お姉ちゃんはいろPと幸せになるべきだと思うの 作:いろかぐヤチは美しい
「もう…ツキミは、しょうがないんだから……」
気絶したツキミを膝の上に乗せ、愛おしげにその頭をよしよしと撫で回す少女。
ツキミの寝顔を優しく見つめるその表情は、心なしか少しだけ大人びて見えてくるような気もしてくる。
「……案外ちゃんとお姉さんしてるのね……」
先ほどまで子供の如く駄々を捏ねていた少女の意外な一面に、思わず口を突いて出てしまう言葉。
「何?なんか言ったー?」
「……別に、何でもないわよ。……それで?結局宇宙人達は何しに来たわけ?侵略?」
──この少女に感心したのを悟られるのは、何となく癪に障る気がした彩葉は、自然に別方面へと話題を転換する事にした。
「うーん…あんまりよく覚えてないんだけど〜……とにかくツキミが居ないと月って毎日超つまんなくて〜……一緒にもっと楽しいところに逃げた〜いって思った気がする。そしたらツキミも着いてきてくれて〜……えへへ〜」
軽いんだよ、動機も語りも。そして分からないんだよ、目的が。
「逃げんな〜」
「え〜?なんで〜?」
な・ん・で・だ・ぁ?
「逃げるのは簡単だけど、その後の再スタートって大変だよ?覚悟あんの?……あと妹巻き込むな」
「覚悟〜?やりたくなかったらやんない。やりたかったらやる!それが楽しい人生っしょ!!……てか、ツキミを巻き込むなってどう言うこと?」
話が通じませんね。流石宇宙人、どこまで考えて喋ってるんだ?
……まあいいか。
「妹の人生、背負う覚悟があんのってこと。……あんたがどっか行きたいって言ったら、あの姉馬鹿も絶対着いてくるに決まってんだから。……それで何か取り返しのつかない事態になっても知らないよ?妹の事が大事なら、もう少し考えて行動しなさいよね」
「!……それは、うん……そうだね。……ツキミは私のこと大好きだから、どんなとこだって着いてきちゃうもんね……ありがと、彩葉!私もっとちゃんと考える!そんで、三人で絶対ハッピーエンドまで辿り着くっ!!」
ツキミの事になると、途端に知性が上がる気がするんだよなぁこの宇宙人……と思いながらも相変わらず指を三本立て、ドヤっと語る彼女の夢物語に。
「だからハッピーエンドいらないって…フツーのエンドで結構ですー」
しっかりと否定の言葉を入れておく。
……私のエンディングは、もう決まってるんだから。あとはそこまで積み重ねていくだけ。
──都合の良い話は毒や。一番食ってかからなあかん。
……母のそんな言葉を思い出し、若干憂鬱になっている私を尻目に。
「またそんなこと言って〜、楽しくてハッピーな毎日の方が良いに決まってんじゃん!彩葉は毎日つまんなくてもいいの〜?」
人生に悩みなんてないんですって表情で、舐めたことを聞いてくる少女。
「いや日々がつまんないとか当たり前だから。甘えたこと抜かすなー」
「変なのー、絶対楽しい方が良いのに……彩葉変わってんね〜」
「あんたにだけは言われたく……てか今更だけど何で私の名前知ってんのっ!?あいつもだったけど!!」
「ふっふっふっ……知りた〜い?」
ああもう別にいいや、ドヤ顔が心底鼻に触るからもう聞かないでおこう……。
「ん…んん……」
触らぬ神ならぬ、触らぬ宇宙人に祟りなしとこれ以上踏み込まないことに決めた彩葉の耳に、突如として呻くような声が聞こえてきて──。
「んー……はっ!?私は一体……お、お姉ちゃんっ!?こ、これって……もしかして……!!」
──意識を夢から現世へと舞い戻らせたツキミが、自身の状態を即座に認識して、ワタワタと目をぐるぐるさせながら慌てふためく。
「おっ!やっと起きたねツキミ!!……あんま心配かけないでよー?お姉ちゃんはツキミに何かあったら耐えられないからね?……よーしよしっ」
「はぐっ!?お、お姉ちゃん……♡もっと撫でてぇ……♡」
目覚めた途端随分と賑やかねこいつ……まあツキミだし、仕方ないか。
まだそう長く時を過ごしていない彩葉だが、このシスコンが姉の膝枕+頭撫で撫でに限界化しない訳がないと、すっかり後方理解者として完成してしまっている。
「ツキミは甘えん坊さんなんだから〜。……もうっ、仕方ないな〜♪」
「お、お姉ちゃぁぁぁん……♡♡♡」
──何だかんだ言っても、やっぱりあっちの方がお姉ちゃんなのね。
すっかり甘え切っているツキミを見ると、その事がよく分かってしまう。
普段は恐らく、姉の方が妹であるツキミに甘えているんだろうけど……。
「それよりツキミ、大丈夫?痛いところとか、変なところとかない?」
「全然大丈夫ですぅ♡お姉ちゃんの膝枕となでなでを賜った私は全力全開超ハッピー!ここが私のハッピーエンド……♡」
「ツキミ相変わらずよく分かんないこと言ってんなー、おもろ〜」
──こうして妹を気遣う少女を見ていると、やはりいい関係性だなと痛感する。
姉も妹も、きっとお互いの事が大切で大好きなのだろう。
……あっ、そういえば。
「ツキミは良いとして…あんたは?あんたは何て名前なの?」
怒涛の展開ですっかり忘れていたが、このエイリアンシスターズの片割れの名をまだ聞いていなかった。
だが問われた当人は不思議そうに首を傾げ。
「名前〜?……ツキミ、私に名前なんてあったけ?」
「ふへへぇ♡……へっ!?名前っ!?お姉ちゃんのっ!?」
「お、おおぅ…どした?急に大声出して……あ、あれ?何か前にもツキミに名前のこと聞いて怒られた気が……」
──ど、どどどどうもツキミです!お姉ちゃんが私の存在をハッピーエンドに組み込んでくれた気がして、嬉しさの余り意識を飛ばしてしまっていたツキミです!!
そしていきなりのピンチです!お姉ちゃんの名前は、パンケーキのあのカフェ?みたいな所でいろはが咄嗟に付けてくれるって言うのが正しい歴史なのに……今その話題が出るのは不味いのではっ!?そもそも何で今っ!?……あ。
そこまで思考を回して、私はこうなってしまった理由に思い当たる。
────もしかして、私のせい?私がツキミって軽はずみに名乗っちゃったから、いろはは当然お姉ちゃんにも名前があるって思って……それで聞いてるんだ。
────なんで、余計なことしかできないんだろう。……私なんてやっぱり最初から居なかったら……そうだよ、そもそも本来の歴史にツキミなんて存在しなかったんだから、生きてるだけで歪みを生むんだ。
……異物でしかない私は、お姉ちゃんにもいろはにも迷惑しかかけられない、今すぐにでも消えた方がいい
なんで、こんな、ハッピーエンドなんて…調子に乗って──。
「ツキミ?大丈夫?……よしよし、怖いのどっか飛んでけー」
──そのまま自己嫌悪に沈みそうな私の思考を、お姉ちゃんが優しく引き上げてくれた。
……そうだ、私にはまだ役割があるんだ。……こんな私なんかに良くしてくれるお姉ちゃんに何も出来なかった罪滅ぼしを果たさないと……
────貴女の側に居ることを許してくれますか?お姉ちゃん。
「へへへ…お姉ちゃん……大好き」
「私も好きだよ!ツキミっ」
「もっと言ってぇ……♡」
──せめて、せめて今だけは幸せに生きる事を許してください。
「ツキミあんた…大丈夫なの?」
彩葉から見たツキミと言う少女は、分かりやすいようでよく分からない。
姉が大好きで、常に明るく振る舞っていて、姉の為なら文字通り何でもするだろう彼女。一言で言ってしまえば姉狂い。姉が大好きなだけの少女にも見える。
……だが、ヤチヨの配信を見ている最中に突然涙を溢したり、今も突如としてこの世の終わりを体感したかのように消え入りそうな表情を見せたり……本当に、よく分からない。
これは、放置していても大丈夫な物なのだろうか?そんなちょっとした危機感から思わず口を突いて出たツキミの身を案じるための言葉。
だが──。
「へ?私?何が?」
──当の本人は何を聞かれたのかと、不思議そうな目でこちらを見返してきた。
……自覚がないのか、或いは──。
「(自分自身の事には無頓着……とか)」
「ツキミはたまにこうなるんだよねー。……月での事はあんま覚えてないけど、ツキミの事だけはハッキリ覚えてるよ。……こうやって撫でててあげると、凄く喜ぶの」
「?お姉ちゃんもいろpもどうしたの?……あっ♡お姉ちゃん耳元はだめぇ……♡」
「おー…ふ〜ん……?へへ」
耳元に指が触れた瞬間のツキミの反応を見て、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら。
「……ふ〜」
──可愛らしい耳元に向かって息を吹きかけた。
「ひゃんっ!?……ちょっ、お姉ちゃん!?何するの!?」
当然いきなりのその蛮行に、流石の姉全肯定ウーマンのツキミちゃんも飛び上がり抗議するが。
「うぅ……っ」
……涙目で顔を真っ赤に染めながら、姉を睨みつけるその姿は寧ろ刺激にしかならず。
「……ねね、ツキミもう一回だけ……」
「だ、ダメ!ダメだからねっ!!」
「つきみ……?」
「っ……こ、今回ばっかりはいくらお姉ちゃんの頼みでも……!」
「……本当に、駄目?私……ツキミの可愛いところ、もっと見たいなあ……?」
「駄目じゃないですぅ♡……あっ」
散々抵抗していたのにも関わらず、姉のおねだりにすっかり陥落したツキミを見て。
「ふっ…あははっ!ツキミあんたっ、本当にっ……馬鹿じゃないの!?ははっ」
──思わず吹き出してしまう彩葉なのだった。
「だ、だってだって……!お姉ちゃんがぁ……!!」
「彩葉笑ってる!可愛い!!……ふ〜♪」
「ひゃぁぁぁぁんっ!?……もうっ!お姉ちゃん!!私でも怒る時は怒るよ!?」
「えへへ」
「わ、笑って誤魔化しても……駄目だからね!」
「……許してぇ?」
「可愛いぃ……♡許すぅ……♡」
「ちょっ、ちょっと!マジでもうやめてっ!!壁ドン来ちゃうから!!」
──目の前で繰り広げられる面白おかしい光景に、笑いが止まらない彩葉。
…こんなに笑ったの、何時ぶりだっけ……。
目尻から溢れ出る涙を拭き取りながら、脳裏にそんな疑問が浮かんでくると同時に、和気藹々と姉と仲良くはしゃいでいるツキミに安心感を覚える彩葉。
「(これならまあ……大丈夫でしょ)」
……ツキミの時々見せる妙な様子に、何処か嫌な予感がしていた彩葉だったが、長年共にいる姉があの様子ならば問題ないだろうと、そこに関して追求する事は踏み込みすぎだと判断し、その話題を掘り返す事は辞めることにした彩葉。
──────だが、もしここで踏みとどまらず、ツキミの心理状態について深く追求していたら、後に起こる地獄は回避出来ていたのかもしれない。
……今更言ったところで、仕方がないのだが。
「ほ、ほら!いろpも怒ってるから!耳ふーはもう駄目っ!!」
「え〜?……あっ!じゃあ彩葉にするのはっ!?」
「……は!?何でそうなる!?」
突如とんでもない事をほざき始めた宇宙人に先程までの感傷が全て吹っ飛んだ。
……いやマジで、何言ってんのこいつ!?
しかも厄介なのは、こう言う時大抵ツキミは──。
「正解!正解だよお姉ちゃん!!やっぱ賢いね!!」
ただの姉全肯定マシーンになる為、抵抗する術が一切なくなってしまう。
……ま、不味い……このままじゃ……!
「それより名前!姉の方の名前!!無いんなら決めちゃえばっ!?」
慌てながらも、恥を掻く機会を回避する事に全力を尽くす彩葉。
「えー?……じゃあ彩葉が付けてよ!私の名前っ」
「何故そうなるっ!?ツキミに付けて貰えば良いでしょうが!!」
冗談じゃない!名前なんて付けてしまったらいよいよ持って情が湧いてしまって、追い出すことなんて出来なくなるっ……!!
そんな恐ろしい未来を防ぐべく、暴論を振りかざすワガママシスターに反論をしていくが……。
「……私はいろpが付けてあげるのが、いいと思うよ?」
──やはり姉の味方な
ツキミ的にはここで無理に流れを変えようとすると、どうしても不自然に映りすぎるため、名付けのタイミングぐらい多少ズレても大丈夫だろうと判断しての行動だったりする。
……冷静に考えてみると、
「いやだから…!私がそんなことしてあげる義理もないし……」
これは押せば行けるぞ、と判断した姉妹達は即座に顔を見合わせ。
「名前…つけて欲しいなぁ?……彩葉」
「う……」
「いろp…お姉ちゃんのおねだり……聞いてほしいなぁ……?」
「…………ぐっ」
ここで、ここで流されるわけには……!
意思を強く持とうと頭にグッと力を入れる彩葉だったが──。
「彩葉……」
「いろp……」
「「私達のお願い……聞いてくれないの……?」
涙目で二人揃っての懇願に、彩葉の防壁はあっさりと崩され。
「〜〜〜あーもうっ、分かったわよ!!付ければいいんでしょ!?」
「「えっ?いいのぉ??やっさし〜♪」」
「シンクロすんなっ!白々しいわよエイリアン共っ!!」
相も変わらず人におねだりする時の息の合い具合が半端じゃない地球外生命体に、全力でツッコミを入れる彩葉。
……だからハイタッチすなっての!イェーイじゃないわよ!!
「どんな名前になるかな〜?楽しみ〜」
「きっと凄く可愛くて綺麗な名前になるよ!いろpだもんっ」
「だよね!超楽しみっ」
余りの圧の凄さにわざとやってるんじゃないでしょうねこいつら……!と沸々とした怒りが湧いて出るのを感じるが──。
「彩葉!早く早くっ!!」
「いろp!可愛い名前ねっ!!」
キラキラした瞳でキャッキャっと笑い合っている彼女らを見ると、何故か怒りも収まってきて……。
はぁ…まあ、名前ぐらいなら別にいいか。
こんなに期待されてるんだから、適当に付けるわけにはいかないと暫く長考して。
……そうだ、あのお姫さまの名前は──。
「月から来たんだし……かぐや、とかは?」
かぐや姫。
「かぐや?……かぐや……そっかぁ。かぐやかあ〜!」
もしお気に召さなかったらどうしようと、若干の不安を感じながら口を開いたのだが、名付けられたご本人はとても嬉しそうで取り敢えず一安心。
「ツキミ!どうどう?私、かぐやだよ?可愛い?」
「う、うぅっ…!天才っ……天才だよいろはぁ……!!かぐやお姉ちゃんもとっても可愛い!!!!」
「えへへ〜、ありがと!彩葉!!」
心の底から笑顔を浮かべている彼女…かぐやを見て『名前は人生最初のプレゼント』。そんな言葉を何故か思い出した。
「ま、まあ喜んでくれたんなら……って違う!!」
「「??」」
二人は突然声を荒げて頭を抱えた私を不思議そうに見つめてくる。
「そ、それよりほら!ツキミ!!そもそもその子が大きくなるまで匿うって約束だったでしょ?だからもう……」
こ、これ以上流されるわけには……!!
余りにも今更すぎる決意を胸にそう語る彩葉の言葉に、ああそういえばそうだったなぁ……と思い返すツキミ。
あちゃーっとやらかした表情を浮かべる私に視線を向けてくるお姉ちゃんにアイコンタクトで合図を送り。
「(ここは作戦dyで!!)」
「(同情を誘って優しさに付け込もうぜ作戦だね!任せてツキミ!!)」
無言の数瞬で完璧な意思疎通を果たした姉妹達がヨシっと頷き。
「……大丈夫だよ。お姉ちゃんは私が守るから……」
──何やら悲壮な表情でそう語りだしたのだった。
「ツキミ…ううん、こんな時こそお姉ちゃんに任せとき!一緒にがんばろっ」
「お姉ちゃん……!で、でもお金を稼ぐなら身体とか……売るしかないよ?お姉ちゃんにそんなこと……!」
「う…く……!」
──茶番だ。茶番である。これに引っかかってしまっては酒寄彩葉の完全敗北────。
「か、身体……で、でもツキミを守るためなら…私……かぐややるよ!ツキミはかぐやの帰りを待ってて?」
「やめてお姉ちゃん!そんなんで私生き延びたくないっ!!お姉ちゃんが傷つくぐらいなら私…っ私……っ」
「ツキミ……」
「お姉ちゃん……」
「〜〜〜っあーもうっ、分かったわよ!迎えが来るまでで良いのねっ!?」
「「えっ?いいのぉ??」」
「だから白々しいっての!シンクロすんなエイリアン姉妹っ!!」
──酒寄彩葉の受難は、これからもまだまだ続くのでした────。
お姉ちゃんしてるかぐやちゃん可愛いですね。