図書館×夏休みの宿題といえば?なお話です。
真夏の夢見る図書館、クーラーが効いており涼しい館内は、普段よりも小学生の姿が多かった。
小学生達の机の上にはいずれも作文用紙が広げられており、共通の目的があって図書館に来ているのが分かる。
理由は単純、誰もが人生で数回はやる“宿題”の為だった。
普段はここで働いているラヴァベルとよく遊ぶヨシキ、ヨウタ、ツエジの3人も例外では無く、本を読もうと館内に入っていた。
棚で本を探している傍らでヨシキが疑問に思っている事を2人に聞いてみる。
「なぁさ、なんで読書感想文なんてあるんだ?」
「さぁ?」「知らない」
ツエジとヨウタにあっさりと返されてしまったヨシキはガックしと項垂れながら本探しに戻った。
それを少し離れた所から見つけたラヴァベルは声を掛けに行く。
「あれ、皆何をしてるの?」
「うわぁあングゥ⁉︎」
大きな声で驚くヨシキの口をヨウタとツエジがすぐに塞いで、シーっというジェスチャーをする。
口を塞ぎながらヨウタがラヴァベルに質問をする。
「ラヴァベルお姉ちゃん。ちょうど良かった。俺達、読書感想文を書きに来たんだけど、何かオススメの本とか無い?」
餅は餅屋とも言うので聞いてみるのは自然な事だった。
「確か読書感想文向けの本を纏めたコーナーを作ってたから、見てみる?」
首を傾げ薄紫のサイドテールをゆらしたラヴァベルの誘いに2人は頷いて着いていく事にした。
ただその間ずっと口を塞がれたヨシキが震え出す。
ツエジとヨウタはすっかり忘れていたらしく、慌てて口を塞いでた手を離すと、ヨシキはプハァと息を吐いた後に深呼吸をする。
「殺す気かよ⁉︎」
「ごめんごめん」「忘れてた……」
笑って誤魔化すヨウタと、うっかりとした表情のツエジに怒りをぶつけるヨシキ。
ちょっとしたハプニングがあったが、改めて読書感想文向けのコーナーに行く事にした。
図書館の一角に少しばかりの装飾が施されたコーナーが出来ており、掲示物には『読書感想文にオススメ!』という文言の下に色んな本が集まっていた。
この図書館の館長のコネルコと副館長のヴィラーシュが主体となって選ばれており、実際に感想を書きやすい物が多く並ばれている。
それらの棚それぞれには、手書きでジャンルが記されたPOPが付けられており、より手に取られやすくなっていた。
定番の短編小説やライトノベルが並んでおり、ジャンルもファンタジーやSFから歴史本まで揃えられていた。
そんな中でヨシキ、ヨウタ、ツエジは早速、本を探し始めた。
しばらくしてヨウタが首を傾げて呟いた。
「……なんかなぁコレってのがないよなぁ」
「そうそう、なんか……コレよさそうってのが分からないんだよな」
ヨシキも本選びに苦戦しているようで、同様の愚痴をこぼす。
実際問題、全くの興味からで無ければ、何を手に取れば良いのか分からなくなるのは、往々にしてある事だろう。
2人がそうやって苦戦しているその間に、ツエジは一冊の本を手に取っていた。その本は江戸時代を舞台にした勧善懲悪物だった。
それを見たヨシキは彼に声を掛けた。
「なんだよツエジ、もう決めたのかよ」
「何となく面白そうだと思って。つかお前らまだ決まらないのかよ」
「決まんねぇよォ」
少々ヨシキの声のボリュームが上がってきた。
それを咎めようとラヴァベルが声を掛けようとしたその時、別の方向から声が掛けられた。
「図書館の中ではお静かに。それと読む本が決まらないなら私の方で決める?」
その場にいた全員が声のした方へ視線を向けると、そこには副館長のヴィラーシュが若干の怒りを示しながら立っていた。
思わずヨシキが声のトーンを落としながら謝る。
「あ、ごめんなさいヴィラーシュ姉さん」
「全く、ここが図書館だという事忘れないように」
ヴィラーシュの忠告に3人は、小声ではーいと返事をした。
それを見たヴィラーシュは目を瞑り、軽くため息をつく。そしてジト目をしながら次の話題を持ち出した。
「それで?読みたい本が無くて困っているようだけど?」
「普段読まないから何を読めば良いのか分からないんだよ」
彼女の質問にヨシキは困ったように答えた。予想通りの回答を受けたヴィラーシュは、口を人差し指と中指で挟んでしばし考えると、徐に棚の方に向かい本を2冊取り出した。
片方は黄色い傘を持った少年の上にブタが降っているような表紙で、もう一冊は黒猫と箒を持った少女が向き合っている表紙の本だった。
「こっちは感想文が書きやすい訳じゃないけど、読み進めやすいからオススメ。それでこっちは最近テレビで映画やってた物の原作で、見た事あるなら読みやすい筈」
ヴィラーシュがそれぞれの本を勧めた理由を述べる。
彼女なりに小説のような物を読んだ事が無い人が、読みやすいように考えた結果である。
ヨシキがブタの方の本を見て疑問をぶつけてくる。
「これ学校にもあったけど、本当に読みやすいのか?」
「読みやすいよ。本当にサクッと読めるぐらいにはね」
それに対して念を押して勧めるヴィラーシュ。
実際に小説を読んだ事無かった子供が、そのシリーズだけは読むようになった子供もいると彼女は聞いた事があった。
そしてもう片方の黒猫と少女の本をヨウタが見てみると、タイトルは確かに見たことはあった。
「見た事はあるけど、内容覚えてないよ」
「でもどんな姿のキャラクターかは分かるでしょ?」
「そうだけども」
ヨウタが率直に言うとヴィラーシュは首を軽く傾げて問う。
彼はまぁ良いかと思いつつも持っていくにした。
読む本を決めた少年達3人はヴィラーシュに礼を言ってから彼女達の元を去り、机へ向かった。
彼らも含めて、子供達が読書感想文に勤しむ様子を見てヴィラーシュはなんとなく、夏を感じていた。
「図書館の夏の風物詩ね。それはそうと、ラヴァベルはお姉ちゃんなのに私が姉さんってどういう呼び分けよ」
それと同時に少年達のラヴァベルと彼女への呼び方が気になった。
「普段から遊んでいるからだと思いますよ、多分」
「……」
ただラヴァベル本人がいるのを忘れていたが。
聞かれたヴィラーシュは恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて何も言い返せなくなった。
ヨシキ、ヨウタ、ツエジの3人は、あの後オススメされた本を借りて家で読んでいた。
そして数日後、本を返しに行くと同時にある事を教えて貰いに再び図書館に訪れていた。
受付にいたのは普段から会っているラヴァベルで、ちょうどいいと思い、ヨシキは聞いてみる事にした。
「ラヴァベル姉ちゃん、読書感想文ってどういう感じで書けばいいんだ?」
「どうしたの急に」
突然の質問で思わず聞き返してしまうラヴァベル。
するとヨウタが事情を話し出す。
「実は俺たち読み終えて書こうと思ったけど、どう書けば良いのか分かんなくて聞きに来たんだよ」
なるほどねと頷いてラヴァベルは納得した。
彼女は顔の横に手を当てて、暫し考えながら話し出した。
「んー、読んで印象に残った場面とか共感出来たシーンとか……ただ面白かったというよりも、どう面白かったか、が書ければだけどねぇ……」
「そこが分かんないんだよ」
曲がりなりにも図書館の職員であるラヴァベルは、ある程度のコツを教えるが、そのアドバイスでは言語化ができる事が前提である為参考にならない。
悩むラヴァベルは自身では根本的に解決できなさそうだと悟る。
だからこそ他の人を頼るように言ってみる。
「私よりももっと得意な人が居るから頼ってみて!今だとそういうの得意そうなのは……」
「……と言われて私の所に来たのね」
ラヴァベルが頼るように言った人物はヴィラーシュだった。
そこは一般開放されている視聴覚室で、この部屋なら喋り声も気にしなくて良い部屋だった。
それに対してヨシキは率直な感想を述べた。
「てっきり館長さんかなと思ったけどな」
「悪かったわね、コネルコじゃ無くて」
ジッと睨むヴィラーシュにヨシキ達はたじろぐ。すぐに彼女はため息をついて、目を閉じて彼らの悩みを確認する。
「それで?読書感想文の書き方が分からないと聞いたけど?」
頷くヨシキ、ヨウタ、ツエジの少年3人。ヴィラーシュには彼らが何処でつまづいているか分からないのでいくつか質問してみる事にした。
「とりあえず、読んでみてどうたった?」
「面白かった!」
元気良くヨシキが答える。他の2人も声に出さないが概ね同じ意見だった。
「どう面白かった?」
ヴィラーシュがそう聞くと3人ともうーんと悩みだした。その様子を見たヴィラーシュはどこで躓いているのか把握出来た。
具体的な言語化が出来てない、もしくは漠然とした読後感でその正体が分からないと言った所だと推測する。
「じゃあ印象に残った場面は?」
ヴィラーシュがそう聞いてみるとツエジが手をあげた。
彼が読んでいたのは江戸時代を舞台にした勧善懲悪物だった。
「はい、えっと……ツエジ君?」
ヴィラーシュは確認するように聞いてみるとツエジが、はいと返事をして合っている事が確認出来た。
彼女と少年達は、実は顔を合わせる頻度が少々少なく、ヴィラーシュ側は完全に彼らの事を覚えきっているという自信が無かった。
というのも基本的に彼女は裏方仕事を好む事と少年達が基本的に外で遊んでいる為、お互いの姿をみる事が無かったのである。
改めてツエジは印象に残った場面を語る。
「終盤に悪人のやった悪事が主人公が全て見抜かれていた場面が印象的でした」
「その時どう思った?」
ヴィラーシュは質問を畳み掛ける。ツエジはその質問に直ぐには答えられなかった。
ただ完全に答えられない訳では無く、必死に言語化しようと頭を回転させていた。
「今も昔もこの小説の主人公のような人が……悪い事を見逃さないんだなと思いました」
「今も?」
ヴィラーシュは気になったワードを聞き返す。
恐らく推理ドラマやアニメの類いだと予想していた彼女は、予想外の回答が飛んでくるなぞ夢にも思わなかっただろう。
だからこそツエジの一言が彼女を困惑の渦に落とし込んだ。
「人形塚*1の噂の件で館長さんが、噂の大元から本当の目的と犯人を見つけたのを見たんです」
「……え?」
ヴィラーシュは琥珀色の瞳を細めて固まる。
彼女には館長であるコネルコやラヴァベル、そしてここにいるツエジ、ヨウタ、ヨシキが絡んだ小さな事件の事を聞いていなかった。
確かにたまにコネルコを中心に、誰かの問題事を解決する事があった。
実際ヴィラーシュもそれに協力した事が度々あるが、まさか彼らの事件にまで首を突っ込んでいたとは思わなかった。
そんな複雑な心境のせいで固まる彼女に声をかけるヨシキ。
「おーいヴィラーシュ姉さーん?」
名前を呼ばれてようやく立ち直ったヴィラーシュは、とりあえずアドバイスを送る事にした。
「あ、うん。えっとそうね……ならその主人公とコネルコに重なる部分と違う部分を書いてみるのはどう?」
色々気になるが一旦は読書感想文が優先の為、詳細は今は聞かないで後でコネルコに聞く事にした。
そのアドバイスを受けたツエジは分かりました言うと原稿用紙に向き合って、鉛筆を走らせ始めた。
カリカリと鉛筆を走らせる音を背景に次の相談に移る。
「それで次はどっち?」
ヴィラーシュがそう言った瞬間にハイ!と1人元気良く手を上げた。
「えーっとヨシキ君だっけ?」
ヴィラーシュの確認にヨシキは強く頷いて肯定する。
彼が読んだ本は黄色い傘の少年と豚が描かれた表紙の本だった。
確認が取れたヴィラーシュは先程、ツエジにした質問をヨシキに投げかける。
「じゃあ印象に残った場面はある?」
「んー……パッと出てこない!」
ヨシキの一言に、ガクッとズッコケるようなリアクションを取るヴィラーシュ。
「……そうだとは思ったけれども」
なんとなく想像は出来ていた。というのもヨシキに渡した本は児童書の中でも娯楽に振り切った作品で、メッセージ性というのはあまり強くない作品だった為だ。
ヴィラーシュはとりあえず質問を続ける事にした。
「じゃあその作品の中で起きた事は覚えている?」
「覚えているけど、どうすんの?」
何をさせようとしてるのか分からないヨシキは聞き返す。
「だったらその中で起きた出来事で自分だったら何をするのか考えてみて」
ヴィラーシュのアドバイスを受けてヨシキは、うーんと悩み出した。
その様子を見て時間が掛かりそうだと思った彼女は聞いているか分からないが話しを続ける事にした。
「考えたら、次は主人公がやった事と自分が考えた物の違いを見つけて書いてみて。そうすれば出来る筈」
ヴィラーシュの話を聞いたヨシキはそのまま考えに耽り出した。
そのまま考える時間を与える為に、ここで一旦ヨシキに対してのアドバイスを打ち切る事にした。
「さて、最後は……ヨウタ君?」
残ったヨウタは返事をする。合っている事を確認出来たヴィラーシュは2人にした質問を彼にもぶつける。
ヨウタに以前渡した本は、黒猫と少女が表紙の本だった。
「印象に残った場面は?」
「1番印象に残ったのは主人公の女の子が色々な出来事のせいで魔法が使えなくなってしまった場面だよ。でも、なんか……」
少々歯切れの悪いヨウタにお下げを揺らし首を傾げるヴィラーシュ。
「どうしたの?」
「あのお話を読んで甘酸っぱいってこう言う事なのかなと、よく分からないけどそう思って」
ヨウタの感想に思わず感心するヴィラーシュ。ちゃんとした感想が出てきた事で逆にどうして書けないのかが気になりだした。
その疑問をヴィラーシュはそのまま声に出した。
「良い感想じゃない。でもじゃあどうして書けないの?」
「どう纏めたら良いのか分かんないんだよ」
ヨウタは書けることがあるからこそ、逆に書き方が分からないといった悩みだった。
「なるほどね。なら最初は全体の感想を書く、そしてどうしてそう思ったのかを書いていく。そして1番印象に残った場面を書く。そして最後に読んで自分がこの作品を読んだ上で、何をしたいのかを書ければ完成出来るよ」
ヴィラーシュの助言に分かりましたと言って自分の原稿用紙に向き合い、鉛筆を手に取って書き始めた。
少年達3人とも読書感想文を書き出したのを見てからヴィラーシュは手元に置いておいた本を開いて読み始めた。
1時間ぐらい経っただろうか?ページを捲る音と鉛筆で書いている音のみが響く静かな空間で、徐にヨシキが口を開いた。
「ヴィラーシュ姉さんってなんか思ったよりも面倒見いいよな」
「何?唐突に」
発言の意図が分からず聞き返すヴィラーシュ。
ヨシキは顔を上げて話しを続ける。
「だってさ、なんだかんだで俺たちの宿題の面倒見てくれるし。普段受付とかに居ないから、そういうの面倒くさがる人だと思ってた」
「面倒というよりも、裏方でやってた方が性に合ってるの。それよりも終わったの?」
本を読むのをやめないまま、返すヴィラーシュ。ヨシキから鉛筆を走らせる音がしなくなったので、ついでに進捗を聞いてみる事にした。
「まだ1枚目の半分過ぎたとこ」
「……まだ2枚以上残ってるのはどうなのよ」
するとヨシキの進捗が思っている以上に遅くて、ヴィラーシュはついツッコんでしまった。
「なんか考え疲れたの」
「じゃああっちで10分ぐらい休んでらっしゃい」
はーいと言ってヴィラーシュが指した方へ行って休息を取る。
再び静かになった空間、再び本を捲る音と鉛筆のカリカリとした音だけが響いた。
それからさらに30分程経った頃、ヨシキはすでに戻って感想文作りを再開している中、今度はヨウタが声を上げた。
「終わったー!」
大声を上げられて思わず、その場に居た全員がヨウタの方を見た。
ヴィラーシュは本の間に栞に挟んで閉じた。
「じゃあちょっと見せて」
素直に出来上がったばかりの読書感想文をヴィラーシュに渡すヨウタ。
受け取ったヴィラーシュはそのまま読み始めた。
何個かシャープペンで丸を付けながら読み進める様子に、ヨウタはどこか緊張の面持ちになる。
その間にヴィラーシュは頷いたりしながら読み進めていく中で、ほんの少しだけ内心で安堵していた。
(渡した後に思い出したけど、この本、思春期向けなのを忘れていたけれど、しっかり読んでいたみたいね)
実は彼女がこの本を選んだ時に、最近テレビで黒猫と少女の小説を元にした映画を放送すると聞いたばかりの時で、それが頭に残ってしまっていたは故に選んでしまっていた。
だがその心配も杞憂だったようで、こうやってしっかりとした感想文が綴られていた。
そうこうしているうちに、ヴィラーシュは読書感想文を彼に返した。
「しっかり纏められているし読みやすく書かれているのは良いね、それに全体の感想と特に感情を動かされた場面もちゃんと書けている。けど何個か漢字の間違いがあるから直しておいてね」
返された読書感想文には所々にシャープペンで薄く丸がつけられていおり、その横に正しい漢字が書かれていた。
「あ、はい。ありがとうございます」
受け取ったヨウタは感じの間違いの修正を始めた。
彼の読書感想文はほぼ、完成したと見て良さそうだった。
また静かな時間が訪れた。
また30分辺り経過した頃だろうか?ツエジが静かに鉛筆を置いた。
「ヴィラーシュ姉さん。出来ました」
そう言いながらツエジはヴィラーシュに読書感想文を提出した。
彼女はそれを受け取って中を読み出した。中身を読んでいって先程と同様に所々に丸を付けていく。
だがその回数はヨウタよりも圧倒的に少なく、読み終えるのも早かった。
ヴィラーシュは彼の読書感想文を返した。
「……漢字間違いが何個かあるから修正しておいてね。それと、このコネルコの話って本当なの?」
「うん、俺たちの学校で流行っていた噂の正体と犯人をたった数日で見破って解決したんだよ」
彼女の質問にツエジは事実だと答える。
ヴィラーシュには彼の書いた読書感想文に書かれたコネルコの話が彼女なら、やってても可笑しくは無いと思えるが、どこか話が盛られているような気がしていた。
「“まるで推理小説の探偵のように”……ねぇ。まぁ良いかな。その話題もあまり長く書いてないし」
引っ掛かる所はあるが、全体的には問題ないのでそのまま間違いだけ正して通す事にした。
そこからまた暫く経ち、外が茜色に染まり出した頃、閉館時間が迫り出したタイミングでヨシキが勢いよく鉛筆を起き、大声を上げた。
「よっしゃあおわったー!」
「じゃあ見せて」
特に驚きもせずに読書感想文を要求するヴィラーシュに、ヨシキは素直に応じた。
受け取ったヴィラーシュは中を見ていく。だが読み進めれば進める程苦い顔をしだす。
「ねぇヨシキ君」
ヴィラーシュの呼びかけにほえ?と何も分からずに聞き返すヨシキ。
彼女は渡された読書感想文を彼に返して指を指した。
「きっかけは本当の事だからいいけれど、肝心の中身が“面白かったです。”だけじゃなく、どういう風に面白かったか……というよりもどう思ったのか。かなここは。それが書いてないのがすっごく気になったから、時間あるなら今度書き直した方がいいかも」
ヨシキはヴィラーシュの琥珀色の瞳に射抜かれながら色々言われて、あからさまに凹んだ様子でヴィラーシュに文句を言い出した。
「えぇせっかく出来たのに、それに夏休みの宿題まだ色々あって面倒なんだよ」
不貞腐れるヨシキにヴィラーシュは少し彼から視線を外しながら続けた。
「余裕があるならよ。読書感想文だけやって他やりませんでした、じゃ本末転倒でしょ?それに、全くやらないよりも、こうやってやってた方が全然良いとは思うけどね」
そう補足するヴィラーシュだったが、まだ不機嫌のヨシキを見て彼女はある提案を持ちかけた。
「……やる事やって、もう一回書く気になったらまた来なさい。今度はレア物でも読ませてあげる」
「約束だからな」
ヨシキは提案を飲み、ヴィラーシュと約束をする事になった。
そのタイミングで館内放送が流れ出す。
『まもなく閉館時間となります。館内にいる方で貸し出し希望の方はお急ぎください。どなた様も忘れ物に気をつけてお帰りください』
「……君たちも帰る準備して」
館内放送を聞いたヴィラーシュが少年たちに帰宅を促すと、はーいと言って荷物をしまう。
それぞれしまい終わり部屋から出ようとする間際に振り返る。
首を傾げるヴィラーシュに彼らは頭を軽く下げた。
「ありがとうございました!」「ありがとう!」「……ありがとう」
それぞれに礼を言いながら部屋を出た3人を見送ったヴィラーシュは、たまにならいいかと思いながら自分も図書館を出る準備を整えた。
実は彼女、今日は休みになっていたが、やる事が無くて本を読みに来ていただけだったのだ。
図書館を出てひぐらしが響く帰路につくヨシキ、ヨウタ、ツエジは読書感想文について話し合っていた。
「でもさ、ヴィラーシュ姉さんがあそこまで言った、ヨシキの読書感想文さ逆に気になるから読ませろよ」
話題は先程の読書感想文の事で、ヨウタがヨシキの読書感想文に興味を持っていた。
「えぇぇ?まぁいいけどよ」
渋々読書感想文を見せるヨシキ、それを早速歩きながら読み始めるヨウタは読んでいくうちに訳がわからなくなってきた。
とりあえずは今ツッコミたい事を口にした。
「確かにヤバいんだけどさ、この”この本は凄く面白かったです。特にブタが降ってくる場面が面白かったです。そして続きが気になって直ぐに読み切ってしまいました。それぐらい面白かったです。“って確かに面白いしか言ってないのがヤバい。これヴィラーシュ姉さんもあそこまで言うよ」
「容赦なさすぎねぇ?」
友にそこまで言われて再び凹むヨウタ。先程と違うのは不貞腐れてない所だった。
流石に複数人にダメだと言われて不貞腐れられる程、肝は据わってなかった。
その中で一つ、ある思いを胸に秘める事にした。
「そこまで言われるなら、時間が出来たらもう一回やるか」
「やれよなマジで」「絶対やれ」
それをヨウタとツエジに聞かれて、後を押されたヨシキは後に引けなくなり。
「わかったよったくもう」
そう言うしか無くなった。
このまま図書館を出るか閉館作業を手伝うか悩むヴィラーシュの所に1人近づいて来た。
「ヴィラーシュちゃんって面倒見いいですよね、やっぱり」
近づいて来たのはラヴァベルだった。それに気付いたヴィラーシュは何時もなら、つぶらとも言える琥珀色の眼をジトっとさせる。
「そんな事ないわ。誰かさんに押し付けられただけよ」
彼女の皮肉に笑って誤魔化そうとするラヴァベルを見て、ため息を吐いて眼を瞑った。
「……たまにならいいけどね」
一言小さく呟いたそれは若干の微笑みと共にこぼれ落ちた。
「何か言いました?」
「何でも無い。それよりも閉館作業があるんだから。私は今日は手伝わないわよ」
ラヴァベルに独り言を聞かれたヴィラーシュは、顔を若干赤くして誤魔化しながら、閉館作業をするよう促した。
「そうだった!じゃあまた後でね!ヴィラーシュちゃん!」
慌てて作業へと戻っていくのを見送ったヴィラーシュはゆっくりとした足取りで図書館を出るのだった。
夏休みの宿題は進んでいますか?もし読書感想文でお困りなら図書館を頼ってはいかが?
頼られたら余裕がある限りは嬉しい物なんです。
裏話
夏休み終わる前に出来上がって一安心です。
思いつきから出来たお話だったりします。