空の花筏   作:パインサイダー

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睡魔と戦いながら執筆してると誤字がすんごい


3.日常は唐突に揺らぐ

 キンコンカンコン。黒板よりも上側に設置された古めのスピーカーから授業終了を告げるチャイムが響く。6限の授業中に流れたことは、今日のカリキュラムを完遂したことを意味する。

 両手を組んで天井へと伸ばせば程良く筋が伸びる感覚と、ポキポキと関節が鳴るのが心地よかった。

 

「えー、それでは今日の授業はこれまでとする。寝たやつはメモしているから必ず放課後いつもの教室に来るように」

「……きをつけ、れい」

「ありがとう、ございましたー」

 

 日直の間延びした号令に遅れないように慌てて頭を下げる。それを見て何故か得意げに笑った教師はそのまま教室を立ち去った。

 

 ……いや、危なかった。午後の授業で古典は我々生徒一同を潰しにかかっているとしか思えない。

 周囲をぐるりと見渡してみると、ポツポツと机に突っ伏しているクラスメイトの姿が散見された。古典の先生が唱える念仏のような声色は、クラスの凡そ三分の一を夢路へと誘っていた。

 自分も睡魔に身を委ねたい気持ちで一杯だったが、快眠の代償として強制的に小テストがプレゼントされるのを知っているので何とか堪えて今に至る訳だ。

 

「いや、あの古典教師何人爆睡させれるか楽しんでいる節がないか?」

「それアタシも思った。なんで古典ってこんなに眠くなるんだろ……」

「優しい先生ではあるけど、イイ性格しているよ」

「これ最初の定期テストの平均点すごいことになるんじゃないかな?」

 

 どうやら親愛なる隣人も耐久戦を勝ち抜いたようだ。これまで共に2回の敗北を期した経験値は確実に自分達を成長させていた。

 片割れの瞼が閉じそうになればシャーペンで突っつき、うとうとと船を漕ぐものなら消しゴムを投擲して覚醒を促す共同戦線が教室の各地で展開されていた。

 ……いや、なんでこんなしょうもないタッグ戦を毎週せねばならないのか。起床と共に絶望へと表情を転じる敗北者達を眺めながら、ふと当たり前の事実に思いを馳せるが無意味だろう。

 フラフラと失意を胸に移動を開始する面々を眺めていた今井さんが、唐突に呟いた。

 

「あ、いつメンが全員小テスト行きっぽい」

「今日は女子が沢山沈んだか。前の授業って確か体育だったけど、そっちは何やったの?」

「バスケで試合形式。体育館中を駆け回ったから体力すっからかんだよ〜。そっちは何だったの?」

「卓球よ。汗は沢山かいたけど、あれって走るよりも反射速度が重要なスポーツだからな……」

 

 うちの高校は男女で授業内容が分けられている。道具の保有数やその他諸々を考慮した対応であるが、それよりも古典の前に設定されていることについて深く問いただしたい気分だった。これ普通に罠だよ。

 

 しかも次の授業を円滑に実施するために運動を終えて程良い疲労感を蓄積した状態で教室へのダッシュを強いられる。辿り着いても数少ない残り時間で着替えをするのだが、教室内は女子が利用する影響で男子はトイレか廊下が更衣室という人権のなさ。トドメの一撃はギリギリまで女子組がお色直しをすることで男子勢は廊下で待ちぼうけを食らうことだ。

 自分、というか男子生徒の不遇さに思わず溜息が漏れる。まぁ、やむを得ない事情ではあるが。

 

「うーん、そうなると放課後どうしよ。行きたいカフェあったんだけどな」

「何かお目当てでもあるの?」

「4月限定で桜パンケーキって限定メニューがあるらしいんだけど、ゴールデンウィーク前に提供が終わっちゃうんだって」

 

 差し出されたスマートフォンには個人経営店のメニューが表示されていた。クラシックなデザインの中で一際強調されているのが噂の期間限定メニューだ。詳細を確認するべく宣材写真をタップする。

 桜とチョコレートカラーでふんわりと焼き上げられた二層構造のパンケーキに花弁を模したフレークが散りばめられている。頂点にはストロベリー風味のモンブランが鎮座しており、カロリーの権化と評するべき一品だ。

 

「普通に美味しそうじゃん。また別の日に予定合わせて行ってきたら?」

「それがみんなの予定が合うのが今日だけだったんだよ!ここダメだったらもう各自で行こうって話になってて……」

「あー、半端にメンバーが欠けて行くとイザコザの元になったりするしね」

 

 少なくともうちのクラスの女子達は対立とかがあるように見えないが、こういった細やかな気遣いの積み重ねが良い人間関係を構築して行くのかもしれない。

 男子なんて当日に「暇だしカラオケ行こうぜ」「OK」で一発である。どっちが良いのかは諸説あるが、個人的には今の方が気楽だった。

 

「1人で行くのちょっと寂しいし、けど限定メニュー逃したら2度と食べられないかもだし……」

「来年になってリバイバルしたと思ったら微妙にレシピが変わってたりするやつね」

「何でそんなこと言うの。余計に気になってきたじゃん!」

 

 頭を抱えて机に突っ伏した彼女。今井さんの脳裏にはスケジュールやらカロリー計算やら数多の要素を天秤にかけて長考しているのだろう。

 それに彼女は交友関係も広いから、案外他の伝手をあっさり見つけてしまうのではないだろうか。それこそ『親しい人』とかロケーション的にピッタリではないだろうか。

 

 会話の節々から察するに幼馴染さんとは未だに付き合っていないっぽいから、このシチュエーションを活かしてどうにか一歩前進していただくのもありかもしれない。要は好きな人が幸せならそれで大丈夫の精神だ。

 恋心まで投げ捨てた訳ではないが、長時間彼女から惚気を濁流の如く接種していればこんな悟りの域にも到達してしまうものだ。

 案外彼女が悩んでいるのも最後の選択肢を選ぶべきか粘っているからかもしれないな、なんて推測していた。

 

「むー」

 

 彼女が葛藤する姿にニマニマしていると、不意にジロリと睨まれた。どうやら揶揄って面白がっていたのがバレてしまったらしい。

 飼い猫みたいに愛嬌のある眼が自分の方を見つめていた。宝石のように輝きを内包したそれは、じっと覗き込むとどこまでも吸い込まれそうな引力を内包していた。

 

 気がつけば互いに見つめ合う拮抗状態が生まれていた。自分は恋心からで。彼女は、気まぐれだろうか。

 不要な五感がカットされていき、主観的な静寂が自身を包んでいく。授業から解放されたことによる騒々しさも、活気ある部員達の掛け声も。彼女を鑑賞するには不要な要素だった。

 自分と同じ感情だったらどれだけ素晴らしいだろうか。なんて考えていると、不意に彼女が均衡を崩した。

 

「そういえば、丁度いい人がいたじゃん」

「へ?」

「一名様ごあんなーい」

 

 パシリと左肩を掴まれる。想定外の返しに思わず間抜けな声が零れ落ちる。もしかして、もしかしたりするのだろうか。

 

「ちょっと用事があるから後から合流するとして、校門前に集合ね!」

「……マジ?」

「マジマジ。じゃ、また後でね〜」

 

 決定事項と言わんばかりに掌をヒラヒラさせる彼女。そしてこうなっては駄弁っている時間すら惜しいとそのまま鞄を抱えて飛び出してしまった。

 ……これって、デートにカウントしても良いのだろうか?




これプロット完遂できるかな……
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