RE:MORI~輪廻少女のマルチバース~   作:ひまなめこ

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10話 放課後三つ巴合戦3

「ここからが俺のハイライト。反撃の時間だ!」

 

次の瞬間、成海は氷川の反応速度を上回る速さで氷川の後ろに回り込み、今までのお返しと言わんばかりに無数の打撃を全身に食らわせる。

 

腹、脇腹、鳩尾、胸、背中、足、腕、etc。

いくらスーツで防御力が向上していようとも、同じくスーツで強化された拳を…しかも、【()()()()()(ロー)】で更に威力が増した攻撃を何発も食らってしまえば、流石の氷川も余裕の表情を保つ事は出来ない。

 

成海の猛攻をまともに受けた氷川の体は受けた攻撃の衝撃により、空中に投げ出させる。

 

地面からほんの数メートル、滞空時間にして数秒。

決して、長くない飛距離と滞空時間、しかしそんな隙すらも今の成海にとっては豊かな花園で優雅にティータイムを満喫出来る程に十二分な余裕を持てる時間であった。

 

空中に浮いて、たった数秒の間身動きを取れなくなった氷川に対して成海は更なる追撃を仕掛ける。

 

氷川の体に対してマウント体勢を取れる位置に一瞬で移動し、自身の体重を十分に乗せた、かかと落としを食らわせる。

 

それにより、氷川の体は地面に思い切り叩きつけられ、まるで毬の様に再び空中に跳ね返る。

 

今度は氷川の体の真下から強烈なアッパーを食らわせて氷川の体を更に上空へと押し出す。

 

そして、極限まで強化された脚力で跳躍し、再び氷川の真下から今度は渾身の蹴りをお見舞いする。

 

更に上空に投げ出された氷川の体を一瞥して、成海は一度近くのビルの屋上に降り立ち、再び全力で跳躍する。

 

高層ビルよりも高い位置まで打ち上げられた氷川よりももっと高い位置まで飛び上がり、そして氷川に向かって再び自身の体重を乗せた蹴りを放ち、氷川を出来るだけ遠くに向かってぶっ飛ばす。

 

その際、いくつものビルを突き破って氷川の体はくの字に曲がりながら、実に数十メートル先まで吹き飛んだ。

 

「ぐっ…。」

 

幾つものビルを突き破って漸く勢いが止まった氷川は地面に横たわりながら、苦悶の声を漏らす。

 

(まだ余裕があると思っていたスーツの耐久値が…このままでは、ヤられる…。)

「なら、私も使うしか…。…【オーバーふr「オラッ!」

 

一瞬…たった一瞬の出来事であった。

 

成海からの猛攻を何とか耐えしのいだ氷川は成海に対抗するために自身も【()()()()()(ロー)】を使用しようとした。

 

何故、一年の氷川が【()()()()()(ロー)】の存在を知っていて、しかも使えるのかは謎であるが、氷川は使おうとしていた。

成海を侮れない敵と認識して、これ以上は出し惜しみ出来ないと判断して、使おうとしたのだ。

 

しかし、その刹那、突然現れたもう一人の影。

聴力と視力を一時的に失い、暫くの間、戦線離脱していた忘れかけていた存在。

 

リモリが手に持つ銃を鈍器のように振りかざして氷川に強烈な一撃を入れた。

 

「がっ!?」

(馬鹿な…もう視力と聴力が回復したと言うのですか…!)

 

「スンスン…今の感触…この匂い…氷川に当たったな…?」

 

否、リモリは未だに視力と聴力は回復していない。

なら、どの様にして氷川に攻撃を当てたのか?

何故、もう動けるのか?

 

それは…。

 

「スンスン…向こうに成海の匂いがする。ここに近付いてきているな。」

 

(まさか…匂い…?)

 

そう、リモリは残された感覚…嗅覚を頼りに氷川と成海の位置を特定しているのだ。

 

あくまでも頼れる感覚は嗅覚だけ。

目や耳のように、相手の動きや攻撃のタイミングまでは分からない。

分かるのは相手の位置のみ。

 

しかし、それだけでも十分戦えるだけのポテンシャルとフィジカルをリモリは持っている。

 

成海の覚醒に続き、リモリの戦線復活である。

 

「成海が来る前に先に氷川を倒しちゃうか。」

 

そう言うや否やリモリは目にも止まらぬ速さで、氷川に接近し、スピード、体重、腰全てを乗せた渾身の拳を無防備な氷川の腹部に放った。

 

「ぐふっ!」

(速い…!この速さ間違いなく音速に達している。)

 

以前、海澤が訓練の時に言っていた事を覚えているだろうか?

 

訓練用のS.O. スーツはランクこそFであるが、このスーツにより強化される身体能力の上がり幅は計り知れない。

 

訓練用スーツでも最大スピードはマッハ1つまり、音速に達するのだと海澤から明言されたのだ。

 

しかし、あくまで最大スピードが音速。

このスーツを着用した者が全員音速を出せると言う訳ではない。

 

これも【()()()()()(ロー)】と同じで、一握りの優れた素質と身体能力が無ければなし得ない技能なのだ。

 

スーツの力で身体能力は更にブーストされるが、訓練用のスーツで音速を出すと言うのはそれ相応の身体能力が必須なのである。

 

それを目の前のリモリはやってのけたのだ。

しかも目も耳もまともに機能しない状態で…。

 

彼がどれだけのポテンシャルを秘めた化け物か、これだけでも分かるだろう。

 

「…まだ安全機能は作動してないっぽい?…結構頑丈だな…。なら、もういっちょ!」

 

そして再び、強烈な一撃が氷川に炸裂する。

 

「んがっ!!」

 

―――ガチューンッ!

 

そして、遂にスーツの安全機能が作動し、氷川の周りにバリアが展開されると共に氷川の体からスーツが強制脱着された。

 

「くっ!」

(負けた…。私が…この私が…?)

 

「まず一人。後は…あのアドレナリンがプンプンしてる成海を倒せば良いんだな。」

 

次の瞬間、敗北した氷川をその場に放置して、成海の匂いがする位置へと弾丸の如く…いや、音の如く一直線に飛び出して行った。

 

「…っ。」

 

残された氷川は未だに展開されたまま消えないバリアの中で一人現実を受け入れ切れずに、唇を噛み締めていた。

 

そんな彼女の焦燥など気にも留めず戦いは生き残った二人によって苛烈を極めようとしていた。

 

 

――――ビュンッ!!

 

(…特待生…!物凄い速さでこっちに突っ込んでくる…!もう、復活したのか…?)

 

音速に達したスピードで接近してくるリモリを成海は感知し身構える。

()()()()()(ロー)】によって肉体のリミッターを過剰に突破させた成海は音速であろうと並大抵の飛行物体は目視出来る領域にまで至っている。

 

「特待生様のご復活か…。最高の演目を用意してくれるじゃねえか。お蔭で俺の舞台の盛り上がりは最高潮だせ!」

 

成海は拳を極限まで固めて、真っ直ぐ突っ込んでくるリモリの腹部に突き刺す。

 

普段のリモリなら兎も角、今のリモリは目と耳がまともに機能していない。

その為、成海の存在を感知出来ても、攻撃を避けることは出来ないのだ。

 

故にリモリは自ら加速したスピードにより、受けるダメージが増した成海の拳をノーガードで受けてしまった。

 

「ぐっ!…少しやんちゃなブレーキだな…。もう少し優しく止めてくれも良かったんじゃねえか?」

 

「へっ!その様子だと…まだ、目と耳は回復してねえな?お前程の身体能力なら今くらいの攻撃は避けれてないとおかしい。」

 

「…ん?何か喋ってんのか?まあ、良い。その拳…くれるなら貰うぜ。」

 

リモリは自身の腹部に突き刺さっている成海の拳を銃を持ってない方の腕でガッチリホールドする。

 

「しっかり掴んだぜ!これで目が見えてなくても関係ねえ!てめえの安全機能が作動するまで、殴りまくってやるよ!」

 

リモリは銃を再び鈍器の様に振りかざして成海の頭部に向かって思い切り振り下ろす。

 

「銃をそんな使い方する奴、初めて見たよ…。なら、俺も折角取って置きの鈍器を手に入れた事だし試し振りしてやろうか!」

 

そう言って成海は自身の腕にしがみ付いているリモリの体を持ち上げて、これまた巨大な鈍器で壁を殴る様にリモリの体を近くのビルの壁に打ち付ける。

 

―――ゴンッ!

 

重々しい轟音が鳴り響くと共にビルの壁に巨大な亀裂が入った。

 

「ガバッ!!」

 

「まだまだ!」

 

成海は更にリモリの体を地面に叩き付けて、そのままロードローラーの様に地面を滑って行く。

 

「ぐっぐぅ…!」

 

苦悶の声を上げて遂にリモリは銃からも成海の腕からも手を放した。

 

その隙に成海はリモリの銃を拾い上げて、リモリに対して発砲する。

 

「ぶべっ!…銃を奪われたのか…。」

 

「ああ、そうだよ。つっても今のお前には聞こえないか…。もう、お前の負けは濃厚だ。このまま俺の射的の的になってろ。」

 

「…いや、俺は負けねえ。まだ負けてねえ。」

 

リモリはよろよろと立ち上がり、見えていない筈の目で成海を睨む。

 

その瞬間、一瞬だけ成海はリモリの瞳が黄金に光った様に見えた気がした。

 

リモリの瞳は黄金ではない。

寧ろ金色とは対照的な白銀色をしている。

しかし、今しがた成海は確かにリモリの瞳が黄金に光るのを目にした。

 

「…っ!」

(今…目が光って…。見間違えか…?それになんだ…この音…?)

 

―――ドンッド!キイィィーィイッ!!…ドンッド!キイィィーィイ!!…ドンッド!キイィィーィイ!!

 

まるで何かの警告音の様な音が突然リモリの体から鳴り響く。

 

その音に唯一心当たりのある人間が一人、モニタールームでこの戦いを観戦している。

 

_

__

___

 

「威嚇音…。」

 

誰もいないモニタールームで海澤のその囁きは冷たい金属質の床に吸収される。

 

海澤が口にした威嚇音とは、天敵を前にした野生動物や昆虫が起こす、その種特有の防衛手段である。

 

今現在リモリから鳴り響くこの威嚇音は海澤のこれまでの人生で幾度も耳にしたことのある忘れたくても忘れられない音であった。

 

何故なら…。

 

「【B.U.M.】の威嚇音…。あり得ない話ではないが、よもやリモリの体からこの音が発生するとは…それだけ追い詰められていたということか…。」

 

成海の無意識の【()()()()()(ロー)】に引き続き、リモリの【B.U.M.】としての能力の覚醒…。

 

この模擬戦で起きた出来事の数々は海澤の一生分の驚きを引き出したと言っても過言ではない。

それ程までにこの戦いは模擬戦でありながら、刮目すべき激戦であった。

 

しかし、漸くそれもクライマックスである。

 

「…リモリの様子が…!あいつの周りの空間が歪んでいる?」

 

リモリの変化は威嚇音だけに止まらず、更に新たな力を見せ付ける。

 

場面は再び訓練所ゴーストタウンエリアへ変わる。

_

__

___

 

「滾るんだよ…どうしようもなくな…。こんなどうしようもねえ状況なのに興奮して…魂が燃焼されるような感覚が全身を巡って熱くなる…。…脳だ…、この熱の発生源は…一番に熱を感じているのは俺のこの脳だぜ。俺の脳が滾る…!どうしようもなく滾る!」

 

その瞬間、リモリの体を、空間を歪ます程の熱気が包み込む。

 

(何かヤバい…!早く決着をつけねえと!)

 

成海は慌て銃を発砲する。

しかし…。

 

―――ジュウ…!

 

銃から打ち出された海水はリモリが纏う熱気によってリモリに到達する前に完全に蒸発してしまった。

 

「なっ!」

 

「もう、お前には俺に対抗する手段はねえ。」

 

次の瞬間、リモリの姿が成海の目の前から消えた。

 

(速い?!何処に行きやがった…。)

 

成海は必死にリモリの行方を探…「遅えよ、バーカ。」そうとした刹那、成海の脳がリモリを探す為に回りを見渡そうと…周りを観察しようと…命令を下し、その命令信号が体に伝達するまでのコンマ0.1秒の間に…リモリは既に成海の背後に回り込んでいた。

 

そして、その手でゆっくりと優しく成海に触れた。

勢いを乗せるでもなく、拳を思い切り固く握るでもなく、ただ掌で成海に触れた。

 

次の瞬間、成海の体に100℃は優に超えるであろう熱が迸る。

 

「あっつ!!」

(何だ…この力…。特待生の体がいきなり熱くなりやがった。それに今の俺はスーツを着ているんだぞ…それなのにこれ程までに熱く感じるって事は、かなりの高体温って事だ。何でそんな状態で動ける…?)

 

成海達が今着用しているスーツはFランクとは言え、それなりの防御力を誇っている。

 

幾度も殴りあっても、目立った外傷が無いのはこのスーツの優れた防衛力故。

 

熱だって完全に遮断出来るわけではないが、並大抵の熱ではダメージにならない程にこのスーツは頑丈な作りになっている。

 

にもかかわらず、先程の成海はあまりの熱さに怯んでしまった。

 

先程、100℃は優に超えたと言及したが、それは今の成海が感じた体感温度の話である。

 

つまり、ある程度の熱に耐えられるスーツを着用した成海がリモリの体温を100℃以上に感じたのだ。

 

それ程の熱気をリモリは放っているのである。

 

 

「もう、俺に触ることも出来ないだろ。」

 

「くっ…。」

 

「だが、俺だけ触れられない無敵状態ってのはフェアじゃえねよな?特別に俺もお前に触らずにお前を倒してやるよ。」

 

「はあ?何言って…。」

 

次の瞬間、リモリは腰を落として大股に構えて、拳を引いて成海に向かって空を殴った。

 

それによって、スーツと謎の覚醒によって極限まで強化されたリモリの拳とリモリが纏う高温の熱で空気が押し出されて、不可視の衝撃波が発生し、成海を襲った。

 

「ぐうおぁ!」

 

不可視故に見えない、見えない故に不可避。

成海は防御する暇もなく、リモリの衝撃波によって吹き飛ばされ、そして…。

 

―――ガチューンッ!

 

バリアが展開されると共に成海のスーツが強制脱着され、成海はリモリに敗北し、遂にこの戦いに決着が付いた。

 

「今の感触…勝った…よな?」

 

リモリは自身の勝利を曖昧に実感しながら、一先ずこの放課後三つ巴合戦の幕を下ろすのだった。

 

 

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