ようこそ!夢見る図書館へ!   作:ジャック・アヴェンダドール

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ヴィラーシュが見つけた記事の内容とは一体……?
そしてそこから繋がる物とは一体何なのか?
それを紐解けるのは優しい人形達だけ。


空蟬 中編

 翌日、コネルコはヴィラーシュが家に戻ってないと聞いて心配になって図書館へ急ぐと、少々広い机に突っ伏している彼女を見つけた。様子を見ようと近づくと、開いていたメモ帳を枕にして規則的な寝息を立てていた。開館までに机の上のものを退かしておかなければならないのでとりあえずコネルコは彼女を起こす事にした。

「ヴィラーシュちゃん。朝だよ」

 声をかけるだけでは起きる気配は無い。そこで身体を揺らしながら声をかける。

「ほら起きて」

「う……んぅ……ぇ?」

 ゆっくりと目を開けたヴィラーシュ。その視界には至近距離で顔を覗くコネルコと僅かな陽の光に照らされた室内が目に入った。

「ぅん?……あれ?……えぇ⁉︎」

 ようやく状況が理解できたヴィラーシュはいきなりスッと身体を上げる。その動きにコネルコは少々驚いた。

「お、おはようヴィラーシュちゃん」

「え、あ、おはよう…ございます。もしかして、寝てた?」

「それはもうグッスリと」

 顔を赤面させて俯いて頭を抱える。その光景を微笑ましく見ているコネルコはとりあえず机の上の新聞を纏める。

「とりあえず今日は家に帰ってゆっくりしてなさい」

「え?でも午後は……」

「午後も私がやるわよ。それに昨日は遅くまで調べてたようね?」

 メモ帳に視線をやるコネルコ。ヴィラーシュはメモを手に取ってコネルコに渡す。内容を見ると簡潔に事件のあった日、内容、被害者の名前と状態が纏められてた。その中でも一つ、二重丸がついたものがあった。

「ふわぁ……ぁぁ……その二重丸をつけたのがコネルコがユキを拾った場所の近くで起きた物で……多分コレだと思うけど、全部は見きれて無いから今日も見てみるけど……」

 ヴィラーシュが寝ぼけ眼で彼女が見ているであろう内容に補足する。ただその中に聞き逃せない一言が混じっていた。

「今日は一日家で休んでいなさい」

「嫌よ、せっかく面白くなって……ぅぁあ〜」

「そんなのじゃ見つかるものも見つからないわ」

「でも午後が」

「私がやるから。ね?」

「……はい」

 顰めっ面で諭すコネルコに折れて渋々了承するヴィラーシュ。ちゃんと寝てないのが丸わかりで、図書館の仕事をさせられないのでとりあえず帰らせる事にした。ヴィラーシュは立ち上がると少しフラつきながら事務室の方へ向かった。多分そのまま帰るだろうと思いながら開館作業に移ろうとしてふと、手に彼女の手帳を持ったままという事に気付いた。慌ててコネルコはヴィラーシュを追いかけて彼女に返してから改めて帰らせた。

 

 開館作業を済ませて時間を待つ間にコネルコはメモの内容を思い出しながらユキの方を見る。今日の午前担当はシュベルコとサージュ。ユキを連れてきたのはサージュだった。

 あのメモ帳の内容はすぐには共有しなかった。いや共有出来なかった。何故ならばあの記事の被害者が本当にユキのオーナーだったとしたら、その人は既に亡くなっていたからだ。轢き逃げ事件で犯人はまだ捕まっていない。その上あくまでもまだ仮定の話であり、本当にその事件の被害者がユキのオーナーかは断定出来ない状態であった。

「……明日辺りに現場に行ってみようかしら」

 ふと口に溢してしまった言葉をシュベルコに聞かれて首を傾げられた。

「いえ、なんでも無いわ」

 コネルコは少し誤魔化すように移動した。シュベルコはそれをじっと見ているだけだった。

 

 

 

 所かわってサージュとユキは最終チェックをしていた。基本的にサージュは受付で本の貸出返却処理を行なっている。今日はその後ろにユキを座らせて返却された本を運ばせようとしていた。

「準備よしっ。じゃあゆっくりと待とうねー」

 流石に多くの人が来る事もあまり無いので意外に暇なものである。いつもは人が居ないうちに今日返却期限の人をリストアップしておく。後ろでユキがその様子を見ているが気にせず作業を続ける。すると、受付に人がやって来る。

「すみません。本を探して欲しいのですが」

「どのような本ですか?」

「えーっと、確か第二次大戦時の象と飼育員の話し……というのは覚えているんですが」

「少々お待ちください」

 受付には貸出返却処理だけでなく本探しの人も来る事がある。そしてこういう風に曖昧な内容から推察する事もままあるようだ。サージュは顔を上に上げて探し物の本のタイトルを思い出す。

「それは『かわいそうなぞう』で合ってますか?」

「そうです!それです!」

「その本でしたら――」

 本の場所を案内して一息つく。ユキはその光景に目をパチクリさせている。何かとんでも無い物をみたような顔だった。

「ん?どうしたの?」

「……どうして?」

 ユキにとっては僅かなヒントで探している本を探り当てた事が信じられない様子。

「あぁ、図書館で働いていると自然に覚えるよ。それにこういう事なら多分コネルコさんとヴィラーシュさんの方がもっと得意だった筈だよ」

 サージュの発言にユキは呆然としている。彼女の背景に宇宙が見えるような様子でサージュを見つめていた。

 しばらく受付には誰も来なかったが、ある時に本を返却しにきた人がやってきた。

「これ返却お願いします」

「はい、図書館カードをお願いします」

「ではカードお預かりして本をお願いします」

 サージュに促され、その人は4冊の本を出した。それらのバーコードを読み取り一旦脇に置いておく。

「はい、これで全部ですね。また借りに来てくださいね」

 その人はそのまま外に出た。サージュはユキを呼び出しある指示を出す。

「ユキちゃん、これをあのカートに入れてきてね。ジャンルが分からなかったら呼んでね」

「うん……」

 ユキは表紙のタイトルや表紙絵からジャンルを予測して入れようとするが、2冊は分かったが残りの2冊がジャンルが分からなかった。

「サージュ……」

「どうしたの?ユキちゃん」

「これ……」

「ん?あぁコレは……確か冒険譚と地理小説だね。だから……」

 そう言いながらサージュはそれぞれのカートに本を入れていく。慣れた様子で2箇所に本を入れていく。

「これでよし、っと」

「すごい……」

「そんな事ないよ。さっ戻ろっか」

 ユキの一言に照れながらサージュは受付に戻った。その後も本探しを頼まれたり貸し出したり返却されたりを程々に繰り返しながら午前中は終わった。

 

 

 午後になり、館内のメンバーが入れ替わった頃にユキは自由にしていいと言われた。だが何をしたらいいのか分からずに呆然としていると、ある光景が目に入りそこへ向かう事にした。

 その光景とはシュベルコの周りに犬や猫やウサギやらの小動物が彼女を囲っている光景だった。シュベルコはそのような状況でも慣れた様子で擦り寄ってきた猫の頭を撫でている。近づいたユキに気づいて撫でる手を止めないまま彼女の方へ向いた。

「どうしたの?」

 声を掛けるがこの光景に困惑して何も返って来なかった。そんな様子のユキをシュベルコは表情を変えずに続けた。

「猫……平気?」

「ちょっと……苦手」

 猫に威嚇され続けたのだろうか、苦手意識がユキにはあった。シュベルコは猫の頭を軽くかいてからある提案をする。

「触ってみる?」

「え?……でも」

 また威嚇されたら嫌だなと思いつつもシュベルコの手によって少しふんわりした猫の毛並みが気にならないというのも嘘になる。悩むユキに追い討ちをかけるように続ける。

「大丈夫、この子は引っ掻かない」

 その提案を受け、ユキはゆっくりと手を猫の前に差し出す。だが上から行ったせいで猫が少し後退りさせてしまう。その様子に手を引っ込めてしまった。

「猫の顔の下から、やってみて」

 言われた通りに今度は顔の下から手を伸ばしてみると、今度は自ら手のひらに顔を寄せてスリスリする。ユキはその手をゆっくりと動かした。すると猫は気持ちよさそうな顔をしながらそれを受け入れた。

 ユキの顔がほんのりと柔らかい雰囲気を持った物になる。顔は相変わらず無表情だが最初の頃に比べると目元がなんとなく柔らかくなったような気がしたシュベルコであった。

 その後もコネルコに呼ばれるまで動物達と戯れたシュベルコとユキだった。

 

 

 時間は少し遡り午後に入りメンバーが入れ替わった図書館の中、午後はラヴァベルとメルシュカルが入る事になっていた。

「おはようコネルコ」

「おはようございます!ってヴィラーシュさんは?」

「おはようメルシュカルちゃん。ラヴァベルちゃん。ヴィラーシュちゃんは昨日夜更かししちゃってここで一晩過ごしちゃったから今日は休み。午後も私が入るわ」

 普段ならばいる筈の人が居ないのは違和感しかなく、きて早々疑問に挙げられた。特に隠す事も無かったのでコネルコはそのまま理由を話した。

「大丈夫なんですか⁉︎」

「そういえば家に戻ってないと思ってたけど、よっぽど夢中になってたのね」

 心配そうなリアクションを取るラヴァベルと少しだけ揶揄うような素振りのメルシュカル。

「そうみたいね。だから午後も私が……」

 コネルコが今日の予定を話そうとしたら

「おはようございます」

 居ない筈の人の声が聞こえて振り向くと、休みを言い渡された筈のヴィラーシュがそこに居た。コネルコは驚きラヴァベルは笑顔になり、メルシュカルはあら、と言った風に反応した。

「ヴィラーシュちゃん⁉︎今日は1日休みって言ったわよね?」

「それが、一度寝たら寝れなくなって……暇なのもあれなので来た」

 思わず問いただすコネルコにヴィラーシュは少し困った様子で答えた。恐らく昼寝して起きたらまだこの時間だったのかもしれないが、睡眠時間が圧倒的に少なく一時的な不眠状態に近いものであると容易に想像出来た。

「家であの人と遊んでなさい?」

「――は今日夜まで居ないよ」

「そうだったわ……」

 コネルコはオーナーと遊ぶ事を提案するが、ヴィラーシュがその提案を否定する。実際彼女達のオーナーも社会人で家にいない事もままあるのである。その為コネルコは代案を提案する。

「じゃあ事務室のソファで寝なさい?」

「夜寝れなくなるよ」

 色々想定外で空回りするコネルコ。それを見てため息をつくヴィラーシュは一言。

「はぁ……作業はしない。ただ本を読ませて」

 そう言ってコネルコを見つめ返す。その眼差しに根負けした彼女が今度はため息をついた。

「……仕方ないわね。ただ、表にいると話しかけられるかもしれないから事務室には居てもらうけど」

「それでいいよ」

 ヴィラーシュはそのまま読む本を探しに行った。その光景を横から見ていたラヴァベルとメルシュカルはそれぞれ思った事を話し始める。

「あの子、案外頑固な所あるのね。それにコネルコ、あんたもあそこまで空回りするんだ」

「思っている以上に本が好きなんですねーヴィラーシュちゃん」

 慌てる様子を見られたコネルコは恥ずかしそうにしていた。普段からは想像出来ない姿を晒してしまった事を恥じているようだ。そうしているとハッと何かを思い出した。

「あっ明日の事を話し忘れていた」

「明日って何かありましたっけ?」

 話の勢いですっかり忘れてしまっていた事と、2人にはまだ話していなかった事を思い出す。

「明日、ユキちゃんを拾った場所とその周りを調べようと思うの。それで朝から出るからヴィラーシュちゃんに代わりを頼もうとしてたのよ」

「何か手掛かりでも見つけた?」

 メルシュカルが探りを入れる。だが未だ可能性の範疇を越えない事柄を話すのも良くはないと思い、そこの部分だけぼかしてコネルコは話した。

「もしかしたら……としか言えないけど、これは当たってほしくは無い事ね……」

 2人は首を傾げた。一体何を知ったのだろうかと思ってはいるが、これ以上は話さないだろうと思い一旦忘れる事にした。

「ま、分かったわ。アンタなら大丈夫だろうけど、無茶はしないように!」

「そうですよ!危なくなる前に帰ってきて下さい!」

「分かったわ、心配してくれてありがとう。さ、お仕事の続きをしましょう?」

 照れるメルシュカルと満面の笑みのラヴァベルに仕事の続きを促してから、コネルコはヴィラーシュにも同様の件を話し、承諾を得てコネルコは現場へ赴いていく事にした。

 

 

 翌日、コネルコは最初にユキを見つけた場所に訪れていた。そこは何の変哲もない林。ただ少しだけ歩けば道に出られるようなそんな場所だった。地面は土や落ち葉に覆われており、ユキについていたような傷がこの林の中で出来るとは思えなかった。何かが起きたとすればやはり道の方だと思い、道の方へ出た。

 その道は住宅街の中でよくあるタイプの道で車通りは余り無い。特に変わった様子も無いように見えたが電柱の脇に花や飲み物が供えられてるのを見かけた。そこへ歩き寄ってしゃがみ込む。

(花の一輪でも持ってきた方がよかったかしら)

 そう考えながら手を合わせるコネルコに後ろから不意に声を掛けられる。

「すみません、貴方も息子の知り合いですか?」

 振り向くとそこには親子が居た。子供の方は中学生ぐらいだろうか学校の制服を着ていた。コネルコは返答に困る。何故なら息子と言われても名前がまだ分からない事と、手を合わせたのは誰であろうとそこで亡くなった人を穏やかに送りたいという気持ちであった為だ。

「あ、いえ、直接会った事は無いのですがここの近くである人形を拾いまして。もしかしたら、関係している人が居るかもしれないと思い……」

「つまり貴方はただの他人という事ですよね。イタズラに手を合わせないでくれますか?」

 コネルコの返答に少々の苛立ちを見せる母親に彼女は頭を下げた。

「それは、申し訳ありませんでした」

「それに息子は人形なんて趣味無いんです。さっさとお帰り下さい」

 とりつく島もない様子の母親を見て、これ以上機嫌を損ねさせたく無かったコネルコは去ろうとするが、子供の独り言でその判断を翻す事になる。

「じゃあなんで子供服なんて……」

「子供服、ですか?」

 コネルコは子供の独り言にたいして聞き返す。ある可能性が浮上した以上引き下がってしまうよりかは突っ切ってしまおうという考えだった。それに今日という日を逃したら今度は翌週になってしまう上、せっかく変わってくれたヴィラーシュにも悪いので。多少強引にでも進めなければいけなかった。

「え、あ、はい。実は……」

「貴方には関係無いですよね⁉︎これ以上居座るなら警察呼びますよ⁉︎」

 流石に激昂して母親に警察を呼ばれそうになるが、それでも一言添えたくなってしまった。

「本当に差し出がましいのですが、その服は恐らく人形……正確にはドール用だと思うのです」

「「え?」」

 真剣な眼差しで唐突な事を言われた親子は困惑した表情になっていた。コネルコは懐から携帯を取り出してある画像を見せた。

「このような服が家にありませんでしたか?」

「……確かにありました」

 その画像は和服を着たユキの画像だった。母親はどうやら服には心当たりがあったようで余計に困惑した表情を見せた。何せドール趣味とは無縁だと思われた息子が、いつの間にかその趣味に目覚めていたとなれば彼女の中で疑問が膨れ上がるのも無理は無い。

「良ければ家の中を見せて貰えませんか?中を見れば分かる筈です。彼がドールと暮らしていたかどうか」

 コネルコは無理を承知で頼み込む。母娘は顔を合わせて再びコネルコの方へ向いた。

 

 

 

 確認の為という名目で、息子の家に入らせてもらったコネルコ。家の広さは14畳の1LDK、一人暮らしならば十分な広さと言えるその部屋の箪笥の中には本人の物と思われる服と、サイズの小さな女性物や和服が見つかった。探し物をしていると家に迎え入れた母親が問いかけてくる。

「でも何故人形用の服だと?」

「娘さんの発言です」

 コネルコは振り返って返答する。母親は首を傾げた。

「娘の?」

「そうです。あの時『子供服なんて』と言ってましたよね?」

「あ……はい、多分そうだと」

 急にコネルコから話を振られた娘は曖昧な返答をする。ただの独り言だったので良くは覚えていなかったようだ。

「それですと、息子さんの家には子供服があるのがおかしいって思っていた。そうですよね?」

「はい。それはそう思いました」

 娘に再度話を振るコネルコ。今度はハッキリとした回答が出た。その違和感はしっかりと残っていた。

「その反応から、息子さんは独身、若しくは婚約していてもお子さんが居ない。と推察したまでです」

 ドールを持った事を知らない人からすれば奇妙な話しではある。ただこの部屋には決定的な物が足りて無かった。その点を母親が指摘する。

「でも、肝心の人形は?」

 そう、人形の姿がこの部屋には無かったのだ。着せ替えていたのは女性物。つまり少女型ドールが居なければおかしい状況。やはりただの詭弁だったのかと母親が思い始めた頃に、コネルコはある一つのガラスケースを指差した。そのケースはちょうどコネルコが入るぐらいのサイズであった。

「このケース。等身大ドール用の物です。普段は埃が被らないようにここに入れていたのかもしれないですね」

「でも人形はありませんよね?」

「えぇ、何処にも見当たらないのが不思議で……」

 コネルコは母親の問いに答えながらも色々散らかさない程度に探すが見つからない。あまり気乗りはしないがある提案をするしか無いと彼女は思った。

「あの、息子さんの顔写真をお願い出来ますか」

「何に使うので?」

「知り合いにドールを趣味にしている方が居まして、そこからドールを買ったかが分かるかも知れなくて」

 何故かと聞かれて咄嗟に嘘をついたコネルコ。知り合いというのは自分のオーナーの事で、コネルコ達の事を知っているならばそこは事実である事は違いないだろう。だが聞く人物はその人では無いのだが。

「……わかりました。確か……」

 あまり納得はしていないようだが、とりあえず写真を見せてくれるようで母親はスマートフォンを取り出してある画像を見せた。

「成人式の時の写真ですが」

 そこには照れくさそうな顔をした男の人が立っていた。背景からして数年前であろうそれをコネルコは自身のスマートフォンで直撮りした。画質は多少小さくなっているが十分な物だった。

「ありがとうございます」

「でも、こんな事が分かったとして。貴方に何の得が?」

 不可解なことの連続で母親は疲れたように聞いてみる。

「……全てが分かったら教えます。あ、その為に連絡先を交換しませんか?」

「え?まぁはい……」

 勢いでそのまま連絡先を交換したコネルコと母親。そしてそのまま家を出ようとする。

「今見ておきたい事は全部見る事が出来ました」

「そうですか……」

「突然の事をお願いして本当に申し訳ありませんでした」

「いえ……」

「では、失礼致しました」

 頭を深々と下げるコネルコ。その様子に怒ることもなく母親も頭を下げた。そして家を出て表札を確認する。そこには『藤井 恭平(きょうへい)』と書かれていた。その名前は新聞に載っていた名前と同じであった。

 

 

 閉館作業中である図書館にコネルコは訪れていた。目的としてユキに先程までの話しをする為だ。事務室に繋がる従業員用勝手口から入ると目の前にはヴィラーシュが居た。

「今日は来ないんじゃなかった?コネルコ」

「本当は来ない予定だったけど聞かなきゃいけない事が出来てしまったの」

「そう、じゃあ呼んでくる」

 詳細を聞かずに事務室から出た。少しするとユキを引き連れてきていた。ユキはおっかなびっくりと言った様子でヴィラーシュとコネルコを交互に見ていた。

「突然ごめんねユキちゃん。ちょっと聞きたい事が出来てね」

 ユキは首を傾げた。コネルコはスマートフォンを開いてある画面を彼女に見せる。

「藤井キョウヘイさんっていう人、知ってる?」

 画面を見ていたユキの息がだんだんと荒くなっていく。瞳孔が細くなって震えていく。そのまま頭を抱えだして「あっ」という声が断続的に聞こえてきた。そして声にならない叫び声があげられると動かなくなった。

「思い……出した……」

 荒い息のまま一言、ユキはそう言った。そして一度深呼吸をした。

「どうして……忘れて………………どうして、あの時、守れなかったんだろう……」

「……」

 ショックが大きいようで独り言のように呟くユキ。それを見てコネルコは顔を俯かせる。覚悟していたとはいえ実際に目にすると辛い物があった。だがそれでも聞かなければならなかった。

「……当時の事、教えてくれるわね?」

 コネルコの問いにゆっくりと頷いたユキ。涙を拭って少しづつ語りはじめた。

「あの時は、夜にオーナーと景色を見に行こうとして……いく途中で、何か強い光が見えたと、思って。そこまでしか分からない……」

「……ありがとう」

 コネルコは微笑みかけて彼女に礼を告げた。辛いだろうが話してくれた彼女を案じている物だった。そして辛い顔をしているユキはコネルコに問いかける。

「オーナー……キョウヘイは無事?」

 その問いにコネルコは目を瞑り横に首を振った。再び涙が出るユキ。そのまま大きく泣き出した。それをコネルコ達は止める事もせずにただただ見守るのみだった。

 ある程度落ち着いてからコネルコは、オーナーに電話をかけようとしてヴィラーシュに止められる。

「今の話は筒抜けにさせた。――なら既に例の服を警察に届ける準備に取り掛かってる」

 既に電話していたようで、既に動きだしているようだった。証言もあるので大丈夫だと思いながら、あと一つ、今日中にやる事をしなければならなかった。

「今日は帰りが遅くなる事、連絡しなきゃ」

 コネルコはスマートフォンのメッセージに帰りが遅くなる旨を送っておき図書館を出た。




コネルコ達の持ち主であるオーナーの名前は明かしません。というよりも名前を決めかねていると言った所です。
次回でこの事件も終わりを迎えます。はてさてどうなる事やら
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