空の花筏 作:パインサイダー
勢いで書いているからパッションがプロット。
我ながら図太いと評するべきか。あれ程なよなよと心中で愚痴っていたというのに、数日経てばあっという間に新しい環境に適応しているのだから。
4月も後ろから数えた方が早い時期となり、浮き足立っていた周囲も腰を据えて日常を謳歌していた。そろそろ仮入部の時期が始まり、その先にはゴールデンウィークが待ち構えているのだからイベントは盛りだくさんだ。
「ねぇねぇ、キミは何処か部活に所属するの?」
「うーむ。正直どの部活も興味ないんだよな」
「あはは、予想通りな回答だ〜」
そして季節のイベントがなかったとしても、自分の高校生活は退屈とは無縁だったのだろうと確信していた。
理由は勿論、隣の席のに座る彼女だ。口からのアウトプットがド下手である自分なんかでは逆立しても太刀打ちできないレベルのコミュ強なのだ。どうしようもあるまい。
いや、別に相対しようと画策しているわけではないが、根暗の反射的な警戒心がオタクに優しいギャルなんていないと囁いているのだ。
「逆に今井さんは何か所属したい部活でもあるの?」
「そうだねぇ、料理部とか手芸部とか気になってる!」
「めちゃくちゃ家庭的だ!?」
今日もこうして隙を見つけては雑談と洒落込んでいた。最初は自己紹介程度の触りから、今では何気ない雑談を交わしていても苦じゃない程度には砕けた態度を取れる程までに至っていた。
まだ一月も経過していないが、彼女の意外性というかギャップと形容すべきか。そういった落差に度々クラクラしていた。
今だってそうだ。第一印象を押し付ける気は毛頭ないが、派手目なギャル属性とは対極にあるような趣味だと思った。陽キャはカジュアルな運動部でエンジョイ勢ルートが手堅いと思っていたが、傾向と対策が通用するのは定期テストだけらしい。
その一方でゆっくりと情報を咀嚼してみると彼女の内面に対してピッタリとも思う。堅実で等身大の乙女がギャルの様相をしているのが今井リサという同級生の本質だった。
昼休みにお弁当を覗き込んだら筑前煮がこれでもかと収められているJKなんて、世界広しといえど彼女ぐらいではないだろうか。
「むー、なにそれ。そんなにアタシが家庭的なのがダメ?」
「いやごめんて。今井さんにピッタリでお似合いだと思うよ?」
「最後首傾げてるじゃん!心の中でバカにしてるやつじゃん!」
ぷっくりと薄桃色の頬を膨らませて、怒っているアピールをする彼女。あざとさを微塵も感じさせないところがまた、狡い。
ごめんごめんと、両手を合わせる。意外と彼女は引きずるタイプだ。揶揄いすぎて忘れた英語の教科者を見せてくれなかった時は冷や汗をかいたものだ。同じ過ちは繰り返すまいと慌てて自己弁護のターンに移る。
「今井さんが仲良いグループの子達がテニス部に見学へ行ったって話を小耳に挟んだからさ。そっちに流れると思ってたのよ」
「あー、それね。実際めちゃくちゃ楽しそうだった!」
納得したのか下り眉が機嫌を取り戻す。ラケットを素振りするモーションをその場でするぐらいだから、悪くない体験だったのだろう。
彼女はどちらかといえば何をするかよりも誰とするかに比重が寄った考えをしている。クラスメイトでもあり会話の頻度も高いあの集団であれば必然と行き着く先は決まったものだと推察するのは不自然だろうか。
「運動部は活動の時間が多くてね〜。たまにプレイするぐらいがちょうど良いかな」
「時間を気にするってことは、何か他にしたいことがあるの?」
「今すぐって訳じゃないけど、将来的に必要的な?」
「なんじゃそりゃ」
明言を避けるような物言いに思わず苦笑する。彼女自身も要領を得ないというか、正確に言語化できていないような印象を受けた。
しかしそんなバックボーンがあるのであれば文化部を選ぶのも理解できる。運動部に比べて活動内容が緩いこともあり、部活に魅力を見出せない人達が在籍するに留めるなんてのも珍しくない話だ。
「今井さんのお弁当いつも美味しそうだもんね。得意料理は筑前煮というのもプロみがある」
「そんな凝った料理はできないけどね。家族とかに振る舞っているうちに自然とね」
「へー。やっぱり『親しい人』への愛情が1番の隠し味ってやつ?」
「もー、茶化さないでよ!そういうのじゃないからさ!」
アタシ、怒っていますと言わんばかりぷんぷんする彼女もまた可愛い。美人は何をしても見栄えがいいのだからこういう時得だな。これを間近で見ることができるのだから自分のくじ運も捨てたものじゃない。
おとぼけ半分で返したが、もう半分は身勝手な嫉妬でもあった。家族は分かるが、親しい人。こんな可愛い子に『親しい人』がいない訳がないのだ。
早い話、入学即失恋RTAだ。中々良いタイムスコアが記録されているのではないだろうか。今年度のトップランカーは手堅いはず。自分より勝る人がいるというのなら一緒に苦い酒が飲めそうだ。未成年だけども。
彼女の話題の4割は噂の『親しい人』という訳だ。やれ栄養バランスの偏ったご飯しか食べないだの、生活能力が低すぎるからアタシがお世話しないとだの。
知りたくないから張本人の名前は遮って聞いていないが、どうやらこの学校に同い年で入学した幼馴染らしい。家も隣同士だと聞いた時には勝機のなさに乾いた笑いしか出なかった。
こってこての恋愛系ライトノベルかよ。そこまでお膳立てされているのなら一定の諦めはつくものだ。
「それで例の人に関する新ネタはあるの?」
「そうなの、まーた晩御飯食べるの忘れて作詞してたみたいでさー」
それでも自ら傷口を抉りながら話題を振るのは、彼女が本当に幸せそうに話すからだった。幸せの百面相を忙しなく見せてくれるのを嬉しいと思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。
失恋の傷は未だに生々しいけれど、それでもこの何気ない日々がずっと続けばいいと思えた。
彼女が本当に楽しそうなのは、好きな人の話題を好きな人と話しているからなのにね(特大ネタバレ)