RE:MORI~輪廻少女のマルチバース~   作:ひまなめこ

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6話 先生とお食事

体力テストが終わった後、リモリと氷川は職員室に呼び出されて、海澤から説教を食らっていた。

 

「はあぁ~、氷川…お前監視役だからと言って余りリモリにちょっかいを出すな。」

 

「御言葉ですが、海澤先生。要監視対象である。"これ"を警戒するのは監視役として当然では?」

 

リモリの前でも猛威を奮った減らず口が海澤に対して、反論として炸裂する。

 

「反抗期に成り立ての中学生かお前は…。屁理屈を捏ねるな。監視役としてリモリを警戒するのは良いが、良くも悪くも過干渉になるな。…それと、リモリもルームメイトとして、氷川をコントロール出来るくらいには成れ。」

 

(…何で俺まで怒られるの?)

 

リモリは完全に被害者であり、怒られる謂れは全くないのだが、喧嘩両成敗と言う言葉があるように、氷川からの過干渉を上手くいなして、状況をコントロール出来なかったリモリの未熟性も原因の一つであることは確かである。

 

「はあ、もう良い。説教はこのくらいにしておいてやる。さっさと寮へ戻れ。」

 

「「はい…。」」

 

やっと、海澤の説教から解放されて、リモリと氷川は職員室を後にしようとする。

 

「ちょっと待て、リモリにはまだ話がある。」

 

しかし、職員室から出る直前でリモリだけ、海澤に引き留められてしまった。

 

「ふっ…では、私はお先に。」

 

何やらリモリを小馬鹿にするように鼻で笑った氷川は勝ち誇った顔をして職員室を後にした。

 

「…ちっ。それで話ってなんだよ?」

 

「ああ、イヌガミの手掛かりを探るついでに、お前の身辺調査をしようと思ってな。」

 

「身辺調査?」

 

それは、2026年を生きていた男子学生と言う情報しか覚えていない、ほぼ記憶喪失のリモリが思い付きそうで今まで思いつかなった事だった。

 

「2026年の日本の戸籍謄本を調べようと思っている。そこでお前の苗字を知りたい。思い出せるか?」

 

「うーん、俺の苗字…。」

 

リモリは自分の苗字を思い出すために頭を捻る。

すると、リモリの頭の中に、昨日の夜に見た夢の内容がフラッシュバックした。

 

「犬飼…。」

 

「…それがお前の苗字か?」

 

「多分…確証は無いけど。」

 

何せ、犬飼と言う苗字は夢で見たあの謎の白衣の男の名前だ。

所詮夢に出てきた人物であり、架空の存在の可能性もある。

しかし、もし万が一あの夢に何か意味があるのなら、試しに調べてみる価値はあるだろう。

 

2026年を生きていた、仮称 犬飼リモリと言う男の戸籍を。

 

「分かった。一応調べて見よう。引き留めて悪かったな。寮に戻って「ぐうぅ~。」…ん?」

 

その瞬間、海澤の言葉を遮るように、リモリの腹の虫が鳴ってしまった。

 

「腹が減っているのか?」

 

「…朝から何も食べていなくて…。」

 

リモリは朝5:00に起床し、教室に来ては、隣の氷川から飯テロを食らいながら、そして、体力テストを受けながら、今この時まで空腹に耐え続けていたのだ。

 

だが、ここで遂に限界が訪れてしまったのである。

 

「…はあ、今日の授業はもう無い。特別にお前を食事に連れて行ってやる。」

 

「え?本当か?」

 

養成所 入学初日は入学式であり、当然授業は無く昼で終わる。二日目も生徒達の実力を推し測る体力テストがメインであり、その結果次第で、今後の三日目以降のカリキュラムを構築する。

故に、今日の授業は昼で終わりなのだ。

 

つまり、これからは自由時間。

 

寮母から許可を取れば学外へ行くことも可能なのである。

 

「お前と、仕事やイヌガミ以外の事でゆっくり話したいと思っていたからな。丁度良い。」

 

「やった!海澤さん太っ腹。」

 

こうして、リモリと海澤は学外へ昼食を取りに行くのだった。

 

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東京都千代田区。

そこは、リモリが通う【D.H.A.O.】養成学校が所在している地区である。

 

そして、海澤が率いる三番隊の担当区域でもある。

 

「今更だけど、俺が普通に街を歩いても問題にならないのか?」

 

今現在、リモリは海澤と共に昼食を取る為、養成所の敷地内から出て、千代田区内を練り歩いている。

 

しかし、そんな状況に、リモリは一抹の不安を抱いてしまう。

何故なら、リモリは養成所内では要監視対象として回りの人間から警戒されているのだ。

故に、リモリが街を歩けば騒ぎになるのでは無いかと、少し不安になっていた。

 

 

「関東地方は私の三番隊が担当している地域なんだ。だから、学外に出れば、お前の事は私がある程度融通を効かせてやれる。」

 

「三番…隊?」

 

海澤の口から飛び出した聞きなれない単語にリモリは疑問符を浮かべながら、話の大半を右から左へと聞き流してしまう。

 

「言っていなかったな。この日本では7つの部隊が7地方に別れて活動している。例えば一番隊は北海道、私が隊長を務めている三番隊がこの関東と言う様にな。」

 

「何で、日本で活動する必要があるんだ?【B.U.M.】は日本にはいないんだろ?」

 

リモリの疑問は当然な物である。

 

【B.U.M.】は島国を除く、ユーラシア大陸とアフリカ大陸を支配している人類の天敵。

しかし、海水が弱点であり、空を飛ぶ事も出来ないため、海を渡って日本に来る事はない。

 

故に、わざわざ地方毎に別れて活動する必要はないのだ。

 

「理由ならしっかりある。まず、日本を【B.U.M.】の脅威から守るため。」

 

「でも、日本には【B.U.M.】来ないだろ?」

 

「今はな。いずれ、海を渡れる様に進化する可能性もある。それに備えて、7つの部隊に別れて日本を守護しているんだ。…これが一つ目。」

 

海澤は話を一段落させながら、指を一本ピンと立てる。

一つ目と言うことは、まだ他に理由があると言うことだろう。

 

「二つ目は警察、消防士、自衛隊等の公安系公務員が全て【D.H.A.O.】に統合されたから。【D.H.A.O.】も元は数ある公安系公務員職の一つだったが、公安の職が増えて国民から徴収する税金が増えてしまってな。2030年に全ての公安系公務員が一纏めに統合されたんだ。」

 

「つまり、統合された警察や消防士の仕事をこなすために地方に別れて活動しているのか?」

 

「ああ、とは言え、全ての仕事を一つの隊が担当する訳じゃない。一つの部隊に消防課、検察課など、様々な分野に合わせた部署が存在し、その部署にあった内容の仕事をこなしている。三番隊に属するそれら全ての部署を統括するのが隊長だ。場所によっては局長とも呼ばれている。」

 

これで、一通りの説明が終わったと言わんばかりに海澤は話を一段落させる。

 

徴収する税金削減の為に行われた公安系公務員の統合であるが、かなり無理のあるものでは無いだろうか?

 

一纏めにすることで、確かに徴収される税は減るだろう。

その他にも事件発生時の救急活動を行う消防課と事件性の捜査を行う検察課の連携が円滑な物になると言う利点が有るかも知れない。

だが、それら全てを統括する隊長への負担はきっと凡人では計り知れない物なのではなかろうか。

 

「凄いな…。明らかにオーバーワークじゃない?」

 

「そうでもない。慣れればどうと言うことはない。」

 

思考回路が完全に社畜のそれである。

 

多忙の隊長の仕事にAクラスの担任…そんなオーバーワークで良く生きていられるものである。

 

「それよりも、お前は早く来年からの分課選択を決めておいた方が良い。」

 

「分課選択?」

 

きっと呼んで字の如く、配属される課…部署を決める選択なのだろうが、リモリにとっては2つ目の聞きなれない単語である。

 

「養成所では最初の一年で【D.H.A.O.】としての基礎を学び、二年目で将来配属される部署を選択する。お前のように優秀な能力を持つ者は皆私と同じ探索課に入るが、人によっては前線を離れる為に検察課を選ぶ者もいる。慎重に選ぶのも良いが、のんびりはしていられんぞ。」

 

とは言われてもたったの二年で自分の将来を決めるなど、容易な事ではあるまい。

特に最近目覚めたばかりの若干記憶喪失気味なリモリにとってはかなり困難を極める物だろう。

 

「…おっと、行かんな。お前と仕事以外の話をしようと私から言い出したのに。口を開けば、三番隊がどうだの、将来がどうだの退屈な話をしてしまった。」

 

「いや、凄く勉強になったよ。俺にとっちゃ104年後の未来の事なんて知らない事だらけだからな。」

 

体の組成が【B.U.M.】に限りなく近い事で回りから恐れられているリモリにとって、この時代の常識を知れる機会は海澤に聞く意外で殆んど無いだろう。

 

そんな彼にとって、今の話は大変ありがたい事であり、退屈なんてとんでもないのだ。

 

「よし、着いたぞ、今日はここで昼食を摂ろう。」

 

会話を交わしながら歩いている内に目的の場所へ到着したようで、海澤はとある建物の前で立ち止まった。

 

「…カフェ?」

 

目の前に建っているのは、古き良き雰囲気を醸し出す、アンティークな外装のカフェ。

 

「私の行きつけの店だ。カフェだが、ランチメニューもそれなりに充実しているぞ。」

 

海澤は扉を開けて、カフェの中に入る。

彼女に続く様に、リモリも恐る恐るカフェの中に入れば、そこには外装と同じく、アンティークな雰囲気に古いオークの木の香りが漂う、穏やかな内装が広がっていた。

 

「いらっしゃいませ…って何だ海澤か…。」

 

「残念、海澤だ。新規の客じゃなくて悪かったな。どうせ、この店の事だ。私達以外来ていないだろうから、適当に座らせて貰うぞ?」

 

如何にも常連客の様なやり取りをカフェのマスターらしき人と交わしながら、海澤はリモリを連れて適当なテーブル席に座る。

 

「勝手に決めつけるなよ…。」

 

「何だ?なら、少しは客入りが増えたのか?」

 

「これでも、早朝と夜は繁盛してんだよ!いつも絶妙なタイミングで来やがって。」

 

「良いのか?そんな口を聞いて、一応ここに新規の客を連れてきたんだがらな。」

 

口角を上げながら、海澤はリモリを指差す。

 

(何か、いつもの海澤さんと違うな。こう言う一面もあるんだ…。)

 

いつもの厳格な雰囲気からは信じられない程、今の海澤の表情はガラリと変わり、友達と何気ない軽口を言い合う年相応の女性の様に見える。

 

「…その子、何処かで見た事あるな…。最近お前がベルリンから連れてきたって言う【B.U.M.】か?」

 

どうやら、リモリの存在は既に学外にも好評されているようだ。

しかし、それなら、リモリを一目見た瞬間に騒ぎ出しそうな物だが、このカフェのマスターは依然として、取り乱す様子がない。

 

「俺って、世間に公表されてたの?」

 

「ああ、調査結果を世間に公表する事は探索課の義務だからな。【B.U.M.】の脅威と常に隣り合わせなこのご時世、我々は何か成果を挙げて国民を安心させなければ成らない。秘匿などもっての他だ。」

 

海澤はそう言うが、リモリの存在を公表した方が、明らかに国民の不安を煽ることに成らないだろうか?

 

「…逆効果じゃね?」

 

「お前は対【B.U.M.】の新兵器作成の為の実験サンプルと言うことになっている。その為、国民からお前への恐怖や不安の声はあまり無い。」

 

国民からの敵意が向けられていないのはリモリとしても、ありがたい事であるが、勝手に実験サンプルとして世間に好評されるのは、あまり気分の良い事では無いだろう。

 

いつぞやの氷川が言っていた「あなたの意思は尊重されません。」と言う言葉が不意にフラッシュバックしてしまったリモリは心に僅かな怒りの炎が灯るのを感じた。

 

「…やっぱり、俺って人として見られていないのか?人として扱われていないのか?」

 

「…勝手にお前の情報を公開したことは悪かったと思っている。しかし、私はお前を人外として扱った覚えはない。お前をベルリンから保護したあの時から私はお前の事を対等な人間として、そして大事な生徒として向き合って来たつもりだ。そうじゃなきゃ私のお気に入りの店に連れて来たりはしない。」

 

海澤の言葉は真実である。

リモリに養成所に通う話を持ち出した時も、リモリの意思を最優先に尊重していた。

 

学校の生徒達がリモリに怯え、学外の一般人がリモリを実験サンプルとして見ている中、海澤だけは、リモリを【B.U.M.】では無く、一人の人としてリモリを見ていたのだ。

 

「はあ、全くうちの店で辛気臭い話しやがって…。今日は特別に一品サービスしてやる。思う存分食え!あと、海澤。お前はどうせ何時もカップ麺ばっか食ってんだろうから、サラダ増し増しにしてやる。」

 

(マスター、優しいな…。て言うか海澤さん、カップ麺食ってんだ…。少し意外。)

 

そんなこんなで、リモリと海澤はとあるカフェで昼食を共にするのだった。

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養成学校 寮。

リモリは海澤と昼食を摂った後、真っ直ぐ寮の部屋へ戻って来た。

 

がしかし…。

 

「あなたの分際で学外で昼食を摂るだなんて、良いご身分ですね。」

 

部屋の中にはスタンガンを構えて仁王立ちしている氷川が待ち構えていた。

 

「もう、昼寝の時間か?歯磨きする時間くらいは欲しいかな…。」

 

その言葉を最後にリモリの意識は暗闇へと暗転するのだった。

 

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