果たして明かされる真実とは?
誰が仕掛け、何のためにやったのか?
それが分かります。
サクラギの住む家に着いたコネルコとサージュとメルシュカル。彼女の家はマンションで、エントランスには簡易的なインターホンが設置されている。
そこで鍵の所有者や入居者の許可を得た者だけが入れるようになっている。
コネルコは入り口手前にある郵便受けに視線を移していた。しばらく意味ありげに見ていたが何も言わずに視線を正面に向ける。
「結構しっかりしたセキュリティね」
インターホンや玄関に設置されたドアを見たメルシュカルがそうこぼすと、サクラギがそれに答えた。
「そこそこ新しいですからね。確か出来て5年とかだったような」
「そうなのね。となると外からは勝手に入りづらいわね」
見渡しながら率直な感想を述べるメルシュカル。コネルコとサージュも珍しげに見渡している。
「そうね。セキュリティがしっかりしてる証拠よね」
「成る程、だからその日に訪れた方達ってこのマンションの方だったのですね」
ふとコネルコがつぶやいた一言で場が一瞬固まる。一斉にコネルコの方に視線が集中する。
「なんで館長さんがそれを⁉︎」
驚くサクラギや他2人をよそにコネルコは何ともないように続けた。
「先程、郵便受けに全員名前がありましたので……それでそうかなと」
そう先程コネルコが郵便受けを見ていたのは、その日に訪れた人達が同じマンションに住んでいるかどうかを見ていたのだ。
「いや、よく見てますね館長さん……」
「いえいえ、つい細かい所までみちゃうだけですよ」
「凄い……あ、ここです」
そうこうしているうちにサクラギの住む部屋に着いたコネルコ達は、彼女に促されて中に入る。
中は物がそこそこある割には整頓されているという印象をコネルコ達に与えた。
「そこの部屋で寛いでください。」
リビングに通されたコネルコ達は、言われた通りに座って寛ぐ。
少しすると、サクラギがお茶の入ったコップを人数分持ってきた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます。いただきますね」
「いただくわ」「いただきます」
コネルコ達は礼を言って一口付ける。3人がコップを置き、そのまま本題へ入る事にした。
「それで、どうやって犯人を割り出すんですか?」
サクラギが質問をする。コネルコがその質問に答える。
「実は私たちの知り合い……というよりも私たちと同じオーナーの
「はぁ」
「そこで一部だけを抜粋してもらったのですが、これを聞いてください」
コネルコはスマートフォンに繋いだイヤホンをサクラギに渡す。イヤホンをはめたサクラギは一瞬にして目を見開き瞳を細める。その様子を見たコネルコはやはりと言った様子で声を掛けた。
「聞き覚えがあるようですね?」
「はい……でもなんで……?」
困惑と焦燥の混じった様子のサクラギ。訳が分からないといった様子だ。
コネルコとしてはこれ以上聞いてもあまり良くは無いと考える。がメルシュカルとしてはどうしても気になった事があったのかある事を聞く。
「何か思い当たる節とか無いの?」
「……いえ、何も思い当たらないです」
考える間があったが、サクラギは首を横に振って否定する。
「んー……すごいぶっちゃけた事聞いて良い?」
「え?ええま、はい」
メルシュカルが顎に軽く握った拳を乗せて考えた末の発言に首を傾げるサクラギ。何を聞こうというのか本当に分からない。
「サクラギさん、旦那さんと上手くやってる?サクラギさんもそうだし、その日訪れたヒナタさんとユキメさんとクレハさんも周りとの関係とか……」
「旦那とは上手くやっています。あの人、カオルが生まれてから定時で帰ってきてくれるので……ユキメさんはシングルマザーでよく託児場に夜子供を預けたりしているみたいで」
合間に相槌を入れるメルシュカル。案外こういう夫婦間の話なんかが好きなのかもしないとコネルコとサージュは思った。だがユキメの話を聞いた時に彼女の口からん?という疑問符が口から出た。
「でもあの日はお昼に来たよね?夜の仕事というのならお昼は大体寝てるんじゃないの?」
「なんでも休みだったらしく、久しぶりに子供と遊ぼうとしていたみたいで」
その辺りの事情をより深掘りしようとするメルシュカルだったが、サクラギが言っている事も真っ当だろうと思いつつも、その思考は口にはしなかった。
「ふーん。まぁそういう事ね。それでクレハさんはどうなのよ?」
「クレハさんは……実はあまり知らないの」
「知らない?」
思わず聞き返すメルシュカル。何処かへ出掛ける仲なら少しぐらいは知っていそうと思っていたが、当てが完全に外れた。
「ご夫婦で居らっしゃるのは分かるんだけど、それ以上の事を話さないの彼女」
「旦那さんの話とか全然しないんだ?」
「ええ、そういう話になってもどんな人か分かりそうな事を聞いた事なくて」
なるほどとメルシュカルは理解出来た。
「ふむ……じゃあヒナタさんは?」
「ヒナタさんは独身の方……というよりも大学生なので、浮ついた話しは聞きますけど、特に何か変なことがあったとは……」
この話を聞いたメルシュカルはある可能性に気付いた。今聞いた3人の内2人には動機がある事に。
あまりに身勝手な物ではあるが、本人としては十分な動機になり得る物である事が想像に難くなかった。
「そうね。まぁどうしてやったかは分かったと思うけど、本人に喋らせた方がいいよね?コネルコ?」
大体聞きたい事が聞けたメルシュカルはコネルコに話しを振る。コネルコは徐に何かの機械を取り出した。
「ええ、そう思ってコレを借りてきたわ」
それは丸っこく、少し硬そうな何かだった。サージュとメルシュカルはそれがなにか分からず、サクラギは一目見ただけで分かった。
「それってみまもりカメラですよね?」
「そうです。貸してくれた子曰く『子供が居るならコレが1番分かりにくいじゃろ、木を隠すなら森……という奴じゃな』……だそうです」
そう言いながらサクラギに渡すコネルコ。貸した人の話し方を真似たのだろうが、どんだけ濃い人なのか想像がつかないのをあえて気にせずに起動させてテディベアが見えるように設置する。
テディベアはコネルコ達と図書館で会った時の状態になっていた。サージュ手早く縫い直したようで、キッチリと再現されている。
「後は来るのを待つだけね」
それを見たコネルコは微笑んでいる。これで全てが白日のもとに明らかになるという確信を得たからだ。
「本当に来るんですか?」
少々疑り深くなっているサクラギ。
「来ますよ。絶対に」
確信を持ってコネルコは答えた。
夕暮れ時のサクラギ家のリビング。そこにいる人物はサクラギやコネルコ達では無い。
その人物は自分以外の人が居ないのを確認して、テディベアに手に取り、持ち上げたその瞬間に、誰かに手首を掴まれる。
「やはり、来ると思いましたよ
ユキメが驚きかなり素早く振り向くと、そこにはサージュがいた。彼女は事前にサクラギに写真を見せてもらい、ユキメの顔や背格好は把握していた。
「な、何のこと」
「あなたがこの家に盗聴器の仕込んだテディベアを置いたんですよね?」
「知りません」
サージュはしらばっくれるユキメに態度を崩さない。
「ではなぜ今、貴方はそのテディベアを手にとっているんですか?」
「これは……その何か変だと思って」
「変……とは?」
誤魔化そうとするユキメ。ただ慌てているのか説得力が皆無だった。
「仕込んだ盗聴器を回収しようとしていたのは、もう分かっているんです」
一瞬動揺したユキメ。言い当てられたのが効いたようだがまだ抵抗しようとする。
「この腕のような縫い方なんて知らない!私だったらちゃんと
ユキメに言い分に苦しさが滲み出ている。語気が強くなっているのが目に見えていた。
だが確かに彼女のいう事には一理ある。裁縫をするなら必ず縫った後に裏返すのが常識である。
その謎もサージュは既に解いていた。
「確かに裁縫をやる方ならまずやらないですね。ですが逆に
「それはどういう事?」
ユキメは困惑した。裁縫の基本を知らなければ裏返す事を知る由は無い。そう思っているからだ。
「やった事無い人は大体調べるんです。
目を見開き固まるユキメ。しばらくして自分のやった事が明るみになった事を受け入れて目を閉じて俯いた。
それと同時に玄関が開く音がする。サージュが振り向くと、コネルコとメルシュカルがクレハらしき女性を連れて入ってきた。
クレハは重々しい雰囲気を漂わせていた。
別室で待機してもらっていたサクラギも合流して、改めて今回の事件の経緯を纏めるのと、動機を探る事にした。コネルコは全員集まってるのを見て頷いてから声を上げた。
「全員集まった事ですし、もう一度おさらいしてみましょう?」
特に反論がないのでコネルコはそのまま話を始めた。
「このテディベアに起きた事、それはその日、子供同士を遊ばせるという名目でユキメさんがこの家に訪れ、盗聴器を仕込めそうな物や場所を探していたら、このテディベアが目に入り持ち出す事を決めたのでしょう。
その時、時間的にはお昼時だった事もあり、近くの喫茶店で食べようと提案しサクラギさんはそれに乗った事で簡単に持ち出す事が出来ました」
「でも持ち出したとして縫う時間なんてありませんが?」
コネルコの説明にユキメは反論をする。確かにユキメの場合、食事が終わり別れるまでに縫う時間は確保出来ない。
だが、その点は既にコネルコ達は見抜いている。
「えぇ、確かにユキメさんだけなら少し厳しいかもしれません。ですが
目を見開くユキメとクレハ。コネルコはそのまま説明を続ける。
「ユキメさんは食事に行く際にクレハさんに渡していたんです。同じマンションならばサクラギさんの目を盗んで受け渡す事なんて簡単でしょう」
俯きながら目を合わせるクレハとユキメ。
「その後クレハさんは、テディベアの破れた左腕に代わり盗聴器を仕込んだ物に差し替えました。そして食事終わりに別れたユキメさんと合流してテディベアを渡し、その後に偶然を装ってサクラギさんに接触して家から遠ざけるようにしました。後はそこにユキメさんから忘れ物をしたから一瞬鍵を開けて欲しいと言って遠隔で開けてもらって、テディベアを元の場所に戻しました。そうですよね?お二方」
コネルコの問いに無言になるユキメとクレハ。重い沈黙が流れていく。暫しの時を得てクレハが声を上げる。
「でも、証拠は無い……そうだよね?」
証拠が無ければ冤罪だと言わんばかりに抵抗しようとするクレハ。その光景に目を見開くユキメ。どうやらその点で意識の相違があるようで緊迫感が凄まじくなってきた。
「証拠ならあります」
サージュが放った一言でクレハが非常に大きく動揺している。サージュは畳みかけるようにして自分のスマートフォンを取り出した。
「この音声をお聞きください」
サージュはスマートフォンを操作して音声を再生した。
『後はよろしく』
最初に聞こえてきたのはクレハの声だ。
『は、はい……バレませんか?』
この声はユキメの物。
『大丈夫大丈夫、バレた所でその時点でもう回収出来てるから』
そう言った少し後、音声の再生は切れた。
「これでも、まだ足りませんか?」
この音源から聞こえてくる声は確かに2人の物だった。それが白日の下になった事によって俯いて観念し口を噤んだ。
サクラギだけでなく全員がその様子を見て事実である事が確定した事でサクラギから疑問が飛んできた。
「どうしてこんな事を…………?」
その質問にユキメとクレハは答えない。その代わりにメルシュカルが答える。
「2人とも嫉妬してるのよ、サクラギさん。あなたにね」
どういう事が分からない様子のサクラギと大きく焦る様子を見せるユキメとクレハ。
「ユキメさんはシングルマザーで仕事に育児に負担が大きいでしょ。託児場を使っているとは言ってもね。子供と遊べる時間も少ないし、何かしてあげられないっていうのは苦しいと思うの。それでゆったりと育児しているサクラギさんとの違いに苦しんでいたんでしょ?」
ユキメは何も答えない。メルシュカルは目を瞑って続ける。
「そういう時こそ私達のような
目線を合わせようとするメルシュカル。だが目を逸らすユキメにあららと複雑な気持ちになりながらクレハに視線を移す。一瞬クレハがビクッとなる。
「そしてクレハさん。失礼な質問だけど旦那さんとは上手くやってるの?」
「………………」
「その様子だとあんまりみたいね」
無言を貫こうとするクレハ。だがその様子からメルシュカルは察し頷いて再び顎に軽く拳を乗せる。
実はメルシュカルはサクラギからクレハが旦那の話しをしないと聞いた時に夫婦仲が上手くいってない事を薄々感じていた。
夫婦ならパートナーの話しは少しぐらいは良い話も悪い話もする物だと考えている。そこで何も話さないのは彼女にとって違和感でしか無かったのだ。
「それで夫婦仲が良いサクラギさんに嫉妬しちゃったんだ?ユキメさんもクレハさんも」
再び訪れる沈黙の後にゆっくりと2人は頷いた。その様子を見ていたコネルコとサージュは目を合わせ、サクラギはどこかバツが悪そうな表情を浮かべている。
メルシュカルはその様子を見て話しを纏めていく事にした。
「まぁユキメさんは色々既にやる事やっているとは思うけど、思い詰めるならもっと家族とかを頼る事。それかさっきも言ったけど
そしてクレハさんの問題は正直私からは具体的な事は何も言えないわ。旦那さんの事は何も知らないからね。でも一言だけ言うなら、しっかりとその人の事を知るようにする事……かな。私からは以上よ」
そう言ってメルシュカルはコネルコの方に視線を向ける。コネルコは一瞬彼女と目を合わせた後にサクラギの方に視線を移す。
「私からはこれ以上話せる事は無いわ。サージュちゃんはどうかしら?」
首を横に振るサージュ。どうやら彼女からもこれ以上の話しは無いようだ。
「じゃあ後はサクラギさん。貴方はこの2人をどうしたいか……ですよ」
その一言で全員の視線がサクラギに集中する。その中でサクラギは自分の意見を声に出した。
「私は……」
数日後、午前の夢見る図書館の中にある貸し部屋のうちの一室。そこでは赤ちゃん向けの遊びをするイベントが開催されていた。
サクラギの子供であるカオルも参加させており、サクラギは遊び場から少し離れた所で、サージュとメルシュカルと会っていた。
「しかし、本当に良かったんですか?あの2人を許しても。盗聴していたんですよ?」
サージュがそう聞くとサクラギは答える。
「うーん。2人とも悪気はあったと思うけど理由が理由だから……ね?」
そう、あの日2人を警察に連れて行かなかった。ただし無条件では無くユキメには家族の支援を受ける事、クレハには夫婦で一度話し合う場を設ける事、そして2人共サクラギ家に入る事を禁じる事で合意した。
「まぁサクラギさんがそう言うなら良いですけど……所でメルシュカルさん。あの時話していた事、なんか自分が経験したような話し方でしたけど、あの人に子供とかいませんでしたよね?」
サージュは納得はしていないが、話題を切り替える。
あの人というのはサージュ達を所有するオーナーの事である。
「いや、なんかアイツがやっている事を良く考えると1人で私達を育てていたようなものだと思ったのよ。それなのに私ったら意地はっちゃって……」
意外そうな顔で見つめるサージュと微笑むサクラギ。なんだか小っ恥ずかしくなってきてサージュの頬を両手で引っ張る。
「もう、何言わせてるのよ」
「いふぁふぁふぁ、いふぁいでうって⁉︎」
「……もう」
微笑ましい光景を見ていたサクラギだったが、ふと思い出したように2人に問う事があった。
「そういえば、同じとまでは言わないけど人形壊してしまったのってどう思うの?」
2人の動きが止まる。メルシュカルは頬から手を離して答える。
「お役目を果たしただけでしょ、それ」
「お役目?」
メルシュカルの回答にサクラギは首を傾げた。
「加減も知らない子供の遊び相手という役目を果たした。それだけの事よ」
「そうですね、私もそう思いますよ。あんな小さい子供に壊さないで遊んでって言うのも無理がありますし」
「あ、そうだった。テディベアの修理が終わったので返しますね」
サクラギと会った理由を思い出したサージュは、テディベアをサクラギに渡す。それは縫い目が隠された、一目では既製品と見分けがつかない程丁寧に縫われた物だった。
よく見ると腕だけ色が若干違うものの、ちゃんとした縫い方がされていた。
「こんな丁寧に……ありがとうございます。サージュさん」
テディベアの出来に驚きつつも笑顔をこぼすサクラギの様子をみてサージュも笑顔になる。
「でもこれまた壊れちゃったら、ちょっと勿体ないかも……と思ってしまうぐらいに綺麗に出来てるわ」
サクラギはその出来に少しだけ勿体なさを感じている。
「気にしないでください。むしろどんどん遊ばせてくれた方が私としても気が楽になりますので」
サージュがそう返すと、サクラギは続けてこう言った。
「なら今度壊れちゃったら私が直すのにチャレンジしてみようかしら、その時に色々教えてくれるかな?」
サージュはその問いに対して強く首を縦に振り、はいと答えた。
こうして、小さく歪なテディベアから始まったこの事件は、複雑な人間模様と嫉妬の心を白日の下に曝け出しながら、静かに幕を下ろすのだった。
そして日常へとまた戻る、そうでなくては彼女達の暮らしは無いのだから。
次回新キャラ登場or番外編として超イチャコラをやるかもしれない