何卒ご容赦ください。
皆様のイメージと著しく乖離することがあります。
ごめんなさい。
空座町の片隅、夕暮れに染まる路地裏。
そこには、一人の青年——佐藤 カズキが、スーパーの半額弁当を手に途方に暮れていた。
「……なんで俺の家の前で、猫が酒盛りしてんだ?」
カズキの安アパートの玄関先。
そこには、一匹の黒猫がいた。ただの猫ではない。
器用に前足でワンカップの蓋を開け、スルメを齧りながら「プハァー!」と、おっさん臭い溜息を吐いている黒猫だ。
「おい、そこの小僧。帰るのが遅いぞ。腹が減って死ぬところじゃったわ」
「喋ったァー!?」
カズキの絶叫が路地裏に響く。
これが、元護廷十三隊二番隊隊長、四楓院夜一と、ごく普通の(少し霊感があるだけの)大学生、カズキの最悪で最高な出会いだった。
それから一週間。カズキの生活は一変した。
夜一は「現世での隠れ家に丁度いい」という無茶苦茶な理由で、カズキの六畳一間に居座ったのである。
「夜一さん、せめて服を着てください! 猫の姿ならいいですけど、人間に戻る時は一言言ってって……!」
「何を今更。わしの裸など、今までに腐るほど見せただろうが」
「一昨日の風呂上がりと昨日の寝起きだけだよ! しかもあんた、瞬歩でいきなり背後に現れるから心臓に悪いんだよ!」
カズキが顔を真っ赤にして叫ぶ。
目の前には、褐色肌に金色の瞳、そして豊満すぎる肢体を一切隠そうともしない夜一が、カズキのベッドの上で大あくびをしていた。
彼女の設定は徹底している。
自由奔放、大胆不敵。
そして何より、「からかい甲斐のある奴」が大好きだ。
「ほう……。そんなに顔を赤くして。もしや、このわしの体を見て、良からぬことでも考えておるのか?」
夜一がニヤリと口角を上げ、しなやかな動きでカズキに急接近する。
鼻先が触れそうな距離。独特の、白檀のような香りがカズキの脳を揺さぶる。
「ち、違う! 俺はただ、健全な男子大学生として……」
「『として』、なんじゃ? 言ってみよ。ほらほら」
夜一の指先がカズキの胸元をなぞる。
彼女にとって、現世の若者をからかうのは最高の暇つぶしだ。
死神としての緊張感から解放された彼女は、悪戯好きな小悪魔そのものである。
ある夜、カズキは夜一に「霊圧のコントロール」を教わることになった。
夜一曰く、「おぬし、無駄に霊力があるせいで雑魚虚(ホロウ)を寄せ付けとる。わしが鍛えてやらんと、いつか食われるぞ」とのことだ。
「いいか、霊力を練る時はこう……腰を落とし、丹田に集中するのじゃ」
夜一が背後からカズキを抱きしめるような形で指導する。
密着する柔らかい感触と、耳元で囁かれるハスキーな声。
カズキの集中力は、開始三秒で崩壊した。
「夜一さん……これ、絶対わざとでしょ」
「何のことじゃ? わしは至って真面目に修行をつけておるぞ。ほれ、集中せぬか」
夜一はカズキの耳たぶを甘噛みした。
「ひゃうん!?」
「……。おぬし、今、妙な声を出しおったな? ギャハハハ! 面白い奴じゃ!」
夜一は腹を抱えて笑い転げる。
一方でカズキは、羞恥心と興奮で爆発しそうだった。
「……もういい! 修行はおしまいだ! 飯にする!」
「おっ、今日の晩飯は何じゃ? 油揚げか? それとも奮発してうなぎか?」
「……コンビニのカップ麺だよ!」
「ケチくさいのう。よし、わしが喜助の店から美味い酒をくすねてきてやろう。待っておれ」
そう言うやいなや、夜一の姿が掻き消えた。
「瞬神」の異名は伊達ではない。残像すら残さず消えるその速度は、カズキの眼では到底追えなかった。
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