お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの 作:いろかぐヤチは美しい
「お、お姉ちゃん?大丈夫?」
「…………………」
何だろう、お姉ちゃんの様子がおかしい。
なんだかポーッとしてるような……顔もちょっと赤いし……ど、どうしたんだろ?
さっきから目も合わせてくれないし……た、体調でも悪くなったのかな……。
「お、お姉ちゃん……?しんどい?私のこと、ぎゅってする?」
お姉ちゃんは昔から私を抱き締めるのが好きだった。
だから少しでも元気になってくれればと思い、両手を開いておいでーの体勢を取ってみる。
「…………え?あ、うん……だ、大丈夫……だよ……その、今は……」
「!?」
──お姉ちゃんが、私をぎゅってしない……?な、なんで?こんな事今まで一度も……ま、まさか嫌われ……!?い、いやいやそれはない……!だってお姉ちゃんは私のこと愛してるって言ってくれたし……!で、でもじゃあどうして……?いつものお姉ちゃんなら『え?いいの?じゃあ遠慮なく~♪』って感じに抱きしめてくれる筈なのに……!!や、やっぱり何かおかしい……も、もしかして風邪とかっ!?私というイレギュラーがお姉ちゃんにウイルスコードとして感染してそのまま……た、大変じゃん!?な、何とかしないと……!!
今までにない姉の様子にあわあわと目をグルグルさせながら、明後日の方向に脳内が全力疾走していくツキミだったが、ヤチヨも割と内心いっぱいいっぱいになっており──。
『お姉ちゃんが私を見捨ててなんてあげないって言ってくれたのと同じだよ。……私もお姉ちゃんのこと、逃さないから』
──射抜くような鋭い眼差し……新鮮だったなぁ……ツキミって可愛いだけじゃなくてやっぱりその……か、かっこいいよね……。
『──お姉ちゃんが弱くて頼りなかったら、私はとっくに壊れてたよ。私を救ってくれた人のこと、悪く言わないでよ』
──私が一番欲しかった言葉……当たり前のように言ってくれたんだよね……ちょっとだけ怒ってるのも、私のためで……その声色も、また新鮮で……かぐやだった時は、全然知らなくて……い、今は私しか知らないんだよね……。
『お姉ちゃん。お願いだから、私の前では取り繕わないで。本音を見せて、私から逃げないで。……私のそばに居て』
──凛とした真剣な面持ちで、有無を言わせぬようにそう言い切ってくれて……凄く嬉しくて、なんか……逃げないでって……強引なツキミ……珍しく……て……。
『私から逃げないで。……私のそばに居て』
──透き通った瞳の中に込められた、私への深い愛情と慈愛に満ちた眼差し。
こちらを真っ直ぐ見詰めてくるツキミの綺麗な瞳に、思わず目が離せなくなって……胸が、高鳴ったような気もして……頬に血が、集まっていく感覚にも襲われ……て………っ。
「(……ど、どうしよう……な、なんかツキミの顔……まともに見れないんだけど……!?)」
妹が掛けてくれた言葉と、普段とは真逆の凛々しい表情に完全にやられてしまったヤチヨに姉としての余裕など一切存在せず、どこか熱を帯びた視線をツキミに向けながら、そわそわとその場に鎮座する事しか出来なかった。
傍から見れば、恋に焦がれる乙女にしか見えないのだが……ツキミの頭の中にそんな発想はなく。
「お、お姉ちゃん……ちょっとごめんね」
「……へ?」
姉が風邪か何かに侵されてしまっているかもしれないと、有り得なさすぎる勘違いをかましているツキミは、ヤチヨの前髪を右手でそっと上げ、そのまま額をこつんっと……。
「!?つつつつつきみっ!?」
「ん……熱は……ない……のかな?……あれ、そもそもツクヨミって触覚……でもなんかどんどん熱くなってくるような……」
か、顔が近い……!い、いやでも私とツキミは姉妹だしこのくらいの距離感は普通だし今までだって抱きしめ合ったり膝の上に乗せたり一緒に寝たりしてたわけで全然動揺するような事じゃなくて……!私はお姉ちゃんだし8000歳だし大人の余裕を見せてツキミにカッコいいって思って貰わないと姉としての威厳が……!
「お、お姉ちゃん?大丈夫?……えっと、やっぱりぎゅってする……?」
「ひえっ!?い、いやあのその……!も、問題ナッシングーテンモルゲン!!ヤッチョは元気満杯なのでお気になさらず……」
「……えいっ」
「はうっ!?」
──どう考えてもおかしすぎる姉の様子に、もう強引に行っちゃえとハグを強行するツキミ。
だが、今のヤチヨにとってそれは──。
「つ、つきみ……わ、わたしはほんと大丈夫だから……ね?」
「お姉ちゃんはまたそうやって……元気になるまで離さないからね」
「だ、だから私は別に全然元気で……」
「……じゃあなんで目を逸らしたりするの?顔も赤いし……今までこんなことなかったじゃん。明らかにおかしいよ」
「そ、それは……そのぉ……」
「……その?」
……い、言えるわけない……!妹の、ツキミに対してドキドキしちゃってまともに顔も見れませんなんて恥ずかしくて言える訳がないっ……!!
言ったら最後、私の姉としての尊厳は地の底まで落ち……るのかな?ツキミならなんだかんだで喜んでくれそうな気も……い、いやいや!流石のヤッチョにも羞恥心というものが……!!よし、誤魔化そう。
──ヤチヨは一瞬でそう決断した。
こ、これは別に取り繕ったり本音を隠したりってわけではないし……泣きながら誤魔化して笑ってるわけでもないから……ツキミも怒らない……はず。
……ただ恥ずかしいだけだもん。
「え、えっとね……ツキミが私のことたくさん考えてくれてるのが嬉しくて……ちょ、ちょっとだけ照れくさいだけだから……本当に大丈夫だよ」
「?……私はいつもお姉ちゃんのことしか考えてないよ?なんで今更?」
「~~~~~~っもう!ツキミはもうっ!!本当にお姉ちゃんのこと大好きなんだから!!!!」
「わぷっ!?……へへへ、うん……好きぃ……♡」
当たり前かのように全力で好意を伝えてくれるこんな可愛い妹を前にして躊躇っているなんて勿体なさすぎると、先程まで感じていたドキドキを一旦月の彼方まで吹き飛ばして、可愛い可愛い妹を抱きしめて愛でる事にしたヤチヨ。
……今はまだ、これでいいよね。
……姉妹でそういうの、ツキミはどう思うのかな……。もし引かれたら……あっ無理生きていけない心壊れちゃうほんと無理……でも、ツキミは私のこと文字通りに命捨てちゃうくらい大好きだし……案外行けちゃったりも……い、いやいや違う違う……私はあくまでツキミのお姉ちゃんなんだから家族としての大好きで愛してるであって、行けちゃうとかそういうのとかないから!私がそういう関係になりたいのは彩葉で……あれ?でもさっきツキミに感じたドキドキって……彩葉の顔が、とても綺麗で……その時に──。
「お姉ちゃん……♡大好きぃ……♡」
「……うん、ヤッチョも好きだよー」
──取り敢えず問題を先送りにして引き延ばす事にしたらしい。一種の開き直りである。
── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──
どうも、ツキミです。色々とお姉ちゃんの様子に気になるところはありますが……泣いてはないので見逃す事にします。
誤魔化して笑ってるなら絶対に逃さないけど、そうじゃないみたいだし……隠したいことの一つや二つ、お姉ちゃんにもあるよね。
そんなわけで、私はお姉ちゃんの温もりと愛を一心に受けて癒される事に決めたのですが、どうしても一つ気になる事が。
「……ねえお姉ちゃん。一つ聞いてもいい?」
「なんだいなんだい?」
「私の知ってるツクヨミってさ、触覚……ていうか人に触れてもあったかさとか感じない筈なんだけど……お姉ちゃん、あったかいよね?これってもしかして……私の……」
『触れたら、あったかいかなっていつも思うんだ』
……私の知ってるヤチヨちゃんは、少し寂しそうに彩葉にそう言ってた。
『また、彩葉と一緒にパンケーキ、食べたいな』
……当たり前の幸せを、奪われるのが許せなかった。
だから私はお姉ちゃんに五感をあげる事で、味覚も、温もりも全部失わないようにしようって決めたんだ。
……まあ今思えば、自分が楽になるために、姉を贖罪に利用しようとしてただけな気がするけど。……最低すぎるね、本当。
自分の為を、姉のために置き換えて、お姉ちゃんの心の傷とか全部無視して、私は楽に消える為だけに行動して……やばい、ヤチヨお姉ちゃんに救われる前の私、クソッタレすぎてぶん殴りたい……!消える前提で行動するなら、最初からお姉ちゃんに深く関わるなよ……!大好きとか好きとか言うなよ……!そんな風に慕ってくる妹が犠牲になってかぐやちゃんが幸せになれるわけないだろ……!何が私を
かつての私の余りの身勝手さと傲慢さに、思わず自分の顔面を吹き飛ばしそうになるが、何とか抑え、改めて姉に。
「……私が身体をあげたから、あったかいの?」
そう、問いかけるのだった。
「……うん!そうだよ?
そんな私に、お姉ちゃんは何処か誇らしげに…いやこれは……そう見せてるだけかな、また誤魔化してる。
……今回は私のせいだから、何も言えないけど。
「そっか……じゃあ、味覚は?お姉ちゃんの配信のコメントで見たんだけど、味覚はまだ未実装だったよね?やっぱ難しいの?」
「──────み、かく………は………………」
──ああ、今のは聞いちゃ駄目だったんだ。
明るげに振る舞っていた表情が昏く翳り、口を噤む姉の姿を見て、私はそれが姉の傷を抉るものだった事に気付く。
……私はまた、間違えたのか。
今そんなこと言ってる場合?
──そうだね、反省なんて後でいくらでも出来る。だから今は──。
「ごめんお姉ちゃん。……私が無神経だった。今のは、聞かなかったことに……」
「──ううん、大丈夫。……ちゃんと話すから」
私の言葉を遮って、お姉ちゃんは。
「……私ね……ツキミがいなくなって……それを、認めたくなくて……」
ポツポツと、まるで自らの罪を懺悔するかのように、静かに言葉を溢し始めた。
「
──ツキミの犠牲で成り立つ身体、そんなものがあっていい筈がない。
認めたくなかった。絶対に絶対、認めたくなんてなかった。
ツキミは消えてなんかない、ツキミは犠牲になんてなってない。
私が幸せになれるように身体をあげる準備をしてたなんて、そんなのあるわけ無い。
だけど現実は──。
『お姉ちゃんはいろpと幸せになるべきだと思うの!』
『………まっ………てよ…………………なん、なんで…………つ、つき………つきみ………………?』
──どこまで行っても、その地獄を突きつけてきて。
『お姉ちゃんに身体をあげる!美味しいものいっぱい食べて、幸せになってね!!』
『い……ぁ………?あ、あはは……じょ、冗談でしょ……?ど、ドッキリなんて質悪いなー…………』
──忘れる事なんて出来ない、私の世界から月が欠けた日。
「折角ツキミが食べ物を食べられるようにしてくれたのに……私は……」
『うっ……おえぇっ………!』
──ウミウシの小さな喉が、ツキミの犠牲を拒絶する。
「あはは…食べ物が、喉を通らなくてさー……ツキミの犠牲を、無駄にしちゃったみたいで……ごめ──」
「──お姉ちゃんっ!!!!」
──その先は言わせない、お姉ちゃんが謝る必要なんてない。
私は、姉の口を塞ぐように、強く強く抱き締め。
「お姉ちゃんは悪くない。……全然悪くないっ!!悪いのは全部、私なんだから!!!!」
「つ、ツキ──」
「──けど!一番悪いのはこの世界の因果を定めたクソったれだ!!私よりよっぽど性格悪い!!ふざけやがって……!お姉ちゃんを、私のお姉ちゃんを苦しませて……何が楽しいんだよ……!!」
──この世界は、原作よりよっぽど地獄だ。
かぐやの妹として生まれたツキミは、例え生きたいと願っても結局は消えてしまう運命が定められている。
……大切な妹が、何をしても絶対に助からないのが既に決まっているんだ。
自惚れじゃなく、お姉ちゃん達は私を愛してくれている。だから私が消えると、絶対に心は軋む。
下手すると壊れちゃうかもしれない。
……今なら、分かるよ……お姉ちゃんがどれだけ私を好きでいてくれたかなんて……。
悔しい……悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!!!!!!!
お姉ちゃんが苦しむのが分かってるのに……!私には何も出来ない……!!
私に出来るのは精々、世界の因果に従いながら、蘇るための下地を整えてあの人に……彩葉に繋げる事だけ。
彩葉がお姉ちゃんを……かぐやとヤチヨをハッピーエンドまで連れて行ってくれるのは確信してる。
これは原作を知っているからじゃない。
実際に会って、話して、短い時間だったけど……私はこの人ならお姉ちゃんを助けてくれるって確信したから、言ってるんだ。
だけどその過程は……正史より更に地獄だ。
だってそうじゃん。ものを食べれるのに食べられない?身体と心がそれを拒否する?……そっちの方がよっぽど辛いに決まってる。
私を転生させた神様とやらは、きっと楽しそうに嗤ってるんだろうな。
──姉に身体を捧げる以外、蘇れる可能性を0にするぐらい入念な神様だ。
絶対に苦しむ私たちを見て、ゲラゲラと嗤ってる。
……思い通りになんて、なってやるもんか。私はもう、絶対に折れない。
──私が蘇れる可能性は、正直言って蜘蛛の糸を掴むようなもの。つまりほぼ不可能だ。
……だけど。
「ぁ……つき、み……?」
──これ以上、私のお姉ちゃんを泣かせてたまるか。
何が何でも抗って、神様だろうが地獄の閻魔だろうが蹴り飛ばして、必ず辿り着いてやる。
──お姉ちゃんと彩葉と一緒に幸せになれる、超ハッピーエンドな結末に。
覚悟は決まった。ならあとはそこに向かって突き進んでいくだけ。
「……お姉ちゃん。私が蘇ったら、いっぱい美味しいもの食べようね。お腹がはち切れちゃうぐらい、たくさん」
過去の記憶を思い返して沈んだ表情をしているヤチヨの頬を、ツキミは右手で優しく撫でながらそう溢した。
安心させるように、もう大丈夫だよって伝える為に。
そして──。
「またさ、食べさし合いっこしようよ。……私と一緒だったら、きっとお姉ちゃんも食べられるんじゃないかな?だってお姉ちゃん、私のこと好きだし!!」
へへへ〜と、目尻を下げ柔らかに笑いながら幸せな未来を語る妹の姿を見て。
「ふふふっ……なにそれ、私がツキミをじゃなくてツキミが私のこと好きなんでしょ?」
──ヤチヨも翳った表情に光を灯し、揶揄い混じりにツキミを抱きしめるのだった。
「へへへ……でもお姉ちゃんも私のこと好きでしょ?」
「……うん。好き……大好き……」
「両想いだね、お姉ちゃん!」
「……そうだね」
──今はまだ、この距離感でいい。
ツキミの身体に身を預けながら、この関係が変わる事があるのだろうかと思案するヤチヨ。
そんな珍しく甘えてくる姉の様子に、ツキミは嬉しくなりながらも。
「ねえお姉ちゃん!一番最初に食べるは何がいい?私はねー……」
「……あっ、もしかして……」
示し合わせたわけではないけど、多分お互い考えてることは同じで。
二人は目を合わせたかと思うと、同時に口を開き──。
「「彩葉が作ってくれた、粉と水だけのクソまずパンケーキ!!」」
「……あはっ」
「……ふふっ」
蘇って一番最初に食べたいものが、クッソまずいパンケーキなのがなんだかおかしくて、声を揃えて笑ってしまう。
「また言ったら怒るかな~?いろp」
「う~ん……『相変わらずデリカシー0なお似合い姉妹ねエイリアンどもっ!!』とか言われたり~?」
「だって実際不味いしあれ……」
「……まあね。だけどやっぱり、私はあれが好きだな。忘れられない味なのです~」
「……そうだよね。だってあれは──」
──貴方が私達のために作ってくれた、一番最初のものだから。
彩葉以外にドキドキしてるヤチヨなんてあり得ないと言う気持ちと、妹にドキドキしてるヤチヨ可愛いですね……って気持ちが二つあってどうすればいいのか分かりません……。あとチュートリアルは次回で多分終わります。長いですがお付き合いください。