お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの 作:いろかぐヤチは美しい
「いろp!早くはやくっ」
「はいはい分かったからあんまはしゃがないの。……また壁ドンされたら出てって貰うからね」
「酷いっ、悪魔!鬼っ!!」
「悪魔じゃないです彩葉ですー」
そんなやり取りをしつつも、いろpはヤチヨお姉ちゃんの配信を見せてくれる為にタブレットを持って来てくれた。
……やっぱり優しい……さすがお姉ちゃんのパートナー……好き♡
「ふへへへ……♡」
「何急に笑ってんの……いいからほら、見るんでしょ?」
思わず漏れ出していた笑い声に、何処か引いた様な表情を浮かべながらもこちらにタブレットを差し出してくれるいろp。
「うんっ、ありがと!……あれ?今ちょうど配信中だ……リアタイ出来るなんてラッキーだねいろp!!」
「は?そんな訳……!?マジで配信してんじゃん!ゲリラ配信ってやつ!?通知に気付かないなんて一生の不覚……!」
「忙しかったんだからしょうがなくない?電柱から赤ちゃんが出てくる状況なんて普通ないわけだし」
「当事者なのに随分他人事ですね……そう言えば、まだあんたの名前聞いてないんだけど」
「え?そうだっけ?……ツキミだよ!因みに片仮名表記っ、間違えないでね?」
お姉ちゃんは平仮名でかぐやだから、妹の私は片仮名表記で行こうと思います。……ヤチヨお姉ちゃんともお揃いだし……♡
「ツキミ、ね。……お姉さんの方は?」
「その辺りの事はお姉ちゃんが起きてから話そ?それより早く配信配信っ」
「あっ、ちょっとそんなに慌てないでよ!壊れたらどうすんの!」
そういろpに叱られながらも、私はヤチヨお姉ちゃんの配信ボタンをポチッと……。
『ヤオヨロー!神々のみんな〜、今日は突発的な配信なのに来てくれてありがとうね〜。感謝感激雨アラモード♪』
────綺麗だ。コロコロ変わる表情も、鈴の音がなる様な声色も、全てが美しかった。
とてつもないポテンシャルを秘めた少し未来のお姉ちゃんに、戦慄して思わず固まってしまっている私の隣で。
「ヤチヨ…今日もビジュアル最高……」
──いろpももれなく限界化していた。
うんうん分かるよ……だってお姉ちゃんだもんね……宇宙一可愛いもんね……!
『今宵は月がとても綺麗なので〜、みんなでお月見しながら雑談!なんてどうかな?ヤッチョと一緒に風情を楽しみましょ〜』
『突発配信で月見って新しいな』
『流石ヤチヨ。略してさすヤチ』
『その文言は流行らないし流行らせない』
『お前らうるせえよ、風情を楽しむっつってんだろ』
ヤチヨお姉ちゃんが喋る度に鬼の速度でコメントが流れていくのを尻目に私は──。
「ヤチヨちゃん…好きぃ……♡」
──画面内のお姉ちゃんを瞳の奥に焼き付けようと必死だった。
だって私は多分ツクヨミに行けないし…スマコン、二つも買えないだろうし……本物のお姉ちゃんを感じられる機会は絶対逃さないようにしないとね。
「ツキミあんた…中々話が分かるじゃないの……!」
「しっ、だよいろp。ヤチヨちゃんの一言一句聞き逃さないようにしないと」
「あっ…そ、そうね私としたことが……ごめんなさい」
「良いんだよ、間違いは誰にでもあるから……」
「いや何様っ!?」
そんなやり取りをしながら、少しだけ今のヤチヨちゃんについて考えてみる。
……一人って事は私はやっぱり居ないんだよね?もし居たらお姉ちゃんの側から離れるわけないし……良かった……私ちゃんとお姉ちゃんに身体をあげられたんだ。
……ウミウシになっちゃうのは変えられなかったんだろうけど、私の肉体データの内、味覚を含めた五感……その全てを。
────お姉ちゃん、私少しはお姉ちゃんの役に立てたのかな?これで少しは罪滅ぼしが出来たのかな……。
「……ちょっとツキミ、あんた大丈夫?」
「……え?あっ、な、何が?」
「だって……泣いてるから」
そう言われて目元に触れてみると、確かに濡れている。
……私に泣く資格なんてないのに。
そんな自己嫌悪を表に出さない為に、思考を切り替え口を開く。
「そりゃ涙も出るよ〜、だってヤチヨちゃん本当に可愛くて綺麗なんだよ?もう見てるだけで私は幸せに満ち溢れちゃって……ふへへへぇ……♡寿命が伸びるぅ……♡」
「あ、ああそうですか……それは何よりですね……」
恍惚とした表情でヨダレを垂らしながらクネクネしているツキミを見て、割とドン引きしながら彩葉は深く触れないことに決めた。君子危うきに近寄らず、である。
「(もしかして私も一人の時はこんな感じなのかな……ちょっと気を付けよう)」
人の振り見て我が振り直せ、密かに決心を固める彩葉なのでした。
『ヤッチョの好きな物?うーん……パンケーキは美味しそうでいつも食べたいなーとは思ってるよ〜、後は……妹とか居たら、可愛がっちゃうだろうな〜』
『ツクヨミじゃ物食べても味しないもんね』
『味覚早く実装されねーかな』
『いやそんな事よりヤチヨが妹とか言ってるぞ!』
『ヤチヨの妹……閃いた!』
『通報しますた』
配信で楽しそうに視聴者と交流しているヤチヨを見て、ツキミは私もコメントしたい……!と強く思うのでした。
早速その意思を隣で配信を注視している彩葉に伝えようと。
「……いろp?」
「駄目」
「まだ何も言ってないのに……」
露骨にしょんぼりした顔を見せるツキミを見て、流石に何も聞かずに却下は酷かったかと反省し。
「はぁ……なに?」
思わずそう聞いてしまうのでした。
「私もコメントしていい?」
キラキラした目で見つめてくるツキミに対して、彩葉は溜め息を吐きながら。
「……変な事書かないなら、いいよ」
「やった!『いつも見てます大好きです♡私もヤチヨちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しいです!』っと」
「ちょっ!?変な事書かないでって言ったでしょ!?……ああっ!?もう送ってるし!」
とんでもないコメントを送ろうとするツキミを慌てて止めようとするが時すでに遅し、無情にも自身のアカウントから送信されるそれを眺めることしか出来ない彩葉。
「えー?良いじゃんこれぐらい!実際大好きでしょ?」
「いやそりゃ好きだけどさ…本人に送っちゃうのはちょっと……もし厄介なファンだって思われたらどうすんの!?」
「思われないから大丈夫大丈夫!」
「なんでそんなに自信満々……ま、まあ私のコメントなんて読まれないだろうから問題無し……」
大量の視聴者が多くコメントを残しているのだから、スパチャもしていない自身のメッセージなど埋もれるに決まっている……そんな理論武装をして心の平穏を保つ少女がここに一人、酒寄彩葉である。
『あっ!いろさんコメントありがと〜……『いつも見てます大好きです♡私もヤチヨちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しいです!』…………っ』
「」
────しかし現実は非常なり。読み上げられたそれを聞き絶句する彩葉とは対照的に。
「はひゃー!読まれたよいろp!やったね!!」
大はしゃぎしているツキミ。
「……お、終わった……終わったっ……!」
「まだ配信終わってないよ?」
「うっさい!誰のせいだと思ってんの!?大体ねえ……!」
この際言いたかったこと全部言ってやると、思いの丈をぶちまけようとする彩葉だったが。
『良かった……!また会えた………っ!!』
────突如配信画面から響いてきたその声によって、それどころでは無くなった。
「ヤ、ヤチヨちゃん……泣いてる?」
隣できゃっきゃとはしゃいでいたツキミも、困惑した様な表情で画面を見ていて。
「は?そんな訳……えっ?本当に泣いてるっ!?なんで!?」
嘘泣きなどはあったが、こんな泣き方をするヤチヨなんて見たことが無いと彩葉は心底驚愕する。
それは配信を見ていた視聴者達も同じで────。
『どうしたの?大丈夫?』
『今日のヤチヨなんか変じゃね?』
『会えたって何に?』
『そりゃお前、運命の人とかだろ』
『何!?お兄さんは許しませんよ!!』
『何で泣いてるの?』
『急なゲリラ配信といいなんかおかしくね?』
困惑を隠せないコメントが多くを占める中、ヤチヨは。
『っ……神々のみんな〜心配ありがとうね!ヤッチョは大丈夫だよー!今日は不思議ちゃんになりたい気分なのです!』
えっへん、と気を取り直したように笑顔でそう宣言し。
『それより……ヤオヨロー!!遥々遠い地からわざわざようこそ!今日の配信を楽しんでいってね!!』
───本当に嬉しそうに、そう語ったのだった。
「どう言うこと?なんでヤチヨはこんな……」
「…………」
「……ツキミ?」
「……え?あっいや……わ、私今ヤチヨちゃんと目があった気がする!愛の力だね!!私の想いがヤチヨちゃんに届いたんだよ!!ヤチヨちゃん好き〜♡」
「んな訳ないでしょ…何厄介オタクみたいな事言ってんの……大丈夫?」
相変わらずのツキミに呆れ果てながらも、何処か少し無理をしているような感じもしたので、若干心配になる彩葉だったが……。
『よーし!今日は物凄く良い気分なので〜……ASMR配信、やっちゃおうかな〜?みんなの言って欲しい言葉、ヤッチョが読み上げちゃうよ!コメント欄までゴーゴーゴー♪』
『……え?マジ?』
『ASMR!?こうしちゃいられねえ!』
『最高品質のイヤホンを用意してくれ!』
『何でも良いんですか!?ヤチヨ様!!』
「いろp!!」
「任せて!すぐイヤホン持ってくるから!!」
────突然の神ASMR企画始動で
「いろp!私達も送ろっ!!」
「は!?い、いや私は別に……」
「なんで!?絶対やった方がいいよ!こんなチャンス滅多にないんだよ!?おね……ヤチヨちゃんが理想の言葉で囁いてくれるんだよ!?そんな天国他にありますか!?ないですよね!」
「た、確かにそうだけど……ほら、送ったところで選ばれるとは限らないしさ……」
「絶対選んでくれるから大丈夫!……いろpがやらないなら私がやるけどいいの?後悔しない?変な事送っちゃうかもよー?」
「ちょ、ちょっとそれ卑怯でしょ!性格悪いわよあんた!!」
「知ってますー。……それでどうするの?いろp〜?」
ニヤニヤと笑いながら心底楽しそうににじり寄ってくツキミは、間違いなく悪魔であった。
「うっ…くっ……じゃ、じゃあその……い、いつも頑張ってて偉いね、とか……そんな感じのやつで……」
「おっけー!『いつも頑張ってて偉いね、ヤッチョはずーっと貴方のことを見守ってるよ』……っと」
「後半勝手に付け足すのやめてくれる!?」
『ふんふん……じゃあ次は〜……あっ!いろさん、またまたありがとうね〜!』
「ひえっ!?う、嘘でしょ……!?ほ、本当に選ばれ……!」
「落ち着いていろp!集中して聞かないと後悔するよ!!」
「はっ!?そ、そうね……!」
一言一句聞き逃すわけにはいかない。そう決意して聴覚を全力で研ぎ澄ませる彩葉。
『……『いつも頑張ってて偉いね…ヤッチョはずーっと貴方のことを見守ってるよ。……でも、頑張りすぎるのも身体に良くないと私は思うのです。貴方が頑張ってるの、私はちゃんと知ってるから。頑張りすぎないように、頑張ってね?……おやすみなさい』……』
「み、耳…耳が幸せぇ……♡ヤチヨちゃん♡大好きぃ……♡」
「…………………」
「いろpもそう思……あれ?いろpー?」
自分と同じく歓喜に打ち震えているであろう彼女と幸せを共有する為に、ふと隣を見てみると。
「…………………………」
「き、気絶してる……ヤチヨちゃん、すげー……」
幸せそうな表情をしながら、見事に意識を飛ばしている彩葉が居たのでした。
……ま、まあ冷静に考えてみるとこの時のいろpって色々限界ギリギリだったわけだし……お姉ちゃんのおやすみなさいなんて喰らったら……気絶もしちゃうか。
妙な納得の仕方をしながら、彩葉を姉が寝ている布団まで何とか運んで、起きないようにゆっくりと横にしてあげるツキミ。
そして──。
「お姉ちゃんのこの配信が終わったら…朝まで過去配信全部漁るぞー!」
圧倒的自由を手に入れた彼女は、睡眠を明後日の方向まで放り投げてオールナイトお姉ちゃんウォッチングパーティーをかますことを決意したのだが……。
『こんな時間に配信を開始しちゃったヤッチョが言うのもなんなんだけど〜……あんまり遅くまで起きてるのは身体に悪いから駄目だよ〜?……"キミ"も早く寝ないとね?本当に、身体に悪いからね』
ば、バレてる……さすがお姉ちゃん……!!
「……寝よっか」
────姉には絶対敵わないツキミちゃんなのでした。