お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの 作:いろかぐヤチは美しい
「じゃあ早速髪型……と行きたいところだけど、まず見た目と服装から決めちゃおっか!ツキミはどんなのがいい~?」
「うーん…そうだなー……お姉ちゃんは兎モチーフだったし私も月関連で……あっ!オオカミとかは!?狼人間とかいるし!!服装もそれに合わせた和服っぽい感じで……どうかな?」
「うけたまかしこまつかまつり~♪ツキミは綺麗な銀色の髪の毛を持ってるから……白狼にしちゃおう!耳と尻尾はこれで……服装はヤッチョとお揃いでいいかな……ちょっとだけ変えるけど……よし、準備オッケー!!」
お姉ちゃんが指パッチンすると同時に、私の服装がヤチヨちゃんとそっくりなものへと変わる。
色合いや細部のデザインこそ違うが、殆どペアルックだ。
こ、これ大丈夫なのかな……お、お姉ちゃんのファンの人たちに怒られたり……。
私がそんな恐ろしい未来予想をしていると、突如として頭と腰の付け根から違和感のある感覚が走って。
……こ、これってもしかして……!
ふと腰の方へと目を向けるとそこには──。
「お……おー……!」
──ゆらゆらと揺れる、雪のように真っ白な長い尻尾が生えていた。
……頭の上もぴこぴこって動く感覚あるし、多分狼耳も出来てるよねこれ……!
私は未知の感覚に非常に興奮してワクワクしていた。
だってそうじゃん!前世の記憶なんて名前と人間社会の常識と超かぐや姫の事しか残ってないけど……それでも分かる!
ケモミミと尻尾がリアルに生えてて、動かせるなんて滅茶苦茶貴重な体験だって事が……!!
「す、凄い凄い!しっぽ!尻尾生えてるよお姉ちゃん!!」
「ふふっ……よく似合ってるよ、ツキミ!…………… 可愛いなぁ……触りたいなぁ……」
「へへへ~、耳も生えてるし本当に獣人になったみ……もごっ?あー……なるほど?」
「…………………………撫で回したい…………」
尻尾をフリフリさせて、狼耳をピコピコ動かしてはしゃいでいるツキミの姿は大変いとかわゆしであり、ヤチヨは抱き締めて撫で回したいという欲望を抑えるので必死だった。
その為、徐に口元をモゴモゴし始めたツキミに気付かず。
「ねえねえお姉ちゃん、これ見てよー」
「……ん?なんだいなんだ……い……?」
''それ''を見せるために近くまで寄ってきていたツキミの顔を至近距離で見る事となり──。
「見てみてお姉ちゃん!きばー、カッコいいでしょ?」
「────────」
──柔らかな微笑に顕現した鋭い犬歯が、可愛らしい言葉を噛み砕いていく。
「お姉ちゃんのこと、噛んじゃうよ?…なーんて……へへ、美味しそうだねお姉ちゃん……♡」
──その鋭い両牙を、ヤチヨの首筋に立てるフリをして、耳元で囁いてくるツキミ。
そして──。
「……お姉ちゃん。私のキバ、カッコいい……?」
最後に少しだけ不安そうに、控えめに口を開きながら尋ねてくるツキミの姿に、ヤチヨは──。
「……… ん゛っ゛っ゛っ゛っ゛」
謎の大ダメージ、胸元を抑えその場に座り込むのだった。
「えっ!?お、お姉ちゃん!?どうしたの!?大丈夫!?」
突如として崩れ落ちた姉の姿に、ツキミは慌てて駆け寄りながら。
「だ、大丈夫大丈夫……ちょっとヤッチョの中の悪い心がヤマタに別れてオロチっちゃっただけなので~……」
「何言ってるのお姉ちゃん!?本当に大丈夫!?」
──意味の分からない事を呟き始めたヤチヨの背を優しく摩るのでした。
ど、どうしよう……お姉ちゃん大丈夫なのかな……心臓部分って……かなり危ないんじゃ……?
「お、お姉ちゃん……?えっと、痛いところとかない……?私に出来ることある……?」
「ほ、本当に全然問題ないから……そんな不安そうに…………?」
今にも泣きそうな妹を安心させるべく、笑顔で言葉を発しようとするヤチヨだったが、あるものが目に入り静止してしまう。
彼女の視線の先に写る光景、それは──。
「お、お姉ちゃん……?」
──ゆらゆらと不安気に揺れる長くて触り心地の良さそうな真っ白なツキミの尻尾であった。
「……………………………」
尾骨の少し上辺りから伸びる尻尾は、今もヤチヨの身を案じるかのようにゆらゆらと揺れている。
──もふっ、サラ……もふっ、サラ……。
時折身を掠めてくるもふサラの毛並みはヤチヨの技術の結晶、大成功してくれたようで一安心だが、それとは別に。
「……………………………… ちょ、超触りたい………………!」
──そんな欲望が溢れ出てくるのも自然なことでして。
「そ、そうだお姉ちゃん!FUSHI!FUSHIさん呼ぼ!!あの子ならお姉ちゃんの体調見てくれるんじゃ……」
「……………えいっ」
「ひぃんっ!?ちょっ、お姉ちゃん!?なんで!?」
──思わずそれを手に取ってしまうのも、仕方のないことだったのです。
「おー……!柔らかい……それにもふもふとサラサラの絶妙な混ざり具合、まさに至高の領域だね!!さっすがツキミ~♪……ほら、もっとこっちおいで?いっぱい撫でさせて?」
「うっ……ぁっ……!?お、お姉ちゃっ……!まっ……っ」
──身体を襲う未知の感覚に、涙目で抗議してくる妹の姿が目に入らなかったのも、仕方のないことだったのです……。
「髪の毛は当然として~……狼耳も……いい触り心地!ふにふに~♪」
「んっ……ふっ……!おねが……い……!まっ………てぇ……………っ」
「だけどやっぱり一番はこの尻尾だよね!かぐやだった頃の記憶を頼りに頑張ったけど……再現出来てて良かった~……真っ白でツキミによく似合ってるし、触り心地も……あれ、根本の方がちょっと固い……?あっ、解れた~」
「ぃっ……ぁ…… だ………めっ……………!おね………ちゃん……………っ!」
「これであの時と同じに……ツキミ?大丈夫?………………………あっ」
身を預けるどころか息も絶え絶えの様子でこちらへと倒れ込んできたツキミに、流石のヤチヨも全力もふりタイムから現実へと帰還したみたいで。
「ふっ……ぅ……あっ………はぁ………っ」
──全身を小刻みに震わせながら耳元で切ない吐息を溢す妹を、至近距離でハッキリと認識してしまった。
耳まで真っ赤にしたツキミがヤチヨの肩にもたれ掛かり、必死に呼吸を整えていく有様は完全にアレでございまして。
……………うん、なるほどね………………。
「すいませんでした、ツキミ様」
──即座に土下座を敢行する珍しい電子の歌姫の姿が、この日ツクヨミ某所で見られたらしい。
── ── ── ── ── ── ── ── ──
「ごめんね~……ツキミ……」
「お、お姉ちゃん……もういいから、元気出して?私の膝枕、どう?」
「気持ちいいよー……えへへ……ツキミ、ごめんね?」
膝枕で癒してくれるツキミに延々と謝罪の言葉を溢し続けているヤチヨの様子は、一見完全に落ち込んでいるように見えるが……。
「……頭撫でて?」
「え?う、うん……よしよし」
「~〜〜~♪」
その実、全力でツキミが甘やかしてくれるこの状況を意外と楽しんでいた。
最初は妹に嫌われるかもと顔を蒼白にしながら本気で焦っていたのだが、どうやらツキミはちっとも怒ってなどいないらしく、姉の前で変な声を出してしまった自身に対する恥じらいしかなかったらしい。
寧ろ、今にも泣きそうな表情で土下座をしている姉を心配して、色々励まそうと頑張ってくれた。
ぎゅって抱きしめてくれたり、尻尾でぐるぐる巻いてくれたり、お姉ちゃんの好きなところを耳元で囁いてくれたり……あ、あれはちょっと……うん……だったんだけど……。
そんな風に自分の為に頑張ってくれるツキミが可愛くて、ついついもう元気な事を言い出せずにいた結果、今は膝枕を堪能しているというわけなのでした。
しかし──。
「……お姉ちゃん。実はそこまで落ち込んでないでしょ」
「!?そ、そんな事ないよ~?あ、あははー……」
「だってお姉ちゃん笑ってるし……まあいいけど。私もお姉ちゃんが甘えてくれるの嬉しいし……へへへ、可愛い……♡」
「………ごめんなさい。実はもうとっくに元気です」
完全なるセクハラをかましてしまった挙句、善意を利用して甘え続けていた犯人に対しても、相変わらずの優しさ全開で頭を撫で続けてくれる妹の嘘偽りない好意に、突如として罪悪感が天元突破してしまったヤチヨの口から反射のように飛び出す割と本気の謝罪の言葉。
「?知ってるよ?途中から普通に楽しんでたもんね?……お姉ちゃん私のこと好きだなーって思いながら見てたよ?」
にへらとだらしなく口元を緩め、尻尾をゆらゆらと揺れ動かしながら嬉しそうに笑うツキミの表情は、揶揄いの色が混じっている事もあり、どこか挑発的な珍しいものだった。
こちらを煽るような表情と声色、ゆらゆらと揺れ動く尻尾、全部見抜かれていた照れ臭さからくる照れ隠しなど、様々な要因が合わさった結果──。
「……つ、ツキミ?もう一回だけ尻尾…………触らして?」
──口を突いて出てしまったそんなお願い。
それを聞き遂げたツキミは。
「!?だ、駄目!それは駄目っ!!」
あの時の背筋を這うぞわぞわってした感覚を思い出したのか、顔を真っ赤にしながら慌てて否定の声を──。
「……つきみ~?」
「うっ………そ、その………」
あげようと……したのだが……。
「……駄目?」
「………い、一回だけなら……いいよ…………?」
──大好きな姉のおねだりを断れるわけもなく、一度だけならと了承するのだった。
そもそもツキミの脳内に姉のお願いを断るという選択肢は最初から存在しないのだから当然ではある。
あるのだが……。
──傍から見てて余りにもチョロすぎる妹の姿に、流石に心配の気持ちが勝ったヤチヨは。
「……ツキミ。嫌な時はちゃんと断らないと、悪いオオカミに襲われちゃうよ?がおーって」
姉心から来る純粋な身を案じる言葉。オオカミの物真似をしながら発されたそれを聞き、ツキミは──。
「……い、嫌じゃ……ないから……大丈夫だよ?」
「……え?」
伏し目がちに目を逸らしながらも、しっかりと伝わるように声だけは震えないようにして。
「お、お姉ちゃんからされて嫌なことなんてないから……な、何しても大丈夫だよ?こ、断っちゃうのはその……は、恥ずかしいだけだから……」
「────────」
林檎のように顔全体を真っ赤に染め上げたツキミから溢れ出してくる、剥き出しの好意と全幅の信頼。
その言葉の意味を理解するにつれて、呼応するように赤くなっていくヤチヨの頬。
伝えている本人も相当恥ずかしいのだろう。
熱を帯びた視線で見つめて来る姉と一切目を合わせたがらない。
「つ、つきみ……あの……そ、それってどういう…………」
震えた声でそう尋ねて来る姉の声を聞き、ツキミは迷いを振りかぶるように一度思いっきり頭を振ったかと思いきや、フッと笑みを浮かべて。
「……お、お姉ちゃん………」
「は、はい………」
──ヤチヨの瞳を真っ直ぐに覗き込みながら。
「……お姉ちゃんは、私に何してもいいって……事だよ…………?」
「───────────」
焦がれるように、そう溢した。
ある意味では告白とも取れるそれ。
だが、ヤチヨは──。
「……ツキミはそれ、どういうつもりで言ってるのかな?」
──最後の瞬間、明らかに頬の赤みが引いていた。
表情は穏やかで、とてもそういう意味で言ったとは思えない。
だからこそ、妹の真意を確かめるべく即座に確認したのだが──。
「……え?どういうって……撫で回したり耳元ふーってやって来たり……とか?」
……やっぱりだ。ツキミは自分と違って変な事を考えたりはしていないらしい。
少しだけ落ち込んだが、言質は取れたという事で。
「……ふーん…………まっ、今はそれでいいや。……じゃあ取り敢えず許可も出たという事で~……」
撫で回しても嫌じゃない、何でもしていいよと言ってきたのはツキミだ。
──なら、遠慮する必要はないよね?
「お、お姉ちゃん……?なんか顔が怖いんだけど……えっと、何でそんなに手をわきわきさせてるのかなーって聞いても……」
「駄⭐︎目」
「………はい」
諦めたように全身から力を抜くツキミ。
そんな妹を見て、満足気に笑ったヤチヨは。
「えーい♪」
「……ひっ!?」
──妹を強く抱きしめ、狼耳に息を吹きかけながら、尻尾の根元をトントンと指先で弾くのだった。
「にゃああああああああああああぁっっっ!?!?!?!?!?……………………………」
──この後、めちゃくちゃ撫で回された。
触覚があるなら尻尾と耳の感覚があってもおかしくないですよね。
因みに全く本編と関係ない蛇足情報ですが、ツキミに前世の記憶がないのは単に思い出したくないからです。