所属学校なし、身分証明書なし、銃の携帯なし。
自身のことはロメとしか名乗らず。
現在に至るまでのことはあまり口にしない。
外見の特徴として、角や翼は確認できず。
金色の目、現在取り扱われていない制服(?)を着用。
「トリニティ下で発見されたため、保護の必要がある...ですか...」
はぁ、とため息を吐きそうになるのを無理やり押し込む。
こんな書類をわざわざ私にまで持ってくる必要はあるのだろうか、そもそも明らかに面倒ごとではないか。
会談が始まるとも知らずに、書類を渡してきた従者に冷ややかな気持ちになる。
限られた者しか入室を許されない、ティーパーティー専用のフロア。
桐藤ナギサは紅茶を飲んだ。
大好きな紅茶が最近薄く感じる。
「じゃあさ私が面倒見るよ!その娘!いい考えでしょ!ナギちゃん!」
「結構です、ミカさん。あなたにそんな繊細なことができるとは思っていません。それに、公的な場ではナギちゃんはやめてください。いつも言っていることでしょう?それに今は、
「ふーん?そんなこと言っちゃうんだ?最近忙しそうなナギちゃんを心配してあげてるだけなんだけどな☆」
ッッ!......」
はぁ。
今度のため息は止められなかった。
「だってさあ、今の紅茶だって何杯目?いつもよりお化粧も濃く感じるし、本当にお疲れなんじゃない?......だからさ...ここは私が、
「結構です、と申し上げています。ミカさん?あまり同じことを言わせないでください。」
...はぁーい。」
笑顔のまま、お菓子を手に取り口に運ぶミカ。
客人の前ではしたない!とまた小言が漏れそうになるが、グッと堪えて笑顔を作る。
「...失礼しました。それで本日のご用件はなんでしょうか?」
ここからは真面目にいかないといけませんね、と思い直したナギサは”お客様”用の顔を貼り直す。
「歌住サクラコさん?」
・・・・・・
元の位置にティーカップを戻したサクラコは笑みを浮かべて答える。
「本日は、私のために時間を作っていただきありがとうございます。...あのナギサさん、お忙しいのでしたら出直しても構わないのですが、本当に大丈夫なのでしょうか...?」
ナギサは一瞬ヒクッと唇の端を動かしたが、なんともないように答える。
「いえいえ、お気になさらないでください。シスターフッドさんと仲を深めることは何よりも優先されること。私としては、そう考えておりますので」
ふふっ。
柔らかく答えるナギサ。
内心では、腹の底が見えないシスターフッドの前でよくも忙しいとか疲れているとか、弱みを曝け出してくれたなとミカへの怒りが再燃していた。...化粧のことにも触れてほしくはなかった。
「あら、そうでしたか。ありがとうございます。その行いに、祝福があらんことを。」
おほほほほ。と両者が笑い合う。
サクラコとしては、本心で心配をしているし、感謝を伝えていた。
ナギサさんは見た目通り優しい方だと信じ込んだ、純粋なサクラコは本題に入ることにした。
「それで、その私の要件なのですが、まさに先ほどのことでして。」
「...といいますと?」
「ロメ...さんをシスターフッドで預かる許可をいただきに参りました。既に救護騎士団の方には掛け合ったのですが...責任者であるミネ団長が不在のためティーパーティーの許可を、と言われてしまいまして。」
「......」
慎重な派閥であるシスターフッドがいきなり保護に踏み切ったことに驚くナギサ。
(その人物に何か秘密があるのでしょうか...なんというか、こう、シスターフッドらしくないといいますか。)
相手の真意を推測し、発言を選び、話そうとしたその瞬間。
「えー!なんでなんで!!こういう時なにもしないのがいつものシスターフッドじゃん!急に慈愛の精神にでも目覚めちゃったのかな☆」
「ミカさんは黙っていてください!!!ロールケーキをぶち込みますよ!!!!」
(なんっで!全部思った通りに言っちゃうんですか!!!ミカさん!!!)
ガシャン!とテーブル上の食器が揺れる。
淑女には相応しくない振る舞いであった。
しかし聖園ミカは、やはり政治が向いていないのだろう。
「あ、あの。いつも皆様方をお救いすることができていない現状には、私も歯痒く思っていることなので、その申し訳ありません。」
「っ、いえいえこちらこそミカさんが失礼なことを...」
「なっ、ナギちゃん。私のお口はそんな大きさのケーキは入らない...よォッ!!!ムゴ!」
今度こそ、ミカを黙らせることに成功したナギサ。
ようやく話は進み始める。
・・・・・・
「実は、ロメさんが見つかった場所。今回初めて見つかった場所なんです。古関ウイさんに伺ってもご存知ないとのことでしたので、今まで誰も知らなかった部屋だと思います。」
紅茶で唇を濡らし、話を続けるサクラコ
「ウイさんも「な、なんですか、これは!?」とおっしゃって、普段はあまり話していただけないんですが、一緒に調べているとですね...ロメさん。彼女のいた部屋の紋様と着ていた服。聖女バルバラと一緒だったんです。」
「なっ、成程。シスターフッドとしても無視できない、というのはそのような事情で...」
ナギサは、おやっと感じた。
「失礼ながら、ロメさんの情報はどこで?私も今、正実からの情報を受け取ったところなのですが...」
「ああ、いえ。場所が大聖堂近くでしたので。人の噂で...」
「そっそうですよね。おほほ、失礼なことをお聞きしました。」
(ダメだ、最近こういうことばっかり考えてしまう...でもあと少し。あと少しだけ。)
わかりやすく追い込まれていることを自覚し、猛省するナギサ。
「わかりました。私が許可を出しましょう。基本的にシスターフッドの方達でロメさんを預かっていただいて問題ありません。図書委員会や救護騎士団とも連携して、調査にも当たってください。...もちろんロメさんの体調やトリニティの安全が最優先ですが...よろしいでしょうか?」
「えーーー!!ナギちゃん!!私が預かるっていう話は??!!」
もう復活したのか、チッと小さく舌打ちをするナギサ。
「静かにしていてください!!長い間詳細不明の聖女バルバラに関連する事案を!シスターフッドに預けない馬鹿がどこにいるというのですか!!!ミカさんは接触も禁止です!!」
あはは、苦笑いを浮かべるサクラコ。
「ナギサさん、本日はありがとうございました。それでは、早速準備を進めてまいりますので。失礼します。」
コツコツと音を響かせて去るサクラコ。
見送ったナギサとミカは見つめ合う。
ぷくぅーっと頬を膨らませるミカ。
「ミカさん、今回は諦めてください。ちょうどエデン条約までに、シスターフッドへの貸しを作っておきたいところだったのです。条約後は自由にしていただいて構いませんから。今だけはじっとしていてください。」
それでも拗ねてるところを隠さないミカに。
最近は物騒なこともあったばかりですし。と伝えると
刹那の間にハッとしたミカは笑顔を作り直すのだった。
「ごめんごめん。私、ちょっと子供っぽかったね☆あーあ、なんだか気が抜けちゃった。」
「ダメですよ、ミカさん。これからもう一つ大仕事があるんですから。」
???と首を斜めに傾げるミカ。
廊下から声がかかる。
「失礼します。ナギサ様、シャーレの先生を名乗る大人が校門まで来ています。通しても構わないでしょうか?」
「はい、お通ししてください。くれぐれも失礼のないように。お願いしますね。」
ある種、今日一番とも言える仕事を前に、今度こそナギサは気合を入れ直した。
・・・・・・
ロメが眠っていた部屋は、今は暗かった。
炎はとうに消えている。燭台の蝋が白く固まって、時間の止まったような静寂だけがある。
暗い様子のまま、二つの闇が蠢いた。
「ククッ、どうです?マエストロ、この部屋はあなたの期待に沿うものだったのでは?」
「……素晴らしい。」
もう一人の男、マエストロは部屋の中央に立ち、ゆっくりと視線を巡らせた。燭台、机、棺桶。壁に刻まれた紋様。暗がりの中でも、彼の目はそれらを精確に捉えていた。
「素晴らしいぞ黒服!!この部屋はまさしくArcha!始原の精霊を暗示する特異空間といってよいものだ!!!しかもリテクスト以前の・・
「失礼、マエストロ。話を遮ってしまう無礼をお許しください...実はですね、秘密にしようとしていたのですがマダムにもこの部屋の存在を知られてしまいましてね。」
・・・ムゥ。あの女め、余計なことを。この部屋はまさしく一種の崇高!それを...それで黒服、なんといっているのだあの舞台装置は。」
「...クックック、この部屋のものを媒介としてミメシスの強化ができるのではないかと...具体的には聖女バルバラの完全権限...そういっていました。」
流暢に喋っていた二人。
しかし、黒服の言葉に、場はシンと静まり返った。
カタカタカタ。
部屋のものが動いているのではない。
カタカタカタ。
ガタガタガタガタ!!!
マエストロが興奮し切った様子で、体を震わせ大声をあげる。
「あの女は!!至高なる芸術を...なんだと...思っている!!!!!バルバラの完全顕現だと!!??そんなもの我々の手に負えるものではない!!色彩を呼び寄せる愚行と何も変わらん!!...フゥー!!フゥー!!」
激昂するマエストロ、しかしすぐに我にかえる。
「すまないな黒服。つい、我を忘れてしまったな...マダムの言う通り、ミメシスの強化は可能だろう。しかしバルバラはダメだ。無理だ。不可能だ。...そういうことにして伝えておいてくれ。」
「ええ、クックック。...あなたの珍しいところも見れたようですから構いませんとも。マエストロ。」
「ああ、神秘の増幅。そこに着手したミメシスを製造することにしよう。」
「あなたの腕の見せ所ですね、楽しみにしていますよ。」
男たちの怪しげな談笑はやがて止み、一瞬のうちに痕跡を残さず消えた。
マエストロは賢人である。赤い女とは違って。
しかし、マエストロはミスを犯した。
聖女バルバラは文字通り、伝説の存在。
認識が甘かった。
彼女を伝説たらしめる所以。
それは、キヴォトスにおける殺人。
このことを知っていれば、バルバラの複製なんてことは起きなかったに違いない。
伝説は共鳴しあい、新しい時代を形作る。
ファクターである、先生。ロメ。部屋の存在。アズサ。バルバラ。
エデン条約で起きる事件。
歯車は確実に動き出していた。
飛ばし飛ばしで行くか、ちゃんと過程を書くか、どうしようかなぁと。
感想お待ちしています。