お前女だったのか⁉ by陰キャぼっちな私【百合】 作:荒井竜馬
「え、百合アニメを観て、私のことを強く意識するようになったの?」
「う、うん。多分、入学式の日以上にあおいちゃんを意識するようになったのは、それが原因だと思う」
あおいちゃんと校舎を出てしばらく歩いていると、私の態度が入学式の日に会った時と、それ以降で明らかに態度が違っていたという話になった。
思い当たる節があり過ぎたので、私が入学式の後の三連休であったことをあおいちゃんに話していた。
まさか、またこうしてあおいちゃんと話せる日が来るなんて。
私がそんなふうに浮かれていると、あおいちゃんは私を見て目をぱちぱちとさせた。
「ゆりちゃん。それって、作品に影響されて私を意識し過ぎたってことだよね?」
「多分。でも、入学式であったときから、あおいちゃんを見ると心臓がうるさかった気もするし」
「でも、ゆりちゃんは入学式まで私のこと男の子だと思っていたわけでしょ? ちょうど、頭の整理が追い付いていなかったときじゃない?」
「うん。だ、だから百合アニメとか観て、気持ちを確かめようとしたの」
あおいちゃんは私の言葉を聞いて、顎に手を置いて真剣に考えこんでいた。
どうしたのだろうと首を傾げていると、あおいちゃんはパッと顔を上げた。
「別にゆりちゃんの気持ちを疑う気なんてないんだけど……そのアニメとかを観たから、その影響を受けて気持ちがそっちに引っ張られたってことはない?」
「え?」
私は思いもしなかった言葉を聞いて、間の抜けた声を漏らす。
それから、私はあおいちゃんの言葉を頭の中で整理する。
……あれ? 確かに、そう言われればそんな気がしてきた。
いやいや、それでもあおいちゃんの隣を歩けば鼓動が速くなるし、他の子たちを見るのとは違う視線を向けている。
でも、これらが全部あおいちゃんの言う通りだとしたら?
「じゃ、じゃあ、このドキドキは、に、偽物なの?」
私は胸元をきゅっと押さえて、あおいちゃんを見る。
すると、あおいちゃんは困ったように眉を下げてから、思い付いたように『あっ』と声を漏らした。
それから、あおいちゃんは私の顔を覗き込むようにして続ける。
「それなら、一緒に少し考え直してみない?」
「い、一緒にって?」
「ゆりちゃん、この後時間ある?」
「時間? う、うん。特にやることもないし、時間なら余ってるくらいあるけど」
私は近づいてきたあおいちゃんに気圧されるように、少し体を後ろに逸らす。すると、あおいちゃんの目が一瞬きらんと光ったように見えた。
「それなら、ゆりちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
「へ?」
私は一瞬あおいちゃんの言葉の意味が分からず固まった。それから、慌てて後退って目を見開く。
初恋の人が急に家に遊びに来るっていう状況で、驚かずに入れるはずがない!
「わ、私の家⁉ な、何もないよ!」
私が分かりやすく動揺すると、あおいちゃんは私が後退った距離をずいっと詰めてきた。
それから、なぜかワクワクとした感じで私の顔を覗く。
「さっきの話によると、その百合系の漫画とかがあるんでしょ? それなら、私もそれに少し目を通してみたいからさ」
「え? あおいちゃんも百合に興味が?」
私が目を細めると、あおいちゃんは慌てたように手を横にブンブンと振って続ける。
「違う、違うってば! そうじゃなくて、ゆりちゃんが読んだのと同じようなものを読んで、私がゆりちゃんと同じような気持ちになるか確かめてみようと思って」
「な、なるほど」
「もしも、私が同じような気持ちになれば、ゆりちゃんの気持ちも漫画やアニメの影響が強かったっていうことになるでしょ?」
私はあおいちゃんの言葉に頷く。
確かに、他の人が私と同じようなことをしてどうなるかを実験してみるのは、一番わかりやすいかもしれない。
あおいちゃんが百合作品を見て、少しでも女の子に引かれるようになったら、私のこの気持ちも勘違いだと言えるかもしれない。
……とてもそんな気はしないけど、試す価値はあるはずだ。
しかし、あおいちゃんの言葉を聞いて、私は引っ掛かりを覚えた点があった。
「でも、その原理でいうと、私が読んだ漫画とか観たアニメを完全になぞる必要があるのでは?」
「もちろん、そのつもりだけど?」
「あー……うー」
「何かマズいことでもあるの?」
無垢な顔に見つめられて、私は後ろめたさから視線をあおいちゃんから逸らした。
マズいことでもあるのかだって? そんなのマズいことだらけだ!
ようやく仲直りできた初恋相手の幼馴染に、自分の癖の部分を晒すことになるのだから、問題がないわけがない。
さすがに、全部見せるのはマズい! どうにか普通そうなのを紛れ込ませて、あれをこうして、それをどうして……
「えっと、量が多いから一部抜粋という形にしない?」
「そんなに多いの?」
「か、かなり」
「そういうことなら、そうしよ。抜粋する漫画とかアニメはゆりちゃんに任せるから!」
私はあおいちゃんの言葉を聞いて、バレないように小さくガッツポーズをした。
これならライト系の百合を勧めれば、問題ないはず。
でも、それだと一緒に私のことを考えてくれているあおいちゃんに悪い気もする……どうしたものか。
私は家に着くまでの間、大急ぎであおいちゃんが見ても問題なさそうな百合作品をピックアップするのだった。