「なー、そろそろ仲直りしろよ、うざい」
「だってよ、傑が!」
「……」
私は、胸の痛みを抑え、ツーンと横を向いた。
悟と喧嘩をした。あんなに喧嘩をしたのは初めてだった。
でも、悟とずっと仲違いしているのは辛かった。
なかなか話しずらくて、手紙を書いた。
姉に教わった、嘘をつけないという特殊な言葉、特別な文字で書いた。
その方が、心が籠められる気がして。
朝、教室で、無言で悟の机の上に手紙を差し出す。
「……なにこれ」
警戒しながら、悟は手紙を見て、目を見開いた。
「これ、えっ すご。知らない字なのになんて書いてあるかわかる」
「バベルって言うんだって。嘘のつけない、誰でも読めるしわかる魔法の言葉」
「バベル……バベルの塔? 西洋の呪術かなんか? 読んでいい?」
「良いよ」
真心込めた手紙。
「君が友達だと思っていてくれる限り、離れない」と言う手紙。
悟は噛み締めるように、指で追いながら読んでいく。
最後まで読むと、手紙が輝いた。
「えっ」
「は?」
何かに魂が触れられた感じがして、驚く。
それと同時に、クルンと悟の私への想いに包まれる心地がした。
私は顔がぼんっと赤くなる。
私への好意だけとはいえ、心を読める道具を作ってしまった。
「ごめん、悟。変な呪具ができちゃったみたい。これは私の方で処分しておくよ」
手を伸ばすと、悟はその手紙を慌てて引っ込めた。
「俺がもらったもんだし!」
「でも、私への君の思いが、私に読めちゃうみたいなんだよ」
「俺も傑の心、ちょっと読めちゃった。仲直りしたいって気持ち」
2人して、顔が赤くなる。
「俺の誕生日近いし。誕生日プレゼントはこれがいい」
「そんなものでいいのかい?」
「嘘のつけない言葉で、永遠の友情を誓ってくれた手紙だろ。ぜってー返さない」
「うらやましー。私にも書けよー」
「ダメだよ、硝子。永遠の友情なんて誓えるの、悟だけだよ」
「ちぇー」
悟は嬉しそうな顔で、そっと手紙を折りたたんだ。
「文箱、一緒に選ぼうぜ。傑からもらった手紙そこに大切に保管すんの」
「流石に同じ間違いは何度も侵さないかな……」
それから、たまに悟の私への暖かな気持ちが流れ込んでくるようになった。
夜。悟と別れて任務に行っている時。悟はしょっちゅう手紙に触れているのだ。
悟と喧嘩してしまった時も、気まずくなった時も、すぐに悟は手紙に触れる。
そうすると、仲直りしたい、嫌われたくない、大好き、と言う思いが流れ込んできて、私は怒るタイミングを見失ってしまう。
そうして、どんなに喧嘩しても、部屋に悟が来ると迎え入れてしまうし、悟が嘆き悲しんでいると、つい私も仲直りしないか? なんて悟に声を掛けに行ってしまうのだ。
段々使い慣れてきて、携帯がわりに使ってしまう事すらある。
理子ちゃんの護衛を失敗してしばらく辛かった時も、悟の心にぎゅっと抱きしめられて、私の心に触れて傷ついている事を知った悟が枕を持って私の部屋に押しかけてきて、依頼を単独でこなす時だって、私達の心は一つだった。
その事件が起こるまで、私は悟に手紙を委ねることについて、好ましくすら思っていた。
そして、事件は起こる。
疲労していて、悟に元気を流し込まれつつも、任務に行った時。
檻の中の虐待された幼女2人に私は、もういいじゃないか、と思った。
ーーごめんね、悟。もう無理だよ。
手紙は返してもらおう。そして光の当たる所と決別しよう。
そう思った時だった。
【君が友達と思ってくれている限り、離れない】
魂が縛られるかのように、悟の想いが流れ込んでくる。
そして、私は術式が使えなくなっていた。
動揺して、それでもなんとか幼女2人を救出する。
目の前に悟がいて、私は悟に抱きついた。
悟は当たり前のように、ちょっと罪悪感を持った感じで、私を受け入れた。
まるで、私が来るのをわかっていたかのように。
いや、ごまかしはやめよう。悟は手紙を使って私を自分の元に呼び寄せたのだ。
この時、私は、ようやく自分がとんでもないもの……。
悟が私への友情を持ち続ける限り、絶対の隷属を強いる魔法の誓約書を作ってしまっていた事に気づいたのだった。
続きます。多分5話くらい?
マシュマロ
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