UM☆アルティメットマミさん   作:いぶりがっこ

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最終話「ぜんぜん終わってないじゃない!」

『起きるのだ、巴マミよ』

 

「…………うん」

 

待ち望んでいた男の声に促され、まるで予定調和のように巴マミが瞳を開ける。

ゆっくり辺りを見渡すと、やはりそこに広がっていたのは、奇妙に揺らめく赤一色の世界。

羊水のプールとでも戯れるかのように、しばし呆然と空間を漂う。

 

ゆっくりと顔を上げれば、そこにはやはり予想通り、

銀色のマスクに深紅のスーツを纏った巨人が佇んでいた。

 

「……こちらの世界でなら、昔の姿でいられるのね? UFOマン」

 

『フフ、見ての通りさ。

 まっ、こんな世界でくらい、少しだけカッコつけたっていいだろう』

 

気心の知れた者同士の挨拶を交わし、互いに軽く笑い合う。

だがマミはすぐ表情を改めると、UFOマンに先を促した。

 

「あれから、どうなったの? みんなは無事なの?」

 

『安心して良い、全ては計画通りに終わったよ。

 君の活躍のおかげで、大怪獣まどゴンは消滅した。

 まどか君の蘇生の方も順調に進んでいる』

 

「そう……」

 

ほうっ、とマミが大きく息を吐く。

今やここは現世と隔絶された世界、己を飾る必要が無いとなれば、

清濁様々な感情が湧き上がってくるのだが、

それでも尚、一番に胸を突いて溢れだしたのは安堵の吐息であった。

 

「……良かった、うん、本当に良かった……」

 

『良いワケがあるか、こんなオチで。

 ハッピーエンド以外の終わり方など、私は認めん』

 

「あ……」

 

珍しく窘めるような強い口調のUFOマンに、

まるでお説教の前の子供のように、シュンとマミが俯く。

 

『全てはこれからじゃないか、マミ。

 人々を脅かす魔女はもういない。

 ようやく君は超人の使命から解放されて、普通の女の子の暮らしに戻れるんだ』

 

「それは……、でも、もう無理よ」

 

『無理なものか! 青春はいいものだぞ。

 あの新しいお友達とお茶介したり、夏には海で水着でバカンスで、

 その内に本当に好きな人で出会って、慎ましくも幸せな家庭を……』

 

「やめて! 聞きたくないわ、そんな話」

 

思わずマミが両耳を押さえ、ぶんぶんと頭を振るう。

いかにアルティメットマミさんが勇気と慈愛に満ちた超人であったとしても、

変身が解ければ年相応の少女に過ぎない。

 

UFOマンはしばし、すすり泣く少女の姿を無言で見詰めていたが、

その内にふっ、と人の悪い笑みを浮かべた。

 

『ところが、叶うんだな~これが。

 何せ今回のまどか君の蘇生に関して、君の肉体には一切手を付けていないからな』

 

「……えっ?」

 

UFOマンの言葉の意味を掴み損ね、きょとんとマミが顔を上げる。

だが、その真意を理解した瞬間、はっ、とその顔色が青ざめた。

 

消えていく。

UFOマンの巨大な体躯が、背景を透過して徐々に赤色へと染まっていく。

 

「UFOマン……、あなた、まさか……!」

 

『いや~、まどか君の肉体を見たら、思いのほか損傷が少なかったのでな、

 わざわざ君の肉体を使わなくても、私の残されたエネルギーを注ぎ込めば、

 何とか蘇生は可能そうだと考えたんだよ』

 

「バ……、馬鹿ァ! 何で、何でそんな勝手な事するのよッ!?」

 

『とは言っても、ほら、今の私は君が居なけりゃ、タダのセクハラ超人だからな~。

 それならもう、どっち道、同じ事だろ?』

 

「そんなの私はイヤよ!

 私がどんなに嫌がったってずっと一緒にいるって、

 あなたはそう言っていたじゃない!?」

 

『ああ、約束は守る。

 いつだって私は君の傍にいるさ。

 もっとも、君の周りにはもう、寂しい事なんて無いだろうけどな』

 

「お願い……、待って、待って……UFOマン!」

 

『泣く必要はないさ、マミ。

 いつかまた逢える日が来る……、

 ほら、なんて言ったっけ、こう言うの……?』

 

「……?」

 

『そう、確か……円環の……こと……わ……』

 

「ユ――!」

 

フッと空気が一瞬軽くなり、差し出したマミの手が虚しく空を掴む。

驚きの声を上げる間もなく、赤色の世界に溢れだした強烈な閃光が、マミの視界を塞いで……。

 

 

「――さん、しっかりして! マミさんッ!?」

 

「……あ」

 

「ああ、良かった! マミさん! マミさん!」

 

がしりと熱い抱擁を受け、巴マミは再び現世で目を覚ました。

寝ぼけ眼の少女の鼻頭を、ふわり、と鮮やかな赤のリボンがくすぐる。

 

「ええっと……、鹿目、さん」

 

「ゴメンなさいッ! 私の、私のせいで、もう目を開けないんじゃないかって……」

 

「バカ野郎! あんな無茶して! 死んじまったらどうするんだよォ!?」

 

状況を整理する暇もなく、ガクガクと両肩を力いっぱいに揺すられる。

ちらりと視線を移せば、そこではいつかの日とは逆に、佐倉杏子がボロボロと大粒の涙をこぼす。

 

「でもマミさん、本当に無事で良かった」

 

「もう、マミさんの事は信頼してるけどさ……、

 でも、一人で何でもかんでも抱え込まないでよね」

 

頭上から掛けられた、ほむらとさやかの労いもまた涙声であった。

そこでようやく巴マミも、己の過ちに気付いた。

 

マミが何よりも守りたかったものは、この五人の輪だ。

ならば自らの命を顧みないような選択肢は、本来ならば絶対に選んではならなかったのだ。

敢えて口にこそ出さなかったものの、きっと【彼】にもこの惨状が見えていたに違いなく……、

 

「UFOマン、は……?」

 

「……そう言えば、さっきから姿が見えないわね」

 

「まったくアイツったら、こう言う肝心な時に限っていないんだから」

 

「……うっ」

 

じくり、とマミの胸が一層痛む。

分かってはいた筈なのに、それでも理性を押し流そうとする熱情を抑えきれない。

 

「うぐっ う わ あ あ あ ぁ あ あ ぁ ぁ あ ぁ ぁ ~~~~~~んっ!!」

 

泣く。

マミが泣く。

もはやヒーローでも魔法少女でも無いありふれた女の子が、

恥も外聞もなく、ただ在るがままの想いぶつけて泣きじゃくる。

 

「マ、マミさん!? どうしちゃったの?」

 

「おいおい、泣くなって、マミ、

 アイツならその内ひょっこり顔を出すさ」

 

「ううん……、違う、違うのよ……!」

 

差しのべられた友人の手を振り払い、まるで童女のようにいやいやとぐずる。

 

「私には分かる、UFOマンはもう、どこにもいないの……」

 

「マミ……」

 

「彼は逝ってしまったの、そう、円環の――」

 

 

『……ぇ、えむ……おー……いぃ……、えむ……おー、いー……』

 

 

「ことわ……え?」

 

 

 

どこからともなく聞こえてきた、感動と初恋をブレイクする耳障りなノイズに、

思わず一同が言葉に詰まる。

訝しげに瞬く少女たちの視点は、やがて巴マミのけしからん胸の谷間へと集約される。

 

『――ふう、死ぬかと思ったぜ!』

 

「UFOマンッ!?」

 

もぞもぞと駄肉の山を掻き分けて、

今やピンポン玉サイズとなった僕らのヒーローがひょっこりと顔を出す。

相棒の変わり果てた姿を前に、あっ、とマミが驚きの声を上げる。

 

「UFOマン! な、なんであなた、生きて……?

 そ、それにどうしてそんなに縮んでしまったの!?」

 

『ウム……、

 その時不思議な事が起こった、で片付けしまいたいのはやまやまだが、

 強いて言うなら、魔法少女がくれた最後の奇跡、と言った所だろうか?』

 

「魔法少女の……?」

 

『ああ、そうだ。

 あの時、大怪獣まどゴンが吸収した魔力の中には、

 少女たちの無垢なる願い……、高純度のM.O.E.が込められていたのだ。

 結果、そのエネルギーによって、まどか君の肉体の再生が促され、

 私も土俵際いっぱいで踏み止まる事が出来たと言うワケだ』

 

「…………」

 

『まっ、なんて言うの? さすがは私だよね~。

 我ながら実に完璧な判断だったわ、ダッハハハ……』

 

「……もう! 男の人は無茶ばかりしてッ!!」

 

『ムォッ!? オオオオオッッッ!!??』

 

感極まった巴マミが、その豊かなふたつの乙女で、

再びUFOマンをむぎゅ~っ、と抱きしめる。

今やキーホルダーサイズとなってしまった僕らの超人が、成す術もなく母なる海へと沈んでいく。

 

『ふぉああああぁ~~、にゅ、乳マミさんは伊達じゃない……!』

 

「約束してUFOマン! もう絶対無茶はしないって、ずっと私の傍にいるって……!」

 

「あ、あの~、マミさん、気持ちは分かるんだけど……」

 

「ヤバいってコレ! なんかミシミシ言ってる!?」

 

『いや……、構わん! もっとひと思いにむぎゅぎゅ~!っとヤッてくれッ!!』

 

「うん……、うん……!」

 

むぎゅぎゅ~っ!

 

「~~~っじゃねえッ!? やめろ馬鹿、ホントにマミの胸で死ぬ気かッ!?」

 

「……まさしく乳タイプ、ね」

 

「うまくねえよッ!? シャフ度キメてないで止めろほむら!!」

 

 

 

『鳴呼……、ゴメンよ読者諸兄。

 僕にはまだ帰れるおっぱいがあるんだ、こんなに嬉しい事は無い。

 

 でも……、おまいらなら分かってくれるよね?』

 

 

 

「――え~、おほん! 遅まきではありますが、

 みんなが無事に戦いを終えられた事と、

 マミさんお手製のケーキの山を祝してぇ~~~~……カンパイッ!!」

 

「「「かんぱ~い」」」

 

「乾杯! でも、そこまで期待されると、少し恥ずかしいんだけど」

 

「M.O.E.が出ちゃう?」

 

「もう、あまり先輩をからかわないで!」

 

悪戯っぽくぷっくりと頬を膨らませたマミの仕草に、自然、少女たちの笑いがこぼれる。

小洒落たワイングラスの代わりにテーブルの中央で重なったのは、

淡い色合いの紅茶が入った五つのティーカップ。

色とりどりのお菓子が置かれたマミハウスの一室に、たちまちに華やかな笑いが溢れだす。

闘争と絶望の日々は終わりを迎え、

いよいよ少女達の周りにも、ありふれた日常の空気が戻りつつあった。

 

 

――アルティメットマミさん最後の戦いより、一週間が過ぎようとしていた。

 

 

あの日『未曾有のスーパーセルと大怪獣が』

見滝原市内に残した破壊の爪跡は生半な物ではなく、

大災害を生き延びた人々は、早くも試練の時を迎える事となった。

が、それでも一人の超人によって結ばれた、見滝原市民の団結が崩れる事は無かった。

 

災厄の日、アルティメットマミさんと見滝原のみんなが起こした一つの奇跡は、

テレビカメラを通して全国のお茶の間に広がり、

後に『マミさん景気』と呼ばれる見滝原市の復興を生む事となった。

 

公共事業の投入と、新たな観光資源の取得に沸き返る見滝原。

超人の名付け親の美樹さやか女史曰く『元ネタのそっくりさん』である所の

巴マミ先輩の下にもまた連日のように報道が詰めかけ、

結果、少女たちの念願だった五人揃っての放課後ティータイムの実現には、

更に一週間の時を待つ事となったのであった。

 

今、ようやく重い荷物を手放して、

どこにでもいる普通の少女のように、巴マミが笑いを振り撒く。

 

鹿目まどかも、暁美ほむらも、美樹さやかも、佐倉杏子も、

今やすっかり普通の女の子達が、とりとめの無い雑談に笑顔の花を咲かせ合う。

 

 

 

『うんうん――、善き哉平和、善き哉女子会。

 ……あ、このアップルパイ、メチャうま』

 

 

――そしてベランダには女子たちの姿を見つめる、極めていかがわしい宇宙人の姿があった。

 

 

『いっや~、よくよく考れば覗き放題に食べ放題。

 このチビッ子宇宙人ライフも、慣れてみれば意外と快適なもんだよね~。

 うんうん、巴マミ、君はいいお嫁さんになれるぞ』

 

「……相変わらず君も、みみっちい事ばかりいっているようだね」

 

『ム……!』

 

スタリと欄干に飛び乗った招かれざる客に、UFOマンが怪訝な瞳を向ける。

 

『イノベ……、もといインキュベーター、

 お前、まだこの辺をウロチョロしていたのか?

 この惑星にはもう、お前の望むモノなんて有りはしないぞ』

 

「ああ、言われなくてももう、こちらは引き上げの準備を進めているところだよ。

 僕達がこの星に長年かけて築き上げたシステムは、

 鹿目まどかに完全に破壊されてしまった事だし、

 まあ、知的生命体の持つ感情のリスクについて理解できただけでも、

 いい勉強料だったと思う事にするよ」

 

『淫獣ざまあ、さあ帰れ帰れ!

 お前がいると折角のマミさんのケーキがマズくなる』

 

「けどその前に、君には一つだけ聞いておきたい事があってね」

 

『……何?』

 

華やかなる室内の光景をガラスの瞳に写し、相も変わらず淡々と淫獣が語る。

 

「今回の件で、僕らにとってとりわけ不可解だったのは君の存在だよ、UFOマン。

 結果から言えば宇宙滅亡の危機を回避する事となったものの、

 そもそもこんな辺境の知的生命体を救う行為自体が、

 君にとって何らかのメリットを生むとは思えない。

 あまつさえ君は、一人の女の子のために超人としての肉体まで失ってしまっている」

 

『…………』

 

「最後に一つだけ教えてもらえないかい?

 あの少女たちとの関係が、君にとって何の利益に繋がるのかを」

 

『……あのなぁお前、まだそんな下らないこと言ってんの?

 私としては人生の歓びや感動も知らず、ただ淡々とノルマをこなし続けるお前らの方が、

 よっぽど理解できない生物なんだけど?』

 

「そう言うモノかい?

 けど、感情は偶然の産物で、生存本能は生物の性だと僕たちは解釈しているよ」

 

『まっ、いいさ。

 そんなお前らが私に興味を持ったと言うなら、それはきっと良い傾向なんだろうよ。

 ほれ、お前らの母星にテレビがあるなら、こいつで少しは勉強するといい』

 

「君がお土産とはね? いったい何を……、

 

 あっ!? こ、これはポニーキャニオンから絶賛発売中!

 2005年の放映当時には低予算と丈の短さに苦しみつつも、

 一部の豚どもにジャイアントフェチと言う忌まわしい性癖を生み付ける事に性交し、

 早過ぎた迷作と各所で言われたり言われなかったりする伝説の作品――、

 

 【UG☆アルティメットガール アルティメットDVDBOX】じゃないか~!」

 

『フフ……、宣伝乙だなキュゥべえ。

 実家に帰ったら部屋を明るくして画面から離れて観賞すると良い。

 M.O.E.の何たるかを理解できるまで、

 思う存分モニターをprprしてくれても構わんぞ』

 

「U、UFOマン、君ってヤツは、

 君ってヤツは本当に……、 本 当 に ワ ケ が わ か ら な い よ 」

 

 

 

――かくてインキュベーダーも去り、地球は再び魔法少女とは無縁の惑星となった。

 

 

ひとつの戦いは終わりを迎え、それでもなお、物語は続いていく。

 

少女たちの戦いより一ヶ月後、地球は、そして見滝原は――!

 

 

 

 

 

≪ ウ ェ ヒ ヒ ~ ♪ ≫

 

 

「あぁ~っとォ!? ご覧下さい!!

 怪獣ぷちまどゴンが今、見滝原市役所前に姿を現わしました!

 怪獣の着ぐるみを被った女の子と言う外見で、見滝原のマスコットとなっている珍獣ですが、

 その全長は実に30メートル超と言う巨大なドジッ娘ッ!!

 現地では詰めかけたまど豚の間で、少なからぬ被害が発生している模様です!」

 

「誰か今、まどさんの事ブタって言った!?」

 

「誰もそんな事言ってません!

 とにかく、現場では環境保護団体と地元の猟友会が衝突する一幕もあり、

 今なお緊迫した状態が続いております。

 見滝原市では、まどゴンを餌を与えないようにと引き続き警告を――」

 

 

……一ヶ月後、見滝原は【まどゴン銀座】と化していた。

 

 

「……か、怪獣、ぷちまどゴン?」

 

「な、なにあれ? あんなの絶対おかしいよ……」

 

「おっきな、おっきなまどかが……!」

 

「……鼻血ふけよ、ほむら」

 

 

「ちょ、ちょっと!? どう言う事なのUFOマン!?

 戦いはもう終わったんじゃなかったの?」

 

『ア、アワワ!? お、落ち着けマミさん』

 

久方ぶりに涙目で詰め寄ってきたマミさんを前に、

しどろもどろになったUFOマンが解答を探す。

 

『えっと、ほら、大怪獣まどゴンが消滅した時、

 奴が消化しきれなかった大量の裏M.O.E.が、街中に拡散されたんだよね。

 それが後から来た宇宙生命体に取り込まれたせいで、

 新たな怪獣が誕生しちゃったみたい……』

 

「みたいって……、そんな」

 

「よっしゃァ――ッ!!

 言ってる事はイマイチ分かんないけど、

 これはもう、アルティメットマミさんの出番だよね!」

 

「――!?」

 

突如としてキラキラと輝かせ始めたさやかちゃんとは対照的に、

さっ、と巴マミの顔面から血の気が引く。

 

「おっ!? おおおおおおおお落ち着いてちょうだい美樹さん!!

 ほら、あの怪獣って人畜無害みたいだし、

 いたずらに被害を拡大させるよりも、まずは政府の対応を見てからのほ――」

 

「ほ、ほむゥッ!?」

 

マミさんの必死な弁明を遮って、イキナリ中空に鮮血の花が咲く。

 

「わ~~~~~っ!? ほむらちゃんが吐血したッ」

 

「おいおい、何やってんだよほむら、

 何も最終回で変なキャラ付けしなくても……っておいッ!?

 どうなってやがるんだ、こいつ瀕死じゃねえかッ!?」

 

『……決まりだな、悠長に閣議決定など待っている余裕は無い。

 早い所アイツを何とかしないと、 暁 美 ほ む ら が 萌 え 尽 き る !!』

 

「嘘だろほむら……!

 これが、こんなものがお前の見たがっていた未来なのかよォッ!?」

 

「……おっきなほしが、ついたりきえたりしている……、

 ……おおきい、まどかかな? いいえ、ちがう、ちがうわ……、

 まどかはもっと、パアァ――って、うごくもんね……」

 

「イヤだ……、こんなの、嫌だよう……」

 

「そ、そんな……」

 

よろよろと、まるで助けを求める子牛のように、巴マミが辺りを見回す。

応える者はいない。

 

「美樹さんッ!」

 

「大丈夫! 私も見滝原の人たちも、みんなアルティメットマミさんの味方だよ!!」

 

「杏子ッ!!」

 

「すまない……、すまないと思っている……」

 

「暁美さんッ!!!」

 

「……かゆ……うま……」

 

「お願いマミさん! ほむらちゃんを助けてッ!!」

 

「~~~~~~~~ッッッッ!!!!」

 

 

――鳴呼。

 

少女の瞳から、淡い希望が一粒の雫となって大地に零れる。

もしも彼女が魔法少女であったならば、そのソウルジェムは立ち所にドス黒く染まり、

今頃は三千世界を灼き尽くす災厄の魔女が降臨していた事だろう。

 

だが、今の彼女はただの女の子。

超人に生まれ変わる宿命を背負った、どこにでもいる普通の女の子だった。

 

(……ここだけの話なんだがな、巴マミ)

 

(――!)

 

ぼそぼそと、UFOマンがマミの耳許で囁きかける。

 

(実は今回、私と 合 体 出来るのは、君たち一家だけではない。

 そう、私の肉体を分け与えた、あの鹿目まどか君も、

 超人に変身する資格を得ているのだ……)

 

(……ッ!?)

 

『まっ、君がどうしてもイヤだって言うなら仕方がない。

 そもそも今回の件は彼女の勇み足が原因みたいなモンだしぃ~。

 次回からは新番組【 UM☆アルティメットまどか 】はじまるよ~と言う事で……』

 

「こッ、この、外道がァ――――――ッ!!!!」

 

めいいっぱいに涙を振り絞り、巴マミが雄々しく叫ぶ。

 

「分かったわよ、私がヤる、わ、私がイケばいいんでしょ?

 だから彼女にだけは手を出さないでッ!!」

 

『フフ、もちろんだよマミさん! 君以外に私のパートナーなどいるものか』

 

言いながら、UFOマンが随分と可愛らしくなったナニをニュインと伸ばす。

 

『さあ 合 体 だッ! アルティメットマミさん、イキま~~~~~~っす!!』

 

「ア、アルティメット、フィナーレエエエェェェ――――――ッ」

 

 

「ああーっとォ!? ご覧下さいッ! 

 ついに我らのヒーロー、アルティメットマミさんが姿を現わしましたッ!!

 ここ見滝原市役所前で、世紀の一戦、アルティメットマミさん対怪獣ぷちまどゴンの

 時間無制限一本勝負が始まろうとしております」

 

 

――アルティメットマミさん現る。

 

 

まるでその時を待ち侘びていたかのように、周辺には特設の野外会場が作られ、

商魂たくましい見滝原商店街の屋台が並び、

詰めかけた観客達が奇跡の巨大娘に一斉にフラッシュを焚く。

 

「うう、は、恥ずかしい、私もう、普通の女の子に戻ったハズなのに~」

 

『まあ、アイツを倒せばいつだって女の子ライフに戻れるさ。

 そう、多分週6くらいでな!』

 

「なんで週イチで怪獣が来る計算なのよォ~」

 

必死な叫び声を上げ、アルティメットマミさんが自分のデコに抗議する。

 

『う~ん、ホラ、この星って余計な裏M.O.E.に満ち溢れすぎてるじゃん、ハーメルンとか』

 

「うぐっ、た、確かに……」

 

『アルティメットマミさんが活躍する→薄い本が大人気→若者の裏M.O.Eが発散される→

 宇宙生命体がやってくる→怪獣が生まれる……』

 

「マッチポンプじゃないの!? いつ戦いは終わるのよッ!!」

 

「それを聞いて一安心だよ、僕たちも戻ってきた甲斐があったってものだ」

 

 

「『キュ、キュゥべえッ!?』」

 

 

突如会話に割り込んできた謎の声に、内外で驚きの声がシンクロする。

果たしてマミさんの巨大チャーミングヘッドの上には、件の珍獣がこれ見よがしに座っていた。

 

『インキュベーダー、貴様、なぜ……って言うか私とマミの上から降りろ~!?』

 

「いやあ、あれから少し考えたんだけどさ。

 今から新規の事業を立ち上げるよりも、

 アルティメットマミさんが戦闘中ムダに拡散させているM.O.E.を回収する方が、

 よっぽど宇宙の維持には効率的だと言う結論が出てね」

 

『あ……! なーる、そりゃ共存共栄だわな』

 

「え……?」

 

呆然とする巨大少女を置き去りにして、

二匹の如何わしい異星人がぶっちゃけトークを展開する。

 

「ざっくり試算してみたんだけど、アルティメットマミさんが戦闘するごとに、

 この宇宙全体の寿命を数億年ほど延命させる事が可能だよ」

 

『数億年!? マジかよキュバヤシ?』

 

「ああ、大マジだ。

 しかもそれは彼女の活躍が、この見滝原の一部に限定された場合の話だ。

 もしも彼女がこのまま順調にアイドル化して、全国ネット、

 いやさ全世界生中継と言う事態にまで漕ぎ着けたならば……」

 

『その分だけ彼女の発散するM.O.E.は天文学的に跳ね上がり……、

 ほ、本当にこの宇宙は救われる!?』

 

「その通り。

 アルティメットマミさんはまさに、この世界に降り立った最高の救世主だ。

 彼女の尊い羞恥心と引き換えに、あまねく生命には無限の繁栄が約束される事だろう。

 だから巴マミ、この宇宙のために喜んで犠牲になってよ!」

 

「~~~~~~ッッッ!!?? かッ!? 勝手にしなさいよ!!」

 

ヤケクソ気味にズンズンと大股で大地を揺らし、巨大乙女が怪獣の下へと迫る。

 

 

 

 

 

「ようし! イクよつぼみ先輩!!

 アルティメットマミさんに私たちの絶唱を届けるんだ!」

 

「アラホイサッサ~っす!

 ところでヴィヴィ、次のコミッケでは是非、このアルティメットスーツを着て……」

 

「うるさい、そんなこっ恥ずかしいモノ、誰が着るのよ!」

 

「わ、悪いよヴィヴィアン、マミさんに聞こえちゃうよ~」

 

「さて、ヤルわよ町内会長、私たち大人の仕事を見せつけてやるのよ」

 

「合点だ! え~マミさんわたあめにマミさん焼きそば、マミさん救いはいかがっすかァー!」

 

「高校生特派員、諸星真、出撃!!」

 

「頑張れェ――ッ! アルティメットマミさん巨乳――ッ!!」

 

「落ち着いてください岡村さん!? 貧乳のマミさんなんて居ません!!」

 

「ズバリ! 乳タイプの修羅場が見られるでしょう!」

 

「ショウさん相変わらず芸風広いッスね~」

 

「ようし、それならマミさんのテーマは、やはり僕に弾かせて貰おう!」

 

「か、上条くん!? いつウィーンから戻られたんですの?」

 

「見滝原がダメになるかどうかの瀬戸際なんだ! 海外公演なんかやってられるか!!」

 

「見てあなた、アルティメットマミさんが戦うわ」

 

「ああ、本当に娘によく似ている、あれ? そう言えばマミはどうした?」

 

「ヒャッハーッ!! マスターロリのアンコールだァ ステージを開けろォーッ!!」

 

「やめてェマミさんッ!! まどゴンは何も悪くないのよォ―――――――ッ!!」

 

「ウザってえッ! 寝てろ危篤患者!!」

 

「まみあん! まみあん!」

 

「そうだよタッくん、私たちの最高の先輩なの」 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――ッ!!!!!」

 

 

 

燃え盛る熱狂の中、中沢少年一世一代の雄叫びが再びエントロピーを凌駕して、

見滝原商店街名物【アルティメット☆マミ塾旗】が、遥かな天空へとそそり立つ。

朋友の勇姿を見届けた上条が、愛用のバイオリンをゆっくりと構える。

 

 

――そして見滝原の空に、再び命溢れるマミさんのテーマが響き始めた。

 

 

「さーるてぃー ろいやーりー♪ たまりーえー ぱーすてぃあらーやー れーすてぃんがー♪」

 

「さーるてぃー ろいやーりー♪ たまりーえー ぱーすてぃあらーやー れーすてぃんがー♪」

 

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

 

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

 

 

「ガンバレー! アルティメットマミさん!」「あなたの後ろには私たちがついているわ!」

「私たちの未来を!」「大切な友達を!」「ここちょっと手ぇ抜きすぎじゃねえ!」

 

 

「さーるてぃー ろいやーりー♪ たまりーえー ぱーすてぃあらーやー れーすてぃんがー♪」

 

「さーるてぃー ろいやーりー♪ たまりーえー ぱーすてぃあらーやー れーすてぃんがー♪」

 

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

 

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

「フレェ―――ッ フレェ―――ッ マーミーさんッ!」

 

少女たちの無垢なる歌声が、男たちの命の叫びが輪唱となり、

巴マミの胸の奥で柔らかな鼓動を刻み始める。

 

 

 

「こ、こんな事いつまでも続けてたら、本当に私、お嫁にいけないじゃない……」

 

『大丈夫だマミ、

 健やかなる時も病める時も、

 たとえ君がオバサンになっても、私はずっと君の傍にいるぞ☆』

 

 

 

「絶対に い や あ あ あ あ あ ぁ あ ぁ ぁ ぁ ~~~~~~~~!!」

 

 

 

魂を震わす乙女の叫びが、見滝原に、日本に、アジアに、地球に、太陽系に、銀河に、

そして遥か宇宙の彼方にまで響き渡り、新たなる奇跡の物語の始まりを告げる。

 

 

 

……どうやら、彼女とUFOマンの物語は、もうちょっとだけ続くようです。

 

 

 

(UM☆アルティメットマミさん てぃろ・ふぃなーれ♪)

 

 

 

 

 

 




以上をもちまして本作は完結となります。
最後になりますが、本作を全裸で応援してくださったみなさん、
当にありがとうございました。

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