だがその過程でとんでもない物が見つかり……?
つつがなく業務を終え、自宅に戻ったコネルコとメルシュカル、サージュにヴィラーシュ。
サージュは持ち帰ってきたテディベアを自分の机の上に乗せる。その後に裁縫セットを取り出し、裁ちばさみとメガネを取り出す。そして一枚写真を撮る。
「さてと……始めますか」
まずは最も違和感のあった左手を胴体と切り分ける。
胴体はそのまま使う為、穴を開けないように慎重に切っていく。縫い目が想像よりも遥かに丁寧だった事と器用さもあり、狙い通りに糸が切れていく。
繋ぎ目を半分切った辺りで腕の側からワタが溢れ出す。本来の手法ならば裏返してから詰める為、断面を作らない限りは溢れてこないようになっている。
だがこの腕はどうやら裏返してはいなかったようで、切り取る最中に溢れてきていた。
「やっぱり返してなかった。ちょっと邪魔だからワタを抜いちゃおうか」
かぎ針を取り出して左腕の中にあるワタを抜こうとする。だが見た目とは裏腹にかなりの密度があるらしく、取り出すのに苦労する。
「んー……加減を知らなくて思いっきり詰めちゃったのかな?」
そう言いながらも、なんとかきっかけを作ってくり抜いていく。
最初のとっかかりさえ出来れば、あとはスムーズな物で中身がごっそり抜け落ちてきた。そしてある程度取り出せた所で、ゴトっという音が机を叩いた。
「ん?」
サージュは作業の手を止めて落ちてきた物を見る。それは黒い小型の機械だった。
一応電池で動くテディベアも無くは無いのだろうがそれならば、ここに来るまでに何度も動かしている筈。
もし壊れていたとしても、持った瞬間の感触ですぐわかる。その為これは動くテディベアでは無いのは確かであった。
「なんだろうこれ?」
サージュはその機械を細かく見てみる。青いランプが一定間隔で点滅しており、この機械が稼働している事を示している。
さらによくみるとボタンが付いており、それを押してみると、画面らしき場所に何かが表示された。
そこには録音中である事を示す表示がされており、つまり今までの会話が録音されているという事を示していた。
「これは……盗聴、え?えぇ⁉︎」
流石に驚いたサージュはパニックになり左右を見渡す。初めての事でどうしたらいいのか分からなくなった。
その時、部屋の扉が突然開く。
「サージュ、修理は進んで……?何やってるの?」
入ってきたのはメルシュカルだった。実はコネルコ含めて図書館で働いているメンバーは一緒に暮らしている。
メルシュカルは慌てた様子のサージュを見て不思議そうにしている。何かが起きたのは一目瞭然だったが、どうしてそこまで慌てているのか見当もつかなかった。
「メルシュカルさん、いやえーっと」
未だパニック状態のサージュは何をどう伝えれば良いのか分からなかった。そうしているうちにメルシュカルが盗聴器の方に視線が移っていた。
「サージュ、それ何の機械?」
「あぁっ、それ盗聴器です!」
「盗聴器⁉︎まさかテディベアの中から?」
メルシュカルの質問に激しく首を上下に振るサージュ。メルシュカルが盗聴器を拾い上げて色んな角度に傾ける。そしてある一点の所を見つめるとボタンらしき物を見つける。
ボタンを押してみるが、録音状況を示す画面が現れるだけで何か変化が起きたわけではなかった。そこでもう一度、今度は長めに押してみる。今度はメーカーのロゴが現れて画面が真っ暗になった。
もう一度短くボタンを押すが反応しない。どうやら電源が切れたようだ。
「これで大丈夫……の筈」
「あ、ありがとうございます」
息を深く吐くメルシュカルにサージュは軽く頭を下げてお礼を言う。
「いいの。それよりも、これテディベアに入ってたんだよね?」
「はい。左腕の中に入っていました。恐らくは破れた左腕を付ける時に仕込んだかと思います」
「そうだと思うけど……でも誰が何の目的で?」
メルシュカルの問いにサージュもメルシュカル本人も考えるが何も思い浮かばない。あれこれ考えていると部屋にもう1人入ってきた。
「サージュちゃん、メルシュカルちゃん。そろそろ寝る準備をしましょう?」
「コネルコさん」
「コネルコ。ちょうどよかった。これを見て欲しいんだけど」
入ってきたのはコネルコだった。すかさずメルシュカルが盗聴器を手にコネルコに相談を持ちかける。
「これは何かしら?」
「盗聴器。あのテディベアに入っていたみたい」
「え?」
思わず聞き返すコネルコ。無理もない。まさか預かったテディベアから盗聴器が見つかるとは思わないだろう。だがすぐに状況を把握して次の一手を考えられる程には冷静だった。
「……そうなると私たちだけではどうしようもならないわね」
「じゃあどうするの?」
「明日サクラギさんを呼び出すわ。警察の人も呼んで話を聞きましょう。その時にサージュちゃんも同席してもらいたいけど、良いかしら?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう、じゃあ今日はそろそろ寝ましょう?」
サージュとメルシュカルは後片付けを済ませて、そのまま自分のベットに移って布団を被った。
コネルコは部屋を出て自分も寝床についた。
翌日午後の夢見る図書館。サクラギを無事に呼び出して事務室に入れた。コネルコとサージュと制服警官と合わせて4人が今事務室にいる。
現在は警官に状況を説明している所である。
「まず、その人形はある日お子さんが破ってしまい、捨てようと家に置いていたんですね」
「はい」
「それで、家にいない間に誰かに入られて、人形が直されていたと」
「そうです」
警官の質問にサクラギが答える。警官はメモをとりながら話している。
「それで、それが何かを調べる為に図書館を訪れた所、館長さん達がサクラギさんの異変を察知されて、その人形を預かったんですよね?」
「はい」
今度はコネルコが答える。
「でその人形を持ち帰り、家で直そうとしたらこの盗聴器が見つかったと」
「はい」
サージュが答える。すると警官は頭を抱えながら結論を話した。
「なるほどなるほど……いやぁこれ旦那さんがやったんじゃないんですかねぇ」
「いえ夫では無いです!」
警官の読みに対して強く否定するサクラギ。流石に夫が疑われたら、そう否定するのは無理もない。
コネルコ達は後に知る事になるが、この警官は一度サクラギの不法侵入で呼ばれた警官で、その時にも真っ先に夫を疑っていたらしい。
「どうしてそうだと思いました?」
その横で冷静に理由を問うコネルコ。単純に理由が聞きたくて尋ねてみる。
「人形を持ち出して、仕込んで入れ直すなんて身内以外に誰が出来ます?」
「より詳細を聞かなければ分からないとは思いますけど……」
「じゃあ館長さんは何か手はあるんでしょうか?」
警官に問われて右手を顎に付けて、視線を逸らして考える。まだ全て可能性の話ではあるが色々方法はあると思った。
推理小説も嗜む彼女にとって、そこに入る方法はなんと無く浮かんでいた。だが本来ならばサクラギから話を聞いて、より詳細な推理をしようとしていたが、この警官はまだ詳細を聞かずに決めつけようとしている。
流石に如何な物かと内心思ってはいるが、立場もあるのでそれはグッと心の中に閉じ込めておく。
「そうですねぇ、色々方法はあるとは思います。ですがまだサクラギさんからテディベアが破れてから直るまでの間の事を聞いてませんよね?」
「……じゃあ館長さんは本当に外部からの侵入者が居ると?」
じろりと警官がコネルコを睨む。臆する事なくコネルコは返す。
「ええ、少なくとも今の段階では何も言えませんけれど……サクラギさん。その事を証明する為にそのテディベアが破れた後から直るまでの間に起きた事を教えてください」
警官からの圧を物ともせずに、コネルコはサクラギに話を振った。
「はい、あの時は……何人か来客がありました」
「来客ですか?」
コネルコが首を傾げる。警官の視線もサクラギに移る。
「はい。何回かそれで外に出たので確かです」
「名前をお伺いしても?」
「ええと……
メモを取る警官。コネルコはメモを取らないが代わりにサージュが記録している。
「それぞれ誰がいつ訪れましたか?」
「確か、テディベアが破れて少し経った頃……確か9時ぐらいにヒナタさんがやってきて、玄関でお話ししました」
「因みにどんな話しでしたか?」
警官が質問を畳み掛ける。サクラギは思い出そうとするが、なかなか思い出せないようだ。
「いえ取り留めもない話しだったかと思います」
「そうですか、では次に誰が来ました?」
「次は……ユキメさんが来ました。確かお昼前だから11時ぐらいだったかと……」
思い出そうとしながら答えるサクラギ。メモを取るペンの音が響く。
「彼女は何を?」
「彼女の子供とうちのカオルを遊ばせてました」
「家に上がらせたんですね?」
「はい」
ペンを走らせる音が響く。コネルコは一瞬だけ自分の耳に視線を向けた。がすぐにサクラギに視線を戻す。
「それでしばらくして、時間も丁度良かったことからお昼を一緒に食べようと近所の喫茶店に……その時殆どずっと一緒でした。食事をした後に別れました」
頷く警官。メモを書き終えると質問を続ける。
「なるほど……ではクレハさんはいつ来ましたか?」
「確かユキメさんと別れてすぐでした。丁度入れ替わるぐらいで」
「家に訪れた訳ではなくですか?」
警官からサクラギに向ける視線が一層鋭くなる。
「はい。丁度親子向けのイベントをショッピングモールでやるという事で誘われて行きました」
「ではその間家には誰も居なかったんですね?」
「はい。その通りです」
「因みに帰ってきたのは何時ぐらいですか?」
「確か、4時半ぐらいです」
「4時半ですか……」
暫しの沈黙、ペンを走らせる音が響く。コネルコはその様子に視線を移すが、考え事をする為にすぐに他所へ視線をやる。すると今まで沈黙していたサージュから質問が上がってくる。
「あの、その3人の中で裁縫をしている人はいますか?」
「え?えーっと……たしかユキメさんとクレハさんはよくやっていた筈です」
その回答に目を丸くするコネルコ。内心でしていた推測が外れたのだ。1番可能性がある人物の名前が上がったのだ。しかし悟られないようにすぐに平静を保つ。
「そうですか、ありがとうございます」
頭を下げるサージュ。その間にメモを書き終えたようで警官から声が上がった。
「うーん、ちょっとまだ誰がやったかが分からないので、誰かを捕まえるという事は出来ませんね」
「そんな⁉︎こんなことをされてるんですよ⁉︎」
思わぬ発言に驚きながら反論するサクラギ。だが宥めるように警官は続ける。
「いや分かりますけどね?誰がやったか分からないと捕まえようが無いんです。不法侵入があったのは確かなので、一応パトロールの強化とかは出来るんですけど。その、犯人を捕まえるとなると、バッチリとした証拠が必要なんです」
警官の言い分も分からないことは無い。疑わしきは罰せずという言葉があるように、疑惑の段階では逮捕する事も深く調べる事も出来ない。
だが当事者としてはたまったものでは無いのも事実。犯人を見つけなければどういうことになるのか分かったものでは無い。
コネルコはこれ以上第三者が踏み込むべきでは無いと感じていながらも、関わらなければサクラギや家族に何かの被害が起きるかもしれないと思っていたが故に、ある提案をする。
「では誰かが分かればいいんですね?」
「え?えぇそうですけど、何をするんで?」
思わぬ提案に驚きを隠せない警官をよそにコネルコは続けた。
「おおよその検討はついています。あとは証拠があれば良いんですよね?」
「……」
警官は無言になる。まるで正気を疑われているような気がしたが、コネルコは気にしない。
「分かりました。では仮にでも分かったら通報なりしてください」
「えぇそうします」
「……では失礼します」
警官は部屋を出た。コネルコはそれを見送った後、ため息一つつく。サージュは懐疑的な顔を浮かべる。
「協力的ではなさそうですね」
「うーん。明確な事件にならないと動けないのは分かるけど、流石にあの対応はねぇ……」
警官に対する愚痴をこぼすコネルコとサージュ。
サクラギも口には出さないが色々と言われて色々複雑な感情が湧いているようだった。
そんな時にドアがノックされ、扉が開く。入ってきたのはヴィラーシュだった。
「コネルコ。今いい?」
「えぇ、丁度今終わったところよ」
「良かった。これサクラギさんの家の周りの地図のコピー。サクラギさんの家と近所の喫茶店と、隣町のショッピングモールにマークを付けてる。それとそのショッピングモールでやってたっていうイベントと移動時間を纏めたメモ」
「ありがとうヴィラーシュちゃん」
「別にいい」
地図とメモを受け取るコネルコ。素っ気ないがちょっとだけ顔に出るヴィラーシュ。サージュがその様子を見て慌てだす。
「ちょっと待ってください⁉︎ヴィラーシュさんはどうやって聞いていたんですか⁉︎」
サージュの問いにヴィラーシュは静かに片側側面の髪を掬い上げた。そこには小型のインカムがついていた。
「こう言う事」
ふとコネルコの方を向くと、コネルコも髪を上げてインカムを見せた。
「いつの間に……」
「ここにくる前にね」
困り笑顔を見せるコネルコ。ヴィラーシュは特に変わらない様子である要求をする。
「今度の茶葉、フレンチアールグレイでよろしく」
「そこそこ高い物じゃない。彼には掛け合ってみるけども」
オーナーにかけ合うと約束しつつも、今はとりあえず推理を進めることにした。
ヴィラーシュも混ざり4人で地図をみる。早速彼女から質問が上がる。
「それで?検討はある程度ついているって言ったけど、誰なの?」
ヴィラーシュの問いにコネルコは首を傾げながら答える。
「検討はついているんだけど分からない事があるの」
「分からない事?」
「そう、あの人が犯人ならどうやって家に入ったのか……そこがまだ分からないわ」
考え込むコネルコ。ふとサージュは何かを思い出した様子で話を切り出す。
「そういえば、最近はスマートフォンと連動して遠隔で鍵を開ける、なんていうのもありますよね」
「え?確かにあるけれど……あ、成る程!そう言うことね!」
コネルコはサージュの発言で閃いた。ヴィラーシュも成る程と納得したが、サクラギと発言した本人であるサージュは未だわからなかった。
コネルコはそれが本当に可能かどうか、サクラギに聞いてみることにした。
「サクラギさんの家の鍵ってスマートロックですか?」
「はい、最近付けたんです。子供を抱えながら鍵を挿すのが大変だったので」
「ならこの方法は出来そうね。あとは証拠よね……」
コネルコが次の手を考えようとした時、サージュから提案が上がってくる。
「あの、少し実験と言いますか確かめたいことがあって……」
「何か気になる事があるの?」
「はい、裁縫をやった事が無い人が数時間でテディベアの腕って直せるのかなと思ってて。恐らく家にいない昼から夕方までにやったんですよね?」
サージュの質問を聞いてコネルコは片手を顎に当てる。頭の中で整理しつつ、推測を重ねていく。
「そうだと思うわ。家に居なかったのは大体4時間から5時間ぐらいの間だと思うわ。ただユキメさんとクレハさんはその間にサクラギと会っているから、実際には大分短くなるわね」
そう考えるコネルコは頭の中で事件を整理している。
最初に訪れたのはヒナタ。午前9時に来た彼女は玄関で話しただけだった。つまりテディベアが壊れた事を知らない可能性が高い。
次に訪れたのはユキメ。子供を連れて家に上がり、その後に食事に誘った。つまり壊れたテディベアをほぼ確実に見ている。
最後に会ったのはクレハ。彼女は家では無く食事をした喫茶店で出会い、隣町のイベントに誘った。テディベアの事は当然知らないと見て良い。
この事を踏まえて推理していくが、どうしても一点だけ合点がいかない事があった。それが
そこを解決しなければ、犯人に辿り着く事が困難になってしまう。頭を悩ませているとヴィラーシュがつぶやいた。
「そういえば、スマートロックなら施錠と開錠の時間が分かるよね?」
「そうなんですか?」
ヴィラーシュの呟きに反応するサージュは首を傾げていた。
「スマートフォン側で管理するんだけど、その時にログが残るって、最近メルシュカルと一緒に読んだDIYの紹介本で見た」
ヴィラーシュは普段から本を読むのが趣味で閉館後や休日は大体何かを読んでいる。大体は小説だが、ごくたまに誰かと一緒に見たり読んだりする事があり、そこで見たようだ。ヴィラーシュはそのままサクラギに聞いて見る。
「それでサクラギさん、少しそのログを見せて欲しいのだけれど」
「ええっと……何処から」
手間取るサクラギの横にサージュが立ち、スマートフォンの画面を指差した。
「多分ここを押して……それでそのログっという場所を押せば……出てきました!」
全員がスマートフォンの画像に注目する。画面にはいつに施錠や開錠されたのかが分単位で残されていた。その中で一つ、コネルコには気になるログがあった。
「ええと……ん?この15時24分に開けてますね?一度家に帰りましたか?」
「この時は……あぁ、ユキメさんが忘れ物をしてすぐに使いたいという事だったので開けました。すぐに見つかったみたいで数分で閉めましたけれど」
「なるほどね……」
これでコネルコはどうやってテディベアをサクラギの家に戻したのかが分かった。あとは証拠を集めて犯人を正確に割り出すだけだ。
だが指紋のような確実な証拠が取れない。何故ならテディベアは指紋が取りづらく、盗聴器は既にサージュとメルシュカルが触っているので分別が出来ない以上採取は厳しい物がある。
いかに人形といえど、指紋が無ければ物を持つ事が難しくなる。それ故にシュガードールには指紋がある。
せめて音声を引き出せれば何か手掛かりが掴めるかもしれないと思った時、ふとある
(八重狐さんなら、音声を取り出す事も出来そうね。それにあの人なら今回の件で解決出来るようなアイデアが貰えるかも)
そう思ったコネルコは出かける準備をする。
寄り道をした後にサクラギの家へ行き、そこで丸ごと解決に持っていこうという算段が彼女の中で出来上がっていた。
「サクラギさん、これからあなたの家に行って良いかしら?」
「え?あぁはい。大丈夫ですよ」
本人の同意を得て、コネルコはサージュと、この場には居ないがメルシュカルを引き連れて彼女の家に行く事にした。
(その前に寄り道してからになるけれどね)
内心コネルコはそう思いながら出かける準備を整えた。
盗聴器を仕掛けた犯人とは一体?
コネルコ達の調べ事が始まります。
メルシュカルはエトワールのプリンセス進化です。なんかきらきら感表現できてないかもしれないが