すぐさま降りて向かうとおじさんとお爺さんの間ぐらいの男性が少し興奮したように話していた。ラヴァベルはこれはまずいとすぐさま声を掛ける事にした。
「あの、何かありましたか?」
「お前コイツらのダチか。あれを置いていったのはお前らか⁉︎」
推定おじさんが指さすのは立てられていた市松人形だった。どうやらこの人はあの人形を置き去ったのが自分たちだと勘違いしているようで、ラヴァベルは弁明をしようとした。
「あの人形は私達のでは無いです。さっき掘り出した所で」
「掘り出したぁ?嘘も大概にしろよ。こんな何も無い所に誰が」
「何も無いからこそ埋められやすいと思いますよ」
ラヴァベルの弁明に男が反論。そこにコネルコが間に挟まる。実際に周囲には家も何も無く、見つけるのは困難。いやそもそも探そうとすらしないだろう。だから何かを埋めるならばこれ以上無い場所であるだろう。想像以上に素早い反論に少し男はたじろいだ。だからなのか男は話題を変えようとした。
「……じゃあお前達は俺の土地で何をやってんだ」
「あなたの土地だったのですね。ごめんなさい。掘った部分は埋めますので……」
どうやらあの場所はこの男の土地だったようだ。コネルコとラヴァベルはてっきり国や市などの管轄だと思っていた。とりあえず男の話題変えに乗っかり話を進めようとする。
「それよりもあの人形の事を話してもらおうか」
「私達もまだよく分からなくて……そういえばヨシキくん。あの人形は前に君が見た物かしら?」
「あれは、うん。オレがこの前見た物だった。でも目が光って無いけど……」
男の問いにコネルコの代わりにヨシキが答える。どうやらこの市松人形が件の人形だったようだ。
「本当にお前達が持っていた奴じゃ無いんだな?」
「そうだって言ってるだろ!」
疑り深い男にヨシキが怒りのあまりに激しく反論する。コネルコは彼の肩に軽く触れて「落ち着いて」と話しかける。彼はそれで落ち着きを取り戻して「ごめん」と言うと静かになった。男もその間に落ち着いたようで、それを見た彼女は男にある提案を持ちかける。
「あの人形の事を調べましょうか?」
「いや、いい。あの人形はわしが作った物だ」
「「「「えぇ⁉︎」」」」
思わぬ発言にコネルコを除く全員が驚きの声をあげた。コネルコも声こそ出なかったがそれでも驚愕の表情を浮かべていた。そして彼が一体何者なのか聞かずにはいられなくなった。
「貴方は一体……」
「近くで人形を作っている。とは言っても市松人形ばっかだがな。それよりもおめぇらこそ何者なんだ」
「私はコネルコです。夢見る図書館という所の館長をしています。そちらが……」
「図書館の職員のラヴァベルです!あの子達はよく図書館に来る子達で」
「ツエジです」「俺はヨウタ!」「ヨシキだ!んでおっさん名前は?」「ヨシキくん⁉︎」
「おっさんとはなんだおっさんとは。わしは
コネルコ達はそれぞれ自己紹介を済ませるとイシジマから疑問の声が上がった。それもそのはず。こんな場所に用事のよの字も無さそうな人達が来ているのに疑問を抱くのは無理も無い。ラヴァベルがその質問に答える。
「実はあの子達の学校である噂があって」
「噂?」
「あの場所はかつて人形の魂を埋めるための塚だった……という物らしく」
「はぁ?なんだそのふざけた噂は」
どうやらイシジマは噂の事を知らないらしい。という事はこの噂は少なくとも広く知れ渡ったものでは無いようだ。
「噂は知らないんですね」
「あぁ、そもそも人形の魂を埋める?そんな事しても鎮まりやしねぇ。誰だそんなの広めたのは」
「さぁ?ねぇヨウタくん達、学校で誰から広まったか知らない?」
ラヴァベルの質問にイシジマは困惑した様子で返した。ラヴァベルも皆目見当がつかないのでヨウタ達に聞いてみる事にした。
「えーっと確か俺は
ヨシキからはクラスメイトであろう人物の名前が上がった。
「俺は
ツエジからはまた別の人物の名前が上がる。そのさらに前の人物まで覚えていたようだ。
「俺はヨシキから聞いた……筈」
ヨウタはヨシキの名前を挙げた。ラヴァベルはそれを聞いて質問を続ける。
「という事は、少なくとも君達のクラスではその話題が広まってるって事?」
「うん。俺とヨウタは一緒のクラスで、ツエジが別のクラスだから、そこの奴らは大体知ってるんじゃね?」
「んでササジマはツエジのクラスだよな?」
「そうそうそう。だから俺のクラスからは、ササジマから広まったって感じになるのか?」
彼らの交流関係が垣間見える会話を聞きながら、どこから広まったのかをラヴァベルは推察する。
ヨシキとヨウタが居るクラスにはハギタニを経由して広まった。ツエジのクラスでは、カジタを経由してササジマからそれぞれ広まっている。この事から恐らく発生源は今の段階では、ヨシキ達のクラスから出ていると思える。
「んでヨウタとツエジは誰かに話したか?俺は
「ツエジのクラスにいる
「俺は誰にも話してない。変な噂だなーぐらいにか思ってなかったし」
2人からも誰かに話しが伝わっているようで、噂がどうやって広まるのかが分かるような気がした。そしてコネルコはある考えが浮かんでいた。
「まだなんとも言えないけど、もしかしたら埋めたのはそのイイノくんとナギハラくん……かその先の人かも」
「どういう事ですか?」
「噂話を広める人は自分にはあまり関係無いと思っている人が流すの。逆に言えば自分が原因だったり何かしら良くない形で当てはまってる人からしたら、噂が流れて欲しくないと思うから自分からは広めようとはしないわ。最も自分が元凶でわざと広めるという事で撹乱しようって考える人もいるとは思うけど、今回はそれには当てはまらないかもしれないわね」
コネルコの見解を聞いたラヴァベルは理解できたような出来ないような気で聞いていた。その間にも子供達ぼ話しは進んでいるようで、あまり進んでいるようには見えない状態が続いていた。
そうこうして思い出させたり思考を張り巡らせると、イシジマから声を掛けられる。
「お前達、こんな所で話し込むぐらいならわしの家でやりなさい。ここから近いしの。それにそこの嬢ちゃん2人、お前ら
コネルコとラヴァベルはその発言で瞳孔が細くなるほどに驚いた。何せ自分達からドールである事を明かしては居ない筈。それにコネルコのドレスはともかく、服装や装飾も人形らしい物は身につけていない。なのにイシジマは言い当ててきた。
「人形を作ってんだ。それぐらい見抜けん程ズブでも無いわい!それに動く人形なら、うちにもおるしな」
「あら、シュガードールも迎えてらしたのですね」
「いつぞやの時に呼ばれての。ドール同士、会わせてやりたいというのもあるが、こんな場所であれやこれやと話し込むよりかはマシだろう?」
コネルコは彼が自分達をシュガードールと見抜いた理由に納得がいった。普段から接していれば分かる何かがあったのだろうと彼女は思った。
それにイシジマの言う通り、森の中という事もあり、少々冷えるこの場所で色々と考えるよりかはマシではあるだろうとも考えている間にラヴァベルの方から声が上がった。
「イシジマさんの所のドールが凄い気になります!」
「ラヴァベルちゃん⁉︎」
「コネルコさんも気になりますよね?」
「えぇちょっと気にはなるけど……」
「なら行きましょ?それにヨウタくん達もちょっと寒そうだから、少し暖かい所の方がいいと思いますし」
ラヴァベルの発言でヨウタ達の方へ視線を向けるとヨシキがちょうど、くしゃみして鼻水をかんでいる所が見えた。それを見たコネルコはイシジマの提案に乗る事にした。
「……そうね。イシジマさん。案内をお願いします」
「ああ、こっから歩いて10分くらいだ。ついて来な」
「ほら!ヨシキくん達も行くよ!」
かくしてコネルコ達はイシジマの家にお邪魔する事にしたのだった。
コネルコ達はイシジマの案内で彼の家に着いた。イシジマの家は小さな住宅街の中に佇む、ごく普通の二階建ての民家に見えた。
「なんか、普通の家ですね」
「ラヴァベルちゃん?あまりそういう事は言わないの」
「ごめんなさい。つい出ちゃった……」
思わずラヴァベルが感想を漏らすのをコネルコが宥める。それを聞いたイシジマは気分を害された様子もなく返した。
「まぁ工房みたいなもんを想像してただろうが、生憎だがそんな規模まで売れてるじゃないからな。ほら、入りな」
「お邪魔しま…うわぁ⁉︎」「なんだ?おぉ⁉︎」「ん?わぁ!」
イシジマに促されて、ヨシキとヨウタとツエジが先に入った所に早速、市松人形が1人出迎えていたのに驚いた様子。コネルコ達はそれを見ながら中に入るとふとした疑問を呟いた。
「もしかして、魔除け代わりですか?」
「ああそうだ。首に数珠をぶら下げておる」
そう言われてよく見てみると確かに数珠が首から下がっているのを見つけた。それなりに時間が経っているのか色が少々抜けているような印象を受ける。
そんな人形を横目にイシジマの案内を受けようと思っていた時に女性の声が奥から聞こえて来た。
「あら、お客さんなんて珍しい。しかもこんなにようけいるなんて」
緑と白の和製メイドのような服を着た、女性というよりも少女とも見える人物が物珍しそうにコネルコ達に近寄って来た。それに合わせてコネルコは軽く会釈する。
「お邪魔します」
「何も無いけど寛いでいってくださいまし」
「こらカエデ、一言余計だぞ」
「失礼しました。それよりもこの方達は一体?」
カエデの視線がコネルコからイシジマに移る。初めてみる顔が大所帯で押し寄せてくるのは珍しく、純粋に疑問に思えたようだ。
「なんでも、変な噂を調べてるらしい」
「実は、あの子達の学校でとある噂がありまして、それを調べている時にイシジマさんと出会った……と言う所です」
「ほぉ?その噂とうちに何か関係が?」
訝しむカエデ。どこか繋がりが見えてこないそれを怪しむのは当然の事だった。コネルコは微笑みを崩さずに質問に答える。
「その噂が立っていた場所にイシジマさんがこちらで作った人形が埋まっていまして……掘り起こしている所で見つかり、この家に案内されたんです」
「あら……うちの人形が埋まっとったってほんまなん?」
「あぁ、こいつが埋まってたんだよ」
イシジマは埋められていた人形をカエデに見せる。それを見た彼女は最初は不思議そうな顔をしていたが段々と何かを思い出そうと目を瞑り出した。少しだけ経つとあっ!という声をあげて周りを少しだけビクッと驚かせた。
「これ、半年前に作ったもんやんな?」
「そんな前だったか?よう覚えとったな……最近はどの人形をいつ作ってたかよう分からんくなっていかんわ」
「わたしがちゃんと覚えていますえ。でも、誰に向けて作ったんかは覚えてへんのよ。それよりもこの方達を案内しまへんでええの?」
カエデの視線と手の指す方へ視線を向けると周りを見渡している子供達3人と、静かにしているがどうぞ続けてと言いたげな微笑みのコネルコと、首を傾げているラヴァベルの姿があった。
「……あぁ失礼。つい話し込んでしまった。そこの扉の先が展示室みたいな所になっている。そこを使ってくれ」
「「「「はーい!」」」」「はい」
コネルコ除く4人は元気良く返事をし、コネルコは軽く頭を下げて返事をして案内された扉を開ける。目の前に広がって来たのは、様々な模様の着物を着た市松人形がずらりと並べられている光景だった。
丁寧に並べられたそれらは、人によっては何とも言えない恐怖感が煽られそうな物だが、そんな気配を微塵も感じられないように照明が配置されているように見えた。
その脇の一角では写真がいくつも飾られており、そこには様々な人とここで作られたであろう人形が写されているようだった。
「あらぁ」
「うわぁいっぱいありますねぇ」
「すぅげぇ」「おぉー」「へぇ……」
それぞれが部屋の中の光景に色々な思いが浮かぶ中でコの字に配置された椅子を見つける。本来なら人形を眺める為に置かれたであろうそれではあるが、今回はコの字の内側にそれぞれ座っていく。
自然と少女と少年で向かい合うように席についた。だが少年達はどこか落ち着かない様子でソワソワとしていた。
「なんか見られてる感じがして落ち着かねぇんだけど」
ヨシキがそう呟くと軽い笑い声が部屋に響く。全員が思っていたようで思わず笑ってしまったようだ。
「そうね、確かに視線を感じてしまうけれど。お話ししていたら気にならなくなると思うわ」
「そうそう!慣れると意外と気にならなくなるから、ね?」
「そうかぁ?」
どこか疑心暗鬼なヨシキ達をよそにメモを用意するコネルコ。どうやら本題に入りたがっているようで、彼女もまたこの部屋の人形の視線が気にならないかと言われたら嘘ではあった。なので早い所本題に集中したかったという所だ。
「じゃあとりあえず、今分かっている事をおさらいしたいけどいいかしら?」
コネルコの問いに他の4人はうんと頷いたのを見て話しを続ける事にした。
「まず、人形塚の噂っていつから広まったのかしら?」
「あれは……確か2週間ぐらい前だっけ?ツエジの所はどうだった?」
「俺も確かそのぐらいの時に聞いたな。ヨウタが2週間前ならヨシキも同じぐらいじゃねぇの?」
「え?俺は確か……3週間前に聞いた気がすんだが」
「大体2週間前から3週間前ね……ラヴァベルちゃんからは何かあるかしら?」
コネルコは一通りメモを取り終えると今度はラヴァベルからの質問を促す。
「あっじゃあヨシキくんが最初に人形を見たのっていつの事なの?」
「あれは……確か2週間前だった筈」
「じゃあ噂が立ったその週に見かけたって事だね?」
うんと首を縦に振るヨシキ。
「……だとしたら少しだけ変かも?」
「は?」
ラヴァベルの問いにヨシキは懐疑的な返事をした。
「君の事だろうから、そんな事があったら直ぐにみんなに話していると思うんだ。でも2人はあのリフティングをしていた日に初めて知った。そうだよね?」
「うん……」「そうだな」
ヨシキは焦り慌てだす。何か知られたく無いものが暴かれようとしている人間の仕草だと、彼女にはそう見えた。
「……っ!たまたま話すチャンスがなかっただけだ!」
「そうだね。私にこの話しをするのは、あの時ぐらいしか無かったよ。でも他のクラスであるツエジくんは兎も角、ヨウタくんとはクラスが一緒だから話す機会も多いよね?」
「あっ確かに。学校でもヨシキとよく話すけど、人形塚の人形の話しはしてなかったような気がする」
ラヴァベルの指摘にヨウタが補足のように声を上げた。
「…………」
反論出来ずに黙り込むヨシキ。何かの罰を待ち受けるような縮こまり方をしている。
「人形塚の噂の発端は……ヨシキくん。君だね?」
ヨシキはしばらく沈黙を続けた後にゆっくりと首を縦に振った。それを見たヨウタとツエジは彼に詰め寄る。
「なんでそんな噂を流したんだよ!」「なんでだ!」
「…………あの人形を捨てたのが誰か知りたかった」
詰め寄られたヨシキが沈黙の果てに口を開いた。
「1ヶ月ぐらい前に、俺たちのクラスで、あの場所の歴史を知ろうっていう授業があったんだ。その後に母ちゃんから隣町へのおつかいを頼まれて……その時にあの道を行っていた時に寄ってみたんだ。そしたら……」
「そこにあの人形があった……だね。その授業の後で学校の誰かが捨てたかもしれない。そう思ったんだよね?」
うんと頷くヨシキ。ラヴァベルはだいぶ落ち着いているのを見てある質問を投げかけた。
「でも何故ヨシキくんはその人形の事を気に掛けてるの?」
「なんか……ほっとけなくて。俺が見つけた時に雨上がりのせいだったかもしれないけど、泣いているような……なんかそんな感じがして。俺なんかおかしいのか?」
話しをしているうちにヨシキは次第に涙声になって今にも泣き出しそうな雰囲気を醸し出している。ラヴァベルは目を閉じて微笑み首を横に振った。
「そんな事無いよ。何かを大事にしたいっていう気持ちは凄い大切な気持ちなんだから。でもちょっとやり方がまずかったかもだけどね」
ラヴァベルの言葉で大きな泣き声を上げるヨシキ。それを彼女は優しく抱き留める。その光景を誰も止める事が無かった。
一通り泣き腫らした後、ヨシキは寝息を立てていた。ふとツエジがある疑問をぶつけた。
「でもなんで噂をヨシキが広めたと分かったんだ?」
その問いにはコネルコが答えた。
「誰が広めたかはわからなかったけど、つい最近広めようとしていたのは、ラヴァベルちゃんから話しを聞いた時から直ぐに分かったわ」
「え?そうなんですか?」
ラヴァベルは眠るヨシキ抱きしめたまま顔をコネルコの方へ向けた。彼女もどうやら気づいていなかったようだ。
「埋めて鎮めるというのは大昔にはあったみたいだけど、人形作りの村が栄えていた時代には既に御焚き上げをするようになっていたとされる文献が前からあったの。それに、村から人形塚までの間に道だった痕跡も無かったから、そもそもあの場所には村の人も行かなかった……と思ったからね」
コネルコの推理におぉと言う声が自然と上がる。まさかそこから推理出来ていたとはと起きている3人は心の中で称賛の声を上げた。その中で1人がある疑問を投げかけた。
「でもなんで噂を流すなんて回りくどくないか?」
寝ているヨシキに代わりコネルコが推理する。そっちの方も検討がついていたようだ。
「確かにね。でも直接聞いても多分答えてはくれないと思った筈。実際にそうだったと思うからね」
少年2人とラヴァベルは少し納得をした。悪い事を素直に自白する事に強い抵抗を確かに感じると思った。
「あとは誰が埋めたか……なんだけど」
「まさかそっちも目星が?」
「絶対この人だ、とは言えないけど……君達のクラスの誰かだとは思うわ」
え?と一斉に声が上がる。何故そこまで断言出来るかが分からないと言った様子だった。
「なんで?」
「ヨシキくんが見つけた時は埋まっていなかったと思うの。それにあの様子なら、持ち帰れは出来なくとも埋めるとは思えないわ。でも今日は深めに埋まっていたでしょ。最初からそうならば、そもそも見つけていない筈なの……だけどその時の状況をヨシキ君に聞いてからにしましょう?それよりも…」
コネルコが質問をしようとしたその時、扉がノックされる。
噂は優しい嘘からだった。ただ手段が強引だった。そしてそれを自白した時に優しく包んでくれる人もいる。
謎の連鎖を紐解いて、真実が見えてきた。