ようこそ!夢見る図書館へ!   作:ジャック・アヴェンダドール

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 九尾の狐を模した人形が図書館に訪れて来る。
 ある史料を読みに来た彼女は花子を一目見る。

新キャラ登場(その2)です。


花子と八重の狐と人形作りの村 中編

 お昼前の夢見る図書館、入り口付近ではある人物が注目の的になっていた。

 そこにいたのは緑の浴衣を着た、白い九尾の尾を持った薄い青色のジト目狐っ娘が佇んでいた。

 館内で清掃作業をしていたラヴァベルと花子も、その狐っ娘に視線を奪われていた。

「凄い派手」

「あれ?珍しい人が来てる」

 ラヴァベルの発言に花子の視線は彼女の方に向いた。

「知り合い?」

「あれ?会ったことないの⁉︎」

 意外そうにするラヴァベル。花子は首を傾げている所から本当に知らないようだ。

「あの人は八重狐(やえこ)さん。私達と同じ

 人形(シュガードール)でオーナーも私達と同じ人。だけどよく家に居ない事が多いから……さて、作業に戻ろ?」

 ラヴァベルに促されて作業へと戻っていった。

 

 入り口の方では八重狐に視線が集中しており、注目の的になっていた。

 だが意に介さずにある人物を待っていた。

 その時、後ろから誰かが尻尾を触ろうと近づいてくる。

 それを彼女は何も見ずにスッと避けた。

「これ、断りも無く女子(おなご)の身体を触ろうなぞ、失礼な奴じゃの」

 避けた後に振り向くと子供がすっ転んでいた。

「ご、ごめんなさい」

「分かればよい」

 少年は顔を赤くしながらその場を去った。

 その直後にシュベルコが八重狐の所に来た。

「八重狐、これ」

 シュベルコは錠剤を八重狐に渡す。

「本物の狐では無いがの……」

 渋々受け取り飲み込む。苦々しい表情からその味は推して図る物があった。

「念の為。それと尻尾触っていい?」

「まぁよかろ」

 シュベルコは尻尾を触る。モフみを感じると言うよりかは、何かを探るような手付きをしていた。

「…………うん。大丈夫。尻尾も元気」

「気にかけてはおるからの。それよりもコネルコ殿はまだかの?」

「もうすぐ来る」「お待たせ!」「ほら」

 シュベルコの言葉通りにコネルコが八重狐の下に来た。

「ごめんなさい別の作業があって、それよりもここにくるなんて珍しいわね、八重狐さん」

「うむ。最近アーカイブ化が終わった史料を読みたくての。ほら“人形作りの村”の」

「あぁ、あの史料ね。今から持ってくるから、何処かで座って待っててね」

 そう言うとコネルコは史料を取りに向かった。

 八重狐は彼女に言われた通りに適当に机のある場所にて待つ事にした。

 

 適当に座って待つ八重狐の視線はある少女の方へ向いていた。

(あの小娘、あやつの所に最近来た奴かの?初々しいが、どうもそれだけではなさそうじゃのう)

 視線の先の相手は花子だった。

 あやつというのは八重狐のオーナーの事である。

 そしてコネルコ達のオーナーと同一人物であるため、面識が一切無い訳では無いが、八重狐がよく夜でも外に居る事が多いためか、あまり話した事が無いといった状況だった。

(まぁ、そのうち慣れるじゃろ。ここの緩さにも)

 楽観しながら史料を待っていると、コネルコが持ってきた。

「八重狐さんお待たせ。これが今回新しくアーカイブ化した物の写しと一応過去の物も持ってきたわ」

「おぉありがたい。さてと、早速やるかの」

 八重狐は史料を受け取ると中を読み始めた。

 コネルコには八重狐の行動について疑問に思う所があった。

「八重狐さん」

「なんじゃ?」

「多分例の祠関係で調べていると思うけれど、その村と今八重狐さんが修繕しようとしている祠、距離がそこそこ離れている筈よね?」

 八重狐はとある朽ち果てた祠を修繕する為に、必要な史料や資料を集めている。

 その祠の跡地と人形作りの村の位置は森を隔てており、コネルコには到底、関連性が見出せないでいた。

「確かにの。地図で見ると一見関連は無いじゃろ。実際直接関係はしとらんとは思っておる。じゃが、交易の道を見ると面白い事が分かってのう?」

 コネルコは八重狐が言っている事は分かるが本質がわからず首を傾げた。

「交易の道……確かに、ここで人形を買って持ち帰る…というのはあったとは思うけれども……」

「ほれ、いくら地産地消といえど村で作ってる物だけではやっていけんじゃろ。それにせっかくの人形じゃ。売りに出せばそれなりの値はつく」

「でもどこで……あぁなるほどね」

 コネルコはふと人形作りの村があった時代の地図を見た。

 その時にある場所が目に入り全てに合点がいった。

「この市場に卸していたのね」

 指差した場所、そこはかつては商いの場として栄えた場所だった。

「今は商店街になっておるがの。そこに人形や染料を売っておったと我は推測しておっての。それでここからが本題じゃ。この場所はその性質上色んなところから人が流れてくる。人形作りの村だけでなく。今でいう隣町やその反対側なんかも繋がっているような場所での。その中の道の一つに……これがあるんじゃ」

 八重狐が地図に丸を打つ。その打った場所は現在、彼女が修繕しようとしている祠の場所だった。

「あら、じゃあ完全に無関係とは言えないのね」

「うむ。当時人形作りの村に住んでた者には関わりが無いだろうが、この商人の町を通じて他の場所に広まり、祠に収める依代としたのやもしれぬ。そう考えると無駄とは決して言えぬじゃろ?」

 コネルコは八重狐の話でハッとした。

 確かに直接は関わって無くとも、こうやって可能性が僅かでも有るのであれば、調べていかなければいつまで経っても得る物が無い。

 彼女がやろうとしている事は、ほんの僅かな手がかりをかき集められるだけ集めて、かつての姿を甦らせる事。

「そうよね。あなたがやろうとしている事って本当に大変な事で、凄い事だと思うわ。多分私も同じ事をしようとしても続けられるか分からないわ。でも、だからこそ分からない事があるの」

「ほう?なんじゃ」

 それを為すためにこうやって貪欲に調べている。コネルコはその姿勢に感銘を受けるのと同時に、疑問に思う事があった。

「元々は偶然、残った残骸みたいな物を見つけて興味を持ったのよね?」

「そうじゃの。まぁ暇つぶしみたいなもんよ」

「暇つぶしだけでここまで出来るのかしら?と思ってしまったの」

 そう、きっかけはただの偶然とその時の気分だとコネルコは聞いていた。それがどうしてこの情熱を引き起こせるのか、彼女には分からなかった。

「多分我1人じゃ、すぐに飽きただろうよ。じゃがの。調べる過程で色んな人に会う事があっての。調べる事を通じて人に繋がる。それが楽しくてやっておる節はあるんじゃよ」

「人と会う……」

 考えるコネルコ。人と会うからこそ続けられているというのは、ある種の真理であるのかもしれないと思った。

「コネルコ殿もあるじゃろ?そういうの」

「…確かにそうよね。色んな人と出会って、多分この先も誰かと出会うと思うわ」

 だからこそ、守りたいのかもしれない。

 コネルコは口にはしなかったが、心の中で呟いた。

 思い出の場所を守る為に図書館を運営する。その根幹にある物が少しだけ見えた気がした。

「ふむ、つい話し込んでしまったの。まだ半分ぐらいしか読めておらんが、時間的に昼餉(ひるげ)の時間じゃし、一旦切り上げようかの」

 八重狐がそう言うとコネルコは時計を見る。

 確かにそろそろ昼食の時間が近付いてきた。

「コネルコ殿、昼餉を一緒にどうかの?」

「ごめんね、入れ替わりの子が来てからにするわ。それに今日はメルシュカルちゃんがパスタを作ってくれるらしいの」

 史料を片付けながらコネルコを昼食に誘う八重狐。

 だが今日はメルシュカルが午前中にいる為、昼食は彼女が作る予定になっていたので彼女の提案を断った。

「ふむ、そういう事なら仕方ないの。史料はどうすればいいんか?」

「受付に持っていくから続きを読む時に、そこに寄ってもらっていいかしら?」

「うむ、承知した。じゃあちょいと休憩室に行ってくるわ」

 八重狐はゆっくりと歩いていった。見送ったコネルコは

「行ってらっしゃい。さてと、お昼前の返却本を棚に戻しましょう」

 綺麗に纏められた史料を持って、コネルコもその場を離れた。

 

 

それぞれの休憩が終わり、図書館で働くメンバーが午後の組に入れ替わった頃、コネルコと八重狐が通路でばったり会った。

「おや、コネルコ殿はまだ帰らぬのか?」

「えぇ、いつも午後も色々やってるの」

「働き者じゃのう……ん?あやつ、何をやっておる?」

 八重狐の視線の先にコネルコも合わせると、そこには花子が刀を抜いて、1人振っていた。

「あぁ彼女は花子ちゃん。今日からここで働いてもらってるの」

「あぁそれは朝から見ておったから分かるがの。なんで刀の鍛錬なんてしておる?図書館には要らんじゃろ?」

 八重狐の指摘は最もである。現代というだけでも理由が無いというのに、静かな図書館にはとても似つわしくない光景だった。

「そうなんだけど、実は彼女、あの人の下に居たかったみたいだけど。当の彼がここで働くように言ったみたいでね。ほら彼女、ウツセミの人形(シュガードール)だから」

 コネルコは少しだけ困った笑顔を見せる。あの刀は本来ならば主に仇なす者に対して振おうとしていたようで、その為の鍛錬に精を出しているようだ。

「ふむ、確かにウツセミの者なら主人を守ろうという気概が強い故におかしくは無いが、あそこまでとなるとあやつは何を仕込んだんじゃ?」

「さぁ?普通に接していたらあのような感じになっていたそうよ」

「普通が普通じゃ無いじゃろ、それじゃあ」

 2人がそのまま鍛錬の様子を見ながら雑談していると、刀を振るのをやめて、懐から何かを取り出すと、前に向けて投げた。

「ほぉう?あれを使えるとはの」

「八重狐さん、何か知ってるのかしら?」

 目を細めて興味深そうに見る八重狐にコネルコが質問をぶつける。 

「あれは紙人形(かみにんぎょう)と呼んでおっての。古くは妖に対抗する為に使われた術じゃ。よもやこの時代に見る事となるとはのう。とっくの昔に廃れた物だと思っておったわ。じゃがあれではまだまだだの。どれ、一つ稽古でも付けてみるかの」

 近くにあった木に紙人形を当てている光景を目にした八重狐は、興味本位で彼女に接触しようとしていた。

 コネルコはそれを止めるような事はせずに見送った。

 

 

「そのような術を使う者がいたとはの。お主、何者じゃ?」

「……誰?」

 唐突に話しかけられた花子は、刀を抜きはしなかったが、鞘に手を掛けておりいつでも抜刀できるようにしていた。

 八重狐はそんな様子の花子を見ても平然としている。

「我は八重狐。会った事はないじゃろうがお主と主が同じ人形じゃ」

「……何故今まで会わなかった?」

「我が夜でも関係なく外に居るからの。所でさっき投げておった紙人形なんじゃが、何処で覚えた?」

 さくっと本題に入る八重狐。花子は先程の紙人形を一目見て一言。

「出来ると思ってやったら出来た」

「ほぉう?才覚は十分と。じゃが我に言わせればまだ修練が足りん」

 その一言で花子はムッとする。

 自分でもよく知らない力だが、正面からそう言われたらあまりいい気分では無いだろう。

 そんな彼女に対して八重狐は手を差し出す。

「何枚か貸してみ。少し見せてやろう」

 疑りつつも紙人形を八重狐に渡す花子。

 受け取った八重狐はほっと一声放つと紙人形が一瞬で飛んでいった。

 それ自体は花子もやっていたが、そこから八重狐は掌を開いて少し力を入れる。

 すると紙人形はピタッと止まる。目を見開く花子をよそに手招きをして、送り出した紙人形を戻す。

 その時は非常にゆったりとした滑らかな動きで綺麗に彼女の手にすっぽり収まった。

「まぁこんなものかの」

 花子は信じられない様子で八重狐を見ていた。

 自分よりも何十倍も上手く動かしているのに事もなげにしながら片手の掌以外動かしていないのだ。

「どうやって……」

「まぁ速く動かす訓練も必要じゃが、ゆっくりと正確に動かす方にも力を入れてみよ。それにお主ならば刀の動きに合わせて動かす意識を持っても面白そうじゃのう」

 花子の疑問に八重狐が答える。

 さも当然のように言っているが、非常に難易度の高い事を要求しているが、それこそが技量の差故の事だった。

 特に花子にとっては今までやってきた事の真逆をやれと言われているので、その難易度は押して測るべしと言えるだろう。

 ここで八重狐が思い出したかのように聞いてきた。

「そういえばお主、名はなんと?」

「……花子」

 八重狐は事前に名前は知っていたが、改めて本人から聞くことにより、確実に知り合いになろうという算段があった。

「では花子、ここの仕事が無い時に暫し我の方に来て手伝ってたもれ」

「断る。主の命以外には従わない」

 即答で断られた八重狐はクックックと笑いながら返す。

「まぁ、気が向いたらでええの。無論どうしても要る時は容赦なく呼ぶがの。じゃ、また会おうぞ」

 そう言って八重狐は図書館へと戻っていった。

 目線で追う花子。八重狐の姿が遠くなった時にふと紙人形を見つめる。

 そしてゆっくり投げて空中で止めようとするが、八重狐のようにビタっと止まらずフラフラしていた。

 

 

 図書館に戻り、再び史料を読む八重狐はふと、人形作りの村に関する謎が浮かび上がっていた。

(そういえば何故、人形作りの村なのじゃろ?染物もやっておったと言うのに、そっちでは無く……それだけ質の良い物だったとかかのう?)

 メモを書き加えながらアレコレ考えていく。

 九つの尾を時々揺らせながら黙々とやっていくと、声を掛けられた。

「八重狐さん、何を調べているんですか?」

 声のした方に視線を向けるとそこにはラヴァベルが立っていた。

「ラヴァベルか。何、人形作りの村の事について調べておっての」

「人形作りの……あっそういえばこの前、コネルコさんと一緒に行きましたよ」

「なんじゃと?あやつとさっき話しておったがそんな事一言も言うとって無かったぞ⁉︎」

 驚いている八重狐に困惑の表情を浮かべる。

 コネルコと会っているなら、てっきりその話をしたと思っていたが予想が外れた。

「っふぉん……まぁ良い。それで何を見たのか教えてくれぬかの?」

「え?んー殆ど何もありませんでしたよ?」

 咳払いをして、いつもの様子に戻りラヴァベルに感想を聞いてみるが、あっさりと何も無いと答えられてしまう。

「まぁ仕方が無いの。水害があったのがおよそ180年程前と聞いておる。そこで捨てられたら大抵は全て朽ち果てよう」

 八重狐にとっては予想していた回答だった。

 というのも人形作りの村は明治時代に水害に遭い廃村となっていたという文献が複数あり、八重狐もそれを把握していた。

 だがラヴァベルの一言で再び彼女は驚愕する事になる。

「でも一個だけまだ残っている物はありましたよ」

「なんじゃと?して、それはなんじゃ?」

 ジト目が少し見開かれて瞳を細めてラヴァベルを見つめる。

 その表情に少しだけ驚きながら答える。

「神社です。とは言っても鳥居や階段がかろうじてあるぐらいで、境内も危なくて中に入ってないんです」

 八重狐は目を閉じて少し考える。

 何故水害で流された筈なのに、神社だけが残っていたのか?

「階段があったとは言うが、どれぐらい高さがあったんかや?」

「んーコネルコさんよりも高い場所にあった筈です」

 ラヴァベルの回答に八重狐の興味は増してきた。

 本来の目的である祠の修繕とは関係は無いが、それでも水害で失われたとされた場所の痕跡というのに、彼女は魅入られていた。

 だからこそ、ある提案をした。

「今から行ってみようかの。お主や花子、コネルコ殿を巻き込んでの」

 ラヴァベルには一瞬何を言っているのか分からなかった。




 八重狐は3人を引き連れてある神社へ向かった。
 その神社はかつて人形作りの村と言われた所にあった神社で、今やその姿は朽ち果てていた。
 そして調査する中で見えて来る暮らしと、人形であるが故に見えて来る物があった。

キャラ紹介
八重狐(やえこ):シラヌイという型のシュガードール。元々狐を模した型だったが彼女はその中でも九尾に目覚めた。
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