ろに着いた。
そして、ゆりちゃんが上半身を捻ったせいで、私はゆりちゃんの胸の中に飛び込む形になってしまった。
私はゆりちゃんの体の柔らかさと温もりに包まれてしまい、一気に心拍数を上げられてしまった。
「ご、ごめんっ!」
私が慌てて顔を上げると、すぐそこにゆりちゃんの顔があった。
「「っ」」
見つめ合うとゆりちゃんの顔が赤くなって、私からぱっと目を逸らした。
私は目を晒されたことが嫌になって、子供がいじけるようにゆりちゃんの服をきゅっと引く。
「あ、あおいちゃんっ」
私に視線を戻したゆりちゃんの恥ずかしそうな顔を見て、胸の音をさらに大きくさせた。
ここですぐにどけば、ただの事故で済ませられる。
私はそこまで分かっていながら、まっすぐゆりちゃんを見つめて、真剣な表情で続ける。
「か、香織と私、どっちが大事?」
「え?」
……どこか子供っぽい言い回しになってしまった。
いや、子供はこんなに耳を熱くさせながら、同性の友達に迫ったりはしないか。
ゆりちゃんは聞き間違いだと思ったのか、目をぱちぱちとさせていた。
それでも、私が何も言わずにゆりちゃんを見つめていると、ゆりちゃんは私から視線を逸らした。
「ど、どっちも大事だけど、私はあおいちゃんの親友になりたいと思ってるから、あおいちゃん、かな」
「親友?」
「う、うん。あおいちゃんの隣にいれるような存在になりたいなって、最近思ってて。他の子たちよりも仲良くなりたいなって思ってる」
ゆりちゃんは照れ臭そうにそう言って、ちらっと私を見た。
私は初めて聞いたゆりちゃんの気持ちに、少し複雑な気持ちになった。
私と仲良くしたというのは純粋に嬉しい。
でも、その形が親友に落ち着こうとしていることがモヤッとした。
「しょ、証明してよ」
「証明?」
「私が他の子たちとは違うってこと、証明して」
私は子供のようにそう言って、ゆりちゃんにぐいっと迫る。
私を意識しているって言って、ちょっとしたスキンシップで顔を赤くしていたのに、ただ親友になりたいだけ?
あんなに本気の抱擁を私にしておいて、本当にそれだけ?
本当は、私のことが好きなんじゃないの?
ゆりちゃんと再会してからのあれこれを思い出しても、私はそれらを上手く言葉にすることができなかった。
休みの日もゆりちゃんのことをばかり考えていて、ちょっと他の子と遊ぶだけで嫌な気持ちになって、女の子相手にどきどきして。
そんな自分の感情も上手く伝えられる気がしなかった。
だから、私はゆりちゃんのどこか熱っぽい瞳を見つめてから、そっと目を閉じた。
ゆりちゃんの気持ちが知りたい。私の気持ちを確かめたい。
そんなことを考えて。
「……だ、だめっ」
しかし、ゆりちゃんは私の唇に触れることなく、ただ小さな声でそんな言葉を漏らした。
その弱弱しいゆりちゃんの言葉を聞いて、私はハッとさせられた。
そして、自分がとんでもないことをしていたことに気がついた。
私は慌ててゆりちゃんから離れて立ち上がって、誤魔化すように笑う。
「ごめんごめん、少しふざけ過ぎちゃったかなって」
「ふ、ふざけ過ぎたって、え?」
ゆりちゃんはぽかんとしたまま座っていたので、私は荷物を取って扉の方に向かう。
「私、今日はもう帰るね! なんか変なこと言っちゃってごめん、疲れてるのかも!」
「ま、待って、あおいちゃん!」
ゆりちゃんが必死な顔で私に手を伸ばしたのを見ながら、私は部屋の扉を開けて何でもない感じで振り返る。
さすがに、今ゆりちゃんに呼び止められたら、上手く言い訳できる気がしない。
……それに、笑顔を作り続けるのももう無理みたいだ。
「じゃあね!」
私は軽く手を上げて、ゆりちゃんの部屋を後にした。
そのまま急いで階段を降りて玄関の扉を開けると、さっきよりも雨が強く降っていた。
私は鉛色の空を見上げてから、自分が雨宿りのためにゆりちゃんの家にいたことを思い出す。
それでも、後ろから階段を降りる音が聞こえてきて、私は逃げるようにゆりちゃんの家を飛び出した。
……胸がずきずきとして痛い。
その痛さを誤魔化すには、少しくらい濡れた方がいいと思った。