暫く、小説情報の画面を眺めてニヤニヤしちゃいました。
「ネモ、ここはどうやって解けば良い?」
「それはね、……ほらここ、この公式を使えば解けるはずだよ」
「なるほど……こうだな?」
「コハルちゃん?何か分からない問題でもありましたか?」
「いっ、いやっ!別に無いけど!?」
「ちなみに今開いているそのページは、今回のテスト範囲ではありませんよ」
放課後ボク達は暫定的に補習授業部の活動場所となった教室に集まって、一回目の特別学力試験に向けて勉強会を開いていた。
桐藤様から話を聞いた時点では落第の危機のある生徒の集まりだとしか聞いていなかったので、最悪の場合ボクと先生の二人きりで補習授業部の部員全員の面倒を見なければいけない状況を覚悟をしていた。
しかし、純粋な実力不足で補習授業部に入ることになったのは白洲さんの一人だけだったようで、試験勉強は予想に反して順調に進んでいた。
「"なんだか良い感じみたいだね"」
「はい!ハナコちゃんもネモちゃんもとってもすごくって!それにアズサちゃんも意欲的に勉強に取り組んでくれています!」
「コハルちゃんは今まで実力を隠していただけみたいですし、これなら一回目で全員合格できちゃうかもしれません!!」
「本当に良かった……。実は、もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をすようにとティーパーティーから言われてまして……」
白洲さんに勉強を教えていると、先生と阿慈谷さんが何やら重要そうな話をしているのが聞こえてきた。
一段落ついたあたりで白洲さんを浦和さんに任せて先生達の方へ向かい、会話に混ざる。
「そんなこと言われてたんだ、知らなかったよ」
「えっ!?ネモちゃん知らなかったんですか!?」
「うん。どうやらボクはティーパーティー、特に桐藤様には信用されてないみたいでね。補習授業部を作ること、その顧問にシャーレの先生を呼ぶこと、部外の人間として先生のサポートをお願いしたいことの三つしか聞かされていないな」
「他の細かいことは、部長をお願いしている生徒に説明しておくからってね」
全く酷い話だと続けるボクを驚いた顔で見つめる阿慈谷さん。
「じゃあ、もし三次試験まで全て落ちてしまった時のことも聞かされてないんですか……?」
「……多分聞かされてないね。三次試験でも落ちてしまったら何かあるのかい?」
「い、いえ、大したことじゃありません……!それに、心配は杞憂で終わりそうですしね!」
「それにしても、ハナコちゃんはどうして落第してしまったんでしょう……?すごく勉強ができる感じなのに。私みたいにテストを受けれなくてとか、何か事情があったんでしょうか?」
阿慈谷さんは暗い話はここまでと言い、はぐらかすように別の話題を持ち出した。
浦和さんの話をする彼女の視線を追って、ボク達も浦和さんの方を見る。
「ハナコ、これはどうすればいい」
「これは古代語を重訳したものですね。辞書を持ってくるのでちょっと待っていてくださいね」
淀みなく白洲さんの疑問に答える浦和さんの姿を見て、確かにと思う。
彼女は普段の言動こそあれだが、こと勉学においては何故補習授業部にいるのか分からないぐらい優秀であった。
阿慈谷さんの言う通り、きっと何か事情があったのだろう。
何故と少し物思いにふけるが、今考えても仕方がないとかぶりを振って思考を中断する。
「考えても分かりそうにないしこの話もここまでにしようか」
「"そうだね。一次試験で無事合格出来るように、もうちょっと頑張ろう!"」
第一次特別学力試験当日、空き教室に集まった補習授業部の皆に問題用紙と解答用紙を配っていく。
「"皆、落ち着いて頑張ってね!"」
「では、解答始め」
ボクの号令に合わせ全員が一斉に解答を始めた。
一次試験が終わり数時間後、緊張した面持ちで待つ補習授業部の面々に試験の結果が告げられた。
ヒフミ:72点 結果──合格
アズサ:32点 結果──不合格
コハル:11点 結果──不合格
ハナコ:2点 結果──不合格
一言で言おう、散々な結果であったと。
「ちっ、惜しかった」
「惜しかったなんて点数じゃないですよ!?」
「か、かなり難しかったし……」
「全然簡単でしたよ!?」
「あらあら……」
「ハナコちゃんすっごく勉強ができる感じだったじゃないですか!?」
「ど、どうしてこんなことに……」
これまでの試験勉強の様子からは想像できないような結果を受け止めきれなかったのか、フラフラと倒れこんでしまう阿慈谷さん。
一筋縄ではいかなそうな雰囲気にボクは、後先考えずに二つ返事で依頼を受けたあの日のボクを殴り飛ばしてやりたい気持ちでいっぱいだった。
夜も更けてきた頃、私はナギサに聞きたいことがあって、つい数週間前に訪れたあのテラス席を訪れていた。
私の足音に気が付いたのか、ナギサはチェスをしていた手を止めて顔を上げてこちらを見やる。
「あら、先生。お疲れ様です。こんな夜分遅くにどうされたのですか」
「"三回とも不合格になったら、補習授業部の皆はどうなるの?"」
「小耳に挟まれたのでしょうか?出処は恐らく……ヒフミさんでしょうか」
私の問いに特に表情を変えることなく、ナギサは淡々と言葉を続ける。
「そうですね、端的にお答えしますと、皆さん一緒に退学していただくことになります。ネモさんには申し訳ありませんが彼女も一緒に」
「"退学!?それに何でネモまで!?"」
「本人には伝えてありませんが、私からの依頼を受けた時点でネモさんも、補習授業部に入部させていますので」
「連帯責任というやつです」と、何でもないことのように告げる彼女に言葉を失う。
絶句する私を尻目にナギサは、そもそもと話を続ける。
「補習授業部は生徒達を退学させるために、作ったものですから」
「"何をいってるの……!?どうしてそんなことを……!"」
「あの中に、トリニティの裏切り者がいるからです」
「"……!?"」
「その裏切り者の狙いは、エデン条約の締結を阻止すること」
彼女の言葉に感情的に声を荒げる私にナギサが告げたのは、そんな驚きの事実だった。
エデン条約ーー長年いがみ合ってきたトリニティ総合学園とゲヘナ学園の間に結ばれる不可侵条約ーー連邦生徒会長が提案し彼女が行方不明になってしまった後、ナギサが長い時間をかけて締結あと一歩のところまで立て直したそれを、妨害しようと企む者が補習授業部の中にいるのだと言う。
「誰が裏切り者なのかは分かりません。特定には至りませんでした。なので、疑わしい者達を一つに纏めたのです。“補習授業部”という“箱”に」
「先生にはその“箱”の制作にご協力いただきました。利用する形になってしまい申し訳ありませんでした」
「"・・・今その話をしてくれるってことは、何か私に頼みたいことでもあるの?"」
「流石先生、理解が早いですね。・・・先生には補習授業部の中にいる裏切り者を探していただきたいのです」
先ほどより切実になった視線で彼女は私に協力してほしいと頼み込んできた。
彼女のお願いを聞いてあげたい気持ちはある。
しかしその願いは、私の今まで“先生”として掲げてきた信条に真っ向から反するものだった。
「"・・・私は私のやり方で、その問題に対処させてもらうよ"」
拒絶の意が籠った私の言葉に少し悲しそうな表情をするナギサ。
それも直ぐにしまい込み、これ以上話すことはないといった態度で口を開く。
「・・・そうですか。それは、とても残念です」
それではまたという彼女の声を背中に受けながらテラス席を後にする。
必ず皆を退学にさせたりしないと心に誓って私は帰路についた。
ネモちゃんのお名前なんですが、苗字が色の名前からそのままとって水縹、名前がネモフィラというお花からとってネモとなっております。