彼女は自身の使命、役割に囚われていた……
新キャラ登場です。
ある日の夢見る図書館。開館前だと言うのに珍しく全員集められた事務室にて、館長であるコネルコがある話を切り出していた。
「今日から人…というよりも
その一言でざわつくラヴァベル、シュベルコ、ヴィラーシュ、サージュ、メルシュカルの5人。
実はこの6人は人間ではなく、生きた人形こと“シュガードール”である。
この図書館は様々な事情から人形のみで運営されている。書類上の保有者こそ彼女達のオーナーだが、普通の社会人である事から、コネルコが運営を行っているのだ。
「それは良いんだけど、唐突にどういう風の吹き回しよ?」
メルシュカルから疑問の声が上がる。
「それが、あの人が私達が週1日休みなのが気になっていたみたいなの。それで2人か3人増やして、みんな週2日休めるようにって言う事になったの」
夢見る図書館では休館日が週1日設けられているが、それ以外は今いる6人で回しており、休館日以外は最低でも全員半日以上はここで業務を行っている。
それが彼女達のオーナーにとって非常に気になったらしく、この度新しい
「大体の事情は分かりましたけど、暫くは何人かに教えながらになりますか?」
今度はサージュからの質問が来た。これにもコネルコは答える。
「いえ、1人ずつ教えていくわ。そうした方が最終的には早い……らしいわ」
理由についてはどこか他人事なのだが、おそらくオーナーからの受け売りなのだろう。サージュはそう思いながら納得した。
「あとは大丈夫かしら?…………大丈夫そうだから紹介するわね、こっちに来て」
他に質問がないと判断したコネルコは部屋の脇の方に視線を移して誰かを呼ぶ。
そこから現れたのは、肩にかかるぐらいの長さの黒い髪を片側だけ三つ編みのように編んだ、白い花のアクセサリーと、ぱっちりとした薄めの緑色の眼をした少女だった。
そして何よりも目を引いたのは片手に持っている鞘に収まった刀だった。
「この子は花子ちゃん。花子ちゃん自己紹介お願いね」
花子と呼ばれた少女は軽く頭を下げてから5人の方へ向く。
「花子……主の命によりここに来た」
あまりに簡素な挨拶に面食らう5人。だが自然とすぐに5人の自己紹介と質問タイムに入った。
「ラヴァベルです!よろしくお願いします!花子ちゃん!それで、その刀……本物ですか?」
「模造刀……本物は貰えなかった」
ラヴァベルの質問に先程と同様に答える花子。
「私はヴィラーシュ。ここの副館長をやってる」
「……よろしく」
ヴィラーシュには軽く挨拶だけした。
「シュベルコ……その刀、どうするの?」
「主を守るために振るう」
シュベルコの質問に少し顔を曇らせた。
「サージュです。よろしくお願いしますね。花子ちゃん」
「メルシュカルよ。よろしく、花子」
「よろしく……」
サージュが手を差し出したので握手する花子。その横でメルシュカルも挨拶を済ませた。
「さて、今日は午前中に出てもらうから……花子ちゃんはラヴァベルちゃんについて行ってね。ラヴァベルちゃん。花子ちゃんに色々教えてあげてね」
「分かりました!改めてよろしくね花子ちゃん!」
「ん……」
タイプ的に真逆とも言える2人をペアにして仕事を覚えてもらう事になった。
花子とラヴァベルが部屋を出ようとした時にコネルコに呼び止められる。
「花子ちゃん。刀は置いて行ってね」
いわれた瞬間、花子はビクッとして固まった。
この日午前中はラヴァベルの他にコネルコとメルシュカルが業務を担当する日になっている。
開館前の業務の一つとして、掃除機やふきんを使った清掃がある。
ラヴァベルは花子に教えながらこなしているところで、今は棚の上の埃をはたく所を教えていた。
「掃除は上からだけど、上の埃を落とす時に棚の本にかからないように、このカバーをやる前に付けてね」
ラヴァベルがやっている所の横で同じような動作でカバーをつけてから、はたきで埃を取りふきんで仕上げる。
「そういえばさっき主の命って言ってたけど、主って——さんの事?」
ラヴァベルが自分達のオーナーの名前を出すと花子はこくんと頷いた。
「珍しいねあの人の事を主って呼ぶの」
「……主は主。それ以上のものじゃない」
そう言いながらも黙々と清掃を進める花子ある程度掃き終えたら、今度は床を掃除機で吸い込む。
花子の表情がその間、何も変えずに黙々と作業をしようとする。
だがラヴァベルはその間にも花子の事を知ろうと話しかける。
「あの刀ってどこで買ったの?」
「……主を守りたい一心で願ったら、いつの間にか刀を持っていた。でもその刀は危ないからって今の模造刀と入れ替えられた。どこで買ったかは分からない」
どう言う事と不思議に思うラヴァベル。
そのうちの一つとして、シュガードールには一度だけ強い想いに応じて新しい服などが現れるという現象がある。
多分その類なのだろうとラヴァベルは思った。
そうこうしているうちに、ある程度掃除が終わった。
時間的にはもうすぐ開館が迫ってきていた。
「じゃあこのシートを外していこうね」
ラヴァベルの一言で清掃前に付けた埃の侵入を防ぐシートを外して、準備は出来た。
「じゃあ今日は今から、見回りしながら掃除するよ」
「今やったのに?」
ラヴァベルの発言に花子は首を傾げる。今掃除は終わったじゃないかと思っており、その後に掃除をする趣旨が分からなかった。
「今は大雑把にやっただけだから。後ほら、机の上とか椅子とか、人が触る場所は汚れがつきやすいから、細かくやらないとなんだよね。あとは棚の中とか、特に細かい所をやるんだよ」
なるほどと思う花子。確かに今やったのは大まかな部分。
ここから細かくやろうとしたら時間が足りないのも事実。だから開館した後でも掃除は必要だと理解した。
「分かった」
その一言を花子が口にした時、ラヴァベルには感情がほとんど顔に出てないと感じていた。
開館して少し経った後、ラヴァベルは花子に館内を見回りながら本の位置を教えていた。
因みにこの図書館では制服のような物は無く、基本的にそれぞれカジュアルな服を着ている。
その為受付以外ではぱっと見のみで誰が職員なのか分からなくなっている。
流石に何かしらの作業を行っていると気付かれはするが。
「それでここが戦記物のコーナーで、棚ごとに時代が分かれているよ」
開館中は流石に声を普段よりも小さくするラヴァベル。
花子はラヴァベルの発言を要約してメモを取っている。
取り終えると次の場所に移動する。というのを繰り返していた。
無人となった机を拭いている時にラヴァベルが声をかけられる。
「すみません、この本を探してまして……」
「ちょっと行ってくるね。んー……この本でしたら……」
話しかけてきた来館者にラヴァベルが対応をし始めると、花子も話しかけられる。
「あのー、文学書のコーナーはどちらに……」
花子はその場所が何処なのか、まだ教えてもらって無かった。
「あ……えー……っと」
どう返したらいいのか分からない花子はしどろもどろする。
こういう時の返答や対応の仕方もまだ教えてもらっておらず、内心頭を抱えていると何処かから声が掛かった。
「花子ちゃん、どうしたの?」
「あ……えっと」
コネルコがやって来た。が、色々考えているうちに要望が何だったのか忘れてしまったようだ。
すると聞いてきた人がもう一度要望を口に出した。
「あの、文学書はどちらにありますか?」
「文学書でしたら、あちらの奥の方にございます」
「あ、はい。ありがとうございます」
その人はコネルコに案内された方向に去っていった。
それを見送った後、花子の方に向く。
「ラヴァベルちゃんは何処にいるの?」
「……他の人の案内に行った」
「そうだったのね」
「お待たせ花子ちゃ……ってコネルコさん?どうしてここに?」
ラヴァベルの行方を聞いていると本人が戻ってきた。
早足で戻ってきたのか少しだけ息が荒くなっていた。
「ラヴァベルちゃんが他の人の対応をやっている時に話しかけられちゃったみたいでね」
「そうだったんだ⁉︎ごめんね花子ちゃん」
色々な事が目の前で起こりすぎて何も答えられない花子。
彼女にとって図書館での業務全てが未知の状況で、処理が完全に追いついていなかった。
そんな様子を見たコネルコは彼女を少し休ませるべきだと考えた。
「花子ちゃん。少しだけ休憩しましょう?」
「え?でも……」
渋る花子。まだ開館して僅かにしか経ってないのに休んで良いのだろうか?と疑問に思っていた。
「今日が初めてだから仕方無いわよ。覚える事もいっぱいあるから、ね」
「……承知した。お言葉に甘える事にする」
あまり乗り気では無かったが、コネルコの提案を受け入れて休憩に入る事にした。
それを見送ったコネルコはラヴァベルの方に顔を向ける。
「ラヴァベルちゃん。初めての子を1人にさせるとこういう事が起こるから、着いてきてもらった方が良いわよ」
「ごめんなさい、コネルコさん」
「人に教える事があまり無かったからね。次からはそうしてね」
頭を下げるラヴァベル。コネルコはそれ以上追及する事無く、作業に戻っていった。
ラヴァベルもそのまま自分の作業に戻った。
花子は事務室にて自身の刀をじっと見つめていた。
少しばかり抜いた身には彼女の顔が僅かに波打ちながら写していた。
その表情は暗い物であり、側から見れば非常に思い詰めた様相に見える事だろう。
だが花子の内心は疑問で溢れかえっていた。
(私達
思考の奥深くまでハマり込もうとした瞬間に、事務室のドアがノックされる。
花子は思考の渦からいきなり現実に引き戻された事で、びっくりして思わず刀を抜いて上段で構えてしまう。
扉が開かれると入ってきたのはコネルコだった。
「花子ちゃん。休めているかし……ら?」
刀を構える花子を見てコネルコは固まるしかなかった。
「ごめん、驚いて……つい」
「大丈夫よ。それよりも少しは慣れたかしら?……って今日が初めてだったわね」
あの後直ぐに刀をしまった花子の横に座るコネルコ。机の上には暖かい紅茶が二つ置かれていた。
困り笑顔で聞いてくるコネルコに、花子は何も答えずに俯いたままだ。
「……」
「何か悩みでもある?」
そんな様子を見たコネルコには花子が心の中で何かを抱えているような気がした。
だが彼女は静かに首を横に振った。
花子の中の悩みは自分の中で完結させるべき、自身でそう考えている。
「大丈夫。今はまだ覚えることしか出来ないけど、その内に慣れる」
「そうかしら?分かったわ。あ、でも私からは一個だけいい?」
顔をコネルコの方に向け首を傾げる。何の話をするのか全然分からなかったからだ。
「困ったときは他の人を頼ってね。私やラヴァベルちゃん、メルシュカルちゃんにサージュちゃん。ヴィラーシュちゃんにシュベルコちゃん。みんな頼ってくれたら頑張れるから、ね?」
花子の瞳を覗き込むコネルコ。少し見つめあった後に花子の方が目を逸らしてしまった。
「……分かった」
こくんと頷いた花子は紅茶を飲み切って立ち上がる。
「もう大丈夫?」
「大丈夫。それで次は何をすれば良い?」
「引き続きラヴァベルちゃんと一緒に動いてね」
「分かった」
花子はそのまま部屋を出ようとしたがコネルコに呼び止められる。
「花子ちゃん、刀」
またもやビクッとしてしまう花子だった。
彼女の使命とは役目とは?
キャラ紹介
花子
ウツセミという種類のシュガードールで、その中でも主人を護りたいという心が強く現れている。