お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの   作:いろかぐヤチは美しい

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譲れないもの

──時は少し遡り、ツキミのキャラクリが終了する数分前、ツクヨミ某所では。

 

「いや……おっっっっっそくない……?」

 

待ち惚けを食らい続けていた少女が、遂に限界を超えたように呟いていた。

 

無理もない。何せかぐやが登場してから軽く30分以上は経っているのだから。

 

キャラクリってこんな時間かかるものだっけ……と遠い目をしながら、待つという単語が頭になさそうな姉の方へと目を向けてみると。

 

「おー…すげー冷たい!おもろー」

 

金髪のギャルいかぐや姫様が、電脳世界の水に手をつけて楽しそうにはしゃいでいらした。

 

かぐやは出てきてからずっとこうだ。普通なら飽きて文句を言ってもおかしくないのに、一言も愚痴を溢さずにツキミを待っている。

 

……面白い事があったらすぐ突撃していきそうな性格してるくせに、妹の為ならいくらでも待てるのよね。

 

本当この姉妹は相思相愛というか何と言うか……。

 

双方向への愛の質量が重たすぎる宇宙人姉妹。改めて凄い関係性だなと、彩葉は内心でしみじみと実感していた。

 

「どしたの彩葉ー?」

 

そんな遠い目をした彩葉の視線に気づいたかぐやが、突撃しながらそう尋ねてくる。

 

……いいお姉ちゃんしてるわねって言ったら絶対に調子に乗る。うん、言うのはやめよう。

 

「ああいや…ツキミのやつ遅いなって」

 

「んー……確かにー?意外とこだわるタイプだったのかな?あはは」

 

ドヤ顔で嬉しそうに絡んでくる未来を回避するべく、無難な話題を提出したのだが、当のかぐやさんはこれまた別のベクトルで嬉しそうに笑っていて。

 

その笑顔がなんだかとても幸せそうで、私は無意識のうちに魅入ってしまっていた。

 

……綺麗だな、かぐやは。

 

ふとそんな感想が脳裏に浮かんでしまい、私は慌てて頭を振ってその思考を脳から叩き出す。

 

何を考えてるんだ私は……かぐやだぞ?私の貯金を湯水の如く消費した欲深エイリアンかぐやだよ!?危ない危ない……美少女オーラに惑わされるところだった。騙されるな私。

 

脳内攻防戦にて完全勝利を収めた私は、未だ鼻歌を歌いながら舞っているかぐやに視線を戻す。

 

……待て、なんで舞ってるんだこいつ。

 

少し目を離すとすぐ何かしてるんだから……まあかぐやらしいけどさ。

 

破天荒すぎるかぐや姫様に、彩葉は若干口角を上げながら改めて口を開いた。

 

「……随分と嬉しそうじゃない」

 

「そりゃね!ツキミが何かに興味を持ってくれたらお姉ちゃんは安心だよ!……あの子、いつもどこか辛そうにしてるからさ」

 

「!それは……やっぱかぐやも……」

 

核心に触れそうになった、その時。

 

「えへへ……あっ、そういえば彩葉はどうだったの?初めてログインした時、どれくらい時間かかった?」

 

一瞬暗くなりそうな雰囲気を嫌がったのか、かぐやはそれ以上掘り下げることはせずに、満面の笑みで話題を切り替えてきた。

 

……ったく、いつかちゃんと聞かせなさいよね。一人で背負い込むなっつーの。

 

そんな事を思いながら私は初ログインの時を思い返してみたが、確かあの時は……。

 

「……私は澄ました顔維持するので必死だったから時間なんて覚えてないかな……」

 

「えー?なにそれ、彩葉おもろー」

 

「うっさいな、仕方ないでしょ。生ヤチヨが目の前に居たんだよ!?変に思われないように表情筋を固定して……なにその表情」

 

ふと見ると、かぐやがこれ以上ないほど不満げに頬を膨らませていた。

 

……可愛いな、おい。

 

「ぐぐぐ……彩葉もツキミもヤチヨヤチヨって……かぐやとヤチヨどっちが好きなの!?」

 

「え、ヤチヨ……」

 

「もー!!!!!!!!何で何でやだやだー!!!!」

 

私の即答にお嬢様は地団駄を踏み、そのまま床に寝っ転がられていつか見たようにやだやだと駄々を捏ね始めた。

 

……いや、そう言われても。私のヤチヨ推しは今に始まったことじゃないでしょうに。

 

このまま駄々を捏ねられ続けても面倒だし、何より誰かに見られたらもっと面倒なことになる。

 

そう判断した私はちょっと強引に話題を切り替えることにした。

 

「それにしても、本当に良く待ってるわね。普段なら五分とじっとしていられないくせに」

 

床に転がったまま、かぐやはふっと表情を和らげて立ち上がった。

 

「私はツキミのお姉ちゃんだからね!あの子が満足するまで、ずっと待ってるよ」

 

胸を張って、これ以上ないほど誇らしげに言い切ったかぐや。

 

その顔は、どこまでも妹の事を想う優しい姉そのもので。

 

本物のお姫様みたいに、少し憂いを帯びたその表情はとても綺麗だった。

 

そんなかぐやの普段とは違う綺麗な表情に、私は思わず見惚れてしまった。

 

……っていやいやいや!何を考えてんの私は!?かぐやに対してそんな……お、落ち着け落ち着きなさい酒寄彩葉……!相手はかぐや…そう、人のお金勝手に使ってスマコン買ったりする無遠慮な同居人!しかも勝手に食材まで買ってそれで美味しいご飯作ってくれ……じゃなくて!かぐやが来たせいで私の平穏な生活が崩れて前とは比べ物にならないくらい騒がしくなって心が休まる暇も……!悪くは、ないけど……って違う!くそっ、悪いところが見当たらないじゃないの!どうなってんのっ!?

 

いつの間にか、かぐやに絆されまくっている自分の心に気付いた私の脳内が大パニックを起こしている。

 

こんな内心を知られたらかぐやはまず間違いなく調子に乗るし揶揄ってくる。姉全肯定のツキミも非常に厄介だ。

 

絶対コンビを組んで『聞いたツキミ!?かぐや達と一緒に暮らせて楽しいんだって!やったね!』『うん!こんなのもう家族だよ!やっぱいろPはお姉ちゃんと結婚するべきだと思うの!お姉ちゃんの予言は当たったね!賢い!!』とか阿吽の呼吸でイジられまくるに決まってる……!

 

明晰な頭脳でこの上ないほど再現性の高い地獄の未来予想図を瞬時に想起した彩葉は、それを書き換えるためにわざとらしく声音の温度を三度近く下げて。

 

「……その優しさを私の財布にも分けて欲しかったですねーかぐや様」

 

真顔で痛いところに突っ込みを入れて有耶無耶にする作戦を決行した。

 

「う……そ、それはその……え、えへへ〜」

 

「笑って誤魔化すなー」

 

私のジト目攻撃に、かぐやは両手の人差し指をツンツンと合わせながら、あざとさ全開の苦笑いを浮かべている。

 

……よし、誤魔化せたな。 

 

かぐやとツキミとの生活が割と楽しい当たり前になりつつあるという本音をなんとか完全に隠蔽しきった私は、ふうと小さく息を吐いて心を落ち着かせた。

 

「でもありがとね彩葉。ツキミ、スマコン凄く喜んでた!あんな顔、初めて見たかも……ちょっと悔しいなぁ」

 

そうやって、少しだけ落ち込んだ表情で笑うかぐや。それは、さっきと同じで。

 

『──あの子、いつもどこか辛そうにしてるからさ』

 

あの時も、こんな表情をしていた。いつも楽しそうに笑っている、そんなかぐやが見せた寂しげな横顔がどうしても頭から離れない。

 

……聞くべきじゃないのは分かってる。……けど、私だってもう無関係じゃないんだから、一緒に背負わせて欲しい。

 

かぐやとツキミはもう私の人生の一部なんだから。勝手に入り込んで来たそっちが悪いんだからね。

 

今更遠慮なんて、してやるものか。

 

私は小さく拳を握りしめ、遂にずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にしてみることにした。

 

「……ねえ、かぐや。今あの子がいないから聞いちゃうんだけどさ…あの子って……ツキミが何に悩んでいるのかって……かぐやには分かる?」

 

少しトーンを落とした私の問いかけに対して、かぐやはすぐに言葉を返さなかった。

 

いつもの太陽みたいな笑顔が嘘のように、どこか遠くを見つめるような、憂いを帯びたその瞳は、酷く綺麗で──それ以上に酷く寂しそうだった。

 

その横顔には、普段の破天荒でまっすぐな明るさは微塵もなくて。

 

胸が締め付けられるほどに切ない静寂が、私たちの間に静かに満ちていく。

 

かぐやは小さく唇を引き結び、自身の胸元をぎゅっと握りしめた。

 

どれだけ時間が経とうとも埋まらない、妹との間にある決定的な溝。それを見つめる彼女の背中は、いつもの破天荒さが嘘のように、ひどく脆く、小さく見えた。

 

重苦しい沈黙のあと、彼女の口から、今にも消え入りそうな本音が零れ落ちた。

 

「……本当に分からないんだ。何に怯えてるのか。何とかしてあげられるなら、それが一番良かったんだけど……聞いちゃったらさ、ツキミか壊れちゃうような気がして……私は側にいて、一人にさせないことしか出来ないんだよね」

 

そう言って、自嘲気味に力なく微笑むかぐや。

 

「やっぱり、駄目なお姉ちゃんなのかなぁ……」

 

ツキミが抱える闇の深さを、誰よりも近くにいるからこそ本能的に察してしまっている。それもそうだ。ツキミがかぐやを大好きなように、かぐやも妹をこの世の誰よりも愛しているのだから。

 

だからこそ、壊れそうな妹を大切に想うがゆえに、下手に踏み込めない。

 

かぐやはかぐやなりに、必死にお姉ちゃんとして悩み、もがいていたのだ。

 

そんな彼女の、今にも泣き出しそうな、小さく震える背中を見ていたら。

 

私の胸の奥から、言葉にならない衝動がせり上がってきた。

 

「かぐや……そんなこと、ないと思う」

 

「……え?」

 

かぐやが驚いたように、濡れた瞳をこちらに向ける。

 

普段なら絶対に言わない。恥ずかしくて、キャラじゃなくて、口が裂けても言えないような綺麗事。

 

だけど、今言わなきゃ絶対に後悔する。

 

私は熱くなっていく顔を隠すことも忘れて、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ返した。

 

「だって……だってそうじゃん! ツキミは確かに色々悩んでるかもしれないけど……かぐやと一緒に居る時は、そんなこと全部忘れて、本当に楽しそうにしてるじゃん……! あいつが心から笑えるのは、あんたが全力で『お姉ちゃん』をやってるからだよ! だから…その……駄目なお姉ちゃんなんかじゃないと……思います……」

 

感情に任せて一気に捲し立ててしまい、私はハッと我に返って気まずさに視線を泳がせる。

 

な、何を言ってるんだ私は……!?最後の方とか我に帰って完全に敬語に……!あ、穴があったら入りたい……!

 

あまりの気恥ずかしさに頭を抱えながら蹲る彩葉をかぐやは呆然と見つめていた。

 

けれど、その濡れていた瞳の奥に、じわじわといつもの温かい光と、芽生え始めている愛おしさが灯っていって。

 

「彩葉……」  

 

ぽつりと私の名前を呼んだかぐやは、ふにゃりと、心の底から救われたような笑みを浮かべた。 

 

いつもみたいに調子に乗って揶揄ってくる様子はない。

 

ただただ嬉しそうに、私の不器用な言葉をその胸に抱きしめるように笑っていた。 

 

「うん! ありがと、彩葉! かぐやちゃん元気満杯完全復活☆」

 

そう言ってポンと自分の胸を叩いたかぐやの瞳には、もう一切の迷いはなかった。

 

……やっぱりかぐやは、笑顔が似合うな。

 

心の中でそう呟いた私の前で、かぐやはふっと表情を和らげ、どこまでも真っ直ぐな、強い覚悟を秘めた声を紡ぎ出した。

 

「彩葉、私ね……ツキミの帰る場所でありたいんだ。そうしたら、もし迷子になったり、どこか行っちゃったりしても、最後にはちゃんとかぐやのところへ帰ってきてくれるでしょ?」

 

ツクヨミの片隅で、どこまでも真摯に、ただ妹の幸せだけを願って紡がれる言葉。

 

ツキミがどんなに遠くへ行ってしまっても、どんなに暗い暗闇に迷い込んでしまっても。

 

いつまでも何処までも、何千年でも何万年でも待ち続けるから。

 

だから絶対、私のところへ帰ってきてね、ツキミ。寂しくなんてさせないから。  

 

妹の帰る場所でありたい。ツキミがいつか心の底から笑える私でありたい。

 

そう語る彼女の瞳は静かに、けれど強く訴えかけていて。 

 

どれだけ破天荒で自由奔放に見えても、やっぱりかぐやは本物のお姉ちゃんなのだと、胸の奥が痛くなるほどに思い知らされる。 

 

「そうして、ただいまって帰ってくるツキミをおかえりって抱きしめる! そう言うのがいいじゃん?」

 

無邪気な笑顔の裏にかくされた宇宙よりも重い、底なしの無償の愛。

 

一人で何かを背負い込んで壊れちゃいそうなツキミを、絶対に一人にしないと決めているかぐや。

 

それはきっと、かぐやがツキミを何よりも大切な妹として愛しているから。

 

何も話してくれないツキミに対して、寂しさや悔しさ、自分に対する無力感を感じるだろうに……それでも寄り添い続けるって決めたんだ。

 

その覚悟の重さに胸が締め付けられるのを感じる。

 

……かっこいいな、かぐやは。

 

ある日突然、私の世界に舞い込んで来た宇宙人達。この二人のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ。

 

三連休は潰れたし、勉強だって出来ないし、お金だって無くなるし。

 

──本当、最悪だよ。だから、最悪にされた責任は、取らせないとね。

 

私がお母さんから勝ち取った日常を勝手にぶち壊して、私の人生の真ん中に居座ってきたそっちが悪い。今更逃してなんてやるものか。

 

ツキミがどんな地獄を背負ってようが、関係ない。

 

私は、かぐやとツキミが心の底から笑い合える未来が見たいってここにログインする前に思ったんだ。

 

──だったらそれが叶うまで、この二人の未来、まとめて背負ってやろうじゃないの。

 

彩葉はこの時初めて、やらなきゃいけないことではなく、自分がやりたい事を見つけられた。

 

──だが、その事に気付くのはまだ少しだけ未来のお話。

 

今はただ、胸の奥を焦がすその熱い願いを静かな決意に変えて、どこまでも優しく笑うかぐやを見つめ返し、彩葉は不器用な言葉を真っ直ぐにぶつける。

 

「……帰る場所が二つもあったら、あいつも迷ったりしないでしょ。私が左側、あんたが右側。二人で掴んでたら、逃げたくても逃げられなくなるわよ」

 

私が悪戯っぽく笑いながらそう言うと、かぐやは驚いたように少しだけ目を見開いた。

 

それから、これ以上ないほど嬉しそうに、満面の笑みを見せたかと思うと。

 

「!えへへ……そうだね!さっすが彩葉!」

 

いきなり抱きついて来て……!

 

「ちょっ、暑苦しいから抱きついてくんな!鬱陶しい!!」

 

「またそんなこと言って~♪ずっと一緒居るって言ったじゃーん⭐︎」  

 

「いやそれは……つ、月に帰るまでだからね!早く帰り方思い出してー!!」

 

シリアスな雰囲気もなんのその、いつものじゃれ合いが始まったその時──。

 

「わっ………ぶへぇ!!」

 

──歪んだ空間から、待ち望んでいた少女の声が響き渡って来て、その勢いのまま地面に転倒した。

 

「あいたた……あっ!お姉ちゃん!いろp!!お待たせ!!」

 

姉と同じ様にすっ転んだツキミは、顔を摩りながら、凄く久しぶりに感じる二人を見上げて顔を破顔させてポーズを決めた。

 

それを見て、二人は──。

 

「!やっと来たわねツキミ。随分遅かっ……た……………?……………はい?」

 

「おー!ツキミ!お姉ちゃん待ちくたび………………………………は?

 

余りにもとある人物を想起させるその姿に、思わず思考が停止してしまったのでした。

 

……え?何あれ……ツキミ、よね?いやでも髪型が完全にヤチヨなんだけど……可愛……っじゃなくて!何事!?あんなことキャラクリで出来たっけ!?しかもよく見たら簪とイヤリング、指輪までついてるし!

 

「つ、ツキミ?それ……どうしたの?その、指輪とか……」

 

何かの間違いであってくれと祈りながらかけた言葉にツキミは。

 

「あっこれ?……へへへ〜、お悩み相談に乗ってくれたヤチヨちゃんが特別にくれたんだ!いいでしょー」

 

──心底嬉しそうにその場でくるりと周り、簪とイヤリング、指輪を愛おし気に自慢してくるのだった。

 

「へ、へー……そう…なのね……」

 

………何が起きてんのっ!?お悩み相談!?確かにヤチヨは配信でもそう言うことしてたし!私も助けられたけど……今!?チュートリアルで!?あのヤチヨって分身じゃないの!?

 

供給過多な情報量に彩葉の脳がオーバーヒートを起こし始めているが、かぐやは更にそれどころではなかった。

 

………なにあれ、なにあれ……ツキミがヤチヨに……可愛いけど……え、なに?ヤチヨはツキミを狙ってる……?かぐやのツキミを?………え?

 

こちらもまた目をぐるぐるとさせながら終わらぬループ思考に囚われていた。

 

「お姉ちゃんもうさぎさん可愛いね!いろpも耳と尻尾生えてるからお揃いだよー」

 

ツキミはまず一番近くに居る彩葉に自慢しにいくのだった。

 

目の前で耳をぴこぴことさせながら、長い尻尾をブンブンと振り回しているツキミを目の前にして、彩葉は──。

 

「……可愛いわね」    

 

思わず頭をよしよしと撫でてしまうのでした。

 

……冷静に考えてみたらただ優しくて女神なヤチヨがツキミの相談に乗ってくれたってだけの話よね……うん、そうに決まって……。

 

「ありがと!ヤチヨちゃんも可愛いって撫で回してくれたんだー、尻尾もね!」

 

「…………はい?」

 

そこまで聞いて彩葉の脳がフリーズする。

 

し、尻尾!?しかも撫で回す!?ヤチヨが!?皆んなに公平に愛を振り撒いてくれるあの電子の歌姫のヤチヨが!?嘘でしょ!?羨まし……じゃなくて!

 

「えっと……撫で回すって……どんな感じに?」

 

「…………い、言いたくない……」

 

「」

 

頬を赤らめながらもじもじと言い淀むツキミを見て、遂に彩葉の脳もオーバーヒートしてしまった。

 

な、何この反応……ヤチヨはツキミに何を……ま、まさかヤチヨはツキミを狙っ……てない!何考えてんの私っ!?電子の歌姫で女神そのもので私の救世主なヤチヨに対してなんて失礼な……!恥を知れ私……!ヤチヨがそんなことするわけないでしょ!いい加減なこと考えてヤチヨを汚すな……!

 

脳裏によぎってしまった最推しにして信仰の対象たるヤチヨ様に不敬極まりない邪推をしてしまった彩葉は、頭を振りまくり思考を叩き出すが。

 

……でも簪とイヤリングと指輪を贈ってるんだよな……しかも簪は藤の花と蝶……藤の花言葉は確か、''優しさと歓迎''あとは……''決して離れない''と恋に…酔う……い、いやいやいやまさかね……優しさと歓迎の方よね、絶対!蝶にも夫婦円満とかあった気がするけど気のせい気のせい……。

 

明晰すぎる頭脳でいらない事まで浮かんでくるが、全てを沈めて冷静に努める彩葉さん。

 

そして恐らく自分以上に動揺しているであろうかぐやを眺めて落ち着こうと視線を向ける。

 

「ちょっとかぐや、妹が立派におめかししてきたんだからあんたも何か……」

 

言ってあげたらと続けようとしたが、下を向いてあり得ないほど震えているかぐやの姿に思わず口を閉ざしてしまう。

 

そして、かぐやは。

 

「……………つ」

 

バッと顔をあげたかと思うとそのまま──。

 

「つつつつつつつつつつツキミがヤチヨに取られたーっっっ!?!?!?!?!?」

 

──涙を流しながら、人生で一番の大絶叫をかましたのだった。




精神に問題のある娘を心配する夫婦にしか見えない……。

それをそうと、いつも感想ありがとうございます。モチベーションに繋がるのでありがたいです。
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