「なー、そろそろ仲直りしろよ、うざい」
「だってよ、傑が!」
「……」
傑はツーンと横を向く。
喧嘩した理由は、なんかスタンスの違いとかだった。ぶっちゃけどうでもいい。
俺と傑は違う人間なのだから、違う考えを持つのも当然のこと。
嘘。本当は一緒がいい。でも違っててもいいから、傑の隣にいたい。
また一緒に話したい。
うーと唸りながら見る。傑は知らんぷりをしている。
学校が終わった後、話しかけようとしたら逃げられた。
「なんだよ……」
その日、ちょっと早く教室に来た。硝子と待ち合わせ。
「なー。傑、どうやったら仲直りしてくれると思う?」
「謝ったらどうだ?」
「そもそも会話になんねーの。辛い……」
「メソメソすんな」
「メソメソしてねぇ」
「手紙でも書いたら?」
「手紙か……」
「夏油にも同じアドバイスしといた。便箋あるけど?」
「そっか……そっか!」
傑もお手紙くれるのか。傑も仲直りしたいんだ。よかった。俺も書こう。
俺はワクワクしながら、手紙を書いた。
やっぱ俺たち最強だよな!
イラストに力を入れすぎて、何度も便箋をダメにして、うまく書けずに傑の気配がしたものだから、ワタワタと隠した。
傑は、俺が使ってるのとおんなじ便箋を、無言で俺の机の上に置いた。
硝子が用意してくれた便箋は何種類かあったので、おんなじのを選んだってだけで俺の脳内には花が咲いていた。
いそいそと不機嫌な振りをして、内実喜んで受け取ろうとして、その異様さに引く。えっ 仕事とか? そんなぁ。
「……なにこれ」
よく見る。硝子も視線をちらっと寄越して、三度見してよってきた。わかる。
知らない字なのになんて書いてあるかわかるってなんだよ。
この世界のたった1人の五条悟様へ。
俺を、あらゆる世界軸でただ1人、俺を指名した宛名。
宛名だけで、なんだか心臓が跳ねた。すげー特別感。
「これ、えっ すご。知らない字なのになんて書いてあるかわかる」
「バベルって言うんだって。嘘のつけない、誰でも読めるしわかる魔法の言葉」
「バベル……バベルの塔? 西洋の呪術かなんか? 読んでいい?」
「良いよ」
そろそろと、手紙を開ける。
なんだか、宛名だけでお腹いっぱいだ。
俺の事が大事だって。仲直りしたいって。
「君が友達だと思っていてくれる限り、離れない」って。
なんだか、暖かな傑の想いが文字となって、手紙からふんわり浮いて胸の中に入り込んでくるようだった。俺は噛み締めるように、目と指でじっくり追いながら読んでいく。指が滑るごとに、俺から漏れた呪力が不思議と文字を流れて行った。
最後まで読むと、かちりと結ばれた感じがして、手紙が輝いた。
「えっ」
「は?」
傑の魂に、触れた気がした。ううん、違う。触れ合った気がした。
傑の心が、少しだけわかる。手紙を書いた時の気持ち。
手紙を渡すときのドキドキした気持ち。
心を読んだからか、読まれたからか。傑は顔がぼんっと赤くなる。
その赤らめた顔が、俺の心臓を貫いた。
「ごめん、悟。変な呪具ができちゃったみたい。これは私の方で処分しておくよ」
傑が手を伸ばすから、俺は慌てて手紙を確保した。
これはやばい。やばい奴だ。少なくとも呪具。
俺と繋がったものが流出するのはまずいし、責任持って俺が管理する。
でも何より、これは俺の宝物だった。
「俺がもらったもんだし!」
「でも、私への君の思いが、私に読めちゃうみたいなんだよ」
「俺も傑の心、ちょっと読めちゃった。仲直りしたいって気持ち」
2人して、顔が赤くなる。硝子が、両思いかよ、と呟いた。うっせー。
とにかく手紙は渡さない。
「俺の誕生日近いし。誕生日プレゼントはこれがいい」
「そんなものでいいのかい?」
そんなものだなんてとんでもない!
「嘘のつけない言葉で、永遠の友情を誓ってくれた手紙だろ。ぜってー返さない」
「うらやましー。私にも書けよー」
「ダメだよ、硝子。永遠の友情なんて誓えるの、悟だけだよ」
「ちぇー」
その言葉に、俺は一層浮き立つ。俺だけ。俺だけの永遠の友情。
大事にしよう。
俺はしっかりと手紙を鞄に入れた。
「文箱、一緒に選ぼうぜ。傑からもらった手紙そこに大切に保管すんの」
「流石に同じ間違いは何度も侵さないかな……」
それはそう。他のやつに似たような手紙書きそうなら全力で止めるし。
それから、部屋に帰って、手紙に触れる。
傑の、ぼんやりとした俺への好感度が帰ってくる。
後、ちょっぴり考えてる事が流れてくる。
現在の俺への好感度、80%。ヨシ!
傑の心を読んじゃうのは申し訳ないから、ちゃんとセーブしないとな。
それから、俺なりに手紙の研究をした。
まくらの下に文箱をしいて寝ると、傑と一緒の夢が見れた。
夢の中の傑はふわふわしていて、俺が引っ張ると俺に寄る。
魂を抱き寄せる感じで、その時だけ俺にいい感じの好意を抱いてくれる。
それがなんとも心地いい。
傑は夢を覚えていないみたいだけど、だからこそ俺は好き勝手できた。
夢の世界で、いい夢も悪夢も、俺たちは2人、遊び続けた。
傑と喧嘩してしまった時も、気まずくなった時。手紙に触れると、どの程度傑が怒っているかわかる。
俺の心も漏れちゃうけど。
怒っているときも、俺が仲直りしたいって想いを手紙に流し込むと、傑は絆されてくれる。
俺の心に触れて、絆されているだけじゃない。多分、俺が傑の魂を引っ張って、好意を自分に寄せている。
これ、多分、すげーやばい事だと思う。だから自制しないと。
俺は必死で自分に言い聞かせる。でも、次の瞬間には手紙に触れている。
手紙に触れるだけのコミュニケーションだと、傑の心を操っているだけに感じちゃうから、意識して口に出すようにした。必要だって。傑が大切だって。ついでに、仲間外れになっちゃう硝子にも声と、手を伸ばすようにした。
でもたまに、手紙越しに会話しちゃう時もある。
ただお互いを感じたい時。ただ傑を感じたい時。挨拶代わりに手紙に触れて、心を触れ合わせる。
傑は隠すのがうまいから。
自分すら騙しちゃうから。
一回、自分の特訓と成長が楽しくて、傑から目を離してしまっていて、ちょっと時間が出来て、存分に手紙から傑の魂を隅から隅まで舐め回していた時(こんな事も許してくれるなんて傑はすげーと思う)。
傑の心が二重構造になっている事に気づいてとても驚いた。
ドロドロしたものが中に詰まってて混乱した。
慌てて枕を持って、傑の部屋まで行った。
傑とひっついてても傑の心には触れられないけど、それでも俺の心が伝われって抱きしめた。手紙を使う頻度が爆増した。
夜はどんなに非常識な時間でも傑の部屋に押しかけて、移動中はいつも手紙を撫で回してた。
手紙が盗まれかけたときなんて、それを実行しようとした総監部付きの補助監督を殺すとこだった。傑に止められたけど。
俺だったらいくら親友でもそんな魂ぺろぺろ心を常に監視なんて絶対許さないので、そんな事をしても受け入れてくれる傑はやはり俺の事を大好きでいてくれる。確信していた。
ずっといっしょ。いつでも一緒。永遠に一緒。
その事件が起こるまで、俺と傑が別たれることなどあり得ないと思っていた。
そして、事件は起こった。
その日も傑は疲れていて、俺は手紙で傑ガンバレーって送っていた。
さっさと呪霊を片付け、さてと、と手紙に触れたら、傑の魂は冷たく言った。
ーーもう、いいじゃないか。
ーーごめんね、悟。もう無理だよ。
ーー君は私を必要じゃない。
ーー私は消えるよ。
ーーさよなら。
は? なんで? だって手紙には書いてあるのに。
【君が友達と思ってくれている限り、離れない】
【俺は親友の傑を必要としている】
手紙が熱くなる。俺の傑への想いを鎖へと変換していく。
鎖は傑を縛った。
【傑が離れるのは許さない】
そして、傑が一般人を術式で攻撃するのを禁じた。
突如として術式を使えなくなった、どころか村人を傷つけることしかできなくなった傑が、慌てて幼女2人をなんとか保護するのを感じる。
傑が怖がってる。
傑に絡まった
傑の心を、意思を、行動を捻じ曲げて引き寄せる。
幼女2人を連れた傑は、ひどい顔をして、引っ張られるように俺に抱きついた。
俺は、傑を受け止めて、ぎゅっと抱きしめた。
2人の間にあるのが絶対の熱い友情でありながら、俺と傑は冷えていて、怯えていた。
傑が離れようとした事。呪詛しになろうとした事。やべー手紙。謎の文字、バベル。
どうしていいかわからないまま、硝子が幼女2人を保護して俺達にも毛布をかぶせてくれるまで、ひたすら傑を抱きしめ続けた。
マシュマロ
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